新春特別SP〜燃えないゴミと一緒に悟を捨てる話『先輩それ可愛いですね。』
「今セールなんだよね〜買おうかな。」
久しぶりの女子会?いや、飲み会。年末に入ると忙しくて会えなくなるからと繁忙期が始まる前に集まった。酒豪の硝子に悪酔いしやすい歌姫先輩、聞くだけ濃いメンツだけど私の大好きなメンバーである。クールに鋭い事を言う同期と熱血に思った事を隠さず口にしてくれる先輩。年も取り昔より更に遠慮がなくなった仲だ。
お酒も進み食事も一通り終えると歌姫先輩がスマホを眺めていた。まだ酔ってはいないらしい。何やら可愛らしいルームウェアを見ている。先輩可愛いデザイン好きなんだ。
「新年に合わせて新しい下着とかパジャマとか服?買うよね?」
「買いますね。」
『うちも母親からそうするもんだって言われてました。うちだけのルールかと思ってた。』
三人でスマホを開き歌姫先輩から聞いたブランドのサイトを見ている。可愛いな。普段なら着ないけどたまにはこれくらいフワフワモコモコも良いかも。あったかそうだし。あ、下着も可愛い。
「あんたにしては珍しいかんじだけど安いから買えば?」
『買っちゃいます!あ、』
「どうした?」
『悟の反応がなんか・・・』
「可愛いくないとは言われないだろう?」
「むしろ五条にとやかく言われる必要もないじゃない?」
『あ、違います。むしろ食いつきが良いと言うか、なになに?何事?って反応が騒がしそうだなって』
「「・・・」」
『あ、すみません。悟の話なんかして、』
二人の冷めた表情に咄嗟に謝ると
「あんたたち一回別れてより戻したのよね?」
『え、は、はい。一応。』
「それで良いの?相手があいつと言えど普通は可愛いルームウェアを着て反応貰いたい方じゃない?」
「どちらかと言うとあいつの反応に対してウザそうに見えるな。」
『事実、ウザいですもん。二人が一番分かってるでしょ?』
「ウザいわよ。ウザいと言う感情しかないわよ!でもあんたは恋人でしょうが!」
『そ、そうですけど、なんかよりを戻してから反応が大きくなったと言うか、』
「それ普通良い意味じゃないのか?少なくともあいつはよりを戻してから楽しそうだよ。」
『う、うん。私も前より素直にと言うか、言いたい事は言ってるし、悟も隠し事ないし、』
「なにウダウダ言ってんのよ!?」
歌姫先輩にガンを飛ばされて苦笑いしてしまう。でも先輩はすぐに心配したような表情で
「あんた大丈夫なの?我慢してあいつに付き合ってるのなら駄目よ?それに元々あんたから別れを切り出したんでしょ?」
歌姫先輩は優しい。
『ありがとうございます。無理とかしてないです!ただちょっとあの反応が大袈裟だなって思ってるだけなんで!とりあえずルームウェアと下着買っちゃいまーす!悟が居ない日に着ます!』
「はいはい、もう好きにしなさい。」
「次またあの大型ゴミを捨てるならちゃんとシールを貼って出しなよ?すぐ戻って来るぞ。」
硝子の言葉で歌姫先輩がお酒を吹き出して宴会は再び盛り上がりを見せた。
私は別に無理して悟と付き合っている訳じゃない。ただなんか、なんかその・・・何だろう。
_________
『届いた届いた〜』
荷物はすぐに届いた。テンションが上がって開封すると愛らしいデザインのルームウェアと下着が
『え、可愛い。』
自分には珍しいデザインのそれに無意識に口角が上がった。新年は私も悟も忙しいしこれを着る時に会う事はないだろう。
「クリスマスもつめっつめ!!意味わかんねー!ディナー行きたかった!お家でぬくぬくイチャイチャしたかった!サンタさーん!」
『仕方ないでしょ?私もゆっくりしたかった。』
「ん?ん?"僕と"ゆっくりしたかったであってるよね?」
『う〜ん、うん。』
「微妙な反応!!酷い!」
『年末年始もどうせお互い忙しいでしょ?』
「諦めるなよ!姫初め♫姫初め♫」
『何言ってんの?切るよ。』
「ごめんなさい!」
とそんな電話が悟から来たばかり。毎年この会話をしている。大きく変わった事は働きなく無いと言う愚痴だけではなく、私と一緒に居たいと言う悟の甘えや本音が加わるようになった。嫌だとは思わないけど年を重ねてから若い恋人たちのようなノリはどうもむず痒い。むしろ私の薄い反応に対して悟は満足しているのだろうか?私が変わった事と言えばもっとこうして欲しい。あぁして欲しい。と更に口煩い女になってしまった気がしてならない。
『こんな事言うとまた歌姫先輩にそれでいいの?って怒られそう。』
ルームウェアと下着をクローゼットに仕舞いすぐに任務の支度をした。
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『眠い、』
ずっと働いている。働き詰めのおかげか元日は休みになった。珍しい事もあるもんだ。ただし元日まで地獄のスケジュール。家を出る際にゴミ出しはもちろん年越しまでにするべき事をメモに書いて来たが何一つ出来ていないしそもそも帰宅さえ出来ていない。
[生きてる?]
