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    大魔王くん

    雑食/成人済/平和主義者/夢書き
    詳しくはついぷろご確認下さい↓
    (https://twpf.jp/newanimal_xxxy)
    主にコナン夢/じゅじゅ夢の短編から長編など
    書いておりpixivでも投稿しています↓
    (https://www.pixiv.net/member.php?id=6846726)
    作品のご感想やご質問などはマシュマロにて
    お待ちしております↓
    (https://marshmallow-qa.com/newanimal_xxxy?utm_medium=url_text&utm_source=promotion)
    ※誹謗中傷はご遠慮願います。
    ※二次創作となりますので注意事項確認下さい。
    ※何でも許せる方のみ作品へお進み下さい。

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    大魔王くん

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    Xで投稿していた話をまとめたので長いです。高校編から大学編で完結です。
    以下の注意事項の確認をお願いします。
    ※転生もの
    ※前世は恋人同士で死別
    ※さしすに恋人がいる設定有
    ※オリキャラが出ます/喋ります
    ※今世は呪いなしの平和な世界
    ※腐れ縁でむず痒い関係の二人
    ※没作品供養中/セリフ多め
    ※何でも許せる方のみどうぞ

    #じゅじゅプラス
    longevityBonus

    前世の契りは今世では失効されている【嫌でも愛してやる】

    高専時代から付き合っていた五条と〇〇は厳しい呪術界では幸せになれず死別してしまう。唯一の救いは五条の腕の中で最期を迎えられた事だった。

    『ただでさえ悟より強くないのに・・・永く一緒にいてあげられなくてごめんね。』
    「バカ言うなよ。隣に居てくれて嬉しかった。と言うかさ来世では絶対幸せになろうよ。その時も僕はお前がいい。」
    『あはは...悟が言うと洒落にならない呪いの言葉だけど...来世まで...効果ある...か...な。』
    「・・・あるよ。誰だと思ってたんだよ。意地でもまたお前を探して嫌と言うほど愛してやるからね。」

    ______________________________


    【前世の契りは今世では失効されている〜高校編】

    「〇〇!おはよってお前寝癖やば...」
    『昨日遅くまで電話して来たの誰よ?』
    「あ、俺だわ。」
    『おかげで寝坊しかけたからね。いまここにいるのは奇跡だから。』
    「威張るな威張るな。あ、傑おはよー。」
    「おはよう。朝から君たちは騒がしいね。」
    「これが日課だから」
    「まぁ小さい頃から見て来たからもう見慣れたよ。」
    「おはよ。」
    「お!硝子おはよ。」
    「五条まじ朝から声でかい。」
    「何だよ!これが俺たち四人でしょーが!」
    「「『うるさ』」」

    五条、夏油、家入、〇〇の四人は現在高校三年生。四人は幼馴染だ。小さい頃から今に至るまでずっと一緒だ。〇〇以外の三人はとにかく昔から見た目だとか成績だとか何から何まで目立つ。〇〇は最初こそ周りの女子たちの目が嫌だったが三人が絶対に〇〇を一人にしなかった為気付けば慣れてしまった。周りもいつもの四人だと分かっているので一々関係性を聞かれたり揶揄われたりする事もなかった。ただし高校生ともなれば多感な時期だ。

    「あ、五条。Bクラスの女の子が連絡先知りたいってうるさい。」
    「可愛い?」
    『コラコラ悟〜』
    「なんだよ?」
    「君は学年で一番可愛い彼女がいるだろ?」
    「分かってるけど?別に浮気した訳でもない。」
    『そのしらっとした態度ムカつく〜』
    「良く刺されないよね?」
    「それ夏油もだろ?」
    「え?」
    「そうだぞ傑。お前のがタチ悪いだろ。この前他校の美女と歩いてたくせに一昨日は卒業生の巨乳といた!」
    「『最低〜』」
    みんなそれなりに青春を謳歌していた。チャラチャラな遊び人とまではいかないがやはり夏油と五条はモテた。それも前世の閉鎖的な空間とは違い今世は呪術がどうだとか誰かに気を遣うだとかそんなものはない。思春期を迎えた彼らは恨みを買わない程度に遊んでいた。周りから見れば羨ましい限りだと言うのに五条は四人でいる事を優先した。四人に恋愛感情は一切ないと周りも理解している為、尚更なぜそこまで執着するのか分からず異質に感じていた。
    最初こそは夏油と五条の彼女たちも四人の仲に入れていたが決まって連れて来られた女の子たちは嫌がった。硝子が自分より綺麗で不安だとか〇〇と五条が悔しいくらいに仲が良いだとか五条はそう言う事を彼女に言われると決まって冷めた。もちろん三人には言わないがそれくらいに三人が好きだった。だが〇〇からすれば、

    「放課後カラオケ行く人ー?」
    『今日デートなんじゃないの?』
    「いや、絶対じゃないし、行けたら行くみたいな?」
    『みたいな?じゃなくて普通に行きなよ。さすがに彼女可哀想だから。』
    「えー!でも四人でカラオケ行く方が楽しいし!」
    『楽しいけどね。なら彼女作るのやめなよ〜。』
    「はぁ?普通に彼女は可愛いと思ってるから」

    〇〇は五条が恋人より四人での時間を優先している事に気付いていた。友達や家族を大切にする事は否定しないがそこまであからさまに恋人の優先度が下がるなら傷付けるだけでは?と理解が出来なかった。それこそ五条が刺されなくてもいつか自分が刺されるのではないかと不安になった。

    そんな二人を少し後ろを歩きながら観察している夏油と家入。
    「硝子どう思う?」
    「どうって?」
    「〇〇と悟だよ。」
    「まだ言ってる?まぁ昔は週一でそれ聞いて来てたから月一になっただけかなりマシになったかな。」
    「関心しないでくれ。ちなみに物心ついた時は毎日君に聞いてたよ。」
    「記憶力が良いようで」
    「良すぎて前世の記憶まであると思わないよ。」
    「もう良いんじゃないか?今世は平和だ。呪いののの字もない世界みたいだし。私は正直みんなが平和に健康に生きてこうやって会えただけ奇跡だと思ってる。」
    「硝子...。」
    「それは夏油だってそうだろう?」
    「そりゃ...またみんなと会えるなんて私にそんな権利があるのかって物心がついて記憶が流れ込んで来た瞬間に苦しんだよ。」
    「でも、あのおバカ二人が無邪気に笑ってすぐに夏油を迎え入れた。それ以外も以下もなかっただろ?」
    「それは君もだろ?ありがとう。感謝しているし私だって今世はそれなりに楽しんでやろうと思ってる。」
    「あぁ楽しんでるだろうな。ただあの自称モデルの女は止めといた方が良いよ?」
    「読者モデルって言ってくれないかな?」
    「はいはい。まぁ話は戻るけど私もさすがに幼少期の時はあの二人いけるって思ったよ。」
    「え?あぁ〇〇たちの話ね。」
    「小さい頃は多分お互い初恋だったと思う。でも現実って漫画とか映画の話にはならなかったね。」
    「長く一緒に居過ぎたかな?こう、もっと運命的な演出が必要とか?」
    「こうやって四人が幼馴染で出会ってる事が十分運命的じゃないか?単純に今世はお互い恋愛対象じゃないんだろ?」
    「硝子〜。じゃああれはどう説明するの?」
    「あれって?」
    「あれだよ。」
    五条が〇〇の頭に顎を乗せて歩いている。
    「あ〜」
    「正直君たちってどう言う関係って小さい頃から散々聞かれて来てもう嫌と言うほど説明して来たから"あれ"を指摘して来る人はもういないよ?でも普通に考えたらおかしくない?あんなの彼女にもしてるの見た事ないね。予定は恋人よりも優先するし昨晩だって〇〇とずっと電話してたしあれを執着と呼ばずになんと呼ぶの?」
    「あれは単に前世の時の思いや願いが強いからだろ?」
    「え?願い?思い?」
    「五条のあれは〇〇限定じゃない。私にも、と言うかむしろ夏油にだろ。」
    「わたし?」
    「もっとみんと青春したかったって事だよ。」
    まだ時間あるし校舎裏で吸って来るわ〜と片手を上げながら一人歩いて行ってしまった。夏油は家入の背中と五条の背中を見つめながら苦笑いして、
    「それを言われると複雑だな〜。」
    その後に〇〇を見つめながら呟いた。
    「君はそれで良かったのかい〇〇?」

    夏油は家入から〇〇の前世での最期を聞いていた。〇〇は五条の腕の中で眠ったらしい。二人の最後の会話は知らない。そして何より厄介なのは五条も〇〇も前世の記憶がなかったのだ。


    【俺も行く】

    「俺と傑が肩組んで歌ってたら〇〇がすげーベストショット撮ってたんだよ。」
    「なんだよこの二人の顔」
    「な?笑うよな?」
    クラスメイトの男子に昨日のカラオケの話をし写真を見せている五条。ホームルームでやって来た担任の先生が静かにーと言いながら
    「遊んでる暇ないぞ五条」
    「あ?なに先生?健全な若者の楽しい放課後のひと時に口出しですか?」
    「若者だからこそ大事な時期だ。」
    と言いながら黒板に書かれた文字
    「はい、来週の月曜日は進路面談です。」
    えーと言うブーイングにも近い生徒たちの声。
    「もう進路?この前進級したばっかりなのに?」
    「むしろ遅いくらいだ。まずは先生と副担任と君たちで三者、体育祭の後くらいで保護者の方も入れて四者面談の予定だ。まずは自分たちの気持ちから先生に聞かせてくれ。」
    進学?就職?などざわつく教室の中で五条は携帯を取り出して[この件に関してはとりあえず売店集合してからよろしく]と〇〇たちにメールをした。今世も坊ちゃんで頭も良い五条は進路に対する悩みや不安はなかった。高校を卒業すればきっと今より自由になる。だから四人での今後の話をする事にかなり浮かれていた...が
     
    「はぁ!?」
    そんな気持ちは〇〇の言葉によって打ち砕かれた。売店で各々昼食を買い天気が良いので中庭のベンチに座っていたが五条は大きな声を出して甘いパンを芝生に落としかけた。あぶねーと言いながら救ったパンだが今の〇〇の発言で一気に食欲が落ちた。
    「K大行かないってどう言うこと?」
    『そもそも行くなんて言ってないから。私は悟たちと違ってそこまで成績良くないし。』
    「行きたい大学があるの?」
    五条とは違い穏やかな表情で話を聞いてくれる夏油。〇〇も恥ずかしそうにしながら
    『うん、あるよ。R大学』
    「R大学ってなんか専門学部あったかな?」
    『えっと、サークル活動で気になる所があって』
    「サークル?お前そんなのどこでもあるだろうが!特殊なやつなら作れば良いじゃん。」
    「五条うるさいって、〇〇の話をまだ最後まで聞いてないだろ?」
    『ありがとう硝子。舞台の演出とか脚本に興味があって、もちろんそう言う専門の学校もあるんだけどR大のサークルに私が好きな俳優さんや演出家さんが昔いたらしくて是非その活動を見てみたくて』
    三人は驚いていた。彼女の事は誕生日や血液型はもちろん食べ物の好き嫌いも基本的に把握していたつもりだった。舞台や映画は趣味で観る程度と思っていた為、そこまで興味があるとは知らなかったのだ。
    『悟の言う通り探せばそう言うサークルとか勉強出来るとことかはいくらでもあるんだと思う。でもせっかく進学出来るなら漠然としてても自分が興味があるものに触れてみたいから。』
    「なるほど。何も決まっていないよりかはしたい事があるならやり甲斐は全く違うからね。」
    「〇〇らしくて良いと思う。」
    夏油と家入の反応に〇〇も嬉しそうに頷いた。
    「分かった、なら俺もR大行く。」
    『はぁ!?』
    夏油と家入ははじまった...と言う呆れた顔をする。五条は名案だとテンション高く、
    「傑も行くだろ?」
    「勝手に決めるなよ。」
    「演出に脚本ってそんな話初めて聞いた。」
    『言ってなかったから』
    〇〇の返しに五条は不機嫌になる。
    「あれだけ電話してたのに...と言うか俺の将来設計の話とかずっと頷いてたよな?」
    『頷いてたけど賛同はしてないから』
    それで最近朝まで二人で電話してたのかと夏油は内心思った。
    「分かった!俺芸人になる!」
    三人は更に意味が分からないと言う顔をした。
    「もちろん相方は傑。」
    「だから勝手に決めないでくれるかな?と言うか藪から棒過ぎないか?」
    「面白い芸人てさ優秀な作家とか演出家つけてツアーとかしてるだろ?それ〇〇にしてもらうんだよ。」
    『いや、まだそれを仕事にするかも分からないしそもそもコメディの世界は範囲外だよ。と言うか演出家引き連れてツアーするとかもう売れてる体なのムカつく。』
    「なら芸人から俳優に転身する。」
    「最初から役者目指せよ。」と家入。
    「芸人としての顔もあれば演技派の俳優もいけるみたいな?そっちのがインパクトあるくね?」
    『うわ、意外と計算高かった。』
    「その話聞いた後だとこれからテレビで二人を見ても笑えないんだけど。」
    「ちょっと待ってくれ!大学もだけど勝手に私を相方として話を進めないでくれるかな?」
    「私は卒業したら彼氏と同棲するから。」
    「硝子?私のこと無視?」
    「はぁ!?大学はまぁ硝子は医学部志望だから分かってたけど同じマンションの同じフロアに住もうぜって話したよな!部屋がなかったら俺と傑は同室だって」
    「だから勝手に話を進めないでくれ。二人ともデカいのに一緒なんか絶対不便だ。」
    五条の機嫌がまた悪くなる。家入は全く気にした様子はなく淡々と話す。
    「向こうが提案してくれたんだよ。同じ大学だし私も助かるから」
    五条はあからさまにしょんぼりしながら
    「なら二人が同棲するマンションに、」
    「絶対やめろ、来るな、住むな、寄り付くな。」
    「ひでー!」

    〇〇は三人の話を黙って聞いていた。家入は高一の時に高三だった先輩と付き合っている。先輩は同じ高校生とは思えないほどスマートで余裕があって五条たちのような誰が見てもイケメンで派手で目立つタイプではなかったがまた彼らとは違った魅力がある人だった。家入と同じく医学部志望で超難関の大学に進学し家入の入学を楽しみに待っている。誰が見ても落ち着いていて頭が良くて大人っぽいカップルだった。

    一方の〇〇の成績や恋愛事情は何事も派手に見える三人に比べれば地味な方だった。比べる必要も無ければまず三人がそんな事を思っていないしそれで揶揄われたりいじめられた訳でもない為、決して口には出せなかったが年頃になると気にせずにはいられなかった。勉強も教えるより教えてもらってばかりで三人に内緒で塾に通った時もあった。その時、塾で仲良くなった他校の男の子に人生で初めて告白された。同じ学校の生徒たちとは交流があったが基本的に四人でいる事が多く恋愛に発展する瞬間はなかったのだ。初めての事で嬉しかった〇〇は付き合ってみようと思っていたがどこから情報を聞きつけたのか五条が「お前塾行ってんの?面白い?なら、」自分も塾に行きたいと言い出して通い始めた。
    彼との時間より五条に支配される時間が増えたのに無駄に洞察力の高い五条が「お前って〇〇の事もしかして好きなの?」とようやく五条を巻いて二人きりで休み時間に話していた所をノンデリカシーで突撃された。最終的に「君は本当は面食いなんだろ?」と勝手に落ち込まれて身を引かれた。まだお付き合いの了承もしていないのに振られたのだ。デリカシーがない事に関しては五条はたらふく夏油に叱られたが身を引いたのは彼の判断であり、結果色々バレてしまったあとに「そんな男元々大した事なかったんだよ。」と最後にイケメン過ぎる家入で話は幕を閉じてしまった。
    しかしここで終わってなるものかと高校に入ってからはコンビニでバイトを始めた。もちろんすぐに五条たちが遊びに来たがずっと監視されている訳ではない。そこで出会った年上の彼とデートに行く事になった。またもやどこから情報を聞きつけたのか街でブラブラしていた五条にあとをつけられた為、初デートは死にもの狂いで走って逃げた。その内「俺もバイトしよっかなぁ」と言う五条と言う悪魔のセリフを聞いて〇〇はすぐにバイトを辞めた。何でもかんでも五条は夏油や家入を連れてやって来る。なら硝子や夏油も五条の被害に遭っているのでは?と思うがそれは違う。

    夢主は二人が家入の邪魔をしない理由は知っている。それはたんに家入が怖いからではない。二人でも太刀打ちが出来ないくらいの出来る男を選んでいるからだ。それから夏油の場合はとにかく要領が良い。五条のかわし方もとてもうまい。〇〇の場合は相手を品定めされてしまう。下に見ているのではなく三人なりにちゃんと〇〇に見合うのかと思ってくれているのは伝わるがやはり〇〇にとっては複雑だった。

    自分で選んだ大学は自分の夢や目標の為でもあるがそろそろ三人から自立して自分から人と出会いたい。自分の意思で相手と向き合って好きか嫌いか判断したい。そんな気持ちが強かった。念を押すが関係が切りたい訳では決してない。三人との時間が大好きだ。でも夢主はずっと前から気付いている三人は自分たちの思うままに生きていると言うか自分の事は気にかけて来るくせに自分たちはいつもしれっと恋人がいて自分の隠し事に関してはとても気にして来る。特に五条。それはやっぱり理不尽じゃないか。そして何よりも駄目なのは自分だと言う事にも気付いていた。見た目や才能は生まれた時から違う為、あえて気にしないように生きていたがそれとは別に抱いている劣等感、本当は四人いる事を頼って甘えているのは自分なのだ。

    〇〇の決意は固い。大好きだからこそ自分も頑張りたい。そう思いサンドイッチを頬張ったがある事に気付いた。

    『ちなみに悟、彼女は?』
    「彼女はって?」
    『R大の話は置いておいてk大に行きたかったんじゃないの?』
    「ん〜そこまではって感じ」
    『でも彼女ちゃんが行きたい大学だよね?だから悟も一緒に行けるって聞いてめちゃくちゃ喜んでたでしょ?』
    「あ〜それより卒業する時には別れようかなって」
    「「『クズ〜』」」

    この感じだと本当に同じ大学に来るんじゃないかと〇〇の不安は募る一方だった。

    ______________

    ●五条の学年一可愛い彼女
    可愛いくて頭が良い。後期に入る前に大学は一緒に行くつもりがないと言うのと仮に一緒の大学になってもお付き合いは高校までって言われて毎日泣く事になる。周りの友達に大学なら出会いも多いしいくらでも良い人見つかるよって励まされるけどあんな綺麗な顔の子はもう今世では出会えなくない?って更に大号泣する。可哀想。

    ●前世の記憶なし夢主
    自分が特別扱いされているとは微塵も思ってないが何かと自分や家入、夏油が優先の五条なのでいつも五条の彼女が不憫になっている。今回の大学の件に関してもお付き合いについてもちゃんと話しておかないと突然言うのは可哀想だよと五条に忠告していた。彼女ちゃんが泣いているのを毎日見てめちゃくちゃ可哀想だと思っているが後期に入る前に五条が同じ大学に本当に入ろうとしている事を知り自分の決意が壊されそうだし彼女ちゃんに対しても気まずくて胃が痛い。

    ●前世の記憶なし五条
    彼女ちゃんを嫌いな訳じゃない。可愛い子って思ってる。ただ歴代彼女は大体優先順位がおかしくなりがち。今回の件も夢主に言われたから彼女と話したので最低。

    ●五条の歴代彼女たち
    最初こそ家入や〇〇に嫉妬心があったがあまりにも四人でいる時の五条が下心なく楽しそうで大切にしているので五条と付き合うならあの三人を嫌な目で見てはならないみたいな変な掟が出来ている。五条は優先順位はおかしいが基本的に優しくかっこいい彼氏。しかし夢主は知らないが数回だけ性格があまりよろしくなかった歴代彼女がいて夢主の事を夏油や家入たちよりかは劣っていて浮いていると言うニュアンスの発言をしてしまい秒速で振られてそれ以降は二度と口を聞いてもらえない。

    ●前世の記憶あり夏油
    前世でキューピッド役だったので前世で色々あったけど気持ちを切り替えて今世もキューピッド役をと思っていたけどまじで進展しない。もしかしたら前世は高専で出会ったから今世で同じ年を迎えたらその気持ちに気がつくのでは?と思っていたけど本当に何もなし。五条の異常な執着心にどこかで期待してしまうが家入から前世の青春を無意識に取り戻したいのでは?と言われてしまい離反し五条を置いていった側としてめちゃくちゃ複雑だし自分にも家入にもかなりべったりなのでやっぱり今世では結ばれないのかもしれないと諦めモードに。むしろ進路と将来(芸人)を勝手に決められてそれ所じゃない。
    __________________



