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    rokurokunrmt1

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    rokurokunrmt1

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    短いのを詰めたやつ

    ショートナルミツ1.わんわんナルミツの後話。

    「久しぶりだな。矢張。」
    「ヒェッ………………なんで、ここに…………?」
    「私がここに居てはいけない理由があるのか?」

    つまみや缶ビールを自宅の冷蔵庫へ入れる後ろで、今まさに一方的な狩りが行われようとしていた。背筋が震えるのは冷気のせいだと思いたい。微笑む、というより顔を歪ませるように口角を上げる自分の恋人の顔。それを見て怯え慄いているのは親友の矢張政志という男だった。矢張はバッと視線を動かして、忙しいフリをしている自分を凝視してくる。予想通りだったので気付かないフリも追加でしてやった。

    「成歩堂っ!どういうことだよ!なんでここに御剣がっ…!?」
    「(うわっ…話しかけてきたよ…)…それを話すと長くなるんだけど、まあバレたからだよな。お前が今日来ることが。あ、水も冷やしとこ。」
    「全然長くねえよ!!俺でも聞けるわ!おまえ恋人に甘すぎだろ!」
    「おまえにだけは絶対に言われたく無い!」

    成歩堂龍一と御剣怜侍という名の男。
    二人は交際している。それはこの空間において地球は青い。それくらい当然の事実であった。

    「何で話すんだよ…話すなよなあ」
    「ぼ、僕だって別に自分から話したワケじゃないぞ、ただ何か隠し事があるか聞かれて、いつものよく分からない青い空間?が現れていつの間にか全部喋ってただけ。」
    「あの青いヤツおまえも見えんの!?御剣!おまえどういうトリック使ってんだ!」
    「ロジックだ。近所迷惑という言葉を知らないのかね?お二人共。」
    「えっ僕…」
    「ヒィッ成歩堂ッ一辺黙るぞ」
    「えぇ…」


    何故矢張はここまで御剣に怯えているのか。

    自分と矢張は数日前公衆の面前で、『成歩堂龍一と御剣怜侍の関係』について話し、(そんなに喋ってないケド…)矢張が御剣にペンを選んで貰ったということを何故かにまにまと半分からかい、追い討ちに急にフラれた矢張が成歩堂に無理矢理手渡した「お土産」によって、一歩間違えれば御剣との間にとんでもないすれ違いが起きたかもしれなかった。

    というのが全て御剣にバレているからである。

    勿論後日電話で生きた剥製になりたくないのならば飛べと言ってやったのだが。矢張にそんな金は無い。今現在も日本在住である。コイツもコイツで一週間もたたない内に家飲みに誘ってくるのが悪いと思うので特に同情はしていない。しかも何故自分の家に呼ばないのか。ウチは溜まり場では無い。  


    買ってきた酒が良い感じに冷えるまで駄弁ろうというのが大体の流れ。今回はそこまで時間は
    かからないだろう。
    しかし矢張は所謂お誕生日席に居るし、自分は扉から向かって右に居るし、御剣は左側、もう裁判だこれは。裁判官が居ないので本法廷の秩序は全て向かい側の愛しい閻魔…いや天使。天使が鷲掴む。因みにソファは御剣側にしか無い。ヒエラルキーは高低差で決まる、名言かも。
    矢張、おまえはこのクッションで我慢してくれ。案外座り易いから。

    「そもそも成歩堂!オメー味方してくれよ!ベンゴシだろ!」
    「弁護士は今関係ない。それにな、矢張。どっちかの味方に付かなきゃならないとして、お前側になれる訳ないだろ」
    「ほう。『なれる訳ない』とは?」
    「ソリャトウゼンボクハミツルギノミカタシカシタクナイカラダヨ」
    「よろしい」
    「ちょ、調教されてるじゃねえかよ…!御剣!DVDはよくねえぞ!」
    「(Dが一個多い。)」
    「人聞きの悪い。これは全て彼自身の意志だ。そうだろう?」
    「はい」
    「ほんとかあ!?」

    茶番はさておき、御剣は脚を組むと矢張の方へ身体を向ける。

    「キサマの罪を追求する前に、私から言っておきたいことがある。」
    「な、なんだよっコエーよ!」
    「…私と成歩堂の関係について、案じてくれたそうではないか。その事実についてだけは…感謝する。矢張。」
    「おっ……おうよ…。な、なんだよ…照れるだろぉ」
    「(ここで終わってればな…。)」
    「それでキサマ、その後この男に何を聞いたのだったかな。」
    「……エート、ナルホドウ、ナンダッケ」
    「は!?な、なんで僕っ!?引っ付くなよ!」