[生きてるよ。]
悟にいつも通りの返事をして任務に集中した。そしてようやく迎えた最終日。今年もあと僅か、もうクタクタだ。午前中に高専で会えた人たちには挨拶が出来たが
『ここまでで良いよ。』
「え?でも、」
『この先の路地狭いから帰るの大変でしょ?それに高専じゃなくて直帰させてもらったしここまでで十分だよ。』
「ありがとうございます!」
『こちらこそ今年も一年補助ありがとう。また来年もよろしくお願いします。』
付き合いの長い補助監督に挨拶を済ませマンションまでまだ少し距離のある場所で降ろしてもらうとゆっくりと歩き出した。補助監督たちもみんな疲れてるだろうから少しは休む時間を与えてあげないと、
『とは言ったけどこの僅かな距離を歩く事さえキツイ。』
思った以上の疲れに薄笑いを浮かべながら歩いた。ふと目に入った、近所のゴミ捨て場。そして忘れていた事を思い出して一気に疲れが増す。あぁやる事リスト〜なんにも出来てない。年末大掃除!ゴミ〜!せめてゴミは出したかったぁ。でも今日ばかりは何もかもが面倒くさい。帰ったらまずお風呂に入って、ああ冷蔵庫の中の整理!明日やるか?いや、明日爆睡してそうだし、それなら今日?今日って間も無く終わるよ?と言うかだから今日はもうゴミは出せないでしょうが!私は馬鹿なのか?
頭の中で一生懸命に段取りを考えるが疲れて何一つ答えがまとまらない。と言うかなんか、ふらついて、、、足が絡まりそのまま倒れそうになると
「おっと、危なかった。あのさ〜メッセージ読んでないでしょ?」
『さ、とる?』
倒れる瞬間に私を抱き止めたのは悟だった?なんでこんな所にいるの?疑問が伝わったのか私の事を軽々と横抱きにしながら
「僕も元日オフをもぎ取った。カウントダウンは一緒だね。やったやった〜。」
『・・・』
大きな体の悟にしっかり抱き締められると安心感に包まれてうとうとしながら悟の服を握った。
「僕の方が長引くと思いきや色々と早く事が収まってくれてさ、結構早くマンション着いてたんだ。何時頃に帰れそう?ってお前に連絡したのに返事がないから今さっき補助監督に電話したら近所で降ろしたって言うでしょ?だから心配で迎えに来た訳だよ。」
『ご迷惑をお掛けしました。』
「い〜え。」
むしろ悟の方が忙しかったはずなのに鼻歌まで歌って楽しそうだ。
「ごめん、僕先にお風呂入っちゃった。」
だからもう部屋着なんだ。
『別にいいよ。あ、ごめん。お風呂の掃除しようとしてて準備したままだった?冷蔵庫とか部屋とか散らかってなかった?』
「ん?大丈夫。全部僕がした。」
『え?』
サングラス越しでも分かるほどニコニコと上機嫌な様子で六眼がキラキラと輝いている。
「僕ね、何度かマンションに戻ってたんだ。」
『で、でも私しばらく帰れてなかったのに、』
「うん、知ってたよ。でもメモに書いてたでしょ?ぜーんぶしたよ。お風呂も窓もキッチンも冷蔵庫もね今日は小腹が空いても良いように塩辛いお菓子とスイーツも買ってるよ!あとゴミ出しも完了してまーす。今日はゴミ捨て場には置いちゃダメだったでしょ?この前一番ゴミが出た日に袋をパンパンにして置いて来たよ。」
『・・・』
まるで大型犬のような、僕を褒めろとばかりにニコニコ笑ってこちらを見下ろす悟に瞬きを繰り返した。気付けばマンションの自室に到着し靴まで脱がせてくれてようやくフローリングの上に降ろされた。
『悟、』
「ん?」
なーに?と顔を覗き込む悟に
『ありがとうございます。』
「えへへ、どう致しまして。クリスマスプレゼント買ってたけどそれはあとで渡すとして、ほら、疲れたでしょ?日付変わる前にお風呂入っておいでよ。」
『え、う、うん。』
もっと褒めて!とかご褒美下さい!だとか見返りを求められると思ってしまったがさすがに子供扱いし過ぎただろうか?しかもクリスマスプレゼントまで?それともうまく感謝の言葉が伝えられない私に呆れてないだろうか。脱衣所に行きお風呂の準備をするがすぐに手を止めた。
