「なあ、綾斗って本当に俺の事好きなの?」
音楽を聴きながら掃除をしていたら、さっきまでスマホを触っていたリツキがそんなことを言い出した。
「……なんで?」
「いいから、好きかどうか聞いてんの」
もちろん好きだ。リツキPとしても。恋人としても。でも言葉に出すのは気恥ずかしくて、付き合って以降はあんまり言ったことがない。
「すき…だけど…」
「なんて?」
小さな声で言えばわざとらしく耳に手を当ててもう一度聞き返してくる。
「…だから…その……すき…だって…」
言葉を濁すように言うと、リツキは大きくため息をついた。
「……はあ…おまえが俺のこと推してんのは伝わるよ?でも嫉妬とかも全然してくれないし、綾斗からのスキンシップもほとんどないじゃん?本当に恋人として俺のこと好きなのかなって」
「嫉妬は、してないわけじゃない…スキンシップも、俺なんかがいいのかな…って…」
正直に答えるとリツキは少し驚いたように目を見開いて、それからふいっと視線をそらした。
「ふぅん。別にいいけど。でもそんなんじゃ俺どっか行っちゃうかもな〜」
冗談みたいな言い方だったけど、心臓がギュッと掴まれたように痛くなる。
「それは…いやだ…」
気付けば声に出していた。俺の言葉にリツキは口元をゆるませて意地悪そうに目を細めた。
「じゃあもっと態度でしめせよ」
「態度…」
「ちゃんと好きだって、証明して」
試すような言い方だった。でも、どうするのが正解なのか。分からなかった。リツキみたいに素直に言葉に出すのも甘えるのも俺は苦手だった。
お酒を飲めばもう少しは素直に伝えられる自信があるけど、たぶんそれは正解じゃない。そこまで飲むと迷惑をかけてしまうし。
いや、そもそも今すぐ何か行動しなければ行けない気がする。でないとリツキはきっと拗ねてしまう。
掃除をしている手を止めてソファに向かう。リツキは待ち構えていたかのように視線を向けてくる。「ん?」と挑発するような笑みにドキッとしてしまう。
「どうしてくれんの?」
その言葉に何も答えず俺はリツキの隣に腰を下ろして、そのまま抱き寄せた。
「ん…」
小さく声が漏れ服をぎゅっと掴まれた。俺はリツキの頭を優しく撫でて髪をそっと耳にかける。
「……ちゃんと、好きだから」
ささやくように、耳元でそう言うと、リツキの身体が少し揺れて赤くなっていくのが分かった。しばらく俺に抱きついたままじっとしている。
「おまえ分かりにくいんだもん」
「ごめん、寂しかった?」
「は…?……別に、そういうのじゃねぇよ」
リツキは少し俯いて、小さく息を吐いた。腕に力を入れたり緩めたりして、どこかもどかしそうにしている。
「今日はまあ、これくらいで許してやるよ」
そう言って身を引こうとした。でも俺は腕に力をこめて逃がさないように、引き寄せた。
「んっ」
「……もう少し、こうしてたい」
「えっ…」
驚いたような声がする。意外だったのかもしれない。基本はリツキの気まぐれでくっついたり離れたりしていたし、俺から引き止めるなんて無かったから。
「リツキが、いいならだけど……」
さっきより少しだけ強く抱きしめる。リツキは少しの間もどかしそうにしたあと、すぐに力を抜いて俺に身を預けてくる。
「まあいいけど…」
不満げな口調。どこか嬉しそうにも聞こえた。今まで緊張とか、迷惑かもしれないと遠慮してしまっていた事を後悔した。
「これからはもうちょっと、ちゃんと伝えるようにするから」
そう伝えると、何も言わずに俺の背中に手を回して抱き締め返してきた。