中庭の種++ ++
「消すかい?」
フィガロの声音はいつも通りだった。捨て去るようでもなく、丁寧過ぎることもなく、さりげないままだ。
「消す?」
アーサーはその意味がつかめず、言われたまま訊ね返した。
「うん。患者さんにね、気持ちを消してくれって頼まれたことが何度かあったんだ」
「消すとどうなるのですか?」
「忘れるよ。綺麗に」
「気持ちを?」
「そう。消してあげると、みんな、楽になったとかすっきりしたとか言ってくれてたよ。消すのもそう難しくないし、痛くも辛くもないしね。だけど」
フィガロは薬棚からいくつかの瓶を取り出すとテーブルの上に並べていった。
「少し、記憶は変えなくちゃいけない」
「記憶……」
「うん。特に恋愛絡みだとね。記憶がそのままだと思い出してまた好きになっちゃって、結局繰り返しになるんだよ」
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