4.わんわんナルミツペンのインクが切れた。
「うわ、ツいてないな。もうちょっとで書き切れたのに…」
思っていたよりも沢山使っていたようだ。内容自体大したことはないのだが、書き切れなかったというのが気持ちよくない。当たりを見回す。ちょうど出先で、大きな駅前にショッピングモールが併設されている施設がある。ちょうどフェアでもやっているのか有名な文房具屋の看板が目に止まった。
「(インク、流石に売ってるよな…)」
使っているのが普通のボールペンであれば、五メートル程度先に見えるコンビニで十分事足りる。だがこのペンは万年筆であり、そして思い入れのあるものである。
『成歩堂。キミも、一つは良いモノを使うべきだ。』
と、百均のボールペンで買い物メモをしている時、恋人に言われた為だ。
今まで、文具に特別な思い入れを感じたことは無い。使えればいい。ただ大切な恋人は自分とは違い、身につける物にこだわりがあった。
『勿論、無理にとは言わないのだが。』その言葉に意見を押し付けようといった気持ちは無く、唯の提案。
文房具に興味は今も無いが、何より大切な人の気持ち然り、何に人生の醍醐味を感じているのかは理解したい。そう思い二人で買いに行った物。それがこの万年筆だ。購入の際、自分が提案したのだから費用を出す。そう言ってくれたが丁重に断った。その代わりどんな物が良いか、値段、デザイン、使い心地を全て選んで貰ったのだ。
少し重みがあり、すらりと書きやすい。臙脂色のペン軸に滑らかな銀のペン先。キャップ部分のフックが白いのが良いアクセントになっている。
「(これに決めた時、顔が赤かったなあ、なんでだったんだろ。でも…凄く、可愛かったな…。自分の選んだ物には自信があるヤツだと思ってたけど。実際凄い使い易いし。…僕が気にいるのか心配だったのか?…なんて。)」
自惚れがすぎると自嘲しながらも、思うだけならタダだろう。
「(御剣、忙しいんだろうな。会いたい…。)」
浮かれた気持ちを表に出さない様、ショッピングモールへと足を運んだ。
「おっ!成歩堂じゃねえか!キグウだな!」
「げっ。…矢張。」
「げっ。とはなんだよ!失礼なヤツだな」
文房具屋が入っている階まで辿り着き、いざ万年筆のインクを探そう。その刹那。見覚えのありすぎるオレンジ色がよく似合うツンツン頭の男。其奴とバッチリと目が合い今に至る。
矢張政志。小学生以来の悪友であり、親友の一人。
「しかも、今の俺は矢張サマじゃあねえんだぜ。見よ!このベレー帽を。今の俺は天龍斎マシス!20世紀を代表する画家サマよぉ!」
「(だからその世紀は過ぎたって…。もう、いいけど。)」
天龍斎マシスというのはとどのつまり絵描きモードの矢張である。このモードはヒジョウに面倒臭い。矢張が面倒臭くなかったことなど指で数える程しか無いが。
「その感じじゃあ、矢張は画材を買いに来たって訳か。」
「そうそう。絵の具って、案外たっけえんだぜ?知ってたか?」
「いや…知らない。まあ、発色とか、そういうのが違うっていうのはなんとなく…ってだけかな。絵の具なんて殆ど使わないからなあ。」
「そうだろお。俺なんて小学生以来だったもんだからよ、来る度ビビるぜ。あと筆もたけーぞ。」
あんま金ないんだよなー。買い物しちまったし。と言いなんだかド派手なビニール袋をぷらぷら揺らす。下の階にあった、ちょっと俗っぽい総合ディスカウントストアの袋だ。揺らしているせいで少し中身が見える。…犬耳の、コスプレセット。
「何買ってんだよ…。」
「あ、これ!?やべー見えちまった?ハズカシー!ココだけの話、カノジョと…なっ、約束してて、そういうコトッ!きゃっ」
「ココ意外に話す所無いだろ、そんな話。なんならココでも話すなよ。」
乙女の如く恥じらう矢張。全然可愛くない。好みはそれぞれだが。少なくとも自分には刺さらない。
犬耳って、…まさかコイツ自分が着けるんじゃ無いだろうな。考えるのやめよう。
乾いた瞳でさて、万年筆のインク。気持ちを切り替えたかったが、矢張のコミュニケーションは終わりではなかったようだ。
「別にいいだろ〜僻むなよぉ。おまえにだっているじゃねえか、コイビト。…そういや、最近、おまえらどーなのヨ。」
「……どうって、何が。」
「何って、御剣だよミ、ツ、ル、ギ!まだ付き合ってんだろ?」
「ちょ、シッ!!」
大慌てで周囲の警戒体制を厳重にし矢張に人差し指で静粛にしろと伝える。それを見た矢張は
成歩堂の慌てぶりを時折する感情の読めない真顔で見つめている。何故そんな顔をされなければならないのか。
「焦りすぎだろ…。焦るのも分かんなくはねえけど。わかるヤツなんて今居ねえって。」
「でもっ!…いや……まあ…それは…そう…だろうけど…。」
御剣。御剣怜侍。検事を務める、成歩堂の小学生以来のもう一人の親友であり、恋人でもある。銀に近い灰色の髪を持ち、濃い赤のスーツに身を包む首元にはクラバットなる、白いネックバンドをつけた姿が印象的だ。
厳格で、真面目でちょっと、いや結構。イヤミなヤツで、少し抜けていて。格好良くて、可愛い。とても愛おしい男。
