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    so_anNin

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    留文ワンドロライ「嫉妬」

    ギリギリセーフ……
    +20minほどです。
    現パロ

    こいびと は? 元カレ? 俺の? なんだそれ、誰に聞いたんだそんな話。……仙蔵……あいつまた余計なことを……馬鹿! うるせぇなデカい声出すな、近所迷惑だろうが。
     
     …………で、元カレだったか。俺の。何が聞きたいんだ。……なんだその顔は。お前が聞いてきたんだろうが。はぐらかしたところで食い下がらんだろうお前は。ぎゃあぎゃあ騒がれるよりさっさと答えた方がいいと思っただけだ。興味がないならもういい。……顔? あ~……そうだな。整っていた方じゃないか? シュッとしているというか、イケメンというか、二枚目だったな。黙っていれば女にもきゃあきゃあ言われるようなやつだった。よくモテるのにそれを鼻にかけるようなこともなくて……周りにやっかまれるようなこともなかった。まぁ、モテたところでという状況ではあったが。
     
     ん? 俺か? ……まぁ、面白くはなかった。別にあいつがモテて女に愛想よくされているのが気に食わなかったわけじゃねぇ。あいつはほかのやつには女にモテてるのを自慢なんかしなかったんだが、俺にはやたらそれを話してきてたんだ。俺が女にモテたいかどうかはおいいといても、いい気はしねえだろ、さすがに。まぁ、付き合い始めてからはそういうのはなくなったが……俺? 俺はモテねぇよ。だのに俺が女に話しかけられただの色目を使われただの……付き合い始めてからはそっちの方が面倒だったな。
     
     束縛? さぁ今思えばガキみたいな嫉妬はたまにしてたような気がするが、束縛といわれるとなんともな。したところでって話だ。面倒だったかって……そうだな。面倒なやつだったよ。自分は男にも女にも声かけられてんのにそれを棚に上げてやれあの女がお前に惚れているだの、あの男がお前に色目を使ってるだのありもしない話をして勝手に拗ねやがって。……でも、まぁ……そういうところも含めて惚れてたんだろ。当時はな。
     
     は? 勉強? 勉強は……馬鹿とまでは言わねぇが。俺には勝てなかったんじゃねぇの? 
     勉強はともかく、馬鹿な男だった。甘ったれで、できもしない話をよくしてた。ん? そうそう、寝るときとかにな。将来どうなりたいとか、あぁなりたい、こうしたいなんて、夢とも呼べんような伽話だ。……好きだとか、お前だけとか、ずっと一緒だとかそういう時にばかり言うやつで……落ち着け。言われなくても、男がベッドの中でいうその手の話は信じるなということくらい分かっとるわバカタレ。……わかってても、なんとなく、信じてみたくなるもんだよ。ま、当時の俺にはそういう可愛げが案外あったということだな。
     
     なんで別れたか、なぁ……結局、お互いにずっと一緒だと思えなかったからだろう。これでもちょっと、考えてみたりもしたんだぞ。どうしたら一緒にいられるかだとか。それでもそううまくはいかないことも分かっていたし、みなまで言うなというやつだな。今でも好きかって……さて、どうだろうな。
     
     もう聞きたいことは終わりか? はぁ? まだある? 
     …………そうだな、好きだった。そうじゃなきゃ、付き合ったりなんかせんだろう。お前がどうかは知らないが、俺はそうホイホイお試しで付き合えるほど器用じゃないもんでな。どこがって…………どこが、なぁ……どこだろうな。それなりに長い付き合いがあったから、よく覚えとらん。いつの間にか惹かれてた。俺には憎たらしい顔ばっかしてたが、もともとよく笑うやつでな。年下の面倒を見るのも得意だったし、年上に甘えてみせるのもまぁ得意だった。それに…………いや、これはよそう。とにかく、よく笑うやつでな、俺はその笑った顔を横から見てるのが好きだったんだ。
     
     そう、横から。言ったろう、あの憎たらしいバカタレは付き合い始めるまで俺に向かってあんな風に笑ったことなどなかったからな。ほかのやつに優しく笑ってんのを横から見るんだ。鼻がすっと通って、ちょっと薄い唇がちょんととがってな。眦を下げて笑うんだよ。それを見てるのが好きだったな。付き合い始めてからは多分俺にもそんな風に笑うことがあったんだろうが……結局、笑っていた顔を思い出そうとしても、今思い出すのは横から見てた顔ばっかだ。それ以外だと、汗みずくで俺に殴りかかったりだな、獲物を振り回して勝負だ勝負だと……結局、俺もそれが一番楽しかったんだが。あいつのぎらついた目ににらみつけられるのが正面から笑いかけられるよりよっぽどよかった。
     ……だから、なんちゅう顔をしとるんだ。お前の話だぞ、食満留三郎。
     
     
     