『・・・・』
_______
『生き返った〜。』
温かい湯船に浸かると疲れも一気に吹き飛んだ。プラス、この安心感は悟がやるべき事をすべてやってくれていたおかげでもある。髪も乾かし鏡で一度自身の姿を確認しリビングでソファに座りテレビを見ている悟に声を掛けた。
『ただいま、良いお湯だった。』
「おかえり!あと18分で年が変わ、、る、」
悟がこちらに振り返ると固まった。
『あー、あの、新しいの買ってたんだ。』
「えー!めちゃくちゃ可愛い!○○には珍しい色だしデザインだよね?フワモコだー!抱きしめて寝たらぬくぬくなやつだー!」
新しいルームウェアを着て悟の前に立つと悟はテンション高く立ち上がり肩に手を置いて褒めて来た。あ〜ほら、このノリになるよね。それが駄目なの?って歌姫先輩たちに聞き返されたら・・・えっと、その、だから、、
『これ・・・悟にも買ってたんだけど着る?』
「へ?」
背中に隠し持っていた紙袋を差し出すと素っ頓狂な声が出た。何とも言えない空気に耐えられなくなり少しだけ早口になってしまう。
『新年ってパジャマとか下着とか新しい物を身につけるって母親から聞いて育ったから悟の分も買っちゃった、、けどお揃いだったね?変なら着なくていいよ、あはは。』
「着るよ!お前とのお揃いでしょ?フワモコ着る!」
紙袋を受け取ると鼻息を荒げて中身を見ている悟を呆然と眺めた。
「1分で着替えて来る!」
『いや、ゆっくりで良いよ。』
と言う言葉も無視して悟は走って脱衣所に消えて行った。どうして良いか分からずソワソワして立ったまま待っていると
「ただいま!肌触り良い!あったかい!僕可愛い?」
『はやっ!』
1分どころか体感5秒くらいじゃなかった?とあまりの早さと勢いと可愛い?の一撃で思わず吹き出してしまった。ウェアと同様にルームシューズも色違いでモコモコの物を買っていたからしっかり履いて出て来た悟はケセランパサランのようだ。
『ふふ、あははは。似合う。ふふ、』
「・・・」
『あ〜面白い。久しぶりに笑ったかも。』
涙を流すほど笑っていると突然の浮遊感。
『あ、え?なになに?』
先程のように横抱きされて悟が寝室へ向かう。
『うわ、悟?』
ドサッと悟がフカフカに干してくれた布団に押し倒された。サングラスを外して枕元に放り投げるとボタンに手を掛け始める。
『なに脱がしてんの?悟?カウントダウンは良いの?』
胸元を開かれるとたまらなくなり思わず目を逸らした。
「さっき言ったよね?新年はパジャマも下着も新しい物を身に付けるって。僕のパンツも新しい。つまり○○の下着も新しいやつ!」
『か、確認しなくて良いでしょう!』
ボタンを全て外されるとジットリした視線。
「新しい下着だよね。ルームウェアと同じお店?え?めちゃくちゃ可愛い。やばい、すっごいドキドキする。」
『べ、別に、そんな、悟の為とかじゃないから、』
「僕とお揃いなのに?あぁでも言われてみれば今日お前が一人で帰宅したらお揃いで着れなかったんだ。お前の事だからこっそり一人で着るつもりだったんだろう?」
『それは、だって悟の反応が・・・』
目を逸らしギュッと目を閉じた。
「そんなにやだ?僕キモイ?」
『ち、違う、』
「○○」
真剣な顔で見つめられると観念したように目を合わして
『恥ずかしい。』
・・・
「はい?」
『恥ずかしいの!反応に困るの!』
・・・・
いつもは悟の方が子供みたいなのに今は私の方が子供みたいな言い訳をしてしまった。いやまぁだから歌姫先輩たちにも言えなかったんだけど!恥ずかしさと情けなさで涙が溜まる。顔も熱い。
「それだけ?」
『え?』
それだけって私にとっては一大事だけど?それなのに悟は耳から首筋にかけて甘ったるい口付けを繰り返し長い指は腰をスリスリと撫でて来る。