    完全に蚊帳の外だと思っていたのでボーっと天井の模様を見ていたら、急に話の流れに引き摺り込まれ慄く。御剣はテリトリーからはみ出し自分の隣へぐいぐい寄ってべったりしてくる矢張を視線で追う。じろりと目が合って「では尋問を。」などと冷たく振ってくる始末。何をムスッとしてるんだ、この配置になると自動的に敵になるのかコイツ。

    「えっ、とだから…文房具屋で、おまえが安心したって言った後のコトだろ、普通に」
    「…まあそうなるわな…お、おまえらのそのぉ…夜の生活について?聞きました。ハイ…」
    「何故だ?」
    「な、なぜって、なんだっけ?芸術家のサンラータン、みたいなやつって言ったけどよ」
    「た、探究心…?」
    「そうそれッ!成歩堂ッ!やっぱ分かってるなーおまえ!!」

    密着した肩をバンバン叩かれてイタイ。肩を組むな、熱苦しい。早く続きを答えろよと思いながら御剣を見る。

    「…………。」
    「ヒェッ」

    御剣の瞳は信じられないくらい冷え切っていた。額のヒビがほぼ無いと言うことはかなり怒っている。と、思う…多分。ぱしぱしとオレンジ色のジャケットを叩いて暗に死刑判決されるぞと伝えてやると、矢張も同じく喉からか細い音を出した。

    「なっなんでそんなに怒ってるんだよ、御剣」
    「怒っていない。」
    「ぜってー怒ってるだろ!顔が怖すぎる!!」
    「怒っていないと言っている。」
    「ひええ…」
    「(だ、ダメだ埒が明かない)…あっと、とりあえずさっ飲もうよ酒ッもう冷えてるって、なっ」
    「お、おう!もう喉カラッカラよ俺!」
    「御剣も一回、飲もうっそれからにしよう!」
    「……承知した。」
     


        




    酒は飲んでも飲まれるな。
    これは飲酒を嗜む者ならば全員がアルコールより先に身に染み込ませておく必要のある言葉だ。














    「ん♡んっ♡なるほどお…♡」
    「……………。」
    「あの、俺帰った方がいい?」
    「絶対帰るな帰ったら二度とおまえの弁護はしない。」

    取り敢えず冷えた酒で冷えた空気を盛り上げようと画策し、簡素に乾杯をとったニ時間後。
    ベロンベロンに酔った御剣がよたよた近寄って来て危なかったので受け止めたのだが、自身の青いスーツの上、もしくは膝に乗りはじめて10分が経過しようとしていた。がっちり腕に手を回されて首元にずっと甘えられている。長い脚が腰に巻きついている。まあ、その方が都合が良い。変に自由にさせると襲われる可能性すらあるので不幸中の幸いに近いが此方もがっちり背中をホールドし、これ以上とんでもないことが起きないように封じ込めている。

    「おまえの抜けた顔を見ることによって理性が保たれる。居ないと困る。ほんと助かるよ矢張。」
    「ほんと失礼なヤツだなオメーはよ!」

    ぷんぷん、と怒りつつ、つまみを口にひょい、ぱく。と入れていく矢張。こんなこというのも何だが良くこの状況でメシを食おうと思える。まあ一度似たようなものを見せつけたのだから必然かもしれない。慣れというのは恐ろしい。

    「あーあ、顔真っ赤だぜ…ちゃんぽんすっから。御剣のヤツ結構酒強いのにな」
    「見てた感じビールとサワー系の相性がとんでもなく悪いんだろうな、ワインとか日本酒みたいに飲むのは平気みたいだけど。…今度から気をつける」
    「普段カパカパ飲まねえワケか。そりゃしょうがねえ」
    「そうだな、……ん?なんか…」
    「どした?っおい、泣いてるけど。」
    「え!?」

    肩口が濡れている様な気はしていたが矢張の指摘により確信となった。御剣が泣いているからだ。
    酒が入ると泣くのは矢張も大体一緒だがそれは泣き上戸なのではなく酒を入れる前に悲しいことがあるからであり、御剣に関しては理由がわからない。
    いつもギリギリの状態まで声を出そうとしないから心配している。そうやって生きて来たのが容易に推測出来るほど染み付いてしまっている行動に勝手に傷心してしまう。

