ねこてんえどとねこてたち「じゃあ、2人のことよろしくね」
「おう、任せろ!」
そう言って、清麿がこれからおせわになる豊前江さんに紙ぶくろをわたしていた。
ぼくとねこしんしは手をつないで、水心子たちにいってらっしゃいのバイバイをする。
「お前たち、いい子でいるんだぞ!」
「わかっている…!」
「ぼくたちはだいじょうぶだから、たのしんできて」
ぼくのことばを聞いて、水心子はあんしんしたのか、さいごにぼくたちの頭をぽんぽんとなでていった。
「さーて、何して遊ぼうか?」
見おくりがおわった豊前江さんは、ぼくたちにニッとわらったあと、へやのおくの方にむかって声をかける。
「ねこてー、まだ終わらん?」
「もうすこしまってくださーい!」
(ねこて……?)
ほかにもだれかいるのだろうか、と考えていると、ねこしんしの手がぼくの手をぎゅうっとにぎってきた。
「だいじょうぶだよ、ねこしんし。ぼくもついてる」
「……あ、ありがとう」
ぼくがそう言っても、ねこしんしは、きんちょうした顔で、じっと目の前の豊前江さんを見つめている。
「じゅんび、できましたー!」
「お! できたか」
豊前江さんにあんないされて、へやの中に入ると、ぼくたちと同じくらいのこてぎりごうとぶぜんごう、そしてまついごうとむらくもごう、おてぎねがいた。
(ぼくたちと同じ、ばぐこたい、ってやつかな?)
「ね、ねこまろ……っ」
「ねこしんし、きっとかれらもおなじなかまだ」
ほかの『ばぐこたい』を見るのははじめてで、ねこしんしがとまどっているのがよくわかる。そして、どうして水心子と清麿がぼくたちをここにつれてきたのかも、なんとなくわかった気がした。
「こんにちは! ようこそ、ねこてのおうちへ!」
「いっしょにあそぼうね」
「なぁ! げーむしようぜ!」
「……きんちょうしてきた」
「こういう時ってまず、名前とか言わないのか……?」
一気にしゃべりはじめた子たちのとなりで、大人たちはにこにこと見まもっているだけだった。この子たちがしゃべりすぎたら、止めにきたかもしれないけれど、清麿たちがしんらいしている人たちにめいわくはかけられない。
ここはぼくから、と口をひらこうとすると、ねこしんしに先をこされてしまった。
「わ、わたしはねこしんしだ。こちらは、しんゆう、のねこまろだ」
「……はじめまして。きょうはよろしくね」
ぼくたちが話しおわると、ちいさい子たちがまたすぐにしゃべりはじめる。
「ねこしんしさんに、ねこまろさんですねっ! わたしはねこて! こちらはねこりいだあで、ねこまつさん、くもわんさんと、いぬぎねさんです! よろしくおねがいします!」
「よろしくな!」
「おれやっぱりあめさんのとこいく……」
「とまとじゅーすあるよ」
「ね、ねこぶぜ、」
「いぬぎね! つぎは、かけっこでしょうぶすんぞ!」
「あ! ちょっと! さっきお風呂に入ったばかりでしょう!?」
わいわいとにぎやかな子たちと、そばであわてる篭手切江さんを見て、きんちょうがほぐれてきたのか、ねこしんしがふふ、とわらった。
「なんだか……にぎやかだな」
「うん、そうだね」
バタバタしている中、あんないしてくれた豊前江さんが御手杵さんに声をかける。
「御手杵! 流しそうめんの準備はできたか?」
「おう! みんなが手伝ってくれたからバッチリだ」
「あ、そうだった! ながしそうめん!」
「はやくやろーぜ!」
あんなにさわいでいたちいさい子たちが、食べものの話がでたとたん、一気に走りだした。ながされるがまま、えんがわの方に行くと、そこにはりっぱな竹で作られたながしそうめんのセットがあった。
おはしとつゆの入ったおわんをわたされて、竹のそばにならんだところで、ねこしんしのおなかがくる……とちいさく音をたてる。
「それじゃあ、流すよ」
松井江さんの声とともに、上の方からそうめんがながれだす。
おぼえたてのおはしで、上手にそうめんをつかまえたねこてたちは、ちゅるるとそうめんをおいしそうに食べはじめた。
「今朝採れたばかりの野菜もあるから、沢山食べてねぇ」
桑名江さんが言ったそばから、ねこまつはトマトをねらいに行き、ねこぶぜといぬぎねはきゅうりをどちらが早く食べおわるかのしょうぶをはじめている。
「ねこしんし、とれる?」
「だ、だいじょうぶだ…っ!」
そう言ったことばのとおり、がんばったねこしんしは1人前のそうめんをぺろりと食べていた。ぼくもとなりでそうめんを食べていたのだけれど、上でそうめんをとるたびに、ねこしんしがかなしそうな顔をするので、ねこしんしに少しだけ多くのこしていたのはひみつだ。
たくさん食べておなかいっぱいになったぼくたちは、えんがわの心地のいい風にふかれながら、おひるねをした。
かわらず元気いっぱいだったねこぶぜたちがにわで水あそびをしていて、たまに水しぶきがとんできたけれど、ねこしんしはぐっすりとねむっていた。
そのあと、思っていたよりも早く清麿たちがむかえに来て、ぼくたちはおいとますることになった。
「……おとまりじゃあなかったんだね?」
「ねこまろ達が馴染めるか分からなかったからね。今度はねこてくん達とお泊まりすることになるけど、大丈夫そうかい?」
「ぼくたちより、きよまろのほうはうまくいきそうなの?」
「……ねこまろに言われなくても大丈夫だよ。君達と出会う前から僕と水心子は親友だからね」
清麿がにっこりとわらって、ねこしんしと話している水心子の方を見る。つられてぼくもそちらを見ると、しせんに気づいたねこしんしが、ぼくの方にかけよってきた。
「ねこまろ! ねこぶぜが、こんどは、すいかわりをしようっていっていたぞ!」
「すいかわり? いいね、たのしそうだ」
「清麿? どうした、何かあったか?」
「あぁ、大丈夫だよ水心子。ねこまろ達とねこてくん達が仲良くなれてよかったね、って話をしていたんだ。泊まっても大丈夫そうだし、次は温泉とかどうかな?」
「……お、温泉か。いいと思う」
水心子のはんのうを見て、ぼくは清麿に耳うちする。
「ねぇ、きょうのおでかけで、なにかあったね?」
「それは言えないな。ねこまろにはまだ早いよ」
「……そう」
きっと、大人のせかい、というやつなのだろう。大人になったら、ぼくもねこしんしといっしょに、おんせんへ行ってみたいな。
つぎやるすいかわりをそうぞうして、わくわくしているねこしんしを見て、ぼくはやっぱりねこしんしがすきだなと思うのだった。