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    ぷむてあ

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    ぷむてあ

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    二人で中華料理食べて帰るだけ(付き合ってない) 書きかけ話の冒頭
    今まで一緒にいろんなことをしてきたしゅとまだしたことのないことをしてみるみカ丶……という恋愛に踏み込む話の導入のはずが 桃まんのくだりまででわりと満足してしまった🍑

    #みか宗
    MikaShu
    ##全年齢

    「この店にも、もう何度も来ているね」

     行きつけの中華料理店。みかとふたりでテーブルを囲んでいる宗が、運ばれてきた品々を皿に取り分けながらつぶやいた。
     目の前に差し出された回鍋肉へ一瞬視線を落としたあと、宗へと焦点を戻したみかは眉をハの字にする。

    「んあ〜? お師さん、ここの中華飽きてもうたん?」
    「そうとは言っていないけれど……」

     まあまずは食べたまえと、宗は傍らの容器から割り箸を取り出してみかへ渡した。「おおきに、ほないただきます~」と両手を合わせたみかが、ぱきんと小気味いい音を鳴らす。
     そうして熱々の料理を食べ始めたみかの姿を、宗はお冷やを飲みながらぼんやりと眺めていた。

    「あちち。ふーふーせなあかんなぁ」
    「それくらいわかるだろう。君はやはり抜けているね」
    「せやけどお腹すいてるんよ〜、おれ」

     温度が下がった途端、みかは改めて豚肉へかじりつく。タレにまみれたそのそそっかしい口の周りを、宗はやれやれと拭ってやるのだった。

     本日はふたりとも個々の仕事帰りで、ES前で落ち合い夕食に訪れたところである。
     今回の帰国は一週間。あと数日もすれば、宗はまたパリへ発ってしまう。Valkyrieとして、みかのパートナーとしてのひとときは、宗にとって日本で過ごす期間中の醍醐味だ。
     黙々と食い入る相方をしばし観察していた宗だったが。ぱくぱくと顎を動かしながらふと顔を上げたみかと、ここで目が合う。

    「んあぁ、お師さんがずっとおれを見てくる! ドキドキしてまうっ」
    「不気味な反応はやめたまえ……よく食べるようになった、とただ感心していたのだよ」
    「ちゃんと食べへんと、って意識はしとるからなぁ。最近のお師さんみたいに、おれも体力つけなあかんと思ってん」

     そうかね、と相槌を打つ宗の表情は穏やかだった。今のみかは人間として自発的に行動している。その期待通りの変化が実に好ましく、宗は見ていて飽きないのだ。
    「頑張るで!」と宣言したみかはふたたび炒め物に手をつけた。さて──と仕切り直した宗もようやく自分の割り箸を割る。まっすぐに入ったこちらの亀裂と、眼前でせわしなく動く歪な線。たかが使い捨ての一膳でもふたりの完成品は異なっていて、宗は相反した芸術家が共存するおもしろさを再確認するのだった。

     みかの食いつき具合が予想以上であったため、宗は追加の注文をしては自身も食事を始めた。いつもより食欲旺盛なみかに対し、宗の胃袋にはさほど空きがない。それでもみかを見ていると消化にも刺激をもらえる気がして、箸を進めるペースを宗が速めようとしたときだった。

    「そやそや、お師さんっ」
    「……なんだね?」
    「さっきの、『このお店にも何度も来てる』って。なんや言いたそうやなかった?」

     今度は白飯を掻き込んでいたみかから不意に問われ。その頬についた米粒を左手でつまみ彼の唇へ押しやりつつ、宗は発言の趣旨を返す。

    「僕たちがこうして、外食をするようになってから。……ずいぶん経ったと思っただけだよ」

     宗の指先から忘れ物を舐め取ったみかは、「せやなぁ」としみじみ同意した。

    「学院時代は僕の家で作っていたし。屋台飯なども制限していたからね」
    「そやったねぇ。懐かしいわぁ~」
    「……君には、だいぶ我慢をさせてしまっていたから……」

     小声でそう吐き捨てた宗は目線を逸らすと、みかのもとへおずおずとチャーハンも回してやる。炭水化物ばかりに摂取品目が偏らないよう、控えめな半サイズだ。
     縁には綺麗なレンゲを乗せて。茶碗のご飯を平らげたみかの正面に、頃合い良く給仕される。

    「我慢やなんて、今も昔もしてへんよ?……おおきにお師さん、おれにぎょうさん美味しいもの与えてくれて!」

     これは遠慮ではなく、飾らない本心だ。ばつの悪そうにしている宗へと向かって、みかは顔をほころばせて礼を告げた。
     立ちのぼる湯気にはチャーシューの香りが漂う。舌を出したみかは黄金色の半球をレンゲで崩すと、すくったひと口をはふはふと頬張った。
     この場で美味しいものを与えてくれているのは料理人だが、みかの想いは受け取りたい。そう願った宗は「僕にもくれるかね?」と己の口元を指差しては、ひと匙のチャーハンをみかから与え返されたのだった。

