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    oimo_1025

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    #了尊
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    【了尊?】霊媒体質?な尊の話たぶん現パロ。冒頭出会い編ですが続くかは分かりません。




     その日は尊にとって、なんということのない一日として終わるはずだった。
     
     いつも通りのバイト帰り、普段と違っていたのは近所の交差点に人だかりができていたことだ。歩道に乗り上げた車は酷くひしゃげていて、誰が見ても事故だと分かる。運転手らしき男は項垂れて路傍に座り込んでいたが、事故の相手と思しき車や人は見当たらない。少し前に救急車が走っていったのはこれのせいかもしれないと思いながら、しかしどうすることもできない上に人の不幸に対して野次馬をするような趣向も持ち合わせていない尊は、ちらりと一瞥した後足早にその場を立ち去ろうとした。その時だった。
     ──ひどく綺麗な男が立っていた。丁度事故を起こした男が立っている側だ。青みがかった銀色の髪に、透明感のある白い肌。長い睫毛に縁取られた瞳は蒼穹を思わせるほどに澄んでいて、その顔立ちだけでなく、雰囲気が。どこか現実離れして見えて、瞬間的に綺麗だと思うと同時に尊はぎくりと足を止めた。
     しかしすぐさまハッとして、急いで背を向けるとそこから逃げるように走り去った。
    (目が……合った……!)
     それだけならまだいい。けれどその男は、確かにそこに立っていたのに、男よりも奥に立つ野次馬が透けて見えていて。
     霊的なものに違いないと、尊の直感が警笛を鳴らした。
     
     尊は幼い頃から俗に言う霊媒体質というもので、人には見えないものが見えていた。それらは尊にしか見えていないようで、遺伝でもない突然変異的な異能は理解されず、小さな頃は気味悪がられて孤立していた。
     そしてある日を境に尊は、自分の意志とは関係なく幽霊に触れることができるようになってしまった。これを知られると霊がたちまち尊に寄ってくるようになり、子供の頃の尊は頻繁に原因不明の事故に見舞われた。その事故で両親を失い、孫のあまりの不運に心配した祖父母が一帯で祈祷で有名な神職がいる寺を見つけ出し、尊をそこへ連れていった。
     そこで受けた祈祷と、その日から欠かさず身に付けているお守りのお陰で身を守れるようになったお陰で、尊自身は変わらず霊が見えてしまいはするものの、あちら側から察知されることはなくなった。
     ──霊を見つけたら目を合わせず、早々に立ち去るべし。これは長年尊が普通の生活を送るために欠かせない、彼なりの処世術だった。
     しかし今日はその事故現場を目撃するだけでなく、あろうことかそこにいた霊と目が合ってしまった。幸いだったのは、あの霊は不完全な様子に見えたことか。恐らくはさっきの事故の被害者なのだろう。重体だが死んではいないか、死んだ直後だからか。そんなところだろうと当たりをつける。
     アパートの階段を駆け上がり、部屋に入るなり鍵をかけ、ドアチェーンもかける。
     霊に対してそんなもの意味はないのだろうが、気持ち的な問題だ。
    「なにも来てない……大丈夫、だよね?」
     部屋の中はなんともない。嫌な気配も感じない。
     ほっと胸を撫で下ろしながら、尊は靴を脱いで部屋に上がると電気を点ける。全力で走ったからか、なんだかやけに疲れてしまった。ろくに着替えもしないままベッドに倒れ込むと、尊はそのまま眠ってしまった。
     