    【一人で行くなよ】

    〇〇にとって今日の休日はただの休日ではなかった。よそ行きの格好をして平日と変わらないくらい早い時間に家を出た。予定の時間はもっとゆっくりで良いけれど誰かに会うのは出来る限り避けたい。いつものメンツ、特に五条にはバレたくないところ。まずは目標の街の中心の大きな駅に到着した。何を隠そう今日は〇〇が行きたいR大学のオープンキャンパスの日なのだ。オープンキャンパスくらい良いだろうと思うが春先に進路の話をした時に「俺もR大行く。」とあっさり自分の進路を変えた五条の発言に〇〇は怯えていた。あれ以来なるべく話題は避けて来たがなんと言っても相手はあの五条だ。細心の注意をはらいながら最終的にはえ?もう願書とっくに過ぎてるよ?の辺りまで大学の話を自分からする気はない。決して一緒に行きたくない訳ではないが五条にはR大を目指す理由はない。むしろ五条なら更に上の大学も狙えるし何より五条の今の彼女は五条と同じ大学に行けると思っている。別れ話になって更には大学は〇〇と行くなど理由にされてはたまらない。目眩がしそうな先行き不安定な状態に〇〇は必死で首を振り歩き出した。
    『流石に早く来過ぎちゃったな。』
    電車に乗ってから大学までかなりの所要時間がある為、駅ビルの大きな本屋に寄る事にした。
    漫画か小説かと悩んでいるといつもの三人で回し読みしていた漫画の最新話が出ていた。
    『あ、もう出てたんだ。』
    「お、あったあった。」
    恋が生まれてもおかしくないようなタイミングで漫画の上に重なった手と手だったが〇〇はもうこの時点で尋常ではない汗をかいていた。
    「〇〇!?」
    『さ、悟、おはよう〜』
    顔が引き攣って仕方がない。こんな早くに何してるんだ?と五条が口を開こうとすると
    「悟?漫画あった?」
    「うん、あったし〇〇もいた。」
    「え?〇〇?」
    可愛い可愛い五条の彼女が登場した。彼女が映画を観たいと言ったが人が多くなる前に観ようと五条が提案し朝一で映画館に行き今しがた鑑賞を終えて来たと言う。〇〇は適当に『私もそんな感じ、色々買いたい物あったんだけど昼くらいになると多いからさ〜。』と笑いながら『それじゃあ引き続きデート楽しんでね。』と言いながら強制的に退避した。早速秘密のミッションに躓いたが五条が一人じゃなく彼女が居たからまだ良かったと気を取り戻した。
    もう駅に向かおうと歩き出すと焼き立てのパン屋の前で立ち止まった。駅のパン屋は人気でいつも寄ると品数が減っているがまだ午前の内だと見た事がないパンが沢山並んでいた。昼食は大学の食堂に行く予定だがこのチャンスは逃せない。何より漫画を買い損ねたので電車で暇になるならパンを食べようと〇〇はパン屋に入った。トレイにはお土産にと買ったパンまで乗っている。カフェオレと合わせてレジに向かった。同じように焼き立てのパン目当てでレジもかなり混んでいた。ようやく順番が来てトレイを置くと、
    「これも一緒にお願いしまーす。」
    『っ!?・・・・』
    〇〇のトレイの隣に甘いパンが沢山乗ったトレイが並んだ。〇〇は絶句しているがすぐにハッとして
    『彼女ちゃんと朝ごはん?』
    「んや、もう解散した。あ、袋は別で会計は同じで大丈夫です。」
    解散?え?解散?と相変わらず固まっている〇〇をスルーし勝手に会計を終えて二人分の手提げ袋を受け取ると愛想良く店員に礼を言い「ほら、次の人の邪魔になるぞ。」と固まったままの〇〇の肩を抱いて店を出た。
    改札に向かっていると気付きハッとした〇〇は立ち止まり五条から袋を取り上げると財布からお金を出しながら
    『ちょ、ちょっと待って、と言うか解散てなに?』
    「だって映画しか約束してないし」
    『いや、普通カップルならその後も遊ぶでしょら?』
    「普通のカップルとか知らねーよ。あ、お金別に良いよ。」と言いながらパチンと〇〇の財布の口を閉めた。
    「とりあえずどこで食う?」
    『一緒に食べないよ。お金は次の学校で払うからレシート見せてね。私は予定があるからじゃあね。』
    自分と五条の関係なら周りから何も言われない事は自分自身が分かっているがでももし自分が五条の彼女の立場なら恋人が解散した後に別の女の子といるのはやっぱり嫌だろうと思った。ここは強気で行かなくては五条が酷い男になってしまう。五条が嫌いな訳ではない、むしろ幼馴染として正してやらねばと〇〇は五条に背を向けて券売機に向かった。切符を買い改札を抜けた。五条が追って来る気配はなくホッとした。ホームに向かうと丁度良いタイミングで電車が来た。乗客は空いている時間帯で余裕を持って座った。扉が閉まりなんとか電車にも乗ったと安堵した瞬間、ドカっと向かいの席に五条が座った。
    「お前ふざけんなよ。」
    『はぁ?』
    「お前が持って行った袋が俺の買った方だっつーの。」
    『え、』袋の中を覗くとたっぷりの生クリームが入ったパンが見えて〇〇は強気な態度から一変し萎縮してしまった。これではこちらが怒る事はもう出来ない...
    『スミマセン』
    「良いよ。」
    『あ、え、早っ、、あぁどうも』
    五条は全く怒った様子もなくすぐにニコニコ笑って自分が買ったパンを取り出して食べ始めた。〇〇は切り替えの早い五条にやられたぁと頭を抱えて仕方なく諦めると目の前の五条からひと席ずれて通路側に座り直した。
    「他人行儀すんなパン泥棒。」
    『だって目の前だと五条足窮屈でしょ?』
    「は?そんなのこうすりゃ良いから」
    『やめて!』
    五条は靴を脱ぐと無駄に長い足を〇〇の膝の上に乗せた。〇〇はすぐに膝の上から五条の足を落とした。
    「イデッ。良いのかな〜?これ読みたくないわけ?」
    五条はニヤニヤしながら買おうとしていた新刊の漫画を取り出した。
    「俺読みたかった漫画買ったから先読んでてよ。ネタバレは禁止な!」
    脅すように漫画をチラつかせていたと思えばすぐに〇〇に手渡した。内心やった〜と喜びながら表紙を開けた瞬間に五条の顔が目の前に。至近距離なんて慣れっこだ。
    「どこに行くか言ってから捲れ。」
    『・・・オープンキャンパスです。』
    「んだよ誘えよー!」座席に項垂れる五条。
    「通りでよそ行きの格好してる訳だわ。」
    何故か〇〇の服装事情に詳しい発言はスルーして
    『だって私が行きたい大学なんだし、』
    「だからって一人で行くなよ。」
    五条は意地悪をしようだとか嫌がらせをしようだとかそんな事は微塵も思っていない。一人だと寂しいだろ?一緒のが楽しくね?と言いながらいつもついて来ようとする。それは分かっているがそれでも、
    『でも彼女ちゃんの予定変えたら可哀想じゃない?』
    「お前が事前に教えてくれてたら今日映画行かねーよ。」
    そう言う問題じゃないんだよなぁとやはり納得が行かないまま〇〇は大人しく漫画を読む事にした。
    『やばい...今回の展開やばいよ悟。』
    漫画の展開に熱くなって顔を上げると五条は眠っていた。
    [次はR大学前に停車します]
    気付けばもう降車駅に近付いていた。パンのゴミと空になったカフェオレの容器を袋に入れて降りる準備をした。寝ても〇〇が起こしてくれるだろうと言う信頼からか五条は熟睡している。結局何の映画を観たのか聞いたが眠くて全く内容を覚えていなかった。自分が朝から観に行こうと提案しておいて...夏油と家入がいたらまた「クズ〜」とハモっていたに違いない。先程本屋でニコニコと可愛いらしい笑みを浮かべていた五条の彼女を思い出すとこのまま五条を起こさずに置いて行った方が良いのではないかと思ってしまう。いくら映画の予定しか決めていなかったとは言えきっと彼女はそんなつもりなかったはずだ。朝早くだと言うのに綺麗に髪を整えてとても可愛い格好をしていた。それなのに
    『・・・なんで、、』
    立ち上がり五条をじっと見つめていると電車が減速していく。
    『起きて、悟、』
    五条が寝惚けながら起きた時には五条の漫画もパンの袋も自分のカバンに仕舞っていた。

    彼女に言い訳するとすれば私たちは決して特別な関係じゃない。〇〇が言えるのはそれだけだった。



    【今日のが何十倍も楽しかった。】

    大学の正門を抜けると高校とは全く違う光景が広がり〇〇は瞳を輝かせていた。〇〇は事前に調べていたが大きな建物はもちろん、綺麗な芝生の休憩スペースにコンビニや売店、学食はもはやレストランレベル。屋内プール付きの体育館、広いグラウンドは一つだけではないようでスポーツにも力を入れ始めここ数年で改築工事が繰り返されていた。休日でも大学内は活気があり部屋着のような格好をした人もいればおしゃれな格好をした人もいた。年齢も国籍も性別も関係ない、そんな雰囲気に呆気に取られながら歩き出すと
    「もしかしてオープンキャンパス?」
    『あ、え、はい』
    ちょっとだけチャラそうなお兄さんがニコニコと話しかけて来た。サークルの勧誘だろうか、周りにも同じように看板やチラシを持っている人たちが他の人たちにも声をかけていた。
    「うちの大学希望?」
    『はい。』
    「いぇーい。ならこのチラシ渡しとくよ。うちは色んな大学と交流してるサークルでさぁ週四でみんなでご飯食べたり遊びに行ったりするんだよ。来年可愛い子が入って来るよってみんなに伝えておくね。良かったらもう連絡先交換しとく?」
    パーソナルスペースの詰め方とチャラさに苦笑いが止まらない〇〇。普段から五条と居るのでそれなりにノリは良い方だがこの手のタイプは普通に苦手だし何より感じが良い人間だとはとても思えなかった。
    「あーすみません。こいつ顔は可愛いんですけど実は元ヤンで〜」と突然肩にもたれ掛かって来た五条。
    「えーまじ?意外〜でも俺そんなの気にしないよ。」
    と微笑まれて慌てて五条を推し退けながら訂正する〇〇。
    『誤解ですからね!』
    「良いって良いって気にしないで。え!?てか君も高校生!?」
    「え?あ、はい。」
    チャラ男は五条を見て目を見開いた。
    「めちゃくちゃかっこいい。俺こんなモデル体型でしかも美形の子初めて見たかも〜やば〜。良かったら君もサークル入ってよ〜。」
    「あー考えときますね。でも他の大学と交流したら女の子たちの注目全部集めちゃうかも知れないけどいいんですか?」
    生意気な五条の態度にもチャラ男は笑って
    「あははは話早くて助かるわ。そんなのむしろ最高じゃん。お溢れくれたら全然良いから」
    「はっ、論外。」と鼻で笑いながら五条は〇〇の背中を押して勧誘ロードを抜け出した。
    『げ、下品だったね。』
    「他のサークルのやつも見たけど一人もちゃんとした奴居なかったしサークルっつーかただの飲むか遊ぶかヤる事しか頭にない連中だな。あの場所も監視対象外って感じじゃね?まぁ中に進んだらちゃんとした学生が案内してくれんだろ?」
    『は、はぁ、』
    「それでよく一人で来ようと思ったな?俺が居て良かったろ?」
    返す言葉がない。大学なんて無数に人がいるし気にしない方が良い事は分かっているが一人だったら間違いなく大学の敷居を跨いで数秒で嫌な気持ちになっていただろう。これから自分が目標としている場所なのに早速こんな気持ちになって良いのだろうかと弱気な自分に恥ずかしくなった。
    「ま、この大学だろうが結局どの世界に行ってもバカはいるし下心隠す気がねーどうしようもない奴はいっぱいいるからな。とりあえず気をつけろよ?」
    ぶすっと頬を突かれて痛かったが何となく今頭の中で考えている事を見透かされて気にすんなと言われた気がして頬を押さえながら素直に頷いた。
    「あ、俺あの建物行ってみたい。」
    素直な反応に気を良くしたのか五条は主導権を握って大学内を散策し始めた。

    「野球の試合やってるよ!見に行こう!」
    「写真科のギャラリーだってさ」
    「図書館広いな」
    「ダンスサークルかぁみんなキレッキレ〜」
    「あ、腹減ったな。学食行こうぜ〜」

    一度くらい『ちょっと待てよ』とツッコミを入れたかったが隙もなければする必要がないほど五条の行く先々は新鮮で濃い内容だった。時折、実行委員の学生たちから正式な案内をお願いして真剣なモードになったり楽しみにしていた有名な学食まで堪能出来てしまって文句の付けようがない。正直一人なら大学側が用意した案内を聞いてその通りに身を任せて早々と終わっていたに違いない。

    「めちゃくちゃ美味かったな。さてとメインに行きますか?」
    『え?メイン?』
    「嘘だろお前、ここだよここ。」と指差した先には最初に見た勧誘ロードとは違い温かな雰囲気でテーブルやパンフレットが用意されたサークル案内のエリアがあった。
    「これが一番楽しみだったんだろ?」
    『その通りです。』
    なぜ五条が一番楽しそうなのかは特に気にせず演劇の文字を見つけて数名の人たちが案内しているブースへ向かった。そこには決してチャラ男ではない笑顔がキラキラなお兄さんがいた。
    「まさか演劇に興味あります?」
    『はい!こちらのサークルは演出家の◆◆さんが大学時代に立ち上げられたんですよね?』
    「そうだよ!君、中々渋いね!?」
    『ファンなので』
    「最近の子ならギリギリ、俳優の▲▲さんとか目当ての人はいるんだけどね。」
    『もちろん存じてます。ここでの出会いや経験がとにかく素晴らしい時間だったと』
    「今はかなり勢いが落ちてしまって団員も減ってしまったけど廃部になるような状態ではないから興味があるなら来年待ってるよ。」
    『はい。まずは入学出来るように頑張ります!と言うか入部希望の方は減ってるんですか?』
    「まぁ舞台とかテレビ業界だとか映像の世界だとか専門の学校に行く人のが多いよね?」
    『な、なるほど』
    「でもね今在籍してるメンバーでかなり良い演技をする子とか照明や音響にこだわりがある奴とかあとは面白い脚本を書く奴も居るからそこは安心してくれて良いよ。」
    「え!裏方とかもみんなでやんの?」
    『ちょっと悟、失礼な聞き方しないで』
    〇〇の後ろで話を聞いていた五条が会話に入って来た。団員の男の人は五条の純粋な質問に優しく笑いながら
    「もちろんだよ。舞台はみんなで作るものだからね。衣装やメイクだってみんなでやるんだよ。」
    「確かにそらそうか。」
    『す、すみません失礼な態度で』
    「大丈夫だよ。そこから興味持ってくれたら嬉しいし。あ、そうだ。まだ時間ある?」
    五条と〇〇は目を合わせて何だか分からないと言う顔をしながら頷いた。団員の男の人に連れて来られた場所は何か工事をしている建物だった。
    「ここはうちの演劇ホールなんだ。」
    『え?専用の劇場ってあったんですか?多目的ホールやたまに外部の施設で公演されていると伺ってたんですが?』
    「なんか修理中っすか?」
    「実はね卒業生の皆さんからの寄付で新しく演劇ホールが出来るんだ。僕たちは卒業生の皆さんの熱い意志を受け止めてここで面白い作品を作ってみせる。だから来年君も必ずその目で見て欲しい、願わくば一緒に作品を作り上げようよって言う...まぁ勧誘だよ。」
    〇〇は胸が熱くなり強く頷いた。五条はその横顔を見て穏やかな笑みを浮かべていた。

    『もう夕方だね。』
    「飯食って帰ろうぜ。」

    結局一人だったらこんな時間にはなっていなかっただろう。それでも〇〇には大きな収穫で満足げな表情をしていた。正門を抜けて早々にチャラ男がいたと団員の男の人に絡まれたと五条が言うと苦笑いしながら抜け道を教えてくれた。駅までそんなに遠くないよと言われて教えてもらった道を二人歩いた。

    「おい、〇〇。」
    『ん?』
    「そこのビルの一階見てみ?」
    五条が指差した先にはたこ焼き、鯛焼き、ラーメン、カレーと味わい深い店が並んでいた。五条はまるで推理するかのように真剣な表情で
    「あれは学生向けにリーズナブルで尚且つ量も多く、更には学生たちの悩みまで聞いてくれる粋な店長がいるんだ。味も絶対美味いぞ。それに野良猫ちゃんが彷徨いてる、可愛いな。」
    『ウマイラーメン、ネコチャンカワイイ』
    と言いながら吸い込まれるようにラーメン屋に入った。味も美味く店内は五条の言う通り温かな雰囲気だった。店内には大学の卒業生で有名人になった人たちのサインや先程話したばかりの演劇サークルの昔のメンバーが写真を飾っていたりして〇〇は興味津々に眺めていた。満腹になりたこ焼きと鯛焼きはお土産にしようと結局三軒も店を回った。

    「あのの店の並び最高だわ。夏はかき氷とか出るやつじゃん。」
    駅のホームに着くと休日と言う事もありあまり人は居なかった。二人でベンチに座りながら
    『寮って手もあるな。』
    「でも一年で出なきゃいけねーだろ?バタバタするならマンションかアパートのが良くね?」
    『最悪通えなくもないかなとか、』
    「四年間だぞ?それに平日の行き帰りは電車満員だぞ?大学の近くでマンション見つけるか頑張って2.3駅くらいの距離の場所にマンション探すかだな。」
    『大学の近辺ならコンビニもスーパーもさっきみたいな飲食店もあるしねー。』
    だろ?と言いながら五条は立ち上がり自販機に向かった。ほんの一瞬だけ我に帰った。当たり前にこれからの話をしているが五条はどういうつもりなんだろうかと、オープンキャンパスで忘れていた今朝の彼女ちゃんが頭の中に浮かんだ。

    「k大のオープンキャンパスもさ、あいつと行ったんだよ。」
    『え?...そうだったの?』
    顔を上げると自販機を買いながら五条が話し始めていた。"あいつ"とは彼女の事だ。いつもは何でも話す五条なのにその話は聞いていなかった。
    『エリートと言うか学生も環境もクオリティ凄かったでしょ?』
    「まーな。でもさ、」
    一瞬だけ五条は苦笑いしたが〇〇の方を見るとニッと笑いながら缶ジュースを投げて来た。

    「今日のが何十倍も楽しかった。」

    手の中に受け止めた小さな頃から好きだった缶ジュースを見つめてキュッと唇を噛み締めた。理由がないなら同じ大学に来るべきではないとこれまでは言い返せていたが五条自身が楽しいと言う事に関しては口出しなど出来るはずがなかった。なんて無邪気に笑うんだろう。だから嫌だったんだ。今でこそ互いの恋愛事が絡んで迷惑を被ったり謎にひっつき虫になってしまう五条には手を焼いている。だけど昔から五条と一緒にいると楽しいと言う事を〇〇が誰よりも何よりも分かっていた。


    【タクシーから見る花火は格別だから】

    高校生活最後の文化祭
    「はい、おしるこ二杯入りましたー。」
    「ありがとうございまーす。」
    五条と夏油の息の合った接客に客足がどんどん増えて行列が出来始めた。〇〇と家入はもっと宣伝して来いとプラカードを渡され文化祭の様子を見て回っていた。
    「見てよ、うちの担任のあのドヤ顔。」
    『うちのクラスが文句なしで優勝だろうしね。』
    離れた場所から自分たちのクラスの模擬店の異常な盛り上がりに呆れた様子で眺めていた。
    「五条が和菓子屋一択。おしるこ、抹茶に合わせて団子系か餅系って言った時ブーイングだったのにね。」
    『やるならメイドカフェとかクレープとか映えるのがみんな良いって言ってたもんね。あとお前が食べたいだけだろって突っ込まれてた。』
    「寒いんだからおしるこなら温かいし別の和菓子なら抹茶とセットで売ったら季節感もあって風流だ。何より俺は若い奴じゃなくてマダムを狙いに行くとか言ってたけど、」
    ニコニコ笑う五条と夏油の前にはマダムも若い女の子たちも並んでいた。
    『狙い通りで大繁盛してるし良かったんじゃない?まぁ悟が受けた和菓子食べたいだけだろ?ってツッコミは大正解なんだけどね。あ、ほら、見てよ?いま後ろ下がった時、団子食べたよ?』
    「あの団子泥棒のどこがいいんだ?」
    『さぁ〜』
    店が大繁盛しているのには別の理由もあった。ただでさえ顔が美しいと有名な五条が
    「五条くん今フリーらしいよ?」
    「五条くんて美人な彼女と別れたんでしょ?」
    「彼女いないなら五条様に急接近しても良い感じ?」
    〇〇たちとは対照的に好意的な目を向ける女子生徒や他校の女子生徒たち。五条は性格的に難がある事は噂で知っているのが実際に告白や本気になられるのは夏油の方が多かった。しかし前回の彼女と意外と長続きしていた、喋ると結構友好的?接客なら接点が持てるのでは?とフリーになった五条への興味や好奇心がより一層高まっていた。

    「宣伝終わったら店見て回る?」
    『いいね。行きたい。』
    「五条と夏油があとからうるさそうだけど放っておこう。」
    『いいよいいよ。むしろ今一緒に回るの嫌だよ。』
    あれだけ熱視線を向けられる男二人と並んで歩くのは今日だけは嫌だと思った。いつもは気にしていない家入も今回ばかりは同意した。
    「あ、メイドさん。」
    前方からやって来た可愛いらしいメイド姿の女子生徒たちがピンクの装飾を施したプラカードを手に歩いていた。その中には五条の元カノも居て彼女は周りからの視線など全く興味もないようで浮かない顔をしていた。そして女性に囲まれている五条を時折盗み見ていた。
    『別れるつもりならちゃんと話した方が良いよとは言ったけどさ、文化祭前に別れるなんて酷な事するよね。』
    見渡せば手を繋いで文化祭を楽しんでいるカップルたちも沢山いた。こう言うイベントは彼女としては一番楽しみだったのではないだろうかと〇〇は思った。
    「五条から話した時に別れたんでしょ?あれからあの子毎日目が真っ赤で見てられなかったね。」
    『本当だよ。それにさ』
    「あんたは気不味いよね?なんせ同じ大学行くし。ま、夏油も何だかんだ言いながら行くみたいだから結局親友選んだってあの子も思うんじゃない?」
    『そう思ってくれたら良いけど、大変だったんだよ?三年生の最終的な進路の面談の後に私だけ先生に呼ばれて』

    "「五条がR大学に行くと言い出した。」
    『私が勧誘した訳じゃないですからね。』
    「そんな事は思っていない。それに〇〇にはR大に行きたい理由もちゃんと聞いていたから先生は応援してる。それにR大学も素晴らしい所だと思ってる。ただあいつは元々はK大クラスが狙える成績なんだ。勿体無いだろ?」
    『なら先生がそう悟に言えば良いじゃないですか?』
    「言う事聞かないから〇〇に頼んでるんだよー。」"