ライバル同士で、親友同士の恋人同士。極めつけに、…同性同士。交際していることは勿論公表していない。自分たちを知っている者がもし此処に居たりしたら。焦りもする。当然のことである。
「まあ俺も悪かったよ、もうちょい小声で喋るぜ」
「そういう問題かな…。まあ、でも、…ありがとな。心配してくれて。」
矢張は、自分達の関係を知っている。それは何故か。答えは単純。自宅に集まり酒を酌み交わしている際ポロリと吐いたからだった。出先ではなく、気の置けない友人しか居ない為大変気が緩んでいた。カノジョが冷たいだの会ってもすぐに帰ってしまうだの、ボロボロ泣きながら愚痴をこぼす矢張に
『私と成歩堂など…』
『僕と御剣なんて…』
同時に。口から、漏れた。あけすけに恋人について話せることに、どうしたって、羨ましいと思ってしまったのだ。
あの時の矢張の
「え?お前ら付き合ってんの?」というセリフが今でも忘れられない。普段は酒を呑んだらとことんベロベロなクセに。妙に冴えた表情で聞かれ、それぞれのスーツの色を交換するように赤くなったり青くなったりした。
御剣は特にショックが大きかったのか、走って出て行こうとして、それをもう酒も入って夜も更けるというのに危ないと止め口論に発展した。然しお互いを思い合っている。たとえ誰に何を言われても。それは絶対に変わることは無い。そう、二人は改めて深く決意と愛を固め、名を呼び合い、見つめ合い、抱擁しあった。
あの時の矢張には、本当に悪いことをしたと思っている。全員酔っていたとはいえ、気まずいレベルの話では無かったと思う。しかもあの後抱擁したまま寝落ちした。あれを見せられたのが自分だったら多分帰っている。自宅だけれど。御剣だったら絶対帰っている。つまり御剣との関係について矢張に聞かれた際、強く拒否する理由も道理も無いのだ。
「で?どーなのヨ。」
「うん、上手くやっていけてると思う。忙しくてあんまり会えないけど…。御剣も…そう思ってくれてるんじゃないかな。」
「そっかそっか。良いじゃねえの。なんか安心したわ。」
「ありがとう。…矢張。御剣にも会えたら言っておく、心配してくれたって。」
「おうよ」
矢張が自分たちの関係を、男が好きなのかどうか聞く訳でも無く、単純に成歩堂龍一と御剣怜侍だけの恋愛関係として見守ってくれている。自覚があるのか無いのか、おそらく…無いだろうが。それは干渉ではなく、確かに寄り添いに他ならない。
「(良いヤツ、なんだよな…)」
「まあお互い頑張ろうぜ。…ところで聞きたいんだけどよ。」
「うん。何?」
「お前らってエッチとかすんの?した?」
「はぁッ!!!???」
前言撤回である。何を言い出すんだコイツ。
「なん、なにを…!!!」
「声がでけえよ…」
「おま!!………おまえのせいだろっ」
「いや、まあでりけーとな話っつーのは承知の上よ、あくまで芸術家のタンキューシンっつーかなんつうか。……普通に気になるだろ!」
「開き直るな!他のことは良いけどそれは絶対に言わないぞ僕は!御剣に聞いてみろ!」
「無理だって!わかってんだろ!殺されるに決まってるじゃねえかよ!」
あくまで小声であることを意識しながら会話の応酬を行う。流石に殺しはしないだろうが。彼は検事なのだし。だが、それに近い恐ろしい目にはきっと遭う。考えただけで全身の血液に氷を押し充てられた気持ちになった。
「分かったって、しょうがねえな。コエーから御剣には言うなよ。マジで。お願いします。まあ…お前がケツに敷かれてるってこたぁ分かったな…。」
「敷かれて無……ッ………。え。敷かれてないよな?……矢張ッおい!返事しろよ!ちょっと!」
普通に疲れて来たので、はあ…とお互い重いため息を吐き、この話は終わりとなった。あまりに続けていれば店員さんの怒髪天を衝きかねない。
「そんで成歩堂、オメーは何買いに来たんだ?」
「僕?万年筆のインク。切れちゃったから。コンビニには多分売ってないだろ?」
これ。とスーツのポケットに入れていた万年筆を見せる。矢張はそれをじい。と見つめて片眉を上げた。
「なんか…キシカン…?あんなこのペン。」
「既視感?別に有名なブランドじゃ無いけどな…。これ、御剣が選んでくれたんだよ。」
「あ、それだ。」
「え、なにが?」
意味がわからないので問いかけたが、矢張はへー。なるほど、御剣が、なるほど。成歩堂に、ねえ。と、紛らわしい言葉を呟き、にまにまニコニコ、腕を袖の中に隠しふりふりとするだけで答えない。ミョウに癪に障る。
「なんだよ。ニヤニヤして…まさか、変なセンスとか言わないだろうな。言っとくけど、凄い使い心地良いんだからな。」
「言うかそんなこと!うん、やっぱ、バカップルだわお前ら。知ってたけど。あ、ニヤけてたことも言うなよ!」
「は…?い、意味が分からない…。」
「こりゃ敷いてる方も苦労してるな。聞いてみろよ。」
「だから敷かれて無いッじゃあ、聞くけどさ。この万年筆の意味って何?」
「俺に聞くな」
「(聞けって言ったのおまえだろ!)」
社会一般的にペンを選んでもらうとバカップルになるのかも、万年筆の意味も分からない。でも思い出せば御剣はあの時照れていた。自分の知らない、万年筆言葉なるものが存在しているのか?