     なんの因果か、平成なんて世に生を受けて早二十年。時代は令和に移り変わり、昔駆け上がった山よりも高いビルがあちこちにそびえたつ昨今だ。
     俺、潮江文次郎には前世……と言っていいのかどうかは分からないが、おそらく前世の記憶がある。室町時代に忍者として生きた記憶である。
     小学校にあがるあたりで、両親に怪訝な顔をされ、心配され、友人たちに指をさされて嘘つきだ、頭が変なんだと言われてようやく初めてほかの人にはそういう“ずっと昔の記憶”はないのだと知った。
     なるほど、それじゃあ俺の頭がちょっとおかしいんだな。と納得しかけたところに幼馴染の登場である。立花仙蔵。彼は文次郎たち潮江一家が住むファミリー向けのマンションの隣の一室に引っ越してきた家の一人息子で、小学一年生の文次郎にしてみれば赤ん坊と言って差し支えない、まだよちよち歩きの一歳児だった。
     その年の差、七歳。だぶだぶ言いながら自分のところにぽてぽてと歩いてくるかつての戦友であり同室の友人で会った男を、双方の母親に言われるがまま両手を広げて受け入れながら、文次郎は途方に暮れたものだった。
     
     同姓同名の別人かと思った時もあったが、運命の再会から半年ほどたち、まだほとんどしゃべれなかった仙蔵が怒涛の勢いで言葉を話し始めるころには、文次郎もどうやらこれは本当にあったことらしいぞ。と考え直さざるを得なかった。つまり、自分や仙蔵は前世か前前世か、前前前世で忍者をやっていて、六年間同じ学園に通っていたという事実があるのだということを。問題はその時同い年だった仙蔵と七歳の年齢差があいていることくらいである。
     立花仙蔵少年は、文次郎にそれはよくなついた。一人っ子の仙蔵がさみしがっているのではないかと心配していた彼の母はそれはひどく喜んで、同い年だった双方の母親はあっという間に仲良くなって、仙蔵は文次郎と実の兄弟のようにして育った。だから、二人が秘密の話をしていても、誰も不思議に思うことはなかった。
     仙蔵がようやく満足にしゃべれるようになってからは、いろいろな仮説を立てた。なぜ年齢差があいているのか、そもそも本当に前世なんてものはあるのか。仙蔵は幼稚園児だが聡明だった。
     もしかしたらほかの仲間たちも同じようにこの現代に生まれているのかもしれない。けれど、仙蔵と文次郎で七歳差である。もしかしたらもうおじいちゃんになっている者もいるかもしれないし、まだ生まれていないものもいるかもしれない。探そうにも、二人はまだ子供だ。二人だけではバスに乗るにも電車に乗るにも不便が多すぎる。ほかのみんなを探しに行けるようになるまではまだまだ時間がかかりそうだった。
     そんな話をしたのが、文次郎が十二歳、仙蔵が五歳になった時のことである。
     
     さて、最初に見つかったのは……というより、存在を確認できたのは、その翌年、小平太だった。文次郎が立花家でお昼ご飯をごちそうになっているときに流れていたテレビに映っていたのだ。インターハイ、バレーボール決勝戦。エースアタッカー七松小平太。仙蔵の母に頼んで調べてもらったところ、現在高校二年生ですでにバレーボールU19男子代表候補らしい。高校二年ということは十七歳くらいだろうから、文次郎とは四歳差があることになる。
     見つけたはいいものの、彼が通う高校は文次郎たちの家からはあまりに遠い。どうやってU19の強化選手候補に連絡を取ればいいのか悩みに悩んで、文次郎たちはファンレターを出した。届くかどうかは五分五分だったが、返事はすぐに届いた。小平太も二人に会いたいと。こちらには、長次もいるぞと。長次は小平太より二つ年上の大学生らしかった。
    「文次郎、もしかしたらとめさぶろうといさくも、すぐに見つかるかもしれないぞ!」
     手紙を読み上げる文次郎に子供らしい丸い頬を興奮で紅潮させながら、仙蔵はぴょんと飛び跳ねた。
     
     それから七年。留三郎はおろか、伊作も見つかっていない。
     
     文次郎は大学生になり、仙蔵は中学生になった。小平太はオリンピック選手になり一層有名になったが、伊作や留三郎からのコンタクトはないらしい。長次は大きな図書館の司書として働いているものの、やはりこちらもめぼしい情報はないようだった。
     まだ生まれてきていないのだろうか。だとしたら、早く生まれてこい。は組はこんなところでも不幸なのか。まさか、もう死んでるんじゃないだろうな。
    「あっ!?」
     そんなことを考えていたある日、留三郎は突然に……本当に突然に文次郎の前に現れた。
     文化祭二日目。近所の高校の制服を着て。
     