    『って言ってたけどあれはもう泣いてたね〜』
    「あのクズ、老若男女問わず泣かすんだね?」
    『更には傑の事まで頼んで来たからもう本当に知りません!って見捨てたよ。』
    「それが正解だよ。さっきのあのドヤ顔見たろ?五条たちも今年は売上であんたのクラス優勝させてやるからもうぐだぐだ言うなって事じゃない?」
    『そして私らは優勝の品にあやかると』
    二人で笑いながら昼ごはんやデザートを買い人気の少ない空き教室へ向かっていると
    「二人だけで行くなよ!」
    「お昼食べたら四人で回ろうよ。」
    と結局五条と夏油に捕まり目立つ羽目になった。

    昼過ぎからは「あと数時間、前半よりも気合い入れて働けドル箱ども」と家入に蹴られながら二人は営業スマイルで最後まで乗り切った。そのおかげで売上や集客数のみならずアンケートでも一位を取り完全な優勝が決まった。クラスのみんなが盛り上がる中、外部からのお客さんが撤収し模擬店の片付けと同時に後夜祭の準備が始まった。後夜祭は表彰式、ライブやダンス、花火、最後は実行委員の挨拶で締め括る予定だ。後夜祭が始まる前から優勝へ導いた五条は後片付け中も上機嫌になって騒いでいた。飲食系のお店を開いていたクラスは調理室に集まり洗い物を終えて再びお店のテントに戻り後夜祭の開催まで談笑し過ごしていた。開催まで間も無くと言う時、〇〇はテントの隅に置かれた調理室に運び忘れた食器や調理器具の入ったカゴを見つけた。
    『洗ってないのまだあったんだ。硝子、これ調理室に持って行くね。』
    「本当だ。一人で行く?」
    『少ないし大丈夫。洗って棚に仕舞ったらすぐ戻って来るよ。』
    「ありがとう。みんなにも伝えておくよ。あ、でも早く帰って来ないと後夜祭始まってあんたがいなかったら五条うるさいから気をつけて。」
    『勝手に始めといてくれて良いから。』
    表彰式は感動のスピーチをするからお前ら見ておけと言っていた五条の言葉を思い出しながら〇〇は適当に返事をしながら調理室へ向かった。

    「あ」『あ』
    調理室に入ると五条の元カノが一人で食器洗いをしていた。
    『あれ?一人?手伝おうか?』
    「大丈夫。今日あんまり活躍出来なかったからみんなに申し訳なくて、残りの片付けはやっておくから先に後夜祭行っててって自分から言ったの。」
    『偉いね。でも活躍って▲▲めちゃくちゃ可愛くて他校の男子の視線やばかったよ!あれはお店に貢献してるでしょ?ちなみにうちのクラスの女子はみんなメイドの衣装羨ましがってたよ。』
    そう笑顔で伝えながら彼女の隣のシンクにカゴを置きながら食器洗いを始めた。本当は彼女が誰に一番にその可愛い姿を見て欲しかったか分かっている為、何を言っても傷つけるのではないかとヒヤヒヤした。
    「ありがとう。と言うか和菓子屋凄かったね?優勝おめでとう。優勝特典は焼肉だっけ?」
    『噂では焼肉とボーリングって聞いたよ。』
    「いいなぁ。」
    『ラストスパートが凄かったの。硝子が傑と悟にドル箱ども死ぬ気で働けって』
    「あははは。硝子って美人だし大人っぽくてなんかミステリアスな雰囲気あるのに結構面白いよね?」
    『硝子はめちゃくちゃ面白いよ!と言うかあの子は出会った時、小さい頃からすでにあぁだったから。』
    「へ〜幼馴染ってなんかいいよね。」
    『まぁ忘れてほしい事まで覚えてる人たちばっかりで困ってるんだけど。と言うかそっちはクラスで打ち上げしないの?』
    「まぁ一応はやる予定だよ。最近私が浮かないからってみんなが気遣ってて申し訳ない。」
    『良いクラスメイトだね。』
    隣の台にいる彼女に目線を合わせる事は出来ずにスポンジに洗剤を垂らしていると
    「振られたってくらい泣いてるけど私から別れるって言ったんだ。まぁ振られたようなものなんだけどね。」
    驚きさすがに顔を上げると彼女は苦笑いしながら蛇口の水を止めてキッチンスペースから離れた。彼女が窓際に行くと日が暮れ始めていて広場の方から生徒たちの騒がしい声や音が聞こえていた。〇〇は手を止めてその後ろ姿を眺めながら次の言葉を待っていた。
    「大学は一緒に行く気がないって言われた時はショックだったけど進路までは指図出来ないしさ。でもお付き合いは高校の内までのつもりだって言われた時は頭が真っ白になった。期限が卒業するその時までならまだ付き合ってても良かったの。毎日泣かなくて良かったし今日だって一緒に文化祭回りたかった、メイドの衣装だって見て欲しかった。』
    『なら、』
    「でも今どれだけ良い思いをしてもこいつとは卒業までだって思われてるなんてやだよ。そんなのもう両思いじゃない。」
    五条はなんて残酷な事をしたんだろうと〇〇は胸を痛めた。
    「〇〇がずっと羨ましかったよ。」
    『私?』
    「ごめん。別に〇〇が一緒だからとは悟には言われてないけど、R大行くんだよね?」
    『そうだよ。でもR大には行きたい理由が私にはあるから』 
    「ごめんね。ちゃんとそれも分かってる。分かってるから羨ましかった。」
    『あれだよ!ほら!傑とか硝子も含めての四人と言うか、さっき話したみたいにみんな昔から距離感とか温度感が変わってなくて、特に私以外みんな色んな部分派手だし才能もあるし、だけど私ってそれに比べたら明らかに地味でしょ?だからその...なんでこいつがこの三人といるだよ?って浮きがちで!いや、だからって▲▲がそう言う事思ってるって言いたい訳ではないんです!』
    早口で何言ってるんだと自分を責めたかと思えば他人へのフォローの為に自分を蔑んで自分で惨めになり内心傷付いてしまった。

    「いぇーい!この度優勝へ導きました五条悟でーーす!」

    遠くから諸悪の根源の男の声が聞こえて来た。どうやら後夜祭が始まったようだ。彼女は五条の声が聞こえた来た方に目を向けると唇をキュッと閉じた。
    「ほら、今だって〇〇を探してる。」と言い悔しそうな顔をしてようやく〇〇へ振り返った。彼女の言葉がなんの事か分からずに〇〇は一瞬首を傾げた。
    「私、悟がお付き合いして来た中でも一番長続きしたんだって」
    『うん、大きなお世話だけど中学の頃も可愛い子や美人な子は周りに居たけど▲▲は頭が良くて気配りが出来て、悟も凄く穏やかになった気がしてた。』
    「悟は優しかった。喧嘩だって全然した事ない。だけど本当は傑や硝子、〇〇を大切にしてるから三人に嫉妬や文句を言ったら悟は即別れるって噂は知ってたの。だからそこに口出しはしないって空気が読めて心が広い彼女でいよう。そうやって歴代の彼女たちから学んで行くみたいな、、私はそれの最終形態だったんだと思う。でもそれってあくまで"期限付きの彼女"の条件だった。どれだけ優しくされても可愛いって言われて隣に立たせてもらえても私、〇〇にはなれなかった。」
    真っ直ぐな目で見つめられた。
    『私なんかになってどうするの?ただの幼馴染だよ?みんな、みんな▲▲みたいな女の子に憧れるんだよ?』
    「違うよ!ただのじゃない!みんながなりたいのはあなただよ!だから〇〇にフォローされたり気を遣われるのが凄く辛かった。悪気はないのだって分かってた。純粋な気持ちなのも分かってた。でも高みの見物されてるみたいで悔しくてそんな風に思う自分もダサいし最低だし、、、ごめん。」
    少し取り乱したように思っても見なかった事を言われ〇〇は驚いた。自分の気遣いで人を傷つけていたと知りショックで言葉もうまく出なかった。
    『違う、だって、本当に私たち男女の関係なんてない。傑や硝子だっている、だから』
    「本当に分かんないの?」
    『分かんないって、何が?』

    「悟にとって〇〇は"特別"な人だよ。それは恋人だとか幼馴染だけではなれない〇〇だけの特権。」
    『特別、』

    "「だ・か・ら!特別に思ってるからこうやってお前の任務の補助しに来たんだよ!言わせんな!」"

    特別と言う言葉を聞いた瞬間に〇〇の頭の中に身に覚えのない五条との記憶が流れ始めた。なぜそんなに顔が赤いのか?見た事ない制服に任務とは何か?それを考えようとした瞬間激しい頭痛と眩暈、強烈な吐き気が〇〇を襲った。頭を押さえれば良いのか口元を押さえれば良いのか分からず怖くなり涙が流れた。

    「え......〇〇?」
    彼女は明らかに様子がおかしくなった目の前の〇〇に動揺していた。ついには顔色がどんどん真っ青になり
    『(駄目だ...倒れ、、)』
    「〇〇!!」
    〇〇の名を叫び咄嗟に抱き止めたのは五条だった。五条は〇〇を横抱きしながらゆっくりしゃがみ込むとポケットから携帯を取り出して
    「あ、硝子?〇〇の顔色がやばくて倒れかけてたって言うか倒れた。うん、頭は揺らさない方が良いと思うから近くに先生いたら担架持ってこさせてくんね?それから傑には騒ぎにならねーように保健室付近の人払いお願いしといて、よろしく。」
    携帯をポケットに仕舞うと
    「大丈夫か?すぐ先生来るからな?吐きそう?意識ある?」
    『だ、いじょうぶ、、』
    突然の体調の変化が怖かったのか今になって目に涙が浮かんだが五条の迅速な対応に同時に安堵もしていた。
    その後すぐに先生たちが駆けつけて〇〇は担架で保健室に運ばれた。五条は運ばれて行く〇〇を見守りながら調理室を出ようとすると
    「悟!」放心状態だった彼女は泣きそうな声で五条の名を呼んだ。
    「あ、あの、、私はただ〇〇と話してただけで、何にも変な事はしてないから。」
    「あのさ...俺は今▲▲の事責めてないだろ?」
    五条は落ち着いた声だが決して彼女に振り返る事はなかった。
    「今そんな事言われたらお前が自分の保身の為に言ってるみたいに感じるから止めた方がいい。と言うかこれ以上そう言うの聞いたら俺勝手にお前のせいにしてキレるかも...ごめん。本当は思ってねーけど、でもそうなるくらい焦った。だからもう胸の中で閉じ込めといて、それ。」
    そう言い残し調理室を出て行った。残された彼女は我慢していた涙が溢れ出してしまった。
    「自分勝手な理由で別れたくせに最低でしょ?」
    「あれで今だに刺されてないんだから歴代彼女たちはもっと怒って良いんじゃないか?」
    「全くだ。彼女にも〇〇にも気を遣わて同時に二人の女を不幸にするなってーの」
    夏油と家入が五条と入れ替わるように調理室に入って来て〇〇と彼女の代わりに残りの食器を片付け始めた。何も言わずにただ泣かせてくれた事に感謝しながら彼女は窓際で泣き続けた。

    その後〇〇は学校近くの病院に連れて行かれた。貧血症状と診断され適切な処置を受け一時間ほど休息を取った。しっかりとした意識もあり血圧等に異常もない為帰宅が許可された。今後も同じような症状が続くようであれば検査をと看護師に言われた。
    「親御さん連絡取れました?」
    「取れましたよ。〇〇とも直接話です。たまお二人とも仕事中ですぐ抜けられないかもしれないと言うので僕が送ります。本人は親からも許可が出てタクシーで帰るから大丈夫って言うんですがさすがに今日一人で帰らせるの心配なので。」
    「俺が連れて帰ります。」
    「五条!」
    〇〇は椅子に座らせて付き添いで来ていた担任と保険医が病院のロビーで話していると五条が荷物を纏めて現れた。〇〇も先生たちと同じくらい驚いていた。
    「お前はまだ後夜祭があるから先生に気を遣わずに学校に戻りなさい。」
    「俺、〇〇の親と面識あってさ。さっきメール送ったら俺なら付き添いお願いしたいって。先生たちのが後夜祭の片付けとか指示あるでしょ?」
    「しかし今年で最後だぞ?」
    「あと、なんか俺もさっき頭痛が酷くなってテンション下がったから帰りたい。」
    「お前なぁ〜。」
    担任が気の抜けた声を出すと〇〇の制服のポケットの中の携帯が振動した。母親からのメッセージには[すぐに迎えに行けなくてごめんね。悟から連絡が来たよ。一緒に帰ってくれるってね。悟がいるなら安心です。タクシー代ちゃんと渡すから悟と気をつけて帰っておいで。あとうちでご飯食べて帰れば?って伝えておいて。]
    少々呑気な母親に表情を歪めているといつの間にか五条が目の前に立っていた。
    「帰ろうぜ。」と手には〇〇の荷物を持っていた。コートとマフラーを受け取ると鞄は渡す気はないようで歩き出したがすぐに立ち止まって「歩けるよな?抱っこした方が良いなら、」『歩けるよ。』巻き気味に返事をして面倒な事になる前に〇〇は立ち上がり五条について行った。先生たちに見送られタクシーに乗り込むと五条はコートを脱いで〇〇の頭から体を覆うように掛けた。目の前は真っ暗だ。
    「コート掛けにしちゃあ小さいな。」
    車が発進すると〇〇は真っ暗の視界のまま
    『後夜祭本当に良かったの?』
    「おう。もう十分楽しんだ。」
    『本当に頭痛くなったの?』
    「痛くなったけど必死過ぎてよく分からなかった。」
    『・・・さっきはありがとう。傑と硝子には返事出来てるけどクラスのみんなからも心配の連絡沢山来てた。』
    「あぁめちゃくちゃ心配してたから今度登校したら元気な顔見せてやれば?」
    『うん。ねぇ悟。▲▲とは普通に話してただけで何にもなかったからもし勘違いしてたら訂正、、』
    先程言われたこの気遣いこそが彼女を苦しめていたんだと思うと言葉が続かなくなった。

    (じゃあどうすれば良かった?)

    「大丈夫、お前は体調優先で良いから気にすんな。」
    気にせずにはいられない。こうやって一緒に帰るのもコートの温かさも今までは当たり前だったのにとても苦しくなってしまった。自分が五条から優しくされればされるほど誰かが不幸になってしまうのではと先程の彼女の本音が〇〇の心をどんどん不安にさせた。

    (これ以上優しくしないで...私は別に悟の特別じゃない。)
    頭から被ったコートを取り去ろうとすると
    「表彰式でお涙頂戴スピーチ用意してたのにさ、お前がいなかったから興醒めだよ。」
    『え?』
    「硝子に聞いたら調理室にいるとか言うからさ文句言いに向かったらお前の顔真っ青でさすがに肝が冷えた。後夜祭は楽しみだったけど、あ、見えた!見ろよ。高校の方から花火見える。先生は俺に高校生活最後の文化祭だって言ってたけどさ...お前だって一緒じゃんな?タクシーから見る花火は格別だからお前にも味合わせてやったんだよ。感謝しろ。」
    「え?花火見える?どこ?と言うかタクシーからの花火が格別なんて聞いた事ないよ兄ちゃん。」
    「運転手さん風情がないなぁ。若人の心の中にはいつだって満開の花火が咲いてるんですよ?」
    「なんだよそれ」
    「面白かったでしょ?運賃負けてくんね?〜あははは」

    "「ほら、今だって〇〇を探してる。」"

    その瞬間〇〇は彼女の言っていた意味を理解した。そして五条の気遣いに鼻の奥がツンとなった。今、無邪気に笑う五条の顔を見たら泣いてしまう自信があった。掛けられたコートの中でギュッと目を閉じた。

    見えなくても五条が無邪気に笑っていると分かってしまうのは自分にとってもその花火のような笑顔が"特別"に思う瞬間があったからなのかもしれない。



    【俺のキメ顔美し過ぎじゃない?】

    「はい、撮るよ?笑って笑って、大丈夫?泣いてない?てか俺のキメ顔美し過ぎじゃない?」
    「「『早く撮れ。』」」
    一々うるさい五条が自撮りでカメラを向けている。ツッコミはしたもののカメラに写る夏油も家入も〇〇も笑っていた。もちろん五条も笑っている。校庭には後輩や先生たちの温かい拍手、桜吹雪、手には卒業証書が入った筒と左胸には桜の花のブローチが付けられている。

    今日は高校の卒業式だ。

    小学校、中学校の時とはまた違う寂しさや感動が押し寄せて来る。生徒たちはこれから就職して働く者、進学する者、遠くへ引っ越す者とそれぞれの人生が始まる期待感と戸惑いに胸を躍ろせていた。これまでの別れとは違うこの瞬間、泣いて抱き合う友人たちを眺めている〇〇が妙に落ち着いていられるのは目の前でゲラゲラ笑いながら写真を撮っている五条と夏油が原因だ。

    「今度遊びに行くから。」
    『絶対来て。』
    二人の様子を遠い目で見つめる〇〇に家入は笑いながら話しかけた。気付けば大学も決まり住まいも決まった。進路について〇〇の母親は五条と夏油がいるなら安心だと担任の苦労も知らずに呑気に笑っていた。親からの承諾を得た五条は大学はもちろん三人が同じフロアに住めるマンションを探し契約まで持ち込んでいた。勝手な事をと文句を言う隙も与えない、むしろ家賃も立地も何もかも完璧な物件だった。大学は広いし人も多い為、さすがに学びたい内容も違うだろうから会う機会が減るのではと思っていたが住まいが同じとなれば今まで以上に会う時間が増えるかもしれない。そんな事もあり三年に進級した時は卒業式は絶対泣くと言っていた〇〇は泣く事はなく、ただただ五条たちを眺めていた。
    「私とバイバイするのに泣いてくんないの?」
    家入が〇〇の目の前に立ちニッと笑うと〇〇はしばらく固まっていたがすぐに目に涙が溜まって家入に抱きついた。
    『意地悪言わないでっ...寂しいよ。ずっとずっと一緒に居たんだよ。離れたくない。』
    結局泣いてしまった。家入とは大学も住む場所も離れてしまう。二人とこれからも一緒だとわざとらしく疲れたような顔をしたのは半分本気で半分は家入との別れをしんみりしたくなくて気丈に振る舞っていたのだ。素直に泣き出した〇〇に家入は優しく幸せそうに笑って抱きしめ返した。
    「悪い悪い。お互い頑張ろうね。」
    それに気付いた五条と夏油も穏やかに笑うともう一度写真を撮ろうと四人で写真を撮った。

    しばらくすると家入の恋人の姿が見えて〇〇は泣き止むとスッキリした顔で家入を恋人の元へ行くように促した。夏油は慕ってくれていた後輩やお世話になった先生たちの元へ向かった。〇〇も仲の良かった友達と写真を撮りあい談笑していた。五条は元カノに声を掛けられていた。〇〇は少しだけ気にかけていたが五条と向き合う彼女の顔は晴れやかで悔いはない顔で五条と握手をしていた。あれだけ気にしていたのが馬鹿みたいだとこっそり苦笑いしていると
    「〇〇、写真撮ろうぜ。」
    クラスメイトの男の子に声を掛けられた。彼は五条ほどではないが明るくてムードメーカーのような立ち位置だった。一見チャラそうに見えるが中身は良い奴で五条や夏油とも仲が良く〇〇も同じくらい仲が良かった。
    「お前ら大学行っても一緒とか本当仲良すぎ。」
    『硝子はいないけどね!』
    「泣くな泣くな。さすがに一人くらい旅立っても良いんじゃね?」
    『別に四人で居なきゃ生きていけないわけじゃないけど』
    「自然と四人が集まるのかよ?磁石?」
    『悟に聞いてよ。』
    「あいつが密着大好きなのかよ。」
    『ちなみに大型連休に傑の運転で四人でキャンプ行こうってもう予定立ってるから。』
    「連休ってもうすぐじゃん?家入逃してもらえてねーじゃん、ウケる。」
    『笑い事じゃないよ。あ、▲◼︎も来る?』
    「行きたいけど四人の時は入り辛い。」
    苦笑いを浮かべる彼に〇〇は首を傾げた。女子だけで無くまさか男子にまで気を遣われていたのだろうか。
    「だからチャンスは今かも」
    『チャンス?』
    「はい、撮るよー」
    ノリの良い彼に肩を抱かれても特に気にする事はなく身を預けながらカメラを見つめた。
    「俺さ結構〇〇の事可愛いって思ってた、いや、思ってる。」
    『は?』
    〇〇は驚いて隣の彼を見つめたが彼はカメラ目線を外さない。
    「もっと仲良くなりたかったのにいっつも邪魔ばっかりで、だから今言う...俺〇〇の事結構好きだっt
    「はぁ?俺ともツーショット撮れよ。」
    二人の間に眉間に皺を寄せながら五条が割り込んで来た。彼は「ほらな」と苦笑いしながらそれでも「今日は譲らん」と言いながら〇〇の肩を抱きながら五条から遠ざけた。五条は「はぁ?なんだよ?仲間外れにすんなよ」と言いながら二人を追って来た。頬を赤く染めながらされるがままに肩を抱かれている〇〇に気付いた彼が「え?まじ?やった!レア顔ゲット!」と言いながら強引にツーショットを撮った。彼はようやく肩を解放すると〇〇を見つめて「結局邪魔が来たけど、三年間ありがとう。大学行っても頑張れよ!もし俺と遊びたいならあいつ抜きな!」と真後ろから迫って来る五条を後ろ指でさしながら笑うと去って行った。入れ替わりでやって来た五条は首を傾げながら
    「なにあいつ?後で捕まえてしめよ。」
    何も喋らずただ頬を染めている〇〇に五条はムッとした。
    「なんか喋れよ!」
    『う、うるさいな。私にだってプライベートな時間があるんだから放っといて』
    「はぁ?何言ってんのお前?と言うかツーショット俺も撮るからこっち向け」
    『▲◼︎と撮りたいんじゃないの?』
    「なんであいつ?あいつは後でしめるから。てか何その顔?赤くね?それで一回写真撮ろうぜ。」
    『いや!』
    「嫌とか言うな!」
    口論を始めた二人。二人以外には微笑ましく戯れているように見えていた。最後まで五条に思いを寄せていた者は歯痒く思い、〇〇に密かに思いを寄せていた者と五条の元恋人は「ほらね」と苦笑いを浮かべている。これからも近くで二人を見守っていく夏油は先行きを心配しこれから別の道へ進む家入はどんな選択をしたとしてもそれでも二人が楽しそうならと優しく見守り、みんなの幸せを願っていた。