うんうん唸っていると、携帯の着信音が鳴る。反射で自分の携帯を触ったが振動していない。対面で音の発生源を探している矢張の物だ。
「あれっ、おっかし、ねえぞ。」
「さっきの派手なビニール袋。」
「お、マジだサンキュー!あ!カノジョからだ!わりーな成歩堂。ちょっと…な」
「(そんなところに入れるなよ…)良いって、早く出ろよ。小声でな。」
「モチよ」
そそくさと壁側の棚の端へ歩いていった。今のうちにインクを探そう。忙しい訳でもないし無駄でもないが想定していない時間を使ってしまった。万年筆などのインクコーナーは絵の具コーナーの反対側に設置されており、特になんの苦労も無く見つける。
あとは会計をして、矢張に手振りで別れの挨拶でもして帰ろう。
「はぁっ!!!!?????」
「えっ」
「急になんだよ!あ、……きゅうにっなんでそんなこと言うんだよ…っ」
電話中の男がいきなり大きな声を出した為に、自分は勿論他の客もちらりと矢張を見る。その視線に気付いたのか気まずそうに壁に身体をくっつけて、出来る限り小さな声で不満…もしくは悲しみを表現しようと画策している。
なんだか嫌な予感がする。
「だってオーストラリアは当分無理だって話だったじゃねえか、それに今日の夜約束…え?ウィーン?だからオーストラリアだろ?…あっ!待ってくれよ!なあっ……。」
「(音楽家か、画家かなあ…)」
矢張のカノジョについて思いを馳せる。もうカノジョじゃ無くなってしまったが。たった今。
暗く澱んだ意気消沈の姿で電話を見つめている。凭れている白い壁がキャンバスのようだ。カラフルでポップな洋服、眩しい元気なビタミンカラーのベレー帽が全く持ち主の空気を読んでいない様はシュルレアリスムここにありけりといった感じである。
「なるほどう…」
「う、うん」
「フられた…。」
「(見りゃわかるよ…知りたく無かったケド。)」
哀れだな…とは思うが、恋人がいる身として気持ちは非常に分かる。御剣に海外に行くから何の話し合いもなく、一方的に関係を無かったことにしろと言われたら何をしてしまうか分からない。付き合って無い時ですら実際めちゃくちゃ荒れたのに。そう考えたら落ち込むだけの矢張はよっぽどマシだ。言わないけれど。
「あの、元気だせよ、月並みなことしか言えないけど…お前ならまた出来るって。」
「……なるほどう。これやる。」
「はい?」
これとは。手に持たされたカサカサした何かを視線を下げて見る。ディスカウントストアの派手なビニール袋。もといその中身。犬のコスプレセット。
「いらないです…」
「う、うわぁぁあ!!俺だって、おれの方がもう要らねえよおお!良いじゃねえかよお前は相手居るんだから!!まだ未使用なんだから!!じゃあな!!うわぁぁああん!!」
「まっ待てよ!矢張…!ほんといらないっ…あ、インク、会計ッ、あー!!もう!!」
当然店員さんに煩い客二号。といった表情をされたがお構いなくお金を払い、走って矢張を追いかけた。
「本当にどうしよう、これ」
自室に帰ってきた。疲れた身体を癒す為風呂に入りTシャツとズボンに着替えた手には未だけばけばしい見た目をしたビニール袋と、大変失礼だが件の呪物が残っていた。
なんとか容疑者、又は号泣するベレー帽を捕まえてその辺の路地裏で落ち着かせると、矢張は盛大に腹を鳴らした。呆れ故ため息が出たが、追い討ちになるといけないので走ったせいで息切れしています。として誤魔化した。
そこまで気にかける理由はあるのかと、もし聞かれたら聖人じゃないので正直揺らぐ。
ただこの男には御剣との関係について悪気は無いが一方的に暴露し、喧嘩からのイチャつきを長時間見せつけても、自分たちを応援してくれた事実がある。しかもフられている。…飯の一つくらいは奢ってやらないと。そう思えた。
近場の喫茶店でランチセットを平らげた矢張は失恋という心の大ダメージの修復作業に取り掛かることが出来た様子。「うまかった。マジでありがとうなっ。おまえ…いいヤツだなっ…!」を延々と繰り返す。たった数千円でここまで元気になってくれるのならばやった甲斐はあるというものだ。しかしビニール袋は何を言っても頑なに受け取ろうとしなかった。本気でトラウマになりかけている姿に強引に押し付けることも出来ず根負けし、渋々持って帰ってきた。という訳だった。何のために追いかけたのか。考えるのやめよう。
「『★本格犬耳セット!イケナイ♡しっぽ付き★カワイイアノコに…もしくは自分に…。』無駄に素材が良いのは何なんだ?…レシート入れっぱなしだよ…。よっ!?4650円…。」
もちろん、捨てよう。そう思わなかったわけでは無い。ただディスカウントストアにしては高い。リアルに高い。比例して非常に質の高い商品となってしまっている。白い犬の毛並みが再現されている。耳の形は三角で大きめ。しっぽはふさふさで、プラグを挿すタイプだ。異性同士だったとしても、恐らく肛門に使用することでリアリティを増させる設計だろう。
