じぇらしー「りいだあ! れっすんしましょう!」
「お、やろうか」
庭の方から、元気な声と共に稽古場に向かう足音が聞こえてくる。
「……やめんかその顔」
「顔?」
「自覚、ないんデスねぇ」
蜻蛉切、村正と共にさやえんどうの筋取りをしていた俺は、手を止めて顔を上げる。呆れた目で俺を見ていた蜻蛉切は、視線が合うとため息をひとつ吐いて、また筋取りを再開した。
「顔? なぁ俺どんな顔してた?」
「自分の胸に聞いてみたらどうデス?」
向かいに座る村正は、俺に答えながら器用に手を動かし続けている。
俺は深く息を吐き、持っていたさやえんどうを投げ出して畳の上に寝っ転がった。
「おい、手は動かせよ――」
蜻蛉切が口うるさく何かを言ってくるが、俺の今の状態では頭に入ってこない。俺は蜻蛉切の言葉は聞こえないフリをして、静かに目を閉じた。
数日前、この本丸に新たな刀剣男士が顕現した。
豊前江。それが彼の男士の名前だ。
近侍だった俺を補佐していた篭手切は、豊前江の姿を見た途端、目を輝かせて「りいだあ」と駆け寄った。俺には見せたことの無い笑顔だった。
「……もう俺、用済みなのかな」
「……」
「きっとこの先、江の刀が増えていったら、俺はれっすんに呼ばれなくなるだろうし……」
そうやって俺がうだうだ言うからか、村正のため息が聞こえてきた。
「あー………………また篭手切とれっすん、してぇな」
「一緒にすればいいだろう」
口を挟んできた蜻蛉切に、俺は身体を起こして反論する。
「んなことできると思うか? ……好きな奴が他の奴と楽しそうにしてるとこ、蜻蛉切は見てられるのかよ」
「……状況によるが」
答えた蜻蛉切はチラ、と村正の方を見た。視線を向けられた村正は、蜻蛉切の方は見ず、面白そうに軽く笑みを浮かべる。
「それで、アナタはどうしたいんデス? 篭手切サンに告白するつもりデスか?」
「告白は、うーん……。俺が勝手に募らせた想いのせいで、篭手切のこと縛ることになったら嫌だし」
「心というのは難儀なものだな」
「本当になぁ……。あー……篭手切も俺と同じ気持ちならいいのになぁ」
呟いてから、弱気な気持ちを吹き飛ばすように思いっきり寝っ転がると、頭上の襖が開いていることに気がついた。
見慣れた緑色のジャージが目に入り、横になったばかりの身体をすぐさま起こす。
「んっ!?」
「……あ、えっと……御手杵さん」
「あ……? え? ……っ篭手、ぎり…………?」
そわそわと落ち着かない様子の篭手切を見て、俺の血の気がさっと引いた。反対に、篭手切の顔は真っ赤に染まっていて、蚊の鳴くような小さな声が聞こえてくる。
「……ぉ、御手杵、さんを……れっすんに誘いにきたんだけど……」
「い、いつからそこに?」
「私と、またれっすんしたいなぁ、あたりから……」
その答えを聞いて、俺は両手で顔を覆った。
「あ、篭手切サン、この人連れてってくだサイ。手伝いも疎かになるくらい悩んでるみたいデスから」
「え、えと」
「お前も身体を動かせば気分転換になるだろう?」
蜻蛉切達の裏切りにより、俺の心臓は色んな意味で騒がしくなる。
「なんデシタっけ。『好きな奴が他の…』」
「っああ! わかったっ!! ちゃんとやるから! 篭手切、今はとりあえずれっすんしに行こうか! な!?」
「う、うん」
ぎこちない雰囲気で部屋を出ていった2人の背中に、蜻蛉切と村正は顔を見合わせて笑う。
「あの2人、だいぶ前から両想いだと思うんデスけどねぇ」
「全く……世話の焼ける2人だ」