    「御剣、どうした!?なんで泣いちゃったんだ!?何か、あったのか?…話してよ…泣かないで、ね、お願い…。」
    「へー。二人の時はそんな感じで喋ってんだな。わかるぜ、なんかカワイく喋っちゃうよな。」
    「ほんと申し訳ないんだけど黙っててくれる?」 
    「んだよー」

    反射で黙らせてしまったが湿っぽい空気を無理矢破壊してくれたのはありがたかった。ぽろりと溢れるこの涙にはとことん弱いから。机上のティッシュ箱から何枚か取って顔に置くように拭く。御剣の家にあるような柔らかいティッシュなら擦ったっていいけれど。御剣は泣き止んでくれたが矢張とあーだこーだと話しているのを聞くと眉をぎゅっと寄せて口を開いた。

    「泣いているだの、そんなことはどうでもいいっ…キサマらばかりはなして、ひっついて…成歩堂も、私に黙って…私は、そんなにジャマなのか」
    「(あ、そういうことか…)」
    「(あ、そういうことな…)」

    これはつまり。
    『カレシが友達とばかり絡んでいてヤキモチ』または『友達にハブにされて寂しい』の、ダブル発生だ。関係性にややこしい面はあるが、どちらにせよ御剣にはあまりにも縁の無い感情であり、酒が悪く作用した結果思い詰めて泣いてしまったのだろう。
    本当に怒っているワケでは無かったようだ。それにしては顔が怖すぎたのでヤキモチを焼く際はもう少しだけ内面の可愛らしさを表に出して欲しい。
    取り敢えず頭を撫で続けるとまた肩口に顔を埋めて黙り込んでしまった。……寝ている。泣いてはいないみたいだ。良かった。

    「御剣ってカワイーとこあんだな」
    「うん…ほんとかわい…、じゃなくて。結構色んなモード…検事だったり友達だったり、それに気分もあるから判断が難しいんだよな。何も気にして無い時もあるし」
    「あーわかるぜ。ヒジョーに良くわかる。オトメゴコロはフクザツだよな」
    「(成人男性にも適用されるのか?その言葉。)」

    自分たちが深く考えていないだけかもしれない。幸せなことだとは思う。

    「…取り敢えず布団に運ぶか。…ぅお"ッ……もっ!……あしっ!!痺れっ……!!がっ、腰がッ…おわるッ…」
    「そりゃずっと乗ってたしオトコだし寝てるからな。手伝ってやろうか?」
    「…たのむ…。落としたら大変だし…」

    膝が小鹿の様になってカッコ悪い。けれど矢張は「しあわせだなおまえ」と寝ている御剣に笑う。むず痒い気持ちになった。今日のつまみ代は奢ってやるとしよう。





    酒が抜け起きた御剣は全てを覚えており、矢張はなんやかんやで無罪放免となっただけでなく、何やら御剣とボソボソ話をしており真っ赤になった顔を見て今度はこっちがヤキモチを焼いてしまうのだった。





    2.付き合う前と付き合ったすぐのナルミツ

    三日月の明かりがとても綺麗な夜。

    御剣怜侍、という名の恋人。彼の静かな寝顔を見つめていた。

    「(明かりで髪がきらきらして綺麗だな…。)」

    普段の気の置けないやりとりで忘れてしまいがちだが、こんなにも綺麗で芯の強い御剣が、自分を好きでいてくれている事実。嬉しくて仕方ない。

    二人きりのベッドの上で、付き合う前の思い出を反芻していた。今まさに同衾している最中で腕の中で目を閉じ眠っている愛しいひとのことを。



    御剣は、昔自分が書いて送った手紙を捨ててしまったことを、ずっと後悔してくれていた。
      


    法廷でのやり取り、個人間でのやり取りで細くなった縁をもう一度結び直したお互いが惹かれ合い、お互いのことが好きだと判明し、いざ交際を始めたい。
    その折に触れ色々なことを話した。流れで昔の話題になった時、御剣は手紙のことについて申し訳なさそうに吐露してくれたのだ。
    確かに嬉しいことでは無い。けれどもうこれ以上、昔の事で気を病まないで欲しい。今までの人生に、小学生以来会ってもいない人間から来た手紙を気にかける余裕が無かったことはもう充分理解している。伝えたくて、気持ちを正直に話してしまった。決して悪いことでは無い。無かったのだが。