「(矢張のヤツ、参考にする為に聞いてきたんじゃないだろうな。多分そうだな。)」
載っている写真は日本犬に見える。恐らく柴犬をイメージして作られている。こんなものをこんなクオリティで売るな。アイツも自分なりの本気の金額を出すな。
単純に勿体無い。
それともう一つ。この周辺は分別が非常に面倒くさい地域だと言うことだ。最近になり分別をしよう!という運動が活発で、少しでも違反をすると圧という暴力が発生しかねない程。実際近所のおじさん、と呼ばれる年齢の人が適当に捨てた缶やら雑誌やらのゴミを次の日啜り泣きながら分別していたのを見たことがある。誰が言ったのか分からないがよっぽど恐ろしい人がいるのだろう。この街の人間は本当にクセが強い。そうでないと生きていけない気はしている。
万が一分別に失敗していたら、早朝犬耳コスプレセットを丁寧に漁る成人男性があのゴミ捨て場に爆誕する。自分。しかも通学時間帯に。小学生軍団の変態サンドバッグとして生きて行くのは絶対に嫌だ。
「はあ…もう、いいや、とりあえず…家にしまっておきさえすれば。お茶飲もお茶…」
透明な袋にパッキングされた耳と尻尾のついた卑猥なプラグなどをソファへ放置し、キッチンへ向かう。
ビニール袋は適当に丸めてビニール袋を入れているカゴに突っ込んで置いた。嫌に目立つ。
精神統一を目的とした、濃く抽出された緑茶は心を引き締めてくれる。置いてあったお菓子なんかもちょろちょろ摘んで食べて、漸く一息。こんな時間は久しぶりな気がした。そのまま10分か20分か、キッチンに置いていた簡素な椅子に座って和んでいると、ピンポンとこれまた簡素な音が部屋に響く。来客だ。郵便だろうか。
扉を開けると御剣だった。夢かと思った。
「成歩堂…。」
「えっ……え!?み、御剣…!?なんで…?」
「裁判官の決定により予定が急遽空いてしまったのだ。今日はこれ以上、進展がないのが確定している。それで、キミが休日だというのを思い出して、何も、考えず。…迷惑、だろうか?」
何も考えず来た?そんなの。嬉しい。嬉しいに決まっている。
「迷惑に見えるのか?嬉しいよ、会いたかった…。あ、ごめんな、こんなところで話させて。入って。散らかってて申し訳ないけど。」
「気にしない。私も…会いたかった。」
安心した微笑み。彼の表面的なイメージとはギャップのある春の木漏れ日のような暖かさ。
何度見ても素敵だ。
靴を丁寧に揃えている御剣をちらりと見る。後ろのハネた癖毛も久しい。心を弾ませ玄関の鍵を閉める。手を洗いに洗面台の方へ向かう御剣に飲みたいものを聞くと、出来ればお茶が良いと言ったので緑茶を提案すると快諾してくれる。浮かれた声を抑えるのに必死だった。自分もシンクで手を洗ってから、急須を使ったのを思い出したので、綺麗にし新しい茶葉を入れる。
「御剣、ソファ座ってて。お茶淹れる。さっきまで出かけてたんだ、帰ってきて良かった。」
「ありがとう。そうか、それは運が良かったのだな。」
「うん。今日は良い日だよ」
「…フフ、まったく…違う…。私が、という意味だ。」
静かに笑う御剣の声はいつも以上に穏やかだ。会えて嬉しいと思ってくれている、自惚れてしまう。
「そうそう。矢張に会ったんだ。僕たちのこと心配してくれてた。心配…して…くれてて…」
鼓動が違う意味で暴れ出す。のぼせていた脳が急速に冷えていく。時を止めたい。やかんが沸騰しているからとりあえず火を止める。誰か助けて欲しい。自分は何と言ったか。ソファに座ってて?何を言っている?ソファには何があった?そもそも帰宅前に何があった?恋愛ボケにも程がある。数分前の自分を殴り飛ばしたい。
ぐちゃぐちゃの脳内に反して、腕はいつも通り急須にお湯を注ぐ。
数分待つ。
数分経っても御剣が話しかけてくることは無かった。十分に蒸れたお茶を湯呑みに注ぎ、食べるか分からないが菓子を二つほど側に添えてお盆に乗せて暫定死刑台へ向かう。
リビングに居た御剣は当然既に綺麗な姿勢で脚を組みソファに座っており、当然既にあの忌まわしきグッズを両手で持って証拠品を眺めるように角度を変えたりして見ていた。額にヒビが殆ど無い。彼にとって、真顔という状態である。
「おま、おまたせしました」
「感謝する。」
お茶を置いて、ソファ近くに敷いてあるカーペットへ正座の姿勢を取る。
「座らないのかね」
「ここで大丈夫です」
「そうか、では頂こう」
「熱いので気をつけて下さい」
「うム」
す、と美しい所作で呪物をソファへ置き戻し、旨みが上手に出た、澄んだ緑色のお茶を口へ運ぶ御剣。静かな微笑みは氷のように美しい。
関係の深く無い者が検事、御剣怜侍をイメージすると、この笑みが浮かぶことであろう。
「美味しい」
「よかったです」
「成歩堂」
「はい」
「説明を要求して宜しいだろうか?漏れなく。全て。」
「喜んで…。」
御剣には起きたことを全て話した。普段であれは言わない方がいいと判断するものも含めて。少しでも嘘を吐いていると思われたく無かったし、思われたら終わりだと思ったからだ。