    _____________________

    ●周りのモブたち
    〇〇とクラスメイトの男の子が良い雰囲気になってるなと見てた人たちと五条悟と写真撮りたいと五条に熱視線を送っていた人たちがツーショットに割り込んだ五条を見た瞬間全員が同じ気持ちで「うわ」ってなった。無意識なのか好意があるのか執着のようなものなのかも結局三年間分からない五条の〇〇への態度がちょっと怖い。

    ●五条の元カノ
    難関大学に進学が決まりモチベーションが上がる。五条の事は悔いはなくこれをバネにもっともっと自分を高めたいと思うようになった。清々しい晴れやかな表情になって最後に五条に感謝の気持ちを伝えた。これだけ色んな人たちを巻き込んでいるくせにとうの五条と〇〇は周りの空気に気付いていなくて二人にしか分からない空気の中で戯れている光景に「やっぱり敵わないな」と苦笑いした。

    ●夢主
    まさかのクラスメイトの告白にめちゃくちゃドキドキして彼にとって〇〇に好意を向ける上で五条が「邪魔」な存在だったと言う含みのある抗議には全く気付いていないし、ずっと監視してた?と言うくらいのタイミングで邪魔しに来た五条にも気付いない。むしろやっぱり五条が居たから恋愛運が落ちてたのかな?と思ったりしている。自分だけが特別扱いされている?と言う疑問はまだまだ解決していないし納得していない。


    高校編終わり
    ________________________


    【昔からその顔見てるし〜大学編】

    「んでさぁどこのサークルもゼミも俺の顔しか見てない訳よ?」
    『傑、この肉団子もう入れて良い?』
    「うん。春菊もお願い。」
    『OK』
    「しかもヤリ○ん疑惑出す奴までいてさ?もう面倒だから俺と傑がデキてるって事にしたら俺らの地元と同じ出身の奴がいて秒で嘘がバレた。」
    『ん〜良いお出汁が出てる。』
    「まだ春だしお鍋いけるでしょ?」
    『むしろお鍋でいい。最後のうどんかおじやで悩むあの瞬間が好き!』
    「お前ら話聞いてる?二人だけでニコニコ見つめ合ってさー」
    『悟が帰り道から腹減った腹減ったうるさいからいつもより早めに作ってんでしょうが!』
    「すみません!」
    『謝るの早っ』
    「○○気をつけて。悟は謝れば許されると思っているからね。悟は肉団子抜きにしよう。」
    「おーい、今日の飯代俺が出してるんですけど〜」
    「良くないね悟。亭主が稼ぎだけあれば良いみたいなのは将来お嫁さんとの関係に亀裂が入るよ。」
    「何目線だよお前。」
    『傑は昔から手際良いよね?鍋の味付けも美味しいもん。良い旦那さんになりそう。』
    「嬉しいね。○○も最近自炊頑張ってるじゃないか?」
    『せっかくキッチンあるんだし使わないとなって』
    「あーはいはい。俺だけ除け者ですね。分かりましたよ、硝子に電話しよっと」
    「『やめろ!』」
    「何でだよ?」
    「せっかく彼氏と同棲してて勉強だって毎日大変だろうに少しは気を遣いなよ?」
    『そうだそうだー。』
    「チッ、分かったよ。とりあえず皿の準備しとく〜」
    「やれば出来るじゃないか?」
    「だから何目線?」
    「少なくとも"デキてる"なんて無許可で噂を流した君に鉄槌を下さないだけ優しい親友だとは思ってるけど?」
    「ソウデスネー」
    『悟、お皿の数足りてないよ?』
    「はぁ?お前ホラー映画の展開じゃねんだから。」
    「忘れたのかい?今日は後から二人合流するって話してたよね?」
    「・・・忘れてないけど。」

    遡る事四月初旬、三人は無事に大学へ入学した。入学式から早速目立った二人からなるべく距離を取るつもりが門の前で「撮るでしょ?写真。」と無理矢理五条と夏油の真ん中に連れて来られた〇〇。「無事に今日を迎えましたって硝ちゃんに写真送ってあげなきゃ。あははあなた囚われた宇宙人みたいね。」と呑気に笑う母親に敵うはずもなく入学式は終わった。オリエンテーションでも五条に見つかり三人で行動する事になった。初日の授業からはさすがに学部も分かれて来る為、新しい友達や新しい環境に胸を躍らせていた。広すぎる敷地の中では一目惚れをしても再会する事はないと言われている。それくらい広くて人も多いと言うのに五条と夏油は見事に目立った。使う講堂も違うはずなのに学食や休憩の合間にニヤニヤ笑いながら〇〇の前に現れた。中学や高校と違い二人とはどんな関係なのかそれを説明してもまた新たな友人から質問責めにあうし勝手な噂も立てられる。紹介目的や近付きたい欲望ダダ漏れの人たちが後を経たなかった。〇〇は入学して早々に頭を抱えたが逆に人の多さにも救われて何も知らない、噂に興味がないと言う人ももちろん多い為、安心して身を寄せられる人たちにすぐに出会う事が出来、数週間経つ頃には"大学"と言う環境にも慣れていた。
    最近では毎日のコーディネートやコスメにヘアスタイル、更にはネイルにとバイトをしてお洒落にも力を入れなければと学業以外も忙しい。五条や夏油も好きで目立っている訳ではない為、最初こそは面倒にしていたが〇〇と同じく生活に慣れたようでそれなりに大学を楽しんでいた。

    夏油は基本的に女の子たちに優しいタイプだが大学ではチヤホヤされて囲まれるような事は望んでいなかった為、本格的なアウトドアを楽しむサークルに入った。また免許を取ってからは親にローンと言う名でアウトドアに最適な車を買ってもらい時間が空いた時はバイトに励んでいた。たまに行き帰りの時間が合えば五条と〇〇を乗せてあげたりスーパーへ買い出しに連れて行ってくれていた。自炊を始めた〇〇も元々手先が器用な夏油も料理を楽しんでいて五条も三人でご飯を食べる日はいつも嬉しそうにしていた。

    サークルと言えば〇〇。以前オープンキャンパスでお世話になった先輩が〇〇の事をしっかり覚えてくれていた為、団員たちから温かく歓迎され念願の演劇サークルの一員になる事が出来た。劇場は完成間近で一ヶ月後にサークルのOBである現役の役者や演出家も招待して記念舞台が行われる予定だ。〇〇にとっての初の舞台になる。まだまだ学ぶ事も多く、直接的に舞台に携わる事は出来ないがそれでも舞台の世界を感じられてすでに幸せな気持ちでいっぱいだった。三、四年生は卒論や進路に向けての準備ですぐには合流出来ていないが優秀な脚本家と演技派の役者がいるらしく〇〇は本格的な稽古が始まるのを楽しみにしていた。

    五条はサークルに入っていなかった。たまに夏油のサークルに顔を出しているが活動内容が思ったよりも本格的だった為、あくまで顔を出す程度になっていた。冷やかしはダメだと夏油にも〇〇にも釘を刺されている為、五条なりに気を遣って二人のサークルの時間は邪魔をしなかった。ただしオープンキャンパスで〇〇と二人で見た建設中の劇場だけは完成したら一緒に見たいと約束しており〇〇もそれに関しては了承している。

    「もしもし、今日って午後から授業ないんだよな?傑と一緒にいるんだけど今どこ?」
    『サークルの先輩に写真科の方に去年の舞台の写真が現像されてるから見学も兼ねて取りに行くように頼まれてるんだよね。』
    「まじ?俺ら結構近くにいるかも」
    『ん?』
    「どうした?」
    『・・・・?』
    「〇〇?あれ?おーい聞こえてる?」
    何も返事がなくなった〇〇に五条は首を傾げていた。その頃〇〇はある一人の男と目が合っていた。見覚えはないが相手はこちらを見るなり目を見開いた。すると急足になり〇〇の方へ向かって来た。〇〇は少し驚いたが自分に用があるのかもしれない。もしかするとサークルの先輩から連絡が伝わって写真を渡しに来てくれた人かもしれないととただ見つめ返していると
    「〇〇さん!」
    『え?』
    名前を呼ばれ手を取られた。写真を渡す人のテンションでは無く、物凄い気迫で思わず肩が跳ねた。相手の男は金髪で背も高くハーフっぽい見た目だった。五条や夏油とはまた違う雰囲気のイケメンで声も低く大人っぽく、さすがにこの見た目の人は一度会ったら忘れるはずがないがどうしても思い出せず〇〇は困惑した。
    「あ、えっと・・・」
    男は〇〇の反応にすぐにしまったと言う顔をすると悲しそうな表情になった。〇〇もこちらが失礼な事をしてしまったのかと思い更に困惑していると
    『わっ!』
    「誰?」
    気不味くなってしまった二人の間に突然現れた五条が〇〇を庇うように割って入った。相手の男もスタイルが良いがさすがに五条ほどではなく見下ろされるような形になり、五条も何を勘違いしているのか男に向かって威圧的な態度を取った。
    「っ、」
    男は五条の登場に再び目を見開いた。自分が問い詰めらている状況とは全く思っていないようで驚いている様子だった。五条の知り合いなのかと思ったが〇〇と同じく五条も男に見覚えはなかった。周りから種類違いのイケメン二人が揉めている?と最悪な形で目立っていると気付いた〇〇が居心地悪くなっていると
    「こら悟、話も聞かないで失礼な態度を取るべきじゃないよ。すみませんでした・・・っ。」
    「夏油さん、、、。私が悪いんですがその、、、これは一体、」
    〇〇の気持ちを察して助け立ちするように現れた夏油と男が驚き見つめ合った。男だけではなく夏油も目を見開いているのでなんだ夏油の知り合いだったのかと〇〇は交互に二人を見つめた。夏油は何かを察したかのように慌てて男の肩を持った。
    「あぁ悟、〇〇。彼は私の知り合いなんだ。久しぶりの再会だからちょっとあっちで話して来て良いかな?良いよね?よし、こっちだ。」
    夏油は胡散臭い笑みを浮かべながら男の肩を抱きながら二人から離れて行った。取り残された二人は目を合わせて
    『傑の知り合いだったんだ。』
    「俺あんな奴知らねーんだけど」
    『まぁ親友でも知らない事の一つや二つあるんだよ。』
    「お前こそ何であいつに腕掴まれてたんだよ?と言うか俺の顔見てびっくりしてたよな?」
    『確かに・・・私の顔を見た時も一瞬だけびっくりしてた気がする。』
    「お前が変な奴に絡まれてるかと思って助けに入ってやったんだから飲み物奢ってよ?」
    『悟の方がよっぽどタチが悪いたかり屋じゃん!」
    「はぁ?あいつのが変質者だろ!」
    『最初はびっくりはしたけどそんな風には見えなかったよ?どちらかと言えば落ち着いてる感じ?』
    少し離れた所で話し始めた二人の後ろ姿を見つめながら〇〇は呟いた。
    「お前は知り合いじゃないだろ?」
    『そうなんだけど。改めて見るとなんか大人っぽいよね?』
    「老け顔」
    『失礼すぎ!年上かな?何年生だろう?』
    知らなかった突然の親友の知り合いにモヤモヤしているのに更に〇〇に関しては善意で助けたのに気に食わない相手に憧れの眼差しまで向け始めて五条は面白くないと言う顔で夏油たちの背中を睨んだ。

    機嫌が悪そうな五条の視線から逃げるように少し離れた所まで移動して来た夏油と男はようやく向かい合った。
    「どこから話そうか?そうだね・・・まずは久しぶり、七海。」
    「お久しぶりです。夏油さん。」

    それは前世ぶりの再会...

    「もし私と話したくないならもうこのままでも構わないんだけど」
    「・・・ご冗談を。〇〇さんに咄嗟に声を掛けてしまったのは私の失態ではありますがあの人に目を付けられてしまったので今後フォローして頂かないと困ります。」
    あの人とは五条の事だ。七海は夏油と目が合った瞬間に記憶がある人だとすぐに分かった。夏油も同じく七海と目が合った瞬間に悟ったがだからこそ自身の前世の行いは七海にとって良い記憶ではないと思い気を利かせたつもりだったが前世の在学時代と変わらぬ態度に優しく微笑んだ。
    「会って早々に変な話をしてすまなかった。硝子にも愚問だって言われた事を思い出したよ。前世の可愛い後輩の頼みなら頑張るしかないね。」
    「家入さんもいらっしゃるんですね。その言い方だと記憶があると?」
    「あぁ。この大学にはいないけど硝子は記憶があるよ。記憶がない悟と〇〇、四人で小さい頃から幼馴染だ。」
    七海は大きくため息をついて額を押さえた。
    「みなさん仲が良さそうで何よりですがよりにもよってあのお二人が記憶がないんですか?」
    夏油は苦笑いして
    「やっぱりそう思うだろ?今世でも世話が焼ける二人だよ。」
    「え?世話が焼けるって、」
    「七海にあんなに威圧的な態度を取っておいて悟、〇〇と付き合ってないんだ。二人とも昔みたいな淡い雰囲気は全くなくてね。そのくせ大学だとか私の進路まで巻き込んで悟は悟自身も分かっていない執着心を〇〇に向けていてもうお手上げだよ。」
    七海は更にげっそりした顔をした。その表情が前世の時と何も変わらなくて夏油はお手上げと言いながらも可笑しくなった。
    「灰原でさえ記憶があると言うのに」
    「灰原もいるの?会いたいね。」
    「泣いて喜びますよ。私たちも皆さんのように幼い頃から一緒でここまで来ました。」
    「そうだったんだね。ん?あれ?七海一年生?今世では同級生かな?」
    「申し上げにくいんですが二年生です。」
    「は?あははは。これはこれは失礼しました。七海先輩。」
    「本当に止めて下さい。あなたも昔から常識を語るくせにタチ悪いですよね?五条さんの親友と言うだけで察してますがやはり距離を置いた方が身の為でしょうか?」
    「え〜。もう言質取ったからね。それに悟と〇〇の前で変な態度も取れない。」
    「取れないどころがお二人どんどん近付いて来てますが?」
    夏油が七海の言葉に振り返ると草むらから顔を覗かせる二人の姿があった。目が合うと二人はわちゃわちゃしながら戯れていた。
    「ふふあの距離感はあの頃と変わらないのにね?」
    「変わらないのは良いですが最初の印象が悪かったのかものすごく睨まれてるんですが?」
    「あはは可愛いだろ?昔みたいにもう最強だって言う力は悟にはないし野良猫みたいじゃないかな?」
    「いい加減にして下さいよ。呪力があろうがなかろうがあれは五条悟と言うだけであれなんですよ。」
    「君、今世は先輩なんだしもっと強気でいきなよ?」
    「歳の差ごときで黙るような性格じゃないからまた今世でもあなたに声を掛けたんでしょう。」
    今世では年上とは思えないあの頃のままの可愛い後輩の姿に揶揄っている張本人の夏油は穏やかに笑う。四人で今世も会えた。わだかまりのない世界でみんなが生きていて、それだけで十分だったのに七海や灰原と言う大切な存在がまた増えた。腹を括った人生だったがどうやら今世ではまだ幸せを噛み締めて良いそうだよ?硝子。と内心思うが家入の「今生きてる、それだけだよ。くだらない事考えるな。」と言う男前な返事が頭の中で響いた。夏油はすぐにセンチメンタルな思考に反省し
    「相変わらず面白いね、七海。そう言えば学部は?経済学部とかにいる?」
    「写真科を専攻をしてます。」
    「え?言われてみればこの辺りはデザイン系のエリアだったね。」
    「意外ですよね?自分でも思います。前世の記憶を考えれば慣れ親しんだと言いますか、経済や数字に関わる道に進んでも良かったんです。カメラで生計立てるとも今はまだ考えてないです。でもせっかく呪いのない世界に生まれたのならもっとフランクな生き方をしても良いのかなと...まぁ記憶があるのが良い事なのか不幸なのかはまだ私にも分かりません。ですが灰原も彫刻や金工にハマっていますが彼は毎日楽しそうなので良かったんだと無理矢理解釈してますよ。」
    七海の言葉に夏油は先程までの自分の思考を完全に吹き飛ばすように嬉しそうに笑って
    「良いんじゃないかな?実は私も似たようなもので建築系の勉強をしてるんだけど最近アウトドアにハマっていてね。それが将来に結びついているかなんて分からないけど自然の中でゆっくり過ごす時間が心地良くて自分の感覚に身を預けているだけだよ。ちなみに硝子は医者を目指しているけど前世がどうだったからって事ではないと思う。」
    「家入さんはらしいと言えばらしいですね。」
    「それも硝子自身が決めた道だからね。私も硝子もちゃんと今世を楽しんでいるよ。」
    七海は夏油のスッキリしたような表情を見ると
    「灰原にみなさんの事話しておきます。もちろん私のようにならないように記憶ありなしについては説明しておきます。」
    「よろしく頼むよ。硝子にも連絡しておくよ。とりあえず二人には私、硝子に七海と灰原、実は知り合いだったって上手いこと説明するとしよう。共有しておかないと隠し事したりコソコソしたりすると面倒だから。」
    「五条さんに関しては記憶があってもそこは変わらないと思いますよ。あ、共有はすると言いましたが灰原には期待しないで下さいね。」
    「え?」

    夏油の部屋にて

    「何でこいつずっと泣いてんの?」
    『悟!灰原先輩に向かってこいつってやめなよ!』
    「う、うぅ、お気遣いなく、、グスッ」
    「だって灰原と七海が呼び捨てで良いって敬語で話して来るから仕方ねーだろ?な?」
    「はい!!むしろ、、みなさんには、、ぅう」
    「〇〇、俺が言った通りだろ?七海もだけど灰原も変質者だ。」
    『やめなってば。』
    カオスな状況にも関わらず夏油だけは嬉しそうに笑いながら〇〇と作った鍋をみんなに注いで回っていた。七海の言う通り灰原は五条たちの事情を説明されても五人で集うとボロボロと泣き出してしまった。ひと学年上だと言うのに五条たちに後輩のような振る舞いをしてしまい七海はもうフォローを諦めて灰原に便乗して「私の事も呼び捨てでどうぞ。」と言い始めた。五条は夏油と更には家入の知り合いでもあると言う七海と灰原に警戒心MAXだったが食事会早々に嬉しそうに泣いて笑う灰原を見て馬鹿馬鹿しくなった。
    『せ、せめて君付けで...えっと灰原くんは彫刻とか陶芸とかもしてるんだよね?』
    名前を呼ばれた灰原はとにかく嬉しそうに
    「はい!最近金工にもハマってて、あ!良かったら○○さんと五条さんに指輪作りましょうか!」
    「誰が野郎から指輪なんか貰うかよ。」
    『あ、あはは。別に指輪じゃなくても大丈夫だけど。』
    七海は内心、勘違いしている二人にペアリングの事ですよ。と突っ込もうとしたが更に混乱を招き兼ねない為、口を閉じた。時間が経つに連れて七海たちとの仲は深まり雑炊を作る時には五条もスッカリ打ち解けていた。○○は特に七海、見た目や大人っぽい雰囲気から最初は緊張していたものの何故だか自然に名を呼び話せる事に驚きを隠せなかった。衝撃的な出会いからすぐに友人たちから七海もかなり学内でモテていると噂を聞き、更には年上だ。自分の態度は失礼かなと思うのに話し出すと不思議と気軽に話せてしまうのだ。

    『七海くん、それ一眼?』
    灰原が五条と夏油に絡まれている姿を七海は自前の一眼レフカメラで撮影していた。
    「はい。」と答えながら写真に納めた三人の姿を見せた。
    『めちゃくちゃ綺麗。と言うか技術があるって事だよね。』
    「レンズが良ければわりと綺麗に撮れますよ。」
    『そうなの?カメラって使ってみたいけど高いよね?』
    「まぁそれなりにしますが写真科では自分でカメラを持ってない人も沢山いますしカメラから替えのレンズや三脚、レフ版と貸出もありますから今度遊びに来てみますか?」
    『え!そうなの?そんな気軽に出入りしていいの?』
    「うちはゆったりした人が多いですしカメラに興味があると言われたらむしろ喜びますよ。触って見ますか?」
    『こ、壊さないかな?』
    「大丈夫です。覗いて、シャッターボタンをゆっくり押しながらピントを合わせて、」
    そんな二人のやりとりを五条はこっそり見ていたのだった。

    それから数日後
    『お待たせってそれどうしたの!?』
    講義が終わり五条と夏油が待つ広場へ向かうと○○に向かって一眼を構える○○五条の姿があった。
    「買った。」
    『これだから坊ちゃんは!』
    「出掛けた時とかに撮れるから良いだろ?傑もサークル活動用に買うって言ってたし」
    夏油は少し離れた場所で学友と話していた。二人とも七海の影響だろうかと思ったが彼ら、特に五条のプライドが許さないだろうと察して〇〇は笑って流した。
    「なぁ?」
    『ん?』
    「撮らせて」
    五条はベンチから立ち上がると「そこに立って」と言いながらカメラを構えた。こうなると五条は引かない性格と言う事も理解している〇〇は適当に笑って見せた...が
    「こっち向いてよ。」
    『は?』
    「レンズ見ろって」
    そう言う事かとレンズを見つめるが
    「逸らすなって!」
    『早くシャッター押してよ!』
    何度も何度も指摘されるが目を逸らしてしまう。先日七海からカメラを借りた時に気づいた事、カメラを覗き込むとレンズを見つめる相手が鮮明に見えて、目もしっかり合うのだ。撮る側としては何も思わなかったが今自分の姿や気まずくて目を逸らす瞬間を覗き込まれていると思うと恥ずかしくて堪らなくなったのだ。
    『もう撮ったでしょ?傑の所行くからね!』
    そう言い残し逃げるように立ち去った。
    〇〇は灰原たちも合流していたグループの中に入ると早速陽気な灰原に笑わされた。
    五条は「なんだよ。照れやがって」と言いながらベンチに座り込むと自然体に笑う〇〇に向かってシャッターを切った。