『やっ、ちょっと、しないよ?カウントダウン、』
「そんな場合じゃないでしょ?恥ずかしいって?可愛い事言われて僕はお前から誘われたと思ってるよ。」
『誘ってないし!』
胸元にキスをする悟の肩を押すが相変わらず力が強くビクともしない。
「と言うか恥ずかしがり屋なの知ってるよ。」
『は?』
顔を上げてニヤリと笑いながら髪を耳にかけられた。
「セックスする時、耐えられないって頬を染めて目をギュッて閉じるでしょ?」
『!?』
「あれは僕しか知らないお前の顔。あと最近僕がちょっぴりいじめるようになったでしょ?だから尚更隠せなくなって来てる。あれまじで興奮するんだよね。」
『な、なにを、ば、ばかな』
全身が火で炙られたみたいに熱くなる。
「それが可愛いくて仕方なかったのに自分から真っ赤になって『恥ずかしいの///』って口で言われたら我慢は無理じゃない?」
『真似しないで、ちょっ、』
再びキスの雨が顔や耳、首に降って来る。するりするりと腰から下着の中に手が侵入しようとして身を捩った。
「ねぇ、ここ数日いっぱい頑張ったから褒めて。」
『はぁ?』
「フカフカの布団も垢が落ちたキッチンもポカポカのお風呂もピカピカのゴミ箱もぜーんぶ僕がした。」
真っ白で綺麗な髪を私の頬にスリスリ寄せて来る。思わずムッとして、
『せ、折角感心してたのに、自分から褒めてってもう台無しじゃない。』
「なんで?そりゃ確かに当たり前の事しただけだよ?でもめちゃくちゃ嬉しかったでしょ?しかももっとちゃんとお礼言えば良かったって絶対悩んだよね?だからパジャマ出してくれたんだろ?」
『っ』
なんでお見通し?目を見開くと悟はニコニコしながら無理矢理私の手を取り頭に持って行く。
「よーしよし。さてと、可愛いけど下着は脱ごうか?汚しちゃうといけないからね〜。」
あぁもう完敗だ。そんなにしっかりしてるならいつもは子供のふりなの?なんだか私、滑稽じゃないかな?
「僕はさ、お前じゃないと無理だから。」
『・・・狡い。』
それを言えば許すと思って、、
なんて悟を睨みながらも観念したように目を閉じた。
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「あ、年越えてる〜あけおめ。」
『・・・お、おめでとう。』
クタクタの体をこれでもかと後ろから抱き締め背中とうなじに何度もキスをされる。めちゃくちゃ疲れた・・・さっきまで労ってくれていた奴のする事か!
でも、
「今年もよろしくね。」
『悟、』
「ん?」
『本当に助かったよ。部屋の事、悟も忙しいのに全部してくれてありがとう。』
「・・・・もう一回したい。」
『なら私寝るからって、は?馬鹿じゃないの!もう一回って何回目よ!?死んじゃう!絶対寝るから!』
「やだ〜僕も死ぬ!あと明日はお雑煮が食べたい!」
『作ってあげるから寝なさい。』
「あはは、それは作ってくれるんだ。お前って本当に僕を叱るのも甘やかすのも一流だよね。」
『・・・』
それはきっとお互い様だと思うけど調子に乗りそうだから絶対に言わない。あと、
私のこれは別に甘やかしではないから、
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「うまそ〜お雑煮!」
『あ、お隣くんにお裾分けしようかな?』
「やだやだ!あいつ大好きなママがいる実家に帰ってんでしょ?」
『なら悟も里帰りしてるようなもんでしょ?』
「お前がママ!?いや〜ママとあんなにエッチな事しないでしょ!キャー///」
『・・・伊地知くんに今日から任務入れてもらう?』
「いやー!!」
イヤイヤ期か!
〜Happy New Year〜
_________
余談〜
悟からのクリスマスプレゼントは彼女が以前から欲しがっていたホームベーカリーでした。