    『勿論、僕なりに一生懸命に書いたものだったけれど、字も汚なかったし、理路整然とは言えないし!大したことも書いて…いや、そんなことは…なかったなぁ…。ぁ…っとにかく!捨てたなんて想像ついてたしさ。気にしなくていいって。』

    感傷的な気分になってしまったのを誤魔化し自分の後頭部に手のひらを置いてへらへら笑いながら言葉を投げかける。反応しない彼の顔を覗き見て、信じられないくらい狼狽してしまった。

    音も立てないで静かに泣き出していたから。

    唇を小さく結び嗚咽を我慢している。大きくて透明な雫がぽたぽた頬を伝い流れ落ちていき座っていた御剣のズボンの色を、斑に、より暗い赤色に変えていく。握りしめた拳は肌の色以上に真っ白になってしまった。
    「手紙を捨てた」と告げられた時なんかより、よっぽど辛い。まさか付き合う前から泣かせてしまうなんて。
    消えた御剣に対して放った時の様な、嘘、憎しみ、嫌味が一切含まれていない正直な言葉こそが、御剣を一番傷つける鋭い抜き身の凶器だったのだ。冷や汗が止まらなくて、スーツの中はびしょびしょになる。

    『キミのきもちは、理解した。っすまない』

    感情を殺しながらぽつりと震える、血の気の引いた唇。
    それはもう全力で謝った。床に這いつくばるようにして。ほぼ土下座だった。けれど結果は寧ろ逆効果。余計に傷つけた。謝罪を聞いて遂に抑えきれなくなった嗚咽。

    「キミはわるくない」「こんな面倒な」「困らせて」

    涙声で呟き背を丸め顔を隠す姿が本当に見ていられなくて、思いきって抱き締める。厳密に言うとまだ付き合ってないのに。

    『じっ…じゃあ、今度は僕に書いてよっ手紙!』

    などと口からこぼれ落ちる。身体をゆっくり離して目を合わす。頬に伝う涙を見てつい、指で拭った。
    御剣は抱きつかれるのも、手紙を書けと言われることも予想していなかったのか、珍しくぽかんとした顔をしていたが、すん、と鼻を鳴らしたあと。赤くなってしまった目を細め、
    小さな花が綻ぶように微笑んでくれた。

    そうして晴れて交際を始めた二日後。

    茶封筒に『成歩堂龍一殿。』
    と美しい字で書かれた仰々しい手紙を貰い、緊張で手汗を何度も何度も、何度も拭きながら御剣からの手紙を暗記するように読んだ。何なら一字一句覚えている。いつでも言える。
    絶対。誰にも教えないけれど。

    帰って来てすぐ読めなかったので夜に読んでしまったのが間違いだった。気がつくと終電間近の電車に飛び乗って手紙をくれた張本人が教えてくれた高層マンションへ乗り込み、息も絶え絶え汗だくの不審者成人男性に少し怯え多くを訝しむフロントマンに連絡をさせ、…して貰う。御剣からの確認が取れたあの時のフロントマンの顔。
    『こいつ本当に知り合いだったのかよ…』だ。今の冷静な自分から見ても本当に気持ち悪かったと思う。その後何度も対応してもらう未来がやってくるのだけれども。


    エレベーターが夜で点検中だった。
    気を失いかけ死にかけ階段を登り目的の階層まで行くと御剣はもう遅くだというのに、玄関の外を覗き待っていてくれた。

    『成歩堂っ』
    『ミ"ッ………!……ゲホッ…!!ハアッハアッ……』
    『か、顔がミドリ色ではないか…!何事だ!?』
    『てっ…てがみ……よん、よんでッ…だから…』
    『……手紙、とは、今日渡した?』
    『そう……』
    『…態、々…?』
    『……そう』


    「(…うっわぁ……。やば…僕……。はぁ…ほんと…)」


    大学時代の自分を同時に思い出し両手で顔を覆う。大きなため息が出る。

    弁護士になったのは純粋に御剣に会うためなのだから特に問題は無いと思う。

    然し恋人として付き合って二日であれは気持ち悪すぎる。それ以前に、付き合う前だというのに配慮に欠けた言葉で一度泣かせている。人によっては交際を無かったことにされてもおかしくはない。