理由は未だ分からないが矢張が万年筆を見てニヤついていた辺りの話でここ一番の殺気が漏れていて、正直泣きそうになった。無罪(恐らく)を証明しているだけでこうなのだからつまりはそういうこと。矢張。認める。僕はカーペットだ。おまえは生きた剥製にされる前に海外へ渡った方がいいかもしれない。オーストラリアとか。
「成程。買った物では無く、あの21世紀を代表する"大"馬鹿に押し付けられ処分に困っているところへ、私が偶々来てしまったのだな。」
「はい」
「成歩堂」
「はい」
「隣に座ってほしい。」
「み、…御剣ッ…!」
言われた通りに隣へ即腰掛ける。実際には五分程度の審議だったが永遠に感じられた。寿命は五年は縮んだ気がする。御剣は先程まで無かった額のヒビを取り戻すとふう……。と深い深い息を吐く。そのまま肩へ凭れてきた。
「色々と考察した。」
「う、うん」
「普段の対応からこういったものを、キミが何の相談も無く買うと思えなかった。もっと冷静に考えれば、キミが個人的に使うという考え方も出来るが、…そんな余裕は無かったな。悔しいことだが。」
私も未熟者のようだ。と苦笑する。それは不名誉すぎるので冷静に考えてくれなくて本当に良かった。優しく、御剣の肩を抱く。
「つまり、私以外に相談した相手が、居たのか。呼んでいたのか。ただ、それでは予定外に現れた私を玄関で焦り一つなく、すぐ中に入れた説明が付かない。…どう反応するのが正しいのかをずっと考えていたのだ。思い過ごしで…良かった…。」
本当になにも考えず、それまでの全てを忘れ、ただ会えて嬉しかったから家に招き入れた。それで正解だった。殴り飛ばそうと思っていた数分前の自分を思い切り抱き締めてやりたい。
「成歩堂、一瞬でも疑ってすまない。」
「そんな…!謝らないでくれよ。御剣は何も悪く無いだろ。それなら僕だって、一瞬でも不安にさせて、ごめんって思うよ…。」
「ああ…そうだな…。キミに過失は無いのだから。此方も、謝るべきでは無かったな。」
「御剣。絶対に…おまえだけだよ。」
「フ…、もう、分かっている。そういうモノは、態度で…示して欲しい。」
その言葉を聞くとすぐに抱き寄せて、腕に閉じ込め口付けた。
分かりきっていたのだろう。背中に腕を回すより僅かに速く首に腕を伸ばしてきた。吸い付くように唇を押し付けても、拒否するどころか後頭部を手で抑えつけられ、絶対に逃さないという気概すら感じる熱量で応えてくれる。
「御剣、っ…!」
「ん♡…もっと…!もっと…♡」
「う、ん…♡」
「んむ、♡れろ♡舌を…からめて、ほし…♡…ちゅ♡ちゅ♡♡…ふふ…♡」
興奮して粘度の高くなった唾液が舌と舌を繋ぐか細い橋を作る。それが切れたらまた繋ぎ、止まる事が無い。大分昂ってしまっている御剣は段々と馬乗りの体勢へ。積極的に舌を動かし絡められて、あっさりソファの端に押し倒されている成歩堂の口周りは唾液まみれになる。興奮と息苦しさで目を硬く閉じ、夢中になりつつも酸欠にならない様に調整する。
「(相変わらず、はげしいっうれしいけど、っ、う、やばっくるし…♡)」
「ふうっ…♡ふう♡ん"っ♡んんッ♡♡…………♡は…♡」
「んぐ、はあッ…!はあっ…はあ…♡」
御剣は一層強く薄い唇を押し付け密着した口の中で成歩堂の舌や頬の内側、唾液などを丹念に味わい回すと、名残り惜しそうにゆっくり唇を離す。上に乗っている彼を見ると普段の生活ではしない舌なめずりをしている。予想はしていたが。据わった目付きが行為を求めきっているソレである。
「はあ、は…御剣…、する?」
「…当然…。準備してくる。キミは既に入ったのだろう?大人しく、待っていたまえ。…だがその前に。一つ聞いておきたいことがある。」
「ん?うん。なに?」
「『アレ』を使いたいか?キミのシュミに合うのか、アレは。」
「あれ、アレって…まさか…」
「そのまさかだ」
考えてもいなかった。そもそも自分で買ったワケでもないから。処理に困る呪物としてしか認識していなかったが、確かに本来は恋人との行為に使う物である。
「ン♡」
「んぐっ…♡」
「…浴室を使わせて貰う。考えておけ。」
「あ、風呂一回浸かってる…」
「そこまで気にならないが。」
「でも…、お湯、新しくしていいから。」
「では有り難く。」
御剣に顎を掴まれ口付けを受ける。妖艶に笑うと扉の向こうへ去っていった。
彼は想像しているよりも新しい行為にアンテナを張っている。やりたいのならやってもいい。という自分優位のスタンスは崩さないけれど。それも半分は本心なのだと思う。してやれることはしてやりたい。その気持ちをいつも持ってくれている。それは彼自身の持つ体質を気にしてのことでもあるだろう。もう半分は単純にそっち方面の才能、と言っても良い。
「(僕はアレを使いたいのか。か…。それは御剣が着けてくれる。犬…に、なりきってくれるってことでいいんだよな…?)」