    「──ん、」
     少しだけ目を閉じるつもりが眠ってしまったらしい。空腹を感じているあたり結構な時間寝てしまったのだろうと、ぼんやり思いながら瞼を開けた。すると視界に飛び込んできたのは見慣れた天井の明かりではなく、──明かりだけではなく。それを透かした銀色の糸と青い双眸がきらきらと煌めいていた。
    「ッ!?ひ──!!」
     悲鳴の最後は音にこそならなかったが、尊は喉を引き絞るような声を出して体を硬直させる。その拍子にベッドボードで後頭部を打ち付けたが、今の彼にとってそんなことはどうでもよかった。
     しかし尊の上に乗る霊にとってはそうではなかったようで、男は尊の様子を心配する素振りを見せた。
    「……大丈夫か?」
    「大丈夫なもんか!退け!どっか行け!」
     恐怖から裏返って大きくなった声で怒鳴るものの、男は驚いた顔をしたまま固まってしまった。
    「……私の言葉が分かるのか?」
     霊が見えたとして、その言葉を正確に聞き取れる相手はそれほど多くない。この体質の所為で霊と関わることが多かった尊だが、彼らからまともな言葉が返ってきたのはこれが初めてだった。
    「え……?あんた……喋れる、のか?」
     呆然と問い返すと、男はこくりと頷く。
    「先程から手当たり次第に声をかけてみたのだが、会話どころか目も合わなくてな。……それで、きみとは目が合ったように思えて、もしかしたらと思い追ってきたのだが」
     まさから会話ができる上に、触れるなんて。驚いている男の話を聞いて、尊は自分が完全にやらかしたのだと悟った。
     目が合ってしまったことで、そんなつもりもないのに意図せず男を引き寄せてしまった。ようは、尊はこの男に取り憑かれてしまったわけだ。
    「た、頼む……どっか行って。後生だから」
     尊の懇願に男は、心底困ったように眉尻を下げて首を横に振った。
    「そうしたいのは山々だが、私には行く宛てがなくてな……」
     まぁ、それはそうだろう。霊なのだから。だからといって尊の部屋に居着かれても困るのだ。
    「自分の体のところに戻れば?さっき事故に遭ってた人なんでしょ」
     仮に亡くなっていたとしても、今ならまだ病院に体が残されているはずだ。
     尊がそう言うと、男は一瞬表情を曇らせる。そして重苦しく口を開いた。
    「……それが、分からないんだ」
    「え?」
    「私は誰で、どういった人物だったのか……分からないんだ」
     記憶喪失。霊の場合は不完全な状態故の欠如だろうか。途方に暮れる男の様子に同情はするものの、尊にとっては一層の災難としか思えない話だった。
     有無を言わさず殴り付けて追い出すという手も考えたが、尊以外は通り抜けられる相手を壁一枚向こうへ追いやったところで意味はなく、騒ぎを起こせば逆に尊が不審者扱いされる可能性が高い。
    「あぁ……もう!分かったよ!探せばいいんだろ、お前の体!」
     こうなれば自棄だ。幸い男は悪霊の類ではなさそうだし、話が通じる。他人には見えない居候だと思えばどうにか受け流せるだろうと尊は腹を括った。
     たとえ既に体に戻れない状態だったとしても、自分が何者であったか知らずにいるのはあまりにも憐れに思えた。
    「そうか、助かる」
     ほっとしたように表情を緩める男に、尊は苦虫を噛み潰したような顔をした。今更だが、よくよくまともに顔を見ればこの男、やけに顔がいい。きっとさぞモテるのだろう。これなら多少悪霊寄りだったとしても傍に置きたがる物好きがいそうだと思うほどだが、生憎尊には関係のない話だ。
    「ただし、近所の人に迷惑をかけたり問題起こしたら、すぐ除霊師のところに連れていって除霊してもらうから」
    「分かった」
     やたらきっぱりと即答し、男は真剣な顔で頷いた。自分が消される話なのにそんなに簡単に了承していいのかと問えば、「世話になるのだから従うのは当然だ」と、いたく生真面目な回答が返ってきた。
    「……はぁ。とりあえず明日からね……」
     数日もあればきっとこの男も自分の体の在処が分かるだろう。それまでの我慢だ。そう自分に言い聞かせ、尊は寝床から起き上がった。
    「なんかお腹空いてたのに、食べる気しなくなっちゃったな……」
     寝起きなのに疲れはほとんど取れておらず、もう食事は諦めて風呂に入って寝てしまおうとバスルームへ足を向ける。
     2畳もない脱衣スペースに着替えを持ち込んだ尊は無造作に服を脱ぐ。背後に男の気配を感じたが、ここは尊の家だ。彼のために尊が普段の生活を帰る気はない。しかし黙っているとどこまででも着いてきそうな気配に、尊は渋々声をかけた。
    「あのさぁ……風呂の中まで着いてくるつもり?」
    「いや、流石にそこまでは……」
    「ならそっちで待ってろよ!」
     さっさと入ってしまおうと浴室の戸を開けて中へ入る。シャワーコックに手を伸ばして湯を被ると、少しだけ気分が落ち着いた。
    (ほんと、なんなんだよ……)
     とんでもないことになってしまったなと、尊はため息を吐く。正直なところ、人畜無害そうなのがかえって厄介だった。そうでなければ昔世話になったあの寺に駆け込んで、然るべき祈祷なり、お祓いでもしてもらったものを。その寺は少し前に代替わりをしたらしく、新しい住職は尊とそう歳も変わらない上、高い霊力を持っているらしいと祖母が話していた。
     しかしまあ、なんだか分からないような相手ならばまともかく、数時間前に事故に遭ったばかりの、まだ生きているかもしれない浮遊霊的存在にそこまでの無体を働こうという気にはなれなかった。
    「あ、」
     風呂から上がって男の顔を見たところで、尊はようやく男の名前を知らないのだということを思い出した。男は名前も覚えていないと言っていたから、仮だろうが呼称がないと不便だろう。
    (なんかないかな……)
     迷いながらなんとはなしにつけたテレビからは古い洋画が流れていた。根強いファンが多いアクション物で、丁度最後の戦いに赴こうとしている主人公が手にした銃に弾を込めているシーンだった。
    「──リボルバー」
     声に出して音感を確かめる。少しばかり厨二っぽいかなとも思えたが、男の存外に鋭い視線など、イメージに合う気がした。
    「あんたの呼び名、リボルバーな」
     そう呼ぶと、男は何度か目を瞬かせ、それからふわりと微笑んだ。自分でも復唱していて、どうやら気に入った様子だ。
    「分かった。ありがとう」
    「!……別に、不便だから、適当につけただけだし」
     霊体が苦手とはいえ、整った容貌を向けられるとなんだか落ち着かない気分になる。尊はふいと顔を逸らすと、逃げるように冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、一気に呷った。
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