七夕に願ったこと。
【プロジェクトの成功】
その願いは、どうやら叶ったらしい。荀攸が主導となって進めていたプロジェクトは、無事に成功をおさめた。
「無事に成功してよかったですね、荀攸さん」
「えぇ。楽進くんと李典くんが支えてくれたおかげです。ありがとうございます」
荀攸は、ペコリと小さく頭を下げた。
その何気ない仕草すら、惚れた弱みか、楽進にはとても可愛らしく、愛おしく映った。
「そうだ、荀攸さん。成功のお祝いに……その、食事に行きませんか?」
「いいですよ」
思いがけずあっさりと返事が返ってきて、楽進は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
「俺、楽進くん、李典くんの三人で打ち上げしましょうか」
「……そう、ですね」
“三人で”という言葉に、胸の奥がきゅっと縮む。けれど、それを悟られまいと、楽進は笑顔を崩さず頷いた。
「なら、荀攸さんの好きなものを食べに行きませんか?」
「うーん……俺はこれといって、好物があるわけじゃないので……楽進くん」
「はい?」
「俺は、楽進くんの好物があるお店でも構いませんよ?」
思わぬ返答に、楽進は少し戸惑いながらも、ふと視線を落とす。
七夕の夜、自分は願いに書かなかった。本当は、書けなかった。
(荀攸さんに、振り向いて……自分のことを見てほしい)
そんな想いを、あのとき短冊に綴ることはできなかった。
(でも……今は、ほんの少しでも伝えたい。願うだけじゃなくて)
ぐっと小さく息をのんで、楽進は言葉を口にした。
「……その、店ではないのですが、荀攸さんの手料理……ずっと心に残ってるんです。もし、また機会があれば……また、食べさせてもらえたらと」
「俺の料理を、ですか?」
荀攸がゆっくりと首を傾げる。その仕草にまた胸が鳴る。
「はい、荀攸さんの料理が本当に美味しくかったので……いや、すみません。負担をかけてしまいますし」
「俺は、構いませんよ」
「えっ」
ぽかんと口を開けたまま固まってしまった楽進を見て、荀攸がわずかに微笑んだ。
「今回の事で、仕事も落ち着いたところでしたし。料理でもして気分を切り替えたいと思っていたところです。いいタイミングです」
「よ、よろしいんですか!?」
「ええ。それに楽進くんが、俺の料理を美味しそうに食べてくれる姿、好きなので」
「ふへっ!す、好き……!?」
思わず裏返った声に、自分で驚く。慌てて咳払いをしてごまかすが、顔は真っ赤だった。
「えぇ。美味しそうに頬張っている姿……好きですよ」
“好き”と言われた。
意味は違っても、自分に向けられた言葉が嬉しくて、楽進は鼓動の高鳴りを止められなかった。
今はまだ、恋愛対象として見られていないことも分かっている。
だけど…短冊に願うだけじゃない。
いつかきっと、荀攸さんに振り向いてもらえるように。
願いではなく、自分の手で叶えるんだ。
そう、楽進は静かに心に誓ったのだ。
終