想像してみる。瞬間、堪らない光景が脳細胞を支配する。絶対に好みに合うと今。確信した。頼むしかない。
「……着替え!置いて来ないと。」
事前に決めているときは本人が用意しているのだから考えなくても良いが、今回のように突発的に行為をする時は持っていかないと裸で歩かせてしまうことになる。過去に御剣が置いて行った着替え類を棚から探す為ソファから起き上がった。
『準備』というのはタイミングを間違うと、相手を恥ずかしい目に遭わせかねない。
御剣が普通の入浴をし始めた頃を見計らい、いつものフタをした洗濯機の上へ着替えを置く。
「御剣、着替え置いとくからな。」
『承知した。感謝する。…決めたのか?』
いつものやりとりの後、浴室に響く、くぐもった声で、先程の答えを要求され、ドキッとする。
「あ、うん…まあ、後で、言うよ…。」
『そうか。楽しみだ。』
「(じ、実質一択って感じの声だな…)」
生半可に断ったら怖いことになりそうな気がする。そんな予定は無いし本当にイヤだと思ったのなら何も言わないだろうが。
リビングに戻ると、急に輝いてみえる呪物だったコスプレセットと目が合う。
「(うう、なんか恥ずかしくなってきた。なんでだよ。僕がやるワケじゃないのに……。あれ?待てよ、そもそも本当に御剣が着けるってことで良いのか?)」
よくよく考えてみれば御剣は、自分が着けるとは一言も言っていない。寧ろ先程『キミが個人的に使う可能性』すら考えるべきだったなどと言っていた。『アレはキミのシュミに合うか』は、成歩堂がアレを着けたいのか、という確認だったのではと思い始めてしまった。
「(冷静になれ。あの御剣だ、あの御剣だぞ…いくら僕のことを好きで居てくれて、行為に積極的とはいえ、成歩堂の犬になりたい♡とまで思うのか?…やばい。無いかもしれない。)」
御剣は飼い主側になりたいのでは?
実質一択声で楽しみにしていた。照れるなら分かるが、恥ずかしくて、しかも優位に立てなさそうな犬側を楽しみだと言うか?疑問が確信めいてきてしまった。
やらせるつもりだった自分が嫌ですなんて言える権利は無い。つまりこれを着けるのは自分である。
成歩堂は全く冷静では無かった。
「どッどうしよっ、流石にしっぽは無理ッ!経験が無さすぎるッ!そもそも準備してないし、…結構太いッ絶対に事故が起きる!いや待て、御剣は大変さが解ってるから、着けなくても許してくれる筈…!耳だけ、耳だけなら!あとは演技力…はそれなりにいけるッ!大切なのは、鳴き声より仕草だ…。よし!イケる!気がする!頑張れ、僕はやれる!司法試験よりよっぽど単純!御剣は喜んでくれる!!僕は犬ッ!リュウイチッ!」
「待たせた。…結局どうなったのだ。」
「ああ、決めたよ。寝室へ行こう、御剣。」
「!うム…♡」
着替えを済ませてリビングへ戻って来ると、成歩堂が透明なビニールにパッキングされた例のモノを握りしめ、空いたもう片方の手で優しく手を取られ早速寝室へ。いつもより顔が男らしいような気がして、ガラにも無くときめいてしまう。この男にはいつも調子を狂わされる。自分がまさか犬の真似事をしてもいい、そんなことを思う日、相手が現れるとは考えもしなかった。それだけ成歩堂を愛している、目に見えぬ証拠なのかもしれない。
「(正直上手くできる自信はないが…成歩堂は確か、演劇経験がある。ならば、難しさも理解している。きっと喜んでくれるはずだ…。)
外はもうすぐ夕陽が沈みはじめる程度の時間帯で、カーテンで閉じられた寝室は薄暗い。こんな時間から、背徳的な行為をする。緊張と興奮で息が荒くなるのを耐える。淫靡な思考が恥ずかしい。
いつも成歩堂と付き合いはじめたからだなんだと言って誤魔化していたが、少しずつこれも自分の持ち合わせていた一部だと受け入れ始めている。まだまだ時間はかかりそうだが。
ベッドへ乗りあげると、ペリペリと袋を剥がす音が聞こえた。恥ずかしいが、覚悟を決めて振り向く。
「(開けている…!今から、アレを…私が…)な、成歩堂…っ♡」
振り向くと、成歩堂が犬になっていた。
厳密にいうと白い付け耳をした成歩堂が同じくベッドに居る。ピンで留めるタイプなのでまるで本当に生えているかのようだ。
なにが起こっているのかわからない。
「は」
「少しだけ人間の言葉で喋らせて欲しい。尻尾は付けられない。ごめん。」
「は、」
「あと…僕のことは名前で呼んで欲しい。リュウイチ。」
「……リュウイチ?」
「わんっ」
なにが起こっているのかわからない。愛する男の為に犬になろうとしたら愛する男が犬になってしまった。反応が無いのが不思議なのか、あどけない顔で首を傾げゆっくり近づいてくる。反応出来る訳ないのだが。そしてそのまま。すりすり。胸に頬擦りされた。わからない。なにが、起こっているのか。ただこれだけは言える。
「か、わいい…。」
「わん♡」
「なっ……♡♡なる、いや…りゅ、リュウ、イチ…♡」