    「どや、いけるやろ?」
    「カカカ。……悪くはないのだよ」

     あとは君が食べたまえ、と薄く笑んでは、宗はみかと分けてあった回鍋肉へと箸を伸ばす。もう出来たてではないとはいえ、こちらも質は損なわれていないようだ。分野こそ異なれどプロの技術力を汲み取った宗は、作り手をひっそりと礼賛した。
     近年はまともに食事を摂るようになったものの、本来は比較的食の細いふたりにとって、小皿で少量ずつを分けられる中華料理店は存外重宝している。繁盛しているわりにどことなく居心地も良いため、自炊をしない日にはこの店を訪れる機会も多かった。

    「ここへは、小娘とも打ち合わせで来たことがあるし。夏目……小僧も利用しているらしいね」

     何気なく放たれた宗のひとことで、ぴしゃ、と空気が一変する。宗と共有した直後のレンゲをぐっと握りしめたみかは、真っ向から不機嫌を露わにした。

    「あんずちゃんになっくんて。今一緒におるのおれやのに、他の子の名前出さんといてっ!」

     無意識な元凶は咀嚼したキャベツを飲み込むと、みるみる眉間に皺を寄せる。

    「ノン、店内で喧しいのだよ!……それに君のほうこそよく、鳴上や同室の朔間の話をするじゃないか」
    「それとこれとは別やし!?」

     ふたりの口論が白熱してきたところで、ちょうど追加の品が運ばれてきた。第三者との平和なやりとりを挟んだなら、争いもおのずと鎮火する。
     店員が厨房へ戻っていく様を見届けたあと。先に話題の軌道修正を試みたのは、みかの方だった。

    「……おれは。ここの中華、またお師さんと食べたい」
    「もちろん。構わないよ」
    「せやけどお師さん、もともと洋食派やもんね。ごめんなぁ、おれの気分に付き合わせてもうて」
    「だから承知の上だと言っているだろう。それに近頃は僕も、朝食以外は中華も和食も選ぶようになったからね」

     クロワッサンは譲れないけれど、と言い添えた宗は目を細め、わずかに口角を吊り上げる。

    「柔軟になったのだよ。君のおかげで」
    「んあ? おれの?」
    「ああ。……ほら影片、この油淋鶏も食べたまえ」

     親しき者たちの談笑と、金物の擦れる調理音。賑やかだけれども落ち着く絶妙な空間は、心惹かれるアンサンブルを奏でていた。



        ◆



     満たされたふたりが店をあとにする頃には、夜空の濃度は入店時より一段と深まっていたのだった。繁華街に並ぶ灯りが煌々と道を照らすも、粗忽者が万一転ぶなどしてはたまらないと、宗は夜目の利かないみかの腕を軽く引きながら帰路に着く。
     行き急ぐ人とすれ違うたび。ぶつからぬようにと身を寄せたふたりの距離が、そっと縮まる。

    「んふふ。桃まん、お師さんみたいで可愛かったわぁ~」

     甘くつやつやとしたピンク色の丸みを思い出しては、みかが頬を緩ませた。
     密着している肩を鬱陶しがりつつも、振り払おうとはしない宗は溜息混じりに応じる。

    「……同意はせず聞き流すよ。しかし君、今日はデザートまでしっかり平らげるとは。よほど空腹だったのかね?」
    「だってなぁ、時間なくてお昼食べてへんかったから……って、あかん!」

     失言を認めたみかは空いた手でとっさに口を塞ぐ。だが案の定、耳の良い宗からの怒号を避けることはできなかった。

    「ノン! 忙しさを理由に食事を抜くなと、いつも言っているだろう!」
    「んあぁ、堪忍してお師さん、っ」
    「君だけの問題ではないのだからねッ!?」
    「し~っ! 道端で目立ってまう!」

     注目を浴びている状況を把握し、みかは声量を抑えるようにと宗をなだめる。最低限の変装はしているとはいえ、こんな言い合いを聞けば誰しもがValkyrieだと気づくに違いない。
     宗はつねに激情家だが、みかの不摂生を叱る際にはとりわけ激昂する傾向にあった。事実を宗に知られてしまえば、こうなることは予測できたのに。己の詰めの甘さをみかが反省するも、後の祭りだ。

    「お師さんとの待ち合わせに遅れたくなくて。お昼休憩で雑務を片付けてもうたんよ〜」
    「……僕との約束など、いつでもいいのだから。日時変更だって」
    「そんなん嫌やぁ! 絶対!」
    「影片の声こそ大きいのだよ!?」

     騒がしい『お師さん』と『影片』の横を、くすくすと笑う人々が通り過ぎていく。端から見ればこの光景は痴話喧嘩と評されていることを、当の本人たちは知る由もなかった。
     
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