    「五条、カメラ買ったんだろ?写真見せて。」
    「良いけど壊すなよ。」
    「エロい写真とかないよな?気不味いからやめろよ。」
    「ある訳ねーだろ殺すよ?」
    「え!?待って、可愛い!誰この子?」
    「はぁ?誰って〇〇だろ?」
    「こんな笑い方すんの?すげー自然体。てかお前写真うまくね!?」
    「はっ、だろ?でもあいつ向き合っての写真は緊張すんだよな。」
    「いやいやこれが良いんだろうが。と言うか良い表情だったからシャッター切ったんじゃねーのかよ?」
    「良い表情って言うか...昔からその顔見てるし。」
    「なんかむかつく〜」
    友人と五条の会話を聞きながら夏油は何度目か分からないため息をついた。誰がなんと言おうとどんなプロが撮ろうと五条が撮る〇〇は一番綺麗だった。



    【俺は肉まんの気分】

    ○○は緊張で唾を飲み込むのさえ躊躇した。
    「今のセリフもう一回、」
    「はい。」
    演劇サークルでは記念公演に向けて本格的な稽古が始まっていた。入部してからまだ挨拶が出来ていなかった先輩たちも加わると一気に劇団の空気になった。脚本を担当する男性の先輩は七海のようなクール雰囲気だったが稽古が始まるとかなり熱血的だ。実力のある役者の一人である女性の先輩はモデルの仕事もしているようで周りの女の子たちとはオーラが別格で涙を流す演技も難なくこなす。偉そうにする事もなく彼女は本気で役者の道を目指しているようで熱血的な指導にも弱音を吐かずに何度も何度も同じ場面、セリフをやり直した。まだ新入部員で見学のつもりでと先輩たちから優しい言葉を掛けられていた〇〇だったがいざ、稽古が始まると誰よりも緊張した様子で稽古を見守っていた。

    再来週は完成したホールを見に行くのと合わせて場当たりが行われる事になった。稽古の帰り道、〇〇はオープンキャンパスの時からお世話になっている先輩と駅まで歩いていた。
    「緊張してたでしょ?」
    『めちゃくちゃドキドキしてました。』
    「顔見てすぐ分かった。あ、再来週は五条くんも呼ぶでしょ?」
    『え?悟ですか?なんで?』
    「なんでってオープンキャンパスの時から二人で劇場の完成楽しみにしてたでしょ?」
    〇〇は五条から劇場が完成したらすぐに呼んでくれと言われていた事を思い出した。
    『でも良いんですか?場当たりは撮影の人たちなら分かりますけど全く関係のないサークル外の人には見せない方が』
    「先に見学の時間があるでしょ?一応演劇サークルがメインのホールではあるけど今後は軽音とか吹奏楽とか他にも発表会で使用したいってサークルや学部から希望が出てるから全然問題ないよ。」
    『そうでしたか。』
    煮え切らない返事の〇〇に先輩は笑って
    「まぁ五条くんと夏油くんだっけ?二人とも目立つもんね。」
    『そうなんですよ。あれ、小さい頃からですから』
    「幼馴染なんだよね?大学まで一緒なんて本当に仲が良いね。」
    『マンションまで一緒ですけど何か?』
    「まじ?・・もう何度も質問されてると思うんだけど」
    『恋愛感情はお互いないですからね。悟ももちろん傑も』
    「あはは。質問バレてた。でもさ、初めてオープンキャンパスで出会った時付き合ってるとかそう言うのじゃなくてなんか良いなって思えたんだよね。」
    『何ですか?なんか良いなって?』
    「ん〜難しいな。そうだな〜二人にしか出せない特別な空気を感じた。」

    “特別”

    その言葉を聞いたのは高校生活最後の文化祭の時に五条の元カノから言われて以来だった。あの時彼女から告げられた言葉と思いに戸惑いを覚えたが五条との変わらない関係にいつの間にかその悩みを忘れてしまっていた。目の前の先輩は穏やかに笑っている、あの時の羨望の眼差しも、哀しみの訴えもなにもない。純粋な言葉だ。だから何も悩む事も思い悩む事もないのに・・・いや、純粋な言葉だったからこそ〇〇はまた胸がピリつつく感覚を覚えた。笑って誤魔化そうとすると頭痛がして頭を押さえた。
    「〇〇?大丈夫?」
    『っ、だ、大丈夫です!』
    「稽古長かったし疲れたかな?この時間なら空いてると思うから電車に乗ったらすぐ座って」
    『すみません。ありがとうございます。』
    駅に着くとちょうど良いタイミングで電車がホームに入って来た。先輩の誘導で座席に着くと目を閉じた。

    五条との空気が周りの人から見て違って見えるのは本当に幼馴染だからだと思っている。なら何故同じく幼馴染の夏油や家入の事は指摘されないのか。いつも自分と五条だ。そして“特別”と言う言葉まで付くようになった。〇〇は小さい頃の事を思い出してもやはり五条との空気はあの頃から何も変わっていない。思春期を迎えて多少周りの目を気にするようになって五条と距離を置こうとしても五条がそれを許さなかったら疎遠になる事は一度もなかった。それが特別な事だと思った事も一度もなかった。それなのに・・・それなのにどうも深く考え込んでしまって頭を痛めている。自分が五条へ片思いでもしていたら何かしらこの頭痛の原因の答えは出たかもしれないがそんな物はない。分からないのだ。

    『お先に失礼します。』
    「大丈夫?また明日ね。」
    席を立ち先輩に頭を下げると〇〇は電車を降りた。入学前に五条が決めたマンションは考えごとの時間など与えてはくれない、それほど大学の駅から近かった。最高の立地だといつも思っているのに今日だけはもう少しゆっくりしたかったと思ってしまった。夜ご飯の買い物をして帰るか悩みながら改札を抜けて駅前のコンビニに入った。この時点で自炊する気ないなと苦笑いした。弁当コーナーとホットコーナーの肉まんを見比べて悩んでいると
    「俺は肉まんの気分。」
    『悟、』
    「おかえり。さっきまで友達と近くで遊んでてさ、一人になったしもう夜ご飯適当で良いやって思ってコンビニ入ったらお前いた。」
    この男はどうしていつも突然、それも五条本人の事を考えている時に限って現れるのだろうかとため息をついた。
    「顔色悪くね?」
    『大丈夫。ちょっと寝不足かも。』
    誰のせいでこんな顔にと悪態をつきたいが五条は何も悪くないのでカゴを取り背を向けてお菓子コーナーに向かった。
    「あ!ミルクのやつ」五条は当たり前に後ろをついて来るし、当たり前に同じカゴにお気に入りのお菓子を入れる。いつもなら気にしない事が今の〇〇にはその距離が気になって仕方がないのだ。

    会計を終えてマンションまでの道を歩く。結局二人で肉まんを買って五条は隣で飴を舐めている。きっとこの後勝手に部屋に来て一緒に夜ご飯を食べるのだ。
    「どうかした?」
    『・・・どうもしないよ?なんで?』
    「ん〜なんとなく」
    『・・・悟。』
    立ち止まって五条を見上げた。
    「ん?」
    『あの、』

    (私たちって一体何なんだろうね。)

    小さい頃だけの話ならきっと微笑ましい関係で終わっていたかもしれない。でももう大きくなって嫌でも男女の壁が立ちはだかって、自分たちが良くても周りがそれを放っておいてはくれないだろう。そのきっかけが五条の元カノとの会話だったのかもしれない。

    『あ、あの・・・再来週劇場に入れるって!』
    「まじで!俺も行って良いって意味だよな?」
    『先輩が場当たりの前なら見学で来て良いよって。』
    「やった!良かったな。やっと見れるな。」
    『うん。』

    結局話せる訳もなく。責めるのは五条ではなく、自分にも大きな原因があるのかもしれないと〇〇は笑顔の裏で泣きたくなっていた。



    【俺役者じゃないし】

    「すげー!これ金払って来る場所だよな?」
    「確かに立派だね。○○?」
    『・・・』
    「はは、見惚れて全然話聞いてねー。まぁ一番楽しみにしてたもんな。」
    劇場の見学の日、約束通り〇〇は五条、そして夏油も誘った。新しいホールに見学者全員が感動していた。舞台で使う機材も今回卒業生のご厚意で新しい物が贈られていて音響担当や別の音楽サークルのメンバーも目を輝かせていた。

    『じゃあこの後場当たりだから』
    「頑張ってね。本番も楽しみにしてるよ。」
    『私に出来る事なんてまだまだだけど、でもお芝居は本当に面白いから是非見に来て。』
    「ちょっと待ってくれ!」
    時間になりホールの玄関口まで行き二人を見送っていると脚本を担当している先輩が凄い形相で現れた。
    「良かった!まだいた!えっと君、五条くんだったかな?」
    「はい?」
    「君にお願いがあるんだ。主人公役の役者が遅れてて君に今日だけ代役をお願いしたい。」
    「「『えーー??』」」
    主人公役の先輩は見た目もシュッとしているが五条のような雰囲気ではないし背丈も違う。それならば他の団員に頼めば良いのではと三人は思ったが
    「さっき君を初めて見た時に僕が本来描いている男の感じに凄く合っていてビビッと来たんだ。見た目とかじゃなくて説明が難しんだけど兎に角直感ってやつだ。」
    「え、でも俺セリフとかわかんねーし」
    「立ち回りだけだ。今日はそれを確認する日だからね。その都度こちらから指示を出すから立ったり座ったりしてくれるだけでいいよ。あとは照明の確認とか他のスタッフが動き回るからその時は待機してくれた良いから」
    「あ、あの横からすみません。悟に対する直感?ですかね?それは良いんですけど本来の主人公役の方は嫌な気持ちとかになりませんか?」
    フォロー担当の夏油が苦笑いしながら尋ねると〇〇も内心では首を縦に強く振っていた。
    「むしろ彼の事を一番信頼しているからこそ主人公の役をお願いしているから問題ない。今五条くんの姿を目に焼き付けたらもっと役の中の男の姿が明確になる。そうすれば彼にも的確な演出が出来る。」
    「そんなもんなの?」
    『わ、私に聞かれても・・・』
    五条の質問に冷や汗をかく〇〇。脚本や演出に憧れてはいるが演劇の世界はこんな強引な事も有なのかと問われたら返答に困る。
    「てか知らないよ?それでやっぱり主役俺のが良いとか言われても俺役者じゃないし。」
    「『偉そう!』」
    「大丈夫さ!役者としては全く期待していない!」
    「『失礼!』」
    五条と良い脚本・演出の先輩といい、これでよく喧嘩にならないなと完全中立派の夏油と〇〇は困惑しながら二人にツッコミを入れた。
    「そもそも俺、こいつが気に入ってるサークルだしここでの記念公演楽しみにしてるんだけど。ネタバレとかあったら嫌なんだけど。」
    そう言われた先輩は一瞬キョトンとしたが〇〇を見つめる五条の姿を見てすぐに笑顔になった。
    「ああ。彼女を信頼していいよ。このサークルは本当に素晴らしい。今日の君の協力も含めて舞台は最高だったと言わせてみせるよ。」
    先輩の言葉に五条は「へ〜」と面白そうに笑うと手伝いを了承した。
    「君は夏油くんだよね?時間があるならそのまま客席から見学してていいよ。」
    「ありがとうございます。」
    「〇〇、案内お願いして良いかな?君も今日は手伝いは気にしなくて良いから全体の動きを客席から見学しておいで。」
    『は、はい!』
    見学の許可をもらった夏油と〇〇は客席へ向かった。各自機材のチェックをしたり慌ただしい。役者たちは大学内でもかなり目立っている五条が代役として現れた事に驚いてはいたが突拍子もなし事を言い出す脚本の彼に慣れているのかすぐに切り替えて五条に場所の指示や説明を開始した。

    「あの先輩面白いね。」
    『普段は全く喋らないんだよ。怖いとかじゃないんだけどね。舞台の事になると別人。』
    「舞台馬鹿ってやつかな?」
    『ふふ。そうかもね。』
    客席から夏油と一緒に舞台を眺めているとヒロイン役の先輩が五条の隣に並んだ。
    「綺麗だね。モデルとか?」
    『モデルの活動してるよ。本気で役者への道を考えてる人なんだ。綺麗だしスタイルも抜群だけどチヤホヤされるのが目的じゃないって感じだしとにかく意識がめちゃくちゃ高くて尊敬してる。』
    「へ〜確かに悟と並んでもキリッとしてるし、硝子っぽい美人さんかな。」
    『あ〜悟に対する部分は近いかも。』
    「演技もうまいの?」
    『とってもうまいよ。泣きの演技も涙をポロって出せちゃう。早く本番見てほしいな〜』
    「凄いね。物語は面白いの?」
    『先輩の言う通り期待して良いよ。泣いちゃうシーンもあるし』
    「楽しみなのに今日の悟が目に焼きついて当日思い出して台無しになったらどうしよう。」
    『やめてよ。こっちまで感染してツボに入ったらどうすんの?』
    目の前では周りから腕を引かれて素直にその場に立たされる五条。微動だにしない姿はマネキンだ。夏油と〇〇は笑いそうになってしまい必死に笑いを堪えた。二人が座った席は舞台上からも一番離れている席だった。こんな風に二人が笑っているとバレてしまえば機嫌が悪くなるかもしれないと死角になるような席を選んだのは○○のアイデアだ。夏油は本当にこの席で良かったとクスクス笑った。

    「じゃあ客席照明落とそうか?」
    本番の時と同じ環境にしようと客席の照明が暗くなった。〇〇と夏油も口数が減ってきて舞台上の様子を真剣に見守った。
    「あのシーン良い?」
    演出家の言葉にヒロイン役の彼女はすぐに理解しその場に横になった。詳しく言わないのは五条へのネタバレの配慮でもあるが役者と演出家との意思疎通が完璧だと夏油は感心した。五条はアシスタントスタッフから指示を受けると膝をつき寝そべるヒロイン役の彼女を抱き抱えるように支えた。舞台上の照明も極限まで絞られると二人だけにスポットライトが当たった。「もう少し寄り添う感じにできる?」と言われて五条は少しだけ彼女に顔を寄せた。周りの団員たちは五条とヒロイン役の彼女があまりにも絵になる為、小さく歓声を上げていた。
    「喋らないと本当に絵になるよね?どんなシーンかは分からないけどここは物語の中でかなり大切なシーンじゃないのかな?...○○?」
    ○○から反応がない。舞台好きな彼女の事だから感動しているのかと顔を向けると○○の顔を見て言葉を失った。

    泣いていた。しかし感動して泣いているような様子ではなかった。目を見開いて口は半開きで涙だけが静かに零れ落ちていく。もう一度と声をかけようとした瞬間に○○は顔を歪めて頭を押さえ込んでしまった。呼吸も苦しそうで蹲っている。夏油はすぐに心配して立ち上がり大きな声を出そうとしたが○○の腕が伸びて来て制するように夏油の手を握り強く首を横に振っていた。夏油は周りに迷惑をかけたくない○○の気持ちを察すると
    「大丈夫だよ。救急車を呼ぶまでもないって信じて良いんだよね?騒がしくしないから、まずは立てる?落ち着くまで待つから、」
    ○○はゆっくり頷いた。夏油は静かに席を立ち○○を支えるようにして連れ出した。客席の隅で待機している団員に小声で
    「すみません。気分が悪いみたいで、本人も迷惑をかけたくないみたいなので終わったら皆さんに退室したと伝えてもらって良いですか?せっかくお誘い頂いたのにすみません。」
    団員は俯き顔色が窺えない○○の姿に心配した様子で夏油の伝言をすぐに了承した。
    「だったら楽屋が空いてるから使って。私からみんなには伝えておくから。」と団員は楽屋の位置を案内してくれた。夏油はホールから出るとすぐに○○を抱き上げて楽屋に向かった。新品の香りがする楽屋に上がるとソファに○○を下ろした。

    「○○、本当に大丈夫?自販機で水買ってこようか?それともやっぱり病院に行く?」
    夏油は床に膝をついて目の前にしゃがみ込み心配そうに顔を覗き込んだ。ようやく顔を上げた○○はまるで小さな子供が泣きじゃくり息を整えながら必死に何かを訴えかけているような姿だった。

    『あ、ぁ...すぐ、、る』
    「ん?どうしたの?」
    夏油が優しく返事をすると○○はポロポロと涙を流し始めたがもう苦しそうな表情からは解放されていた。
    『じゅ、呪術、高専、呪術師、、全部おも、い出しちゃった、、』
    その言葉に夏油は全てを察して目を見開いた。
    「○○...ごめんね。私も、、、私も記憶があるんだ。」
    どこから話すべきだろうか。困惑しているに違いない。何よりも気掛かりなのは五条との関係だ。二人は今世では結ばれていない。きっと悲しむに違いないと言葉に詰まっていると
    『そっか...良かった。』
    「え」
    ○○は夏油が想像していた反応ではなく嬉しそうに笑い泣いていた。
    『私、硝子と傑と悟とまた会えたんだ。また四人で会えたんだ。傑と悟はまた親友になれたんだね。良かった。』
    「っ、」夏油は泣きそうになりながらも強く○○を抱きしめた。

    「そうだ、そうだった。君って昔からそうだよね。こちらが心配している事の斜め上を行くんだ。」

    「大丈夫そう?」
    『うん、平気。』
    夏油の腕の中から顔を上げた〇〇の目は真っ赤に腫れていた。夏油は思わず苦笑いして
    「今その状態でホールに戻ったら私は犯罪者扱いされてしまうから今日は」
    『うん、分かってるよ。みんなには申し訳ないけど今日は大人しく帰宅させてもらうつもりだから。』
    「今日は車で来てたから良かったよ送るから一緒に帰ろう。」
    『ありがとう。』
    ソファーに深く座り直すとゆっくりと深呼吸をした。少し落ち着いた様子を見届けると夏油もテーブルを挟んだ向かいのソファーに腰掛けた。改めて目が合うと夏油は
    「さっき話ように私は物心がついた頃くらいか記憶があるんだ。」
    『そんなに前から、』
    「ごめんね。」
    『どうして謝るの?』
    「全て知っててそばに居たって思ったら嫌な気分にならないかい?」
    『何言ってるの?これは仕方ない事でしょ?それに一生あの頃の記憶を思い出せないまま終わってしまう事だってあり得た事なんだし。だから傑が謝る必要はない。と言うか』
    〇〇は頭を押さえながら
    『こんな情報量・・・小さい頃から受け止めて大変だったでしょ?』
    「そうだね。量というより質かな・・・君たちと一緒に居ていいのか悩んだよ。でも同じ境遇だった硝子は達観してた。こうやって出会ったんだから今世を楽しもうじゃないかって」
    『ふふ、硝子らしい。・・・私もまた傑に会えて嬉しいよ。』
    「ありがとう。私もだよ。」
    その瞬間、穏やかで優しい空気が二人を包んだ。夏油は小さい頃から悩んで来たがこうしてまた会えて嬉しいと五条とまた親友で嬉しいと泣いてくれた〇〇に対して胸が熱くなっていた。それと同時に幼い頃にどこまでも男らしかった硝子に心から感謝した。
    「でもそっか、硝子も知ってるんだね。小さい頃から妙に落ちついてた硝子を思い出したら確かに納得できちゃうな。元からの性格もあるかもしれないけどね。あ、』
    何か思い出したように顔を上げて
    『まさか、七海、、、七海くん!灰原くん!』
    〇〇の表情に夏油は笑って
    「そうだよ。色々繋がった?」
    『だから私の顔を見て驚いてたんだ。でもまさか私たちより年上になって再会するなんて』
    「それ一番気にしてるから言わないであげて」
    出会って間もない、それも年上で見た目も大人っぽい七海に何故自分が気兼ねなく接し、仲良くなれたのか〇〇はようやく理解出来た。そしてすぐに笑い出して
    『それにしてもふふ、灰原くん隠す気ないよね?めちゃくちゃ泣いてたよね?』
    「あははは。私と七海は灰原の事は諦めてたから」
    二人で笑い合った後、〇〇はもう一度深呼吸して背もたれに身を預け天井を見つめた。
    「本当に大丈夫?頭痛や貧血みたいな状態だったけどそれは記憶が戻って来た代償?」
    『そうかもしれない。高校の時に全く同じ経験をしたの。』
    「え、いつ?」
    天井を見つめながらゆっくりと目を閉じた。
    『最後の文化祭だよ。倒れた時だよ。』
    「あの日か、今日とあの日で接点はある?」
    『・・・悟が関係してる。』
    「・・・」
    夏油はこの瞬間一番気に掛けていた事を思い出した。それは二人の関係についてだ。
    『今なら分かる。あの時一瞬だけ頭の中に過った光景は前世の光景だったんだ。』
    「なら今日も悟の事を思い出して?」
    『・・・』
    夏油の問いかけに黙り込んでしまった。
    「たった今思い出したんだ。無理して話さなくてもいいよ?」
    〇〇は首を振りながら
    『さっき悟がしゃがみ込んでヒロイン役の先輩を抱え上げるみたい抱き寄せたよね?』
    「うん。それはつまり、」
    文化祭では五条の元カノとの会話、そして先程の舞台上での光景に前世の恋人として〇〇の魂がその言葉や光景に傷付いたから起きた事では無いかと夏油は内心思っていた。〇〇は首を起こして夏油をまっすぐ見つめた。