にこ…と蕩けるような笑顔で一鳴き。無事その一発でとことん堕ちてしまった。子供時代の、すこし涙腺が緩く、素直すぎる成歩堂を思い出させる。
堕ちて当然。愛する人なのだから当然である。
なにもおかしくない。いまだにごちゃごちゃと、訳がわからないと喚く理性を突き飛ばし端へ無理矢理押し込み追いやった。
取り敢えず頬をすりつづけるリュウイチを優しく離す。口付けをしたいと思ったから。
これは、自分からすべきなのだろうか。
「リュウイチ、口付けを…しても良いだろうか。わ、分かるかね」
「?…」
「ひ、ぅ…!?♡こ、こら♡耳を舐めるのはやめたまえっ…あっ♡あ!ああっそんな…♡」
耳なんて舐められた経験は無い。成歩堂には一度もされたことはない。それに本気でやめさせる気がないのだから、やめろと言っても通じるワケが無い。この男、いやこの犬は可愛くて、すこし強引なリュウイチ。もう駄目だった。庇護欲が止まらない。脳を使うのを諦める。耳を舐めている可愛い犬の顔を優しく掴み口と口を強引に繋ぎ合わせた。
「んっ…♡ほら♡ここだ…舐めるのなら、まずは唇や胸…胸は特に、ココの硬いところに…♡キミはかしこいから、すぐに覚えられるだろう…。まずは口に、リュウイチ…♡」
「わう♡…ちゅ、ちゅっ♡」
「ん♡あ、ん♡良い子だ…♡んっ、?んぐ、♡ム…ッ♡♡」
さりげなく乳首を集中的に狙うように教え込む。しかしまずは口にして欲しい。ちゅうちゅうと可愛らしいキスをくれるリュウイチ。完全に油断していた。急に舌を深く入れられて、されるがまま。べろべろ舐められ口がべとべとになって、あまりに気持ち良い。唾液がお互いに入り乱れ交換されるいやらしい音。リュウイチの味。自分がこのような激しい口付けが大好きで、癖でもあるからすぐに絶頂してしまいそうになる。
「りゅ、いちっ♡んぅ…♡んあっ♡いっいちど、くちをはなしてほしいっ♡ふくをぬぎたいっ♡たのむ…っ♡いいこだから…キミのもぬがせるから…♡」
トントンとリュウイチの肩に手を当てて、宥めると唇をぺろりと舐められた後、ゆったりした動きで止めてくれた。
「は…♡待っていてくれ…まずは私の身体を、じっくりと、見ていて欲しい…♡」
ベッドに寝転び、ぷちぷちと上のボタンを外し、一枚しか着ていない為に素肌があらわになる。腰を少し浮かせて、ズボンを下着ごと引き下ろす。勃ち上がった性器が勢いよくぷるり飛び出すが、見せたいのはそれではない。
「はっ…♡ほら…♡キミは分からないかもしれないが…。深い、シュミの要望に応えて、…下の毛の処理を殆どしていないのだ…♡…個人的には、は…恥ずかしい…が。ここだけ、黒めで…。リュウイチ、どうだろうか…私の恋人は、気に入ってくれると思うかね?♡」
「ッ…、!!わうっ、!わんっ♡」
「そうか、キミもコレがスキなのだな♡ふふ、あ、んっ♡興奮して…♡」
恋人。つまり成歩堂龍一本人からのリクエストであったため躊躇することなく見せつける。
普段から整えた下生えしか見せたことは無く、人間なのだから仕方がないが、濃いめに生え揃った自分にはあまり似つかわしくない気がするコレに一抹の不安はある。だが結果目の前のリュウイチは非常に興奮と喜びを伝えようとしてくれており、実質成功。ぺろぺろ頬を舐められる。こういった異質な状況だからこそ簡単に進む事象もある。
「はぁっ♡はあ♡リュウイチ…♡もっと、私を見てほしい…」
約束通り服を脱がしてお互い裸になる。目が合うと愛おしそうに渦を巻いた目を細めて微笑んでくれるのが切ないほど嬉しい。
何分かかけて、じっくり身体を見て貰う。隅々まで観察してくれた。時折腕をちらりと見て来るので「申し訳ないが、脇はあまり生えないのだよ」と腕を上げて見せると顔を林檎のように染めてしまったのでつい笑ってしまう。リュウイチはひとしきり堪能すると顔を寄せる。感謝するように、甘い、くっつけるだけの口付け。
「うム…♡その様子では、満足して貰えたようだな…。もし、そうであれば。次は胸を…その…♡」
「わん♡んむ…っ♡」
こちらの要求を聞くと可愛い鳴き声と共に早速胸の飾りで、一番弱くて、一番スキな所を音を立てて吸いはじめる。
「あ、あぁッ!♡すごい…っ!♡あんッ♡激しいっ♡もっと!吸って欲し…強く、っ噛んで…♡あ"ぅ!!♡お"っ……!♡それ、すきっ"…♡きもちいい!ああっ♡♡リュウイチッ♡リュウイチぃッ♡イクっ…!!♡」
媚び声を上げあっけなく射精。ぱたぱたとシーツを汚す音。何度聞いても恥ずかしい。倦怠感と多幸感に包まれながら自分の胸元に覆い被さっている白いふわふわの耳の愛らしい彼を見る。まだ絶頂を迎えていないようだった。張り詰めた男根が視界の隙間に飛び入ってくる。愛らしさとのギャップでくらくらする。はやくアレが欲しい。優しくねちっこく、ゆっくり奥をほじられたい。
…せっかくならば、獣のように激しいピストン行為もされてみたいが。それは自身の体質的に出来ない為少し残念に思う。