     
     五百年ぶりに文次郎の前に現れた五百年前の恋人は、目を丸くして、手に持っていたホットドッグをほとんど全部地面に落として、そして泣き出した。それが再会の日だった。あの日は本当に大変だった。
     食満留三郎と、文次郎は、室町時代のいつかの時代、恋人同士だった。毎日顔を合わせれば勝負だ喧嘩だと言い合っていた男たちが何をどうして恋人になったのかと首をかしげるものがいないわけではなかったが、確かに恋人だった。
     大っぴらにしていたわけではなかったから、知っていたのは同窓の四人と、おそらく気づいていた教師くらいのものだろう。もしかしたら後輩たちにも何人か察していたものがいたかもしれないが、とにかく知っているのは少人数だったはずだ。
     学園を出るのと同時に別れることになったのは、互いに納得ずくではあった。悩み、怒り、喧嘩をして、涙を呑んでの納得だったけれど。
     そのあと留三郎がどうしたのか、文次郎は知らない。名前なぞ残さないのが一流の忍だ。どこぞの城に優秀な忍がいるという噂を小耳にはさんだことはあったが、それが留三郎のことなのかはついぞ確かめずじまいだった。その忍が鉄双節棍を自分の腕の延長のように使いこなすという噂も耳にしたが、それも、嘘か誠か、確かめはしなかった。
     戦乱の世、自分が死んだのが一体いつのことだったのか文次郎はよく覚えていない。それはひどい雨が降る新月の夜で、ぬるい雨に頬を打たれながら、あぁ、留三郎に逢いたいと。あいつも同じことを考えていればいいのに。とそんなことを思ったことだけは覚えている。
     
     さて、現代である。
     文次郎の姿を認めるや否や留三郎は大泣きしながら(当然、同行していた彼の友人らはドン引きしていた。文次郎が何とか誤魔化して先に行ってもらったが。)、今でも好きだ、会えてよかった、ずっと探していたと、最後は声を引きつらせ、しゃくりあげながら言った。赤子のように泣く留三郎をなだめながら聞き出したところによると、どうやら現在留三郎は高校二年生で、彼の近所の町医者の一人息子が伊作らしい。伊作は今医者の卵だというから、文次郎より年上なのだろう。
     これで六人全員縁がつながった、めでたしめでたし……とは、そうは問屋が卸さない。
     留三郎は今でも好きだ、お前だけだと大泣きし、挙句にまた俺と付き合ってくれと文次郎にしがみ着いたのである。
     正直なところ、やぶさかではなかった。文次郎だって口には出さずとも留三郎に会う日を心待ちにしていたわけで、五百年前の情はまだ擦り切れていなかった。
     しかし、留三郎は十七歳。文次郎は二十歳である。仙蔵との年の差を考えれば近くてよかったと思わざるを得ないのだが、それでも留三郎はまだ未成年だった。未成年淫行でお縄につくわけにはいかない。
     そういうわけで、文次郎は留三郎からの涙と鼻水まみれの愛の告白を一旦保留とせざるを得なかった。お前が大人になったらな、なんて安っぽいラブストーリーのセリフを自分が言うことになるとは、と文次郎はその日風呂場で頭を抱えた。
     
     愛の告白は保留とされた留三郎だったが、彼はへこたれなかった。伊作の知り合いの大学生に勉強を教えてもらうという大義名分を掲げて、休みのたびに文次郎が一人暮らしをしているアパートに転がり込んでは入り浸るようになったのだ。迷惑だ、友達と遊べと言いながらも、学生服を着てむくれている留三郎がどうにもかわいくて、文次郎は強く言えないのだった。惚れた弱みである。
     
     そんなある日のことだった。文次郎がレポートを片付けている横でやたら進みの悪い留三郎がおもむろに口を開いたのは。
    『お前の元カレって、どんなやつ』
     と。
     元カレも何も、文次郎はどこに出しても恥ずかしくない立派な童貞処女である。二十歳になったが今生でお付き合いをしたことがあるものは男も女もいないし、五百年前だって、嫁御をもらう前に死んでいる。
     いったい何のことだと目を剝く文次郎に、留三郎はノートの隅をシャーペンでぐりぐりしながら「仙蔵が……」といった。どうやら仙蔵に、文次郎がずっと惚れている昔の男について話されたらしい。
     誰だよ、どんなやつだよ、俺が知らない間に大人のオトコと付き合ってたのかよ、と拗ねていじいじしている留三郎に、ない母性のようなものが刺激されて文次郎は不覚にもキュンと来た。そしてキュンとしながらこいつちょっと面倒くさいなと思い、そして腹も立った。こいつは人の気も知らないで。
     
     だから、ちょっとした意趣返しのつもりだった。そしてそれは面白いほどに成功している。
     幼い嫉妬につんととがらせていた唇をぽかんと開いて、顔から耳から首から真っ赤にしている年下になった恋人を見て、文次郎はちょっとばかし留飲を下げた。
     そしておそらく赤くなっているだろう自分の耳を隠すために頬杖をついて、開きっぱなしの唇をちょんとつつきながら「バカタレが」と笑ってやったのだった。
    お前だけだと、俺だってお前をずっと待っていたのだと、真っ赤な留三郎の顔を見ればそれが伝わったことは一目瞭然だった。
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