    御剣はなんだかそわそわと落ち着きが無くなってしまった。そりゃそうだ。夜遅くに走ってきてまで手紙の感想を伝えに来た奴に、どう対応したら良いのか。冷たい言葉を投げかけられないだけ、気を遣ってくれている証拠かもしれない。
    まともに喋れないまま己の異常行動を薄々客観視し始め違う汗が出て来たので、とにかく伝えたかった「嬉しかった」と「ありがとう」をガラッガラに枯れた声で絞りだすと背を向けた。終電はとっくの昔に過ぎたし財布の中身も殆ど入れてない。情けない。本当に何を考えているのだろう。何も考えてないからこうなったのだが。
    行き当たりばったりなのはもう性分である。
    せめて二駅程度の距離で良かったじゃないかと自分を鼓舞する。

    『…!?なっ成歩堂、帰るのか?』
    『はあ……。…え?うん…帰るけど…。…ごめんな、こんな夜中に。』
    『なぜ…?』
    『なぜ、って、そりゃ僕にも帰る家があるから…』
    『とっ…泊まっていけば、良い、だろう?此処に…。』
    『え!?や、別に、良いよ。悪いし…』
    『……。こんな時間だと言うのならば、これ以上受付人に迷惑をかけるな。』
    『…ごもっともです…』

    顔の赤い御剣は、少しだけ機嫌が悪そうになってしまった。二日目にしてこんな恋人で恥ずかしいと思われたのだろうか。やっぱり帰れ、若しくは別れろと言われない内に有り難く泊まらせて貰うことにした。



    『お、お邪魔します…。』
    『うム…』

    よくよく考えれば交際して初のお家訪問。そもそも来るのも初めてだ。
    そこに行きつくまでの過程が最悪すぎる。全て自分が悪い。

    『とりあえず汗を流すといい。湯も張りたまえ。きちんと浸かるように。また風邪を引いてしまう。…ここが浴室だ。出たら、あの部屋に来い。』
    『分かった。…ありがとな。』
    『着替えは、私の物で構わないだろうか。』
    『あっ!?』

    そう。着替えなんてある訳がない。つまり貸して貰うしかないのだ。
    上着はともかく下着はマズイ気がする。自分の理性的な問題で。しかし他の案も浮かばないまま
    御剣は「置いておく」と呟き早歩きでさっさと部屋の奥へ行ってしまった。ぽつんと取り残されたがいつまでも廊下に突っ立っていれば尚更迷惑になってしまう。

    『(着替えが何だ、御剣の好意をムゲにする気か僕は!)』

    心頭滅却の精神で浴室へ入り、自宅とは比べ物にならない豪華さに、違う意味で心が滅却された。
    シャワーのお湯というのはこんなにも、柔らかいものなのか。





    『わあ…いいな…ドラム式洗濯機…』

    身体を清め浴室の扉を開ける。ウチと違い、全体的にほんのりあたたかい、高級マンションは伊達じゃないなあ。そんなことを思いながらキョロキョロ脱衣所を見る。
    着替えは洗濯機の上に置いてあった。
    なんて羨ましい。温水機能、乾燥機まで付いているなんて。
    洗濯機にひとしきり瞳を輝かせたが、こんなことをしている場合では無い。丁重に着させていただく、さらさらの手触り。凄く高そうだ。

    問題の着替えは一瞬御剣の香りがして、高鳴る心臓が痛くなったが、一度袖を通してしまえば大した事はなかった。これはもう自分が着てしまったのだから純粋な御剣の匂いではないし。それよりもあの御剣がこれをわざわざ洗濯機の上に置いたという事実が微笑ましくて、幸せな気持ちになる。もし彼が家に来てくれる時があれば、今度は自分がやってあげたい。
    廊下を出て、先程指示された部屋を開ける。
    寝室だった。…寝室。ソファなどは無い。御剣は既に男二人分は悠々と入るベッドの中に入っていたが扉の音を聞くと上半身だけを起き上がらせた。

    『え……っと、御剣、風呂ありがとう。あったまったよ。』
    『それは良かった。』
    『それで、僕は、…どこで寝たら良いんだ?」
    「…此処で…お願いする。私の隣は、嫌かね?』
    『嫌な筈無いだろ。』

