「お前がカミサマだって自分のこと言うから本当の神様は怒ってお前に呪いかけたんだろ?」
「じゃあ、お前が自分のことをカミサマじゃないって言ったら、許してくれるんじゃないか」
「ユミピコ」
「言えよ」
「お前は神様なんかじゃないって」
「はは」
「何、笑ってんだよ。ユミピコ」
「はははははは」
「ユミピコ!!」
「はは、は」
「おい!ユミピコ!」
「黎明」
「……何だよ」
「黎明、よく聞け。この世に神などいないが、私が神であることは揺るぎようのない事実だ」
「は、お前、何言って」
「聞け」
思わず黙る。
「私は神だ。しかし、今この場所にはお前がいる」
ユミピコの白い手がオレの目に迫ってきて、視界を覆う。跳ね除けることはしなかった。する意味がない。
「お前の目はあるものを見ている。お前の世界にあるものを余すことなく見ている。だから、疑うな、信じろ、お前の目は正しい」
「私を見ろ」
手のひらが左に向かってスライドする。ユミピコの顔が見えた。
「お前の目から見て、私は神様に見えるか」
その顔は泣きそうで、笑っているみたいで、怒っているみたいで、理不尽に押し潰されてしまっているような、初めて見る顔だった。いくつもの矛盾する感情を混ぜ込んで流れ出したそれを見て、オレは──
「人間だよ」
身体があって汗をかいて涙を流して、そんな神様見たことがない。当たり前だ。ユミピコはどこかで産まれて今まで育ってきた人間であって、決して神ではない。
オレの世界で天堂弓彦が神様であったことは一度たりともない。
「だろうな」
「お前がそうだからこそ私はこうする」
ユミピコはオレの顔に寄せていた右手を戻し、両手を自分の首に持って行って
「後は頼む、黎明。私をすくってみせろ」
そのままぎゅっと押し込んだ。