リュウイチは優しく身体を掴んで来た。どうやら後ろを向いて欲しそうだったので何の抵抗もなくそのように動く。ピリピリとビニールを破く音が耳に届く。避妊具を装着している。
興奮で自身の先走りがシーツに落ち、みっともないシミが出来ていることだろう。
ピッタリ覆い被さる形で行為を始める様だ。発情した荒い息が耳にかかる度に小さく腰を振ってしまう。参考として夜な夜な自宅の個人的なパーソナルコンピュータで調べた時に学んだ。所謂寝バック。
「(こ、これが…!実際の…)」
準備や自主的なソレは指でしか行わずそういった道具は持ち合わせていないので、頭で補う分検索履歴はもうとんでもないことになっている。履歴の消し方が良く分からないので、もし成歩堂に見られそうになったりしたら破壊するしかない。ちなみに最多妄想体位は仏壇返しである。激しいピストンが要の体位であり実現が難しい分憧れが強まっている。成歩堂に無理矢理されているという内容で大声で鳴きまくり連続三回を二夜連続でした。自分で言うのもなんだが体力はある方だと思う。仕事に支障が出ていないのが奇跡だ。
「ふう…っ♡ふっ♡…リュウイチ…まるで、交尾のようだな…♡」
「はっ…はっ…」
「私を、犯してくれ…♡」
「ヴ…っ!♡」
「あ"っ…!」
背後から抱き竦められ固定される。
あまり会えないせいで個人的に使われすぎて縦になりかけている肉蕾が熱く硬い犬のペニスによって押し広げられていくのを、じっくり味わう。こんなにも恥ずかしい体勢なのに、交尾なのに、あくまでもこちらを傷付けないような優しい挿入。待ち侘びていた身体が悦びに震えて口の端から唾液が伝う。ねちょねちょぬちぬちと粘り弛んだ壁を捏ねられては動きを止められる。中を痛めない為で、焦らされている訳でないのは理解しているが、ワガママな心は勝手にいじめられていると思い込みたがって被虐心を昂らせていく。
「ぁんッ…♡りゅういち…うごいてっ…♡うごいてほしい…♡…だいじょうぶだからッ…♡」
「…っわう…!フゥ…!フーッ…♡フウッ…!!」
分かってはいたが、頼んでも動いてはくれなかった。少しだけ咎められる様に吠えられた。荒い息を吐いて、我慢して。本能は好き勝手に動きたい筈なのに。
半分はいつも申し訳ないと思っている。もう半分は勝手に断られた気分を味わって興奮している。罪悪感すらも糧にしてやろうと双方で話し合って決めているので遠慮なく快感を享受させて頂く。馴染むのを待ったリュウイチが漸く腰をねっとり回すと毎回派手に音が立つ。
「ンぅ…!んおぉ"ッ……!!♡きた…♡す、ご…っ♡りゅ、いちッぃ♡ん"お♡おっ…♡おッ"……♡こんなっ…!すごすぎるっ♡♡押し付けられてはぁ…っ♡い、いぐっ!♡リュウイチぃっ♡!イクぅっ♡あ"ああッ…!!♡はあっはあっ♡も…もっと…♡……ッオ"♡!深っ"……♡♡あ"あ"っ♡奥がっ♡こどもが♡こどもができてしまうぅっ!!♡」
「わんわんっ♡きゅう…♡きゅうん♡」
頸を舐めてきた。子供を作って欲しい。ということなのだろうか。必死で、可愛らしくて堪らない。
「あ、っん♡わかった…♡私もリュウイチのこどもがほしい♡たくさん産んでやるっ♡だから♡もっと…キミのペニスを寄越すのだっ…♡」
「わうっ♡」
あまりにもいやらしすぎる戯れは、結局三時間ほど続いたのだった。
「え!?御剣、やってくれるつもりだったのか!?」
「だからそうだと言っている!全く…。」
交尾を堪能した二人はすっかり正気に戻り、今は誤解を解きあっていた。
「だっ、だってまさか、流石にアレは分からないだろ!僕のために、そこまで出来るのかなって…。確かにおまえは物凄くエッチが大好きだけどさ。ペットみたくなりたいかはまた別の話だと思うし…」
「……っ……フン。そうか。それはお気遣い頂き感謝する!では今後も、アレはキサマの担当で決まりということで。あのような、素晴らしい演技の後では私も気が引けるのでな。」
自覚している分言われるとツライ。羞恥心から結局いつものイヤミな態度を取ってしまう。それと単純にリュウイチに逢いたい。
「そんな言い方しなくても!…さっきはあんなにスナオだったくせに…」
「う、うるさい…っ大体分からないなら聞きたまえ!気が利く所はきちんと利くではないか、何故変に鈍感なのだ!万年筆の件然り…」
「御剣も変なところで素直じゃないだろ…。…万年筆?そう、それ。結局どういう意味なんだ?分からないから教えてよ。」
「私に聞くな!」
「(僕は誰に聞いたらいいんだよ…。)」
真っ赤な顔でつんとしつつも、しっかりと懐に収まって向かい合ったまま目を瞑ってしまった御剣。
ふてくされていても可愛いと思ってしまう顔をじっと眺め、…文房具の資格試験でも受かれば話してくれるかな…。などと、御剣に会うために弁護士になった時と同じ思考回路で、司法試験とは別ベクトルの難問に思いを馳せるのだった。
万年筆のことは絶対に教えてくれないが、後日成歩堂に飼い主役をさせてくれた。今度は勿論しっぽ付きで。