    だから困っている。
    ベッドに居る御剣の姿を見た瞬間からわかっていた。こんなに大きなベッドだというのに、端っこに詰めて寝ていたんだから。入れてくれる。という途方もない嬉しさ。どうしたって下心が消しきれない自身の醜さ。しかし覚悟を決めるしか明日を生きる道は無い。破裂しそうな鼓動を諌めシーツと掛け布団の間に入る。

    人の温もり。服を摘むようにそっと抱きついてきた御剣の温度。うっとりした表情。甘い吐息。香り。足同士が触れる。もっと近づいてぴっとりとくっついてくる胸。滑らかな肌。感覚の全てで味わいたい。優しく御剣の後頭部に手を添える。
    初めての白く薄い唇は、想像していたよりもずっと熱かった。


    「(それで、身体も触りあって、でも準備も何も知らなかったから二人して調べたら凄い大変で…、結局御剣が初めてに誘ってくれるまで…。一ヵ月かかったんだよな。う、やばい。思い出したらちょっと…。)」

    付き合ってから大体四ヵ月、初めての日から三ヵ月程度しか経っていないのに、もう随分と昔のことに感じる。まだ積極的になる前の御剣が、一生懸命に自分の身体をぺた、ぺたと触ってきたいじらしさ、奥ゆかしさを思い出し興奮してしまった。勃ち上がる愚息。密着している御剣に当たらないように身体を少し離しておく。
    今も何より可愛いヤツだと思っているが、あの時はあの時で本当に可愛かった。
    僕が変えちゃったらしいからな…。と思い苦笑する。顔をじいっと見つめていると、長いまつ毛が上がる。

    「成歩堂、」
    「御剣…起きた?それとも、起こしちゃったか?」
    「いや…起きていた。百面相…。と言っても、声を聞いていただけだが…。何を考えていたのだ?」
    「そっか。なら良かったけど。おまえと付き合う前と、付き合った時のことだよ、なんか懐かしくて。」
    「…先ほどの、ため息も?」

    ため息。手紙を読んで夜中暴走した時のことだ。
    そこまで聞かれていたとは思わず恥ずかしい。

    「そう。流石に夜中に家来るのは気持ち悪かったなって、…今だから言えるけど。二日でフられたらどうしようかって思ってた。」
    「…なんだ。そんなことか…。私は、てっきり付き合う前のことかと…」
    「付き合う前って…。土下座か…?まあ…あれも、確かに…。」
    「…。フ…いや、違う。気にしすぎたようだ。私らしく無かった。それと個人の感想だが成歩堂。息も絶え絶えで来てくれたキミは、とても…男前だった。私の手紙の為に…。心から愛されていると、だから、キミを床に入れる勇気が出た。あの時は言えなかったが。」

    うっとりした顔で微笑み頬を手のひらで摩ってくれる。
    出来る限り密着し直した御剣は機嫌が良さそうに、鼻から抜ける甘い声を出し甘えてきた。鍛えられた男の身体の筈なのにミョウにむちむちと柔らかい、いや柔らかくなった。と言っても良い胸がひっつく。ダメだ可愛すぎる。下半身の欲望が苦しい。

    「うっ……。あ、ありがと…。気遣ってくれて…。」
    「気遣い?フフ…♡私にとってはただの事実だ。」
    「うん…嬉しいよ。……あの、お願いがあるんだけど…。」
    「ム?何かね」
    「したい、んだけど…いいか…?」

    返事も無く。二人を包んでいた掛け布団をぱっと剥がされる。

    御剣は着ていた寝巻きを外して、こちらに白い肌を見せつけるように露出させる。当然全裸になるまで脱ぎ続けた。どこで覚えてくるんだ、そういうの。誰かに変な入れ知恵をされてるんじゃ無かろうかと、ちょっと心配している。いやらしいストリップショーにしては月明かりできめ細やかな肌がより顕になって神秘的とすら感じる光景。自分にとっては猛毒だった。

    「はあっ…♡勃起しているのは分かっていたが…身体を押し付けて正解だった♡」
    「え。甘えてたんじゃないのか」
    「何を言っている…?私を何処ぞの娘さんだとでも思っているのか?…キサマがスキなあの頃の初々しい私はもう居ないのだよ。」
    「僕は今のおまえも大好きだけど。」

    思いっきり抱きつかれてキスされた。喜んで貰えて何よりだ。酸欠になりかけたが。












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