    『最後の・・・私の最期の瞬間。』

    「さいご?」
    『私ね、私の前世の最後は悟と一緒にいたから・・・さっきの舞台上のあの光景・・・あんな感じだったかな。とにかくそれが原因だと思うの。』
    夏油は何も言えなくなった。今世では平和に生きているとは言えやはり死に関する話は明るい話と言えない。自分が思っているよりも深く重い部分で〇〇が前世の記憶と繋がってしまった事に言葉を失っていた。
    『前世で悟が付き合う前に両思い?って思うような決定打みたいな言葉を言ったんだけどそれを悟の元カノちゃんが似たような事を言って、そしたら頭が痛くなってね。でもあの瞬間は悟が体を支えてくれたけど記憶が戻る事はなかったし悟に関しては全くそういう気は今現在もないよね?しかもさっきだって私が抱き止められた訳でもないのにね?本当一体何がどうなってるのやら。』
    困ったように笑う〇〇に夏油はようやく口を開いて
    「確かに記憶が戻るきっかけはどれが決め手だったかと考えると君の言う通り最後の瞬間に近い光景を見たからって言うのはあながち間違ってないかもしれない。でも私は君たちの最後の瞬間の事は根掘り葉掘り聞くつもりはない。それは君たちだけの大切な瞬間でありそれもまた二人の大切な時間だったに違いないからね。」
    〇〇はまた泣きそうになったが傑に言葉に笑顔で
    『ありがとう傑。』
    「だけど君はいいの?」
    『え?いいって?』
    「君たちは恋人だった。そうだろ?」
    『あまりの情報量に一気に前世の事を考えないようにしてたんだけど、悟との時間に蓋をするのは難しいね。気を遣ってあんまり探らない傑には悪いけど思い出すきっかけがしっかり悟なんだから隠しようがないよね?』
    「〇〇、私はね悟は君の」
    『でも良いの。』
    「え?」
    『傑は私たちの今世での関係について考えてくれてるんだよね?大丈夫だよ。だって正直この関係でも私は楽しいし悟だってそうだと思う。傑の事だから昔からずっと私たちに気を遣ってたんじゃない?』
    夏油は額を押さえて
    「そりゃ・・・悟に彼女が出来た時なんかたまらなかったさ。君に記憶がないって分かっててもどれだけ苦しかったか。」
    『・・・ごめんね傑。でもね悟が記憶が戻ってもまた恋人同士になれるかなんて分からない。』
    夏油は眉間に皺を寄せて〇〇を見つめ返す。
    「どうして?」
    『硝子が言ったように今世を楽しむだっけ?恋人になりたいって思うのは前世での出来事があったからで今はの私と悟は今の二人だよ。』
    「ううん、難しい話?」
    『ごめん説明が下手だね。つまり、結局小さい頃から出会ってこうやってずっと一緒に居ても恋人同士じゃないんだから記憶が戻って恋人になろうってなっても複雑って話。』
    夏油は再び言葉を失ったはすぐにムッとして
    「それだと学生時代から君たちの関係にハラハラしていた私が馬鹿みたいじゃないか?」
    〇〇はもう何度目か分からない謝罪をして
    『綺麗事を言えば今の悟が幸せなら記憶なんて抜きにしてこのままでも良い。面倒な女になって言えるなら今世での私も好きにはなって欲しかったけど悟に対して恋愛感情を抱かないよにしてた私が言えたギリじゃない。』
    夏油は〇〇の顔を見てポケットの中の車の鍵を取り出して立ち上がった。〇〇に背中を向けて出入り口に向かいながら
    「そう言う所、昔から変わらないね。だから君たちのキューピッド役は大変だった。もちろん今世もね。」
    〇〇は『え?』と言う顔で夏油の背中を見つめた。
    『ま、待ってよ。だから今世はもう、』
    「君は今、今世では恋愛感情を向けてこなかったって言った。それはつまりあえて悟を見てなかったんだ。恋愛感情がなかったなんて言ってないよね。」
    『あ・・えっと、』
    「根掘り葉掘りは聞かないって言ったけどこれだけは教えてよ。記憶があるとかないとかもう良いから〇〇の今の気持ちは?」
    夏油の言葉に〇〇は涙が溢れ出して言葉を詰まらせながら

    『何度蓋をしても、大好きが溢れて来る。』

    「それで十分だよ。じゃあ帰ろうか。今日はもう悟の顔は見れないでしょ?」
    今世でも世話が焼けると言いながら振り返った夏油の表情は優しい表情だった。



    【普通に焦るから】

    マンションへ帰宅する頃、〇〇と夏油のスマホは五条からの着信とメッセージで立て続けに振動していた。車の中で気まずそうにスマホを見ている〇〇の姿に夏油は苦笑いした。
    『傑、さっきはかなり恥ずかしい告白というか・・・悟への気持ちを吐露しちゃっったけどやっぱり』
    「分かってるよ。君の気持ちは尊重しているけど過剰なフォローはしないから安心して。」
    『ありがとう傑。』
    〇〇を部屋に届け次第、夏油が五条への説明を担うと言ってくれた為、〇〇はホッとしたようにスマホを鞄の中に仕舞った。マンションに着き鞄の中を覗き込むと今も尚振動するスマホを見ないふりしながら鍵を取り出した。
    「頭痛や気分が悪くなったのは事実だからとりあえず今日はもう横になりなよ。」
    『うん。何から何までありがとう。』
    「それと、悟と今日顔を合わせられないって言ったけどまさかずっとなんて事はないよね?」
    『・・・それはさすがに、悟に悪いし。段々慣れて来ると思うから。』
    「分かった。無理はしないで。」
    そう言うと夏油はスマホを取り出して
    「じゃあ私は悟に〇〇の体調の説明しないといけないから」
    自分と同じくらい五条から着信が入っている夏油に申し訳なく思いながら〇〇は部屋への中へ入った。

    〇〇が部屋の中に入るまで見送った夏油は自分の部屋に入りながら心の中で〇〇に謝罪しながらため息をついた。「悟、多分一日も持たないんだよな〜」そう呟きながら夏油はようやく五条に折り返した。

    〇〇は化粧を落として部屋着に着替えるとベッドに向かった。横になり目を閉じると前世の記憶が嫌と言うほど流れて来てすぐに目を開けた。流れて来る記憶は暗い出来事ではなかったし大切な日々の出来事を思い出したくないと言う訳ではない。むしろ淡くて温かい記憶だからこそ厄介だ。心を落ち着かせてもう一度目を閉じると今度は五条への気持ちが溢れて来て胸が苦しくなった。

    “『結局小さい頃から出会ってこうやってずっと一緒に居ても恋人同士じゃないんだから記憶が戻って恋人になろうってなっても複雑って話。』”

    自分で言ったくせにそれが自分にとっては酷な現実で今日とは言わずこれからも五条の顔を見て平然を保っていられるのか不安になって来た。夏油や家入に悪いと思いながらもこんな事なら記憶が戻らない方が良かったのかもしれないとさえ思ってしまった。また涙が溢れて来て夏油の前でも泣いた為、泣き疲れたのかいつの間にか眠っていた。どれほど眠ったのか分からないが夜ご飯を食べなくてはと意識を覚醒させ目を開けると
    『っ』
    「おはよ。」
    ベッドの脇に座る五条と目が合い肩が跳ね上がった。鼓動がうるさくなりどうして良いか分からなくなった。何より目を開けた瞬間に見たらしくないほど心配している様子の五条の表情にいつかの記憶が重なってまた涙が溜まって来た為、慌てて寝返りを打ち背中を向けた。
    『女の子の寝顔をじっと見つめるのはマナー違反だしそもそも勝手に部屋に入るのもどうかと思う。』
    〇〇の母親が引越しの日に「〇〇は一年に二回くらい大きなやらかしを起こしちゃう子だから鍵、託しておくね。」と五条に渡していた事を思い出した。今日だけは五条の顔を見たくなかったと言う〇〇の希望は叶わず夏油の予想がしっかり当たった。
    「それは悪かった。でも心配だったんだよ。」
    またもや、らしくないほど素直に謝り落ち込んでいるような五条の声に本来ならば『ご心配をおかけました。』と言うだけなのにどんどん居心地が悪くなって行く。
    『それはごめん。舞台の手伝いまで急遽してくれたのに・・・本当にごめんね。』
    「そう言うこと言わせたい訳じゃないんだけど、と言うかサークルの人たちみんな〇〇の事心配してたからそれも気にすんなよ。」
    『うん、ありがとう。傑が迅速な対応してくれて助かった。』
    「全部聞いた。と言うかその症状でさ高校の文化祭の時に病院行ったよな?」
    『うん。』
    「違和感あるならちゃんと検査してもらった方が良いぞ。」
    『うん。』
    記憶が戻った以上はもうこんな症状にはならないとなんとなく分かっていたが純粋な五条の気遣いに素直に頷いた。
    「それと」
    五条が黙り込んでしまい〇〇は恐る恐る振り返って様子を確認した。思っていた以上に真剣な表情で二人は見つめ合う形になった。
    「なんかあったらちゃんと俺にも言って」
    『え』
    「普通に焦るから」
    『・・・』
    駄目だ、泣いてしまうと思っても手遅れで瞳に涙が溜まった。せめて溢れるなと耐えていると溜まった涙で五条の姿が霞んでいった。そのせいで気付くのが遅れたのか気づいた時には五条の大きな手が〇〇の頭を優しく撫でていた。
    「大丈夫か?体調悪いとメンタルも不安定になるって言うし温かいもんでも飲む?」
    声を出したら今度こそ涙が零れ落ちてしまうと〇〇は小さく首を横に振った。
    「分かった。起こしてごめんな。まじで何かあるなら病院行けよ。そん時はついて行くから。ゆっくりしたいだろうし俺は部屋戻るわ。」
    五条が立ち上がった拍子に〇〇は毛布で涙を強引に拭った。
    『あ、ありがとう。』
    「おう。外から鍵かけとくわ。まじでなんかあったら連絡して」
    玄関の扉が閉まり、施錠の音がした瞬間に〇〇は枕に顔を押し付けて泣いた。

    今日一日だけなんて嘘だ。五条の顔がまともに見れない。思い出に蓋をしても気持ちだけが溢れ出してしまう。よりにもよって今日は月曜日、明日からどうしたものか。それどころかこれからの学園生活そのものが不安で仕方がない。

    目が覚めた瞬間から見てしまった五条の表情も穏やかな声も不器用な優しさも全てが前世から変わっていなくて、あの頃から愛しくてたまらなかったものだ。

    それから迎えた翌日、〇〇はあからさまに五条を避けるようになり夏油が頭を抱える一週間が始まるのだった。



    【いつの昼が空いてんだよ】

    講義を終えて次の講義へ向かうがいつもとは違うルートを使って移動する〇〇の目の前に
    「やぁご機嫌よう。」
    『っ・・・ど、どうも。』
    満面の笑みの夏油が現れた。〇〇は都合が悪そうに笑顔で挨拶した。夏油はすぐにやれやれと言う顔をすると
    「念の為、確認だ。悟の顔を見れないって言ったのは本当に一日だけ?」
    『・・・えっと、でも昨日悟部屋に来ちゃったしカウントとしては一日に含まれてなくないかなぁなんて』
    「悟の性格を考えたら分かってた事だろう?今日だって君を心配してたよ?私と三人で車で登校するつもりだったみたいだし、私だってそのつもりだったよ。でもいつもよりもずっと早くマンションを出たんじゃない?メッセージも見てなかったようだけど故意に見てなかったんじゃない?」
    『ごめんなさい。』
    「いや、責めてないからね。混乱してる気持ちは誰よりも分かってるつもりだし」
    『お願いします!傑様!』
    「なに?」
    『もう少し時間が欲しいです!』
    「はぁ〜時間ってどれくらい?」
    夏油は大きなため息をつきながらその場にしゃがみ込むと〇〇も隣にしゃがみ込んで
    『時間?出来ればいっかげ』
    「はい?」
    〇〇の言葉を遮るようにこれでもかと微笑みを浮かべる夏油に〇〇は慌てて
    『冗談ですよ〜今週いっぱいに決まってるじゃないですか〜平日の間はうまくやるから土日の方は協力頂けないでしょうか?』
    「分かったよ。土曜日はサークルのメンバーとキャンプ場に行くんだ。日中はバーベキューする予定だから悟も連れて行く。」
    『ありがとう!!』
    「全く」と不機嫌な夏油の顔を〇〇はジッと見つめた。
    「なんだい?」
    『それにしもて大学生の傑、感慨深い!』
    「こら、調子に乗らない。」
    〇〇は夏油の両頬に手を添えながらムニムニと触っている。夏油は学内でもモテるし目立つタイプの人間だ。〇〇は出来る限り面倒なお姉様たちに勘違いされたくないとこれまで過剰な接触は避けて来た。こんな事は前世の記憶がない頃は考えられないスキンシップだ。前世では一緒に高専の卒業も迎えられなかった。感慨深くなるのも仕方ない。夏油もそれを理解しているのでむず痒くて仕方がないが強くは拒否出来なかった。

    「昨日から密会が多いようで〜」
    「『うお!』」
    背後から聞こえてきた不機嫌な声に二人は慌てて立ち上がった。もちろん声の主は五条だ。
    「悟、次の講義こっちだっけ?」
    「それはお前もだろうが。と言うか〇〇」
    『は、はい!』
    「今日は大丈夫なのかよ?今朝だって一緒に行こうと思ったのに先に行ったろ?」
    『あ、心配かけてごめんね。もう大丈夫。早めに出発して駅でサークルのみんなにお詫びのお菓子買って行こうと思って、二人にもあるよ!』
    「お菓子?俺はお前が元気なら良いんだけど」
    『いやいや悟には演劇の方でも代打でお願いしたんだし受け取って』
    鞄と別に持っていた紙袋からお菓子を取り出して渡そうとすると
    「マンションで渡せよ。と言うか今日昼は?」
    『えっと・・・ほら!本格的にサークルの活動も始まって夕方はしばらく時間合わないかもしれないから。お昼も友達の相談に乗ってて先約がね〜』
    「あ〜そ」
    トーンダウンした五条の様子に気付いた夏油は慌てて「まぁ大学に通ってたらそんな事日常茶飯事だから。いつだってご飯なんて一緒に食べられるよ。大学どころか私たち同じマンションに住んでるんだよ?ねぇ?〇〇。」
    その言葉は〇〇には違う意味で刺さっていた。逃げ道はない。一週間持つかも分からない
    。まだ何か言いたげな五条の肩を叩き夏油は笑顔で「そうだ!悟、今週の土曜日の話しんなんだけど」
    「土曜日?なんか予定あった?」
    『じゃあ私移動先遠いから行くね!』
    「あ、待てよ!いつの昼が空いてんだよって聞いてねーし」
    〇〇は聞こえないふりをして駆け出していた。

    お昼を終えて次の講義が休校になった為、〇〇はある場所に向かっていた。
    『ここだよね?』と緊張した面持ちでノックをすると元気の良い返事が聞こえて来て扉を開けると
    「〇〇さん?」
    灰原と七海が出迎えてくれた。ここは二人がよく使っている研究室だ。誰も使わなくなっている古い建物を秘密基地のようにしていると聞いていた。
    「こんな所までどうしたんですか?」
    嬉しそうな灰原の顔をマジマジと見つめると〇〇は笑いながら感極まった。その様子に七海はハッとして
    「あの、まさか」
    〇〇は何度も頷きながら
    『思い出しました。』
    灰原はそれを聞くと目に涙を溜めて「先輩!」と勢いよく抱きついた。
    『今世は灰原くんが先輩でしょ?』
    「あははもう笑っちゃいますよね?でもやっぱり慣れないですよ。」と二人は泣きながら抱き合った。「二人とも泣き止みましたか?とりあえず温かいものを」としばらくすると七海は椅子と温かいコーヒーを用意してくれた。気持ちを落ち着かせて改めて記憶が戻ったと伝えると二人は穏やかに笑い頷いた。
    「夏油さんは知ってるんですよね?家入さんには?」
    『昨日の夜に電話しても良いかなって?メッセージ送ったら改めて会って話したいからとりあえずは色々混乱してるでしょ?ってさすがだよね。』
    「家入さんらしいですね。」
    「うん!電話じゃ嬉しさを伝えきれないって事だよ!」
    「あと傑が知ってるかって話だけど傑の前で思い出したからもちろん知ってるよ。」
    「そうだったんですね。」
    「じゃあ残すは五条さんだけだ!」
    『そうだね。』
    苦笑いする〇〇を見て七海は
    「どんなきっかけで記憶が戻るんでしょうね?」
    『えっと、私は悟を見て戻った感じかなあはは』
    「五条さんを!?愛の力じゃないですか!」
    『いやいや私が一方的に思い出してるだけだから愛って言うのはどうかと?』
    純粋に感動している灰原に変わらず苦笑いを浮かべる〇〇。七海は色々察したのか
    「気不味くなりましたか?」
    『え?』
    「五条さんですよ。一緒にいると色々思い出してしまいますし」
    『ま、まぁね。でも悟は何も知らないし私が一人でソワソワしてても仕方ないって言うのは分かってるの。だけど、今はちょっと時間が欲しくて今週いっぱいは逃げようかなと、、』
    語尾が小さくなっていく〇〇に灰原は首を傾げて
    「え?でも僕から見て五条さんてんぐっ!」
    七海はすぐに灰原の口を手で覆い
    「言いたい事は分かりますが〇〇さんの意思を尊重しましょう。」
    何が起きているのかよく分からない〇〇は仲良く戯れる二人を見て元気をもらった。
    『私の話はとりあえず良いの。こうしてまた会えた事本当に嬉しく思うよ。何よりも二人が今世も仲良しだからとっても嬉しい。』
    二人も〇〇の嬉しそうな顔にゆっくり頷いた。しばらく談笑し〇〇は次の講義に向かおうと立ち上がった。二人も研究室を出て〇〇を見送ると良いしばらく一緒に歩いて来た。
    『ここ落ち着くね。また来ても良い?』
    「もちろんですよ!と言うか家入さんも呼んで今度みんなでご飯食べに行きましょうよ!」
    『そうだね。その時はもう泣いちゃダメだよ。また悟に警戒されるから』
    「あははそうでした。五条さん昔と変わらないからつい感覚が昔に戻るんですよ。」
    『気持ちは分かる。私も前世の記憶とごちゃごちゃにならないように気をつけなきゃね。』
    「〇〇さん。」
    『なーに?七海くん。』
    「気持ちの整理がつくまでは確かに時間が掛かると思いますが五条さんて今世も結構面倒な人ですよ。」
    『え?』
    「困ったらここに逃げて来ても良いですけどあの人に色々絡まれるのは今世も勘弁です。」
    嫌味も含めてあの頃から変わらない七海のさりげない気遣いに〇〇は穏やかに笑った。
    『ありがとう。もうここまでで大丈夫だよ。』
    「了解でーす。」
    『ふふ、あぁー大学生の灰原くんも感慨深いなぁー!』
    夏油と同じように灰原の頬をムニムニすると灰原もその意味を理解し笑いながら受け入れた。
    『七海くんも』
    「私は結構です。」
    『えー!良いじゃん良いじゃん』
    「あ、やめてください。」
    退路を灰原が塞ぐと〇〇に頬に手を添えられた七海は諦めて受け入れた。満足そうな顔の〇〇を見ていると七海もどうでも良くなり同じように〇〇の頬に手を添えて仕返しした。
    「本当に知りませんからね。」
    『何が?』
    「なんでもありません。」
    七海のよく分からない助言に首を傾げながらもまた二人に出会えた喜びを噛み締めながら〇〇は次の講義へ向かった。

    放課後は菓子折りを持ってサークルのみんなの元へ向かうと気を遣うなと優しい声をかけられた。むしろ無理は禁物と言いながら脚本家は「それにしても五条くんには本当にお世話になったから俺の分のお菓子は彼にあげてよ。」と笑った。
    『あ、悟にはもうお菓子渡してますから。』
    「彼さ他のみんなから学内でも目立つし気分屋な一面もあるかもって聞いてたんだけど全然だった。場当たりが終わって〇〇の話を聞いた途端に駆け出して行ってなんか好感度が物凄く上がったよ。夏油くんと言いみんな優しいんだね。」
    『そうですね、私たちは幼馴染なんで』
    自分でそう言いながら胸を痛めている〇〇。今までならむしろ進んで幼馴染だからと口にしていたのになんだか今は苦しくなるだけだ。
    「そうか。俺と▲◼︎と同じような関係かな?」
    『え!そうなんですか?』
    ▲◼︎とは夏油も一目置いていたヒロイン役の先輩だ。二人の空気と言えばいつも淡々と脚本家の先輩の指示を聞き完璧にこなしている一面しか知らない。〇〇や五条、夏油の関係と同じようなものと言う事は実際はもっと仲が良いのだろうかと〇〇は二人の事を交互に見ては勝手にドキドキしていた。
    「じゃあそろそろ稽古始めようか。」
    初めて出会った頃はもっとお堅い存在に思っていた先輩たちも稽古を通して段々と砕けた会話をしたり仲も良くなれた気がして〇〇は今はとにかく稽古に集中しようと気持ちを切り替えたのだった。

    『よし!乗り越えた一週間!』
    多少強引ではあるが〇〇は五条と直接的に関わる事がなく金曜日を迎えていた。多少どころか実際はかなり強引だった。朝は早起きしていつもよりも早い電車に乗り昼間も先約があるとメッセージを送り空いた時間は七海や灰原の秘密基地に逃げていた。放課後は本当に稽古で忙しくそのままみんなでご飯を食べに行くようになった為、マンションで会う事もなかった。たまに夏油に見つかり遠くから睨まれていたがこの仮は必ず返すと謝罪のポーズをしながら姿をくらませた。

    無駄に頭を使って学内を彷徨いていた為、疲れていた〇〇は土曜日はゆっくり寝る事にしていた。早朝にどこかしら扉が開く音が聞こえて今頃夏油たちが出かけている頃だろうと頭の中で思いながらもう一度深い眠りについた。

    昼前、〇〇のスマホが振動していた。ようやく目を覚ました〇〇はこっそりと体を起こしながらスマホを手に取った。音を消していた為か着信はこれが一回ではなかったようだ。
    『ん、ごめん、傑、音切ってた。もう着いた?』
    「ごめん〇〇。とりあえず早く起きて着替えて出かけた方が良いかも。」
    ベッドが起き上がりながらキッチンに向かい水を飲みながら
    『え?なんで?今日はお家でまったり』
    「いや、出来たら今日もサークルの稽古でって事にしないと」
    『どう言うこと?』

    ピンポーン

    『あれ?なんか荷物頼んでたっけ?』
    マグカップをシンクに置きスマホを手に持ったままエントランスのオートロックを解除しようとリビングに戻る〇〇は壁に備え付けられたモニターで確認しようとすると
    『あれ?玄関のベルが鳴った?』
    寝惚けた様子の〇〇に痺れを切らした夏油は
    「察しが悪いな。悟がキャンプに来なかったんだよ。」
    『へ』
    素っ頓狂な声を上げた〇〇はゆっくりと玄関へ向かいドアスコープを覗き込んでそのままへたり込んだ。

    『どうしよう...悟がいる。』

    スマホから「今週本当に大変だったんだよ。とにかくフォローはここまでだよ。」
    一週間、気持ちは切り替えたが気持ちの整理は全く出来ていない。



    【あいつと話す時間はあるんだ?】

    『ごめんね傑。大学で傑に頼りまくってたのに大切な休みの日まで迷惑かけちゃった。』
    「別に大丈夫だよ。悟と一緒にいるのはいつもの事だしね。」
    『ううん。悟と喧嘩した訳じゃないし私が勝手に思い悩んでるだけなのにみんなに迷惑かけてしまった。とりあえずいつも通りに悟とは接するからもう大丈夫。』
    「迷惑なんて思ってないよ。でもそうだね。色々考えてしまうだろうけど今世で築き上げて来た仲も大事だからね。」
    『間違いないです。』
    「ほら、もう五回目のインターホンが鳴ってるよ。また何かあったら連絡しておいで。」
    『ありがとう。私は大丈夫だからサークルのみんなと楽しんでね。』
    咄嗟に逃げ込んだバスルームから再び玄関へ向かうとスマホをポケットに仕舞い鍵を開けた。一度深呼吸して扉を開けると
    「よく眠れたか?もう少しでまた合鍵使うところだったわ。」
    『ごめんなさい。と言うかなにその荷物?』
    「まぁまぁとりあえずお邪魔しまーす。」
    両手にいろんな荷物を抱えた五条は慣れた様子で〇〇の部屋に上がるとリビングに行き荷物を置いた。
    『バーベキュー行かなかったの?』
    「へぇ〜バーベキューの事知ってたんだ。」
    『あ、え?あぁだってこの前話してなかった?』
    「お前すぐ走り去って行ったから聞こえてないんだと思ってた。」
    『そ、そこだけは聞こえてたんだよ。なんか飲む?』
    居心地が悪くなりキッチンに立ち湯を沸かす。
    「んじゃあ〜いつもの。」
    『了解。』
    インスタントの中でも一番甘いキャラメルマキアートをマグカップに注いで五条の方には砂糖をたっぷり追加した。沸騰したお湯を注ぐとスプーンで粉を溶かした。いつもなら適当にかき混ぜるのに五条と向き合う事を躊躇しているからなのか無意識に時間をかけて丁寧に粉と砂糖を溶かした。しかしその気持ちを五条が分かるはずもなく
    「さんきゅー」
    いつの間にか隣に立った五条が二つのマグカップを手に持ちリビングに向かってしまった。当たり前に隣同士にマグカップを並べて座る五条を見てこれでは離れて座る事は出来ないなと諦めて隣に座った。いつも通りいつも通りと頭の中で言い聞かせながら熱いマグカップに息を吹きかけながら一口飲んだ。一息ついて今までどんな話をしていたのか分からなくなりもう一度飲む。その繰り返しだ。

    「バーベキューを断ったのは」
    『え?』
    「今週お前と飯食ってねーから」
    『はい?それが理由?』
    先程までの躊躇は吹き飛び意味が分からないと五条の方に顔を向けた。
    「俺と傑だけ肉食ったらお前可哀想だろ?」
    『そんなに卑しい人間じゃないよ!』
    「半分本気半分冗談。なんかサークルとか友達の相談とかで忙しそうだから労りに来た。そもそも病み上がりだろ?顔見てなかったから心配してたんだよ。」
    あまりにも純粋な理由に〇〇はここ数日の自分の行いを思うと罪悪感に苛まれた。だが
    『で、でも悟。そうは言っても火曜日の午前中に会えたでしょ?と言う事は水木金ってたった三日間だよ?サークルは稽古が始まってやっと本格的な活動が出来てるからむしろ嬉しいの。だから無理なんかしてないよ?』
    「でも今までこんなに顔見なかった事ねーし」
    『それは、そうだけど・・・』

    たかが数日の話、実際同じような境遇の人たちならそれくらい会わない事もあると言われるかもしれないが〇〇と五条は別だ。大学に入ってから顔を合わさなかったのは長くて二日、正しくは夜には五条が勝手に部屋に来る事もある為二日も持っていない。中高の時も長期の連休は決まって四人で遊んでいたし誰かが体調を崩したり休むような事があっても基本的に誰かしら連絡を取り合っていた。今回はそんな連絡さえ疎かにしていたのは事実だ。それでも〇〇は困ったような顔をして

    『どうするの?これから傑だって私だってと言うか悟だってそれぞれ授業とかサークルとかプライベートで会えなくなるかもよ?』
    「なんでそんな言い方するんだよ。」
    『そもそも大学が硝子はどうするの?』
    「あいつは彼氏がいるから邪魔するなってお前と傑が言うから」
    『それは当たり前でしょう。と言うかほら傑に彼女が出来たらお泊まりとかするかもしれないし絶対邪魔とか出来ないでしょ?それは私も悟も該当するんじゃないかな?』
    五条に恋人が出来たら・・・またしても自分の発言に勝手に傷付いた〇〇は再びマグカップを手に取り五条から顔を背けた。
    「なに?お泊まりとか憧れてんの?余裕で傑と邪魔するけど?」
    『サイッテー!・・・あ、それで?労うって話は?なんかさっきから良い匂いがしてるんだよね〜。』
    「お!良くぞ聞いてくれた。丁度昼時だからさ〜」
    五条は持ってきた荷物を漁りテーブルの上に並べ始めた。揚げ物、ピザ、駅前のパン屋の菓子パン、ジュースにスナック菓子にスイーツ。〇〇はすぐに目を輝かせて
    『正直お腹空いてたから嬉しい差し入れ。ちょっと歯磨きと洗顔済ませて来るよ。』
    「冷蔵庫勝手に借りるぞ。」
    五条はスイーツを冷蔵庫に仕舞うとまだ温かいピザや揚げ物の箱を開封した。
    顔を洗って鏡を見つめる〇〇は『(自分の発言に落ち込む程度なら今日はなんとか大丈夫かな。悟もいつも通りのテンションっぽいし)』
    と少しだけ笑みを溢して夏油に[全然大丈夫そうです!ご心配おかけました。]とメッセージを送り再びリビングに戻った。

    『うわ、出た。』
    食べ物以外に並べられていた物、それは
    「カメラ買ってたろ?最近撮った写真プリントして来たから見せようと思ったのとあとこれ、」
    小さい頃からの思い出が詰まったアルバムやビデオだ。親同士が協力して撮り溜めた記録は誰も見落とされる事なく四人がしっかり映っている。これを観るのは初めてではなく五条が定期的に四人で集まる時に鉄板ネタとして持参してくる品だ。と言っても観るのはかなり久しぶりだった。

    五条は機嫌よくテレビに動画を流す準備を終えると再生ボタンを押した。二人はピザを食べながら映像を見て口元を緩めた。そこには小さい頃の四人が映し出されていた。
    「傑ってこの時からデカいよな。」
    『その言い方がいつも傑を怒らせるんだからね。体格が良いとかさぁ』
    「その言い方のが嫌だろう!」
    幼稚園のお誕生日会の映像に切り替わると家入が先生から「大きくなったら何になりたいかな?」と尋ねられると「医者」と答えた。これは四人の中の鉄板ネタだ。
    「普通おいしゃさんって言うよな?」
    あれだけ笑っていたのに〇〇が苦笑いになってしまうのも仕方がない。家入がこの頃から前世の記憶があるとすればこのクール過ぎる発言も納得がいってしまう。それでも家入なら例え記憶がなくても子供だろうがやはり一癖も二癖もある子だったかもしれないと〇〇は改めて五条と一緒に笑った。

    次に流れたのはお遊戯会の映像だ。
    『あ〜〜〜もう何回観ても嫌だ。』
    緞帳が開くやいなや園児の〇〇は緊張からか沢山の保護者に驚いたのか泣き出したのだ。映像には〇〇の母親の心配そうな声まで記録されていた。それに気付いた五条が隣に立ち大きな声で〇〇のセリフを言って、五条をフォローするように夏油と家入が現れて観客からは小さな子供たちの友情劇を見せられたと大きな拍手をもらった。
    「いや〜何回見ても感動する映像だわ。この硝子と傑のフォローの速さな。」
    『これでよく演劇サークルに入りたいって思ったよね?』
    「俺のおかげなんじゃね?」
    『え〜〜』

    次は小学校の球技大会の動画だ。サッカーをしている上級生を見学していた四人の背中が映っている。
    『あぁー怖い怖い!』
    「俺これ見るの嫌い。」
    運動神経抜群の男の子が蹴ったボールがゴールに入らずにコートを飛び出して〇〇の頭にクリーンヒットしたのだ。かなりの勢いだった為、〇〇はその場に蹲っていた。生徒も先生たちも大慌てでもはや事故映像だ。
    「まじで凄い当たり方したのに泣かなかったよな?」
    『痛いって言うか衝撃が凄くて何が起きたか一瞬分からなかった。』
    「俺この時すげー後悔したんだよ。俺があと少し早く反応してボールを止められたらって」
    『蹲ってる時に「くっそ〜」みたいな動きをする悟が見えたのは覚えてる。』
    「そんなふざけた感じじゃなくて「くそ!」だよ。」
    その時の再現をするようにカーペットに拳を叩きつけるふりをする五条。
    『ふふ、それは随分かっこいいね。』
    前世の高専時代、危険な呪霊が現れて大怪我を覚悟した瞬間に間一髪の所で助けてくれた事を思い出した。こんな時に前世の記憶はダメだと静かに首を横に振りながら再びテレビ画面を見つめた。

    「これ新しいな。」
    『高校の時のじゃん。』
    体育祭の映像が流れ出した。借り物競争に出た五条が映っていた。応援席に走って来るとキョロキョロと周りを見渡している。当時付き合っていた彼女が近寄って来てすぐに手を引いて掛けて行った。その様子を見た女の子たちがキャーキャーと黄色い歓声を上げた。
    「うるさっ」
    『絶対巻き込まれたくなかったから硝子と最初から隠れてて正解だった。』
    「傷付くわ。」
    今この瞬間は〇〇が傷付いていた。今までは目立ちたくないと思っていたのに彼女と手を繋いでかけていく前世の恋人の姿にグサリと来るものがあった。

    映像が終わると昔のアルバムや最近五条が撮った写真を二人で眺めていた。懐かしい高校のクラスメイトたちの写真を見て五条が笑う。アルバムを閉じると
    「よーし!お口直し!スイーツ!」
    『うん。甘いの食べたい気分だった。』
    冷蔵庫からプリンを持って来ると〇〇に渡し再び隣に座りながら
    「高1の期末テストの終わりにゲーセン行ったよな?」
    『傑と悟で格闘ゲームしたやつ?あれから昼ごはん賭けるのにハマったんだよね。』
    プリンを一口食べながらその甘さにニコニコと笑いながら話す二人。
    「そうそう。俺がコツ掴み出してさ、あの負けた時の傑の悔しそうな顔が忘れられなくて硝子がよく写真撮ってたよな?あの写真どこにあんだろ。」
    『可哀想なくらい二人が弄るんだもん。思い出をほじくり返して傑を弄らないでね。』
    「今から電話しようかな。」
    『やめなってもう。』
    「と言うかお前クレーンゲーム上手かったよな?無駄に」
    『無駄って何よ?あの時馬鹿にされないように七海くんが練習に付き合ってくれ、た...』

    プリンを掬う手が止まり途端に鼓動が激しくなった。前世を思い出しても今世の出来事を振り返ってもどちらも地獄でそれでも平然を装おうと必死になって頭が混乱していたのだろうか?いや、違う。前世の記憶と今世の思い出があまりにも似過ぎていたからだろう。失言どころではないが先日、七海と灰原の前で失言には気をつけなくてはと話したばかりなのに〇〇は顔が真っ青になった。何も喋らなくなった五条に怖くなり顔を向ける事が出来ない。それでも前世の記憶がない五条からしてみれば今の発言が問題発言だとは分からない。ただ訳の分からない事を言ったと思われているだろう。まだ焦る必要はないかもしれないと〇〇は必死に首を傾げて作り笑いしながら

    『あ、あれ、私いま』
    「なんで七海ってやつ?」
    『え?えっと、』
    五条の口調も表情も〇〇が思っていた反応ではなかった。空気は一気に冷たくなり五条の声色に温度を感じなかった。今世でこんな五条は見た事がない。何故だか怒らせてしまった気分になり口篭ってしまう。
    『な、なんで七海くんの名前出したんだろう、』
    「あいつと最近一緒にいるから?」
    『え?』
    「違った?」
    『あの、』
    「あいつと話す時間はあるんだ?」
    『な、なんでそんな言い方、っ?』
    言い返そうとすると〇〇の両頬に五条の両手が添えられた。
    『な、なに?』
    「これ七海としてたよな?」
    『見てたの!?』
    会話まで聞かれていたのだろうかと焦ってしまう。
    「見られて困るのかよ?」
    『こ、困んないよ別に』
    「まぁ見てたって言うか講義室から見てただけ」
    『そうだったんだ...』
    「なに?聞かれたら困る会話でもしてた?」
    ホッとしたのも束の間、変わらず機嫌が悪い声で更に五条の顔が近づいた。まるで尋問だ。この状況は全く分からないが前世に関わるような尋問ではない為、とりあえずは良かったのだろうかと〇〇は顔を掴まれたまま返事をした。
    『してないよ。と言うか悟も見たでしょ?あの日は傑にも灰原くんにもこうしてたし』
    「なんで?」
    『えっと、みんな肌が綺麗だからその秘訣を聞こうとしてた!』
    「七海にも?」
    『七海くんにも!』
    五条は眉間に皺を寄せて
    「なら何で七海もお前の頬に手を添えてたんだよ?」
    『あ、』
    あの日の事を思い出してついに言葉に詰まった。七海に言われた「知りませんからね」の言葉の意味があの日分からなかったが何故だか今の状況に対して言われたような気がして頭の中で警告音のように繰り返されている。

    「もしかしてあいつに気がある?」
    『ないよ!』
    内心では(あの七海くんだよ?)と言いたいが五条に伝わる訳がない。先程からあり得ない発言ばかりする五条にうまく言葉が返せない。焦りと戸惑いばかりで誤解を招いている気がしてならない。
    『悟はさ、出会った時から七海くんに当たり強いよね?嫌いなの?』
    ただ一人、記憶がないと言ってもどうしてもまた前世のように仲良くして欲しいと思ってしまう。それくらいは願っても良いだろうと五条に尋ねてみると
    「話逸らしたよな?」
    『違うってば!』
    「んじゃ嫌い。」
    『え、』
    「なんでお前が傷付いた顔すんの?」
    『それは、だって、』
    ショックを隠せない。傷付いた意味さえ説明出来るはずも無く、どうして良いか分からなくなり五条から目を逸らした。
    「もういい、」
    目を逸らされた事で更に機嫌が悪くなりついにお互いの鼻先がくっ付くほど距離が近付いた。
    『さ、さとっ...!?』
    あり得ない距離にさすがに肩を押し返そうとしたが時すでに遅し、二人の唇が重なった。



    【・・・】

    唇が重なり〇〇は目を見開いた。拒絶したいのにすぐに出来なかったのは柔らかなお互いの感触と温もり、甘い感覚は前世で恋人であった事がまるで昨日の事のように錯覚させていた。そのまま少しだけ目を閉じると涙が頬を伝った。嫌で流した涙ではなくあの頃の出来事が愛しく脳内を駆け巡ったからだ。両頬に添えていた五条の手はいつの間にか〇〇の首筋を伝い逃すまいと頭の後ろに回っていた。『ん、』〇〇が余裕のない声を出すと五条の舌が〇〇の口の中に侵入した。その瞬間ハッとして〇〇は夢から覚めたように五条の肩を今度こそ強く押した。唇が離れて〇〇はすぐに俯いたが一瞬だけ見えた涙に五条はしまったと言う顔をした。
    「〇〇、」
    『出てって、』
    「っ・・・〇〇、」
    『出てって!』
    〇〇が大きな声を出すと五条は何も言えずに部屋から出て行った。扉が閉まった音を確認すると〇〇はまた泣きそになったがすぐに首を横に振って涙を拭うと五条が持って来た荷物を丁寧にまとめると玄関へ置いた。五条が食べ終えたプリンの容器と一緒に自分の食べかけのプリンを捨てようとした。カラメルが甘く香って口付けされてほんの一瞬だけ五条に...記憶に絆されそうになった事を思い出してしまいそうで堪らなくなった。それでも食べ物は粗末には出来ないと残りのプリンをスプーンで掬い食べ終えると立ち上がり二つの容器をゴミ箱に捨てた。まだ残っている食べ物もパンもどうして良いか分からずにキッチンに置くと深くため息をついた。
    『あぁ駄目だ。』そう呟くと出掛ける準備をして〇〇はマンションを飛び出した。五条の部屋の扉をなるべく見ないようにエレベーターに乗り込んだ。

    昼過ぎ
    「あ、〇〇?やっと出た。メッセージ送ってくれてたよね?返事したけど既読がつかないから気になってさっき一度電話してたんだけど大丈夫だった?」
    『傑・・・何回もごめんね。』
    〇〇の深刻な声に夏油は心配そうな声で
    「何かあったの?悟といると辛くなった?」
    『今まで通りに話せると思って普通に話してたんだけど...辛くなったと言うか...』
    〇〇の声を遮るように大きなベルが鳴った。【まもなく2番線に特級電車が参ります。危険ですので黄色い線の内側 までお下がり下さい。】
    明らかに部屋の中ではない音が聞こえて夏油は焦った。
    「あ、え?電車?ちょっと待って、〇〇いまどこ?悟は?」
    『傑、私、しばらくマンションには帰らない。』
    「はい!?待ちなさい!こら!」
    夏油の言葉を聞かずに〇〇は到着した電車に乗る為に通話を切ってしまった。

    〇〇が向かった先、それは
    『急に来てごめんね。あの、久しぶりに会いたくて!本当泊まるつもりとかなかったんだよ!なんなら近くのビジネスホテルとか』
    「あのさ、私だって会いたかったんだからそんな言い方やめなよ。元々彼氏は研究発表で友達の家に泊まり込みで準備するって言ってたから気を遣わないで。私たち親友だろ?」
    『・・・硝子!!』
    〇〇は家入に泣きついた。顔を上げると笑顔で
    『元気にしてた?私もね前世の』
    「〇〇、」
    『なーに?』
    「最近の話も前世の件も今日は時間があるから全部聞くし話も聞くよ。」
    『う、うん。』
    「でももっと先に話したい事があるんでしょ?普段気遣いの〇〇が涙声で硝子〜って電話掛けて来るのは初めてじゃないでしょ?」
    『初めて...初めてじゃなーい?』
    「いいや、前世の時の話だよ。それは決まって五条の事だった。」
    『その通りです。』
    「とりあえずさっきから馬鹿みたいに着信鳴らして来る夏油にうちに居るから安心してって話しても良い?」
    『うん。』

    「あぁ硝子。やっぱり君の所だった。良かった。硝子なら安心出来る。〇〇にも私の事は気にしないで良いよって伝えておいてよ。私?私は...私は自分の親友と大切な話がしたいんだ。」
    夏油は駐車場に車を停めてマンションのエレベーターに乗り込むと硝子との通話を終わらせた。エレベーターのドアが開くと〇〇の部屋から沢山の荷物を手にした五条と出会した。夏油はなんとも情け無い五条の姿を見て世話が焼ける親友だが前世で〇〇が関わると途端に情けなくなる親友の姿を見るのは割と好きだったと思い出し苦笑いしながら五条に声を掛けるのだった。
    〇〇と五条、互いの親友によるカウンセリングが始まります。



    【殴って良いよ】

    五条はエレベーターから降りて来た夏油に気付くと少し驚いた顔をして
    「お前、今日泊まりじゃ」
    「あーえっと、夕方から天候が悪くなるみたいでさ」
    「・・・今日ほどキャンプ日和な日はないって言ってなかったか?」
    「や、山を舐めるな!山の天候は一瞬で変わるんだよ。」
    五条は夏油の言葉に呆れたような表情をしながらため息をついて〇〇の部屋の鍵をかけた。
    「何してんのか聞かねーの?それとも知ってるから聞かねーの?」
    「・・・知らないよ。私は今キャンプから帰って来たんだよ。」
    「なら付き合えよ。これ、一人じゃ食べ切れねー。食い物めっちゃある。」
    夏油に振り返り〇〇の部屋から取って来た袋を掲げて見せた。夏油は穏やかに笑って
    「あぁ夕飯がなしになったから助かるよ。」

    夏油は一度荷物を自分の部屋に置くとすぐに五条の部屋に向かった。慣れた様子でリビングへ進むと五条がクローゼットにアルバムを仕舞っていた。
    「また見てたの?」
    「おう。テーブルの上に置いてるから適当に食べてて」
    夏油はその場に座りながら五条を探るように問い掛けた。
    「・・・〇〇は出かけたの?悟が鍵かけてたって事は一緒に居たんだろ?」
    五条はその瞬間だけ手を止めて
    「一緒に飯食って久しぶりに昔の写真とか動画とか見てて」
    「うん。」
    何かが起きて〇〇が家入の元へ行った事は分かっているがその何かの詳細は知らない。一体何があったのか早く聞きたい所ではあるがそうでなくてもキャンプを切り上げて帰宅している自分に不信感を持っている親友の信頼を回復する為には急かさずに話を聞く事だと夏油は心得ていた。五条は荷物の整理を終えるとクローゼットを閉じテーブルを挟んで夏油の向かいに座った。
    「今週ずっと会えてなかったし月曜は体調悪そうだったし顔が見たかった。演劇忙しそうだから差し入れいっぱい用意して昼頃あいつの部屋に行ったんだ。理由もそのままあいつに伝えた。」
    「うん。」
    五条と目は合わないがちゃんと詳細を話してくれるようで夏油はただ頷いた。
    「いつも通り喋って昔の話して、それで」
    「それで?」
    「むしゃくしゃして来た。」
    「それはどうして?小さい頃の話、君はいつも楽しそうに話してただろう?」
    「思い出話してんのにあいつ七海の話をし出した。」
    「あぁ七海ね、え?七海?」
    一瞬だけ“思い出話”“七海”と聞いてなんの違和感もなかったがすぐに五条の前では違和感しかない話だろうと気付いて焦った顔をした夏油。
    「なんで今七海?今週も七海といる所よく見かけたし何かいつの間にか距離近くなってるし」
    「あ、えっと、え?」
    「どこが良いんだよって思ってさ」
    〇〇の言動に怪しむと言うよりかはおかしな方向に反応していないか?と夏油は困惑した。
    「えっと、君は七海が嫌いなのかい?」
    「嫌いって言うか〇〇が異常に褒めるって言うか、なんか、その、」
    「もしかして〇〇が仲が良いから嫌なのか?」
    五条は困った表情をしながら後ろ頭をかいた。
    「そう、なるのか?だから、キスした。」
    「・・・・はい?」
    夏油は完全に思考が停止して五条を見つめていたがすぐにハッとして
    「まさか、無理矢理?」
    「無理矢理。」
    「分かった。一回殴ろうか。」
    「うん、殴って良いよ。」
    「最低な事した自覚あるんだ。」
    「めちゃくちゃある。泣いてた。」
    「・・・はぁ。それで〇〇は出ていったの?どこに行ったか分かる?」
    「いや、出てけって言われたから俺が出てった。時間経ってさっき部屋に行ったけど鍵がかかってて外から開けれたからどっか行ったんだろうなって。追いかけたいけど多分硝子の所と思う。」
    「なんで分かるの?」
    「だってあいつが泣いて困った時は決まって硝子の所に、、あれ?そうだっけ?」
    夏油は言葉を失った。今世で五条が〇〇を困らせるような事はあっても泣かせた事はない。家入と〇〇の仲の良さはもちろんだが五条に泣かされて家入の元を訪ねた事など一度もないのだ。あるとすればそれは前世での出来事だった。思い出している様子はない、むしろ五条自身が困惑しているように見えた。この先、五条が前世の記憶を思い出す保証は無い、今だに〇〇が記憶を取り戻した理由もきっかけも分かっていない。思い出さなくても自分や家入がフォローすればまたいつも通りの生活に戻るかもしれない。今日はお互い色々あって魔が刺したんだろうと慰めれば終わる...しかし今目の前にいる親友をそんな言葉で欺いて良いのだろうか。前世の恋人を、今世の五条を想う〇〇をこのままにして良いのだろうか。そして夏油はある決断をした。

    「なぁ悟、私の話を聞いてくれるかな?」
    「何だよ急に?」
    「おかしな、馬鹿げた話かもしれない。だけど最後まで聞いてほしい。」
    「別にいいけど」
    「私と悟、硝子に〇〇。四人は付き合いが長いよね?ずっと一緒だった。出会った頃からその関係性を疑う事は決してなかったよね?」
    「あぁ。」
    「それは本当に仲が良くて気が合うからだと思ってるんだけど、例えばさ、例えばの話」
    「何だよ?別に笑ったりしねーから言えよ」
    「すまない。例えば私たちには特別な縁みたいなのがあって」
    「縁?」
    「そう。その縁は...前世から繋がっている。」
    「・・・ぜんせ?」
    五条は途端に眉間に皺を寄せたが夏油の決意は固く
    「その世界は命をかけて戦う世界だった。特別な術を用いる人だけが通える学校に通っていたのが私たち四人だった。私と君は親友だった。僅かな時間の中で沢山の事があった、葛藤があった・・・別れがあった。」
    夏油の顔が泣きそうな顔に見えて五条の眉間の皺が減っていく。いつの間にか冷静に夏油の話を聞く姿勢になっていた。
    「バカな事をして叱られた。四人といれば辛い事があっても笑っていられた。学校の後はゲーセンに行って夕飯を掛けて格ゲーしたり、」
    五条はその言葉にハッとした。
    「君が言いたい事は分かるよ。それって今世でも存在していた記憶だ。前世なんてやっぱり」
    「違う。確か〇〇がクレーンゲームがうまかったのは七海と練習したからって、」
    「え?・・・そうだよ。七海と灰原は前世では私たちの後輩だったんだよ。悟、どうしてそんな話を?」
    「さっきあいつが七海の話をした時、クレーンゲームの話をしたんだ。じゃああいつが話してたのって今の話じゃないって事かよ、」
    「と言うか君、こんなあり得ない話を信じるのか?」
    五条はう〜んと考えながら
    「そりゃいつもなら馬鹿にしてんのかってキレそうだけど今はこの話をちゃんと信じないと俺のモヤモヤは晴れないような気がするんだよ。」
    「素直で感謝するよ。」
    「その前世だっけ?俺とあいつの関係って今みたいな、こんな感じだった?」
    五条の質問に夏油は優しく笑った。

    「それだよ悟。」
    「なにが?」
    「私はね、君にずっと聞きたかった事があるんだ。前世も今世も関係ない。君は〇〇の事をどう思っているの?」


    その頃、家入のマンションでは
    同棲相手がいるマンションに上がり込んで良かったのだろうかと今更不安になっていた〇〇も前世からの親友である家入の気遣いのおかげで落ち着きを取り戻しこの一週間の出来事と先ほどの五条との事を家入に話していた。

    「それでいきなりキスされたの?」
    『そう・・・です。』
    ウジウジしている〇〇とは対照的に家入は冷静で
    「〇〇が記憶を取り戻してから七海や夏油と話したんだよね?」
    『え、あ、うん。』
    キスに関しての話はスルー?と内心思ったがとりあえずはそうだと頷いた。
    「五条との事は悩んでるって話した?」
    『今硝子に話したほど詳細には私の気持ちは話せてないかな。でも七海くんも私が悟から距離を取ろうとしてるのは分かってただろうし傑に関しては一週間協力してもらっちゃったしね。』
    「それに対してはなんて?」
    「なんて?えっと・・・私の気持ちをとりあえず尊重してくれるって感じだったけど?」
    先程からの家入の問いにあまり理解が追いつかない〇〇。
    「確かに私も夏油と同じで幼い頃から記憶はあったよ。でもさ前世にしても今世にしても365日、沢山思い出は積み重ねても毎日一分一秒の出来事なんか覚えてないでしょ?何喋ったかとか何食べたかとかさ。どんな言葉に笑って何が美味しかったとか「覚えてる事」ってそう言うものだから。だから私は小さい頃はそこまで記憶が邪魔になる事はなかったよ。」
    家入の言葉に〇〇も納得したようで
    『前世を思い出してからなるべく前世の事は思い出さないようにはしてたけど・・・
    言われてみればそうだね。生まれてから最期の時を迎えるまで自分の過ごして来た日々も誰かの一言一句も全部覚えてる訳じゃない。』
    「もちろん今世って呪いの"の"の字もない世界だし前世と比べてしまうと嫌な事、辛い事の差が激しいからね。思い出したくなくても夏油みたいに私たちと一緒に居ていいのか悩んでた理由も理解出来るんだよ。でもさ今世は呪いがなくても全ての人間が幸せになれる保証はないし戦争だって犯罪だって病気だってあるから、それでもやっぱりあの頃よりはずっとずっと未来は明るいんじゃないかなって思ってるよ。あ、あの頃が楽しくなかったって訳じゃないよ。五条の言葉を借りるとすればこの国に生まれたなら若者はもっと自由に、青春を送っていいと思うよ。」
    『うん。硝子の言う通りだよ。七海くんもカメラを趣味にしてたり灰原くんも色んな事に挑戦しててみんな今世を楽しもうって』
    「ふふ、あはははは」
    『え?なんで笑い出した?』
    家入の深い言葉に感動していたのに笑い出した家入に困惑する〇〇。
    「いや、すまない。色々話したけど要約すると、全部を覚えてる訳じゃないからそこまで前世に固執する必要はないと思う。」
    『う、うん。あとは今世は今世で楽しむって事じゃないの?』
    「まぁそれは人による。」
    『はい?』
    「夏油は夏油が楽しい生き方をしてるだけだし七海もそうだよ。私が今言った事が今世のマニュアルじゃないからね。」
    『どう言うこと?え、なら私は前世に囚われるべきとか?』
    「いや、どっちかって言うと五条かな?」
    『はぁ?悟は思い出してないよ?』
    「前世と同じ道を歩むのも悪くないよね。」
    『そ、そうなの?でも呪術師ってこの世にないよ?』
    「私は医者を目指してるよ。」
    『あ、そうか。えっと、硝子こそそれで良かったの?』
    話がコロコロと変わる家入にあえて自分から質問をする〇〇に家入は頬杖をついて
    「私はさ、呪術師の中ではわりと長生きだったんじゃないかなって」
    その言葉を聞いた途端に〇〇はハッとした。一番寂しい思いをしたのは彼女だったのではないだろうか。どんな事があってもいつだって変わらずに飾らずにいてくれたのは間違いなく家入だ。〇〇は瞳に涙が溜まって来た。
    「さっき言ったよね?平和と言っても今世だって戦争も犯罪も病もある。争い事って言うのは当人たちの問題だ。でも病は違う。病や傷って言うのは呪いがない世界でも生きていく上では患ってしまうと致命傷になり得る。私は今世こそ君たちには長生きして欲しいと思ってる。」
    そして誰よりも今世でのみんなの幸せを願っているのも彼女なんだと思った。〇〇の頬に涙が伝った。小さい頃に将来の夢を医者と答えた彼女に彼女らしいと感心していたがそんな感情は遥か遠くに消えてこれからも彼女の願いを継続する為に笑顔でいようと誓い、そして同じく家入の幸せも心の底から願った。

    「いや、話が逸れた。」
    『グス、ん、え?』
    感動して泣いている〇〇にビシッと人差し指を見せる家入の顔はもう完全にふざけていて〇〇は鼻水を啜りながら情けない声を上げた。
    『い、いまの本題じゃないの!?涙を返してよ!』
    「いやいやそう言う話は後って話したろ?あ、そうだ、五条だよ。」
    『も〜〜〜!えっと、悟も前世と同じって事だっけ?』
    ティッシュを渡されてプリプリと文句を言いながら鼻水と涙を拭いながら改めて家入に問い掛けた。
    「そうそう。前世と一緒じゃん。」
    『は?なにが?どこが?』
    「そして〇〇もやっぱり忘れてるんだよね〜」
    『私が忘れてる?』
    家入は世話が焼けるわ〜と言いながら背中を掻いている。
    「恋人だったって記憶しかないのか?」
    『そ、そんな事ないよ!出会った頃とかも覚えてるし』
    「君たちが付き合うまで随分面倒だったのは?」
    『え?えっと、えっと』
    「キスがどうとか五条の機嫌がどうとか聞いて私がまず思った感想が二つある。」
    『ふたつ?』
    「はっ、また前世と一緒かよ。まーた七海を巻き添えにしてる。以上二つ。」
    鼻で笑うように言う家入の言葉を頭の中で繰り返してしばらく首を傾げていたがしばらくすると顔が真っ赤になって〇〇は焦り出して
    『で、でもそれってつまり・・・いやいや!それはおかしい!!』
    「あはは。ウケる、それも前世と同じ反応だし」

    家入の言う通り確かに前世の出来事を全て思い出す事は出来ないし、今思い出すとすれば五条と過ごした淡い日々の思い出、仲間たちとの別れ、夏油や家入、七海に灰原と思い出すのはどうしても大きな出来事や事件ばかりだ。しかし今言われた二つの指摘に〇〇も嫌でも思い出してしまう事がある。

    「全然女として見てねーって感じだったくせに〇〇の言動に一々突っかかり出してさ、しまいには七海と仲が良いって事に勝手にむしゃくしゃして自分の気持ちに素直にもなれないし〇〇は七海を庇うしで暴走しちゃった五条にキスされたよね?あ、これ今世の話じゃないよ。」
    『さ、365日の日々の出来事なんて全部覚えてないって言ったじゃん・・・』
    〇〇は気まずそうな顔をして家入から顔を逸らした。
    「いや、これは大事件だったからさ。」



    【良いからそこで聞いとけ!】

    「折り返しの水曜日だ。稽古は毎日大変だけど逆に言えばこうして集まって稽古する時間はもう少ない。本番に向けて更に気を引き締めて行こう。」
    『「「はい」」』
    脚本家の先輩の気合いの一声で始まった舞台の稽古。放課後はいつも新しいホールにいた。スマホの振動でさえ気を使う為、稽古が始まる前には電源を切るようにしており今日もポケットからスマホを取り出すと〇〇は少し都合が悪そうな顔をして電源を切った。

    今回の舞台は気を張らずに鑑賞する側になって見守ってくれて良いと言われていたが学びたい事、手伝いたい事が増えて自主的に機材や小道具・大道具の搬入搬出の手伝いをしていた。朝もなるべく早くに大学へ向かい、日中の講義も時間が空く度にサークルの活動に専念していた。何度読み返したか分からない台本も気付けばセリフも立ち位置も照明から音響まで本番の動きは全て頭に叩き込まれていた。そんな真面目な〇〇に先輩たちは皆感心していた。

    家入と満喫した土日から気付けばもう水曜日。稽古を終えて駅へ向かっている最中にようやくスマホの電源をつけた。
    『はぁ〜これじゃあ先週と変わらないって言われるよね。』
    ため息をつきながら不在着信とメッセージを確認した。誰からかはもちろん分かっている。

    あれから家入のマンションに泊めてもらい日曜日は二人で出掛けて夜に自身のマンションへ帰宅した〇〇。久しぶりの親友とのひと時に〇〇も家入も時間を忘れて楽しんだ。部屋に帰り夏油にメッセージで[心配かけてごめんなさい。今マンションに帰って来ました。硝子と久しぶりに会えたし沢山話も出来ました。また明日から大学頑張ります。今日はバイトだっけ?遅くまで大変だろうけど頑張ってね。おやすみなさい。]と何を話したかまでは打たなかったが無事にマンションに帰って来た事と迷惑をかけた事を謝罪し眠りについていた。翌朝には夏油から[〇〇が戻って来てくれて安心したよ。今度ゆっくり話を聞かせてよ。それじゃあまた大学で]と返事が来ていた。元気な事を現すスタンプを返して〇〇は大学に向かった。

    月曜日ならではの眠気と戦いながらノートをまとめているとスマホが振動した。五条からのメッセージに一気に目が覚めた。
    [会いたい。時間ある?]
    そんなシンプルなメッセージにふと土曜日の家入との会話を思い出した。

    “「全然女として見てねーって感じだったくせに〇〇の言動に一々突っかかり出してさ、しまいには七海と仲が良いって事に勝手にむしゃくしゃして自分の気持ちに素直にもなれないし〇〇は七海を庇うしで暴走しちゃった五条にキスされたよね?あ、これ今世の話じゃないよ。」”

    その言葉で自分自身も前世での出来事を思い出して焦りまくっていた。家入の言う前世の記憶に間違いはなかった。しかしそれを認めてしまうと今世の五条がまるで自分の事を・・・(いやいや)とやはり考えられないとただ顔を赤くして首を振る事しか出来なかった。家入はそんな様子に笑いながら
    「だからそれも前世と同じ反応なんだよ。まぁこれ以上は何も言わない。どう受け取るかは〇〇だから。でも私はそこまで深刻になる話ではないと思ってる。〇〇次第。」
    それから家入はもうウジウジは終わりと最近の話や翌日のショッピングの計画を立て始めて本当に五条との話は何も解決しないまま終わってしまった。

    夏油に送ったメッセージに嘘はない。泣きながら戻れないと言ったマンションには戻って来たし家入と過ごした時間が楽しかったのは事実だ。ただし五条との事は更に拗らせたかもしれないとは流石に送れなかった。これ以上は夏油に迷惑をかけたくないし七海や灰原の所に逃げるのもなと思っていた矢先、今週から更にサークルの活動が忙しくなった為、罪悪感で押しつぶされそうになりながらも五条に[今週は稽古に集中したい。]と返事をしていた。そもそもいきなりキスして来たのは五条だし・・・と少し強気でいたが火曜日のお昼に夏油から電話がかかって来て弱腰で通話ボタンを押した。

    『は、はい?』
    「言いたい事は分かってるよね?」
    『もしかして悟を避けてると思ってます?』
    「そんな事は言わないさ。でも会ってないようだから。」
    『傑にだって会えてないでしょ?本当にバタバタしてるんだよ?いまは機材のメンテの手伝いにホールに向かってるからね。』
    「そんな時に失礼したね。」
    『悟なんか言ってる?』
    「いいや、私が勝手にお節介しているだけだから気にしないでくれ。」
    『ううん・・・大丈夫だよ。いつもありがとう。』
    「これは忠告なんだけどさ」
    『え、忠告?』
    聞き間違いだろうかと首を傾げた。
    「悟はさ、確かに私たちの中で一人だけ記憶がないけど、」
    『うん』
    「あの面倒臭さは前世に負けてないから気をつけて」
    『はぁ?』
    「じゃあ、そろそろ切るよ。」
    首を傾げながら夏油との通話を終えると〇〇はスマホをカバンに仕舞いホールに向かった。

    それから火曜日の夕方、水曜日の昼、そして稽古を終えて帰宅する“いま”この時まで五条からの連絡は続いていた。夏油の言っていた事はこう言う事だったのかな?と思いながらメッセージに既読をつけた。その内容は変わらずシンプルで
    [忙しいだろうけど直接会って話したい]
    [ちょっとだけでも時間がほしい]
    [マンションでもダメ?]
    以前と違う所といえば、許可をしていない限りマンションに突撃して来ないと言う所だろうか。そんな事を考えながらも『いやいや、忙しいのは本当だし話す時間も今はないし...』と決意は固く水曜日を終えたのだった。

    木曜日も終わり金曜日
    「〇〇ちゃん!そのままステージに立っててもらえるかな?舞台以外でお偉いさんたちの挨拶もあるからピンスポの確認しておきたいんだけど」
    『はーい!良いですよ!』
    稽古が終わりバイトや課題の為に帰宅した団員もいたが担当ごとに集まって話し合いや台本、機材チェックを各々がしていた。本番はOBの俳優や脚本家はもちろん、新聞記者やテレビ局も入るとの事。ホールの建設に伴って沢山の人たちが関わっている為、劇だけでなく来賓の挨拶もあるのだ。舞台の片付けをしていた〇〇は照明のチームから声を掛けられてそのままステージの上に立ち指示を受けながら照明の確認を手伝った。舞台裏では小道具の整理をするチーム、座席側では脚本家の先輩や役者が集まって話し合いをしていた。

    照明からの指示を待ちながらボンヤリと全体の雰囲気を眺めていた〇〇は改めてサークルに入って良かったと穏やかな表情になっていた。一つの作品に向けてそれぞれに与えられた役割を果たし、協力し作り上げていくと言うこの姿こそが〇〇の念願だった。そんな事を言えば本番を成功させてから言えと指摘されそうなので黙ってステージの上に立つ〇〇。

    「ん?なんか外騒がしい?」
    一階の真ん中辺りで役者たちと話し合っていた脚本家の先輩が話を止めてキョロキョロし始めた。すると
    「ちょ、ちょっと五条くん!今日は稽古中!この前君が入れたのは代役をお願いしてたからだよ!」
    場外にいた先輩の大きな声。騒がしいと言うより"五条"と聞こえて〇〇はハッとした。嫌な予感は的中し会場の扉が勢いよく開くと物凄い形相の五条が現れた。
    「あぁ、開けちゃったよ...」
    恐らく先程から五条を止めようとしていた先輩は弱々しい声で後ろで項垂れていた。

    「稽古中すみません!少しだけ〇〇に伝えたい事があります!」
    大声を出しながら〇〇を見つめる五条。

    電話もメッセージもスルーした末路がこう言う事?ついに堪忍袋の緒が切れた?これが夏油の忠告?そんなに人は残ってはいないが騒然とする会場。〇〇は心臓をバクバクさせながらなんとか五条を落ち着かせようとステージから降りようとしたが

    「稽古の邪魔しに来た訳じゃない!良いからそこで聞いとけ!」
    『っ!?』
    先輩たちに早く謝らなくてはと思う一方、五条の気迫に体が動かない。泣きそうになりながら五条の言葉を待った。
    「まずこの前はごめん!すげーモヤモヤしてた!」
    謝るだけならやはりこの場でなくともと声を振り絞ろうとするが
    「あのさ!悪いんだけど俺、前世とか今世とか分かんねー!」
    『え?(は?いま前世って言った?)』
    「記憶って言うの?そんなのもない。分かる事は小さい頃から傑と硝子とお前に出会って、毎日四人でいるのが楽しくて、すげー大切にしたいと思った。うざいかもしれないけどそれはこれからも変わらない!お前らに記憶があっても俺には関係ない!」
    その言葉には五条の気持ちがしっかりと込められていた。

    「それから...前世の俺なんかより今の俺の方がずっとずっとお前の事大切に思ってるぞ!もしも今の俺がお前が望む俺じゃなくても知った事かよ!今を生きてる俺とお前の問題だろうが!この気持ちを邪魔されるくらない俺は前世の記憶なんかいらねー!!俺は俺にも負けたくない!」
    『・・・・』
    真剣な表情の五条と目が合ったがうまく言葉は出て来なかった。

    「以上です!みなさん!ご迷惑をお掛けしました!!!」
    止めに入った先輩もとい、その場に残っていたサークルの先輩たちに綺麗なお辞儀と大声で謝罪した五条はそのまま勢いよくホールから出て行った。〇〇は五条の言葉に唖然としていたがシーンと会場内が静まり返った事に気付くと顔を赤くする暇もなく先輩たちに迷惑を掛けたとテンパり始め口が魚のようにパクパクとしていたが
    「え?・・・彼、良いよ!?なんなの?今の?台本?アドリブ?」
    脚本家の先輩が大興奮した面持ちで大きな声で五条を絶賛していた。〇〇はここでようやく顔を真っ赤にして
    『す、すみません!悟がご迷惑を!』とステージ上からみんなに向かって頭を下げたが「よく分からないけどやっぱり彼、役者にならないか誘ってよ。」と脚本家の先輩の言葉を筆頭にみんな笑ってくれた。その後も誰かが先程の出来事を茶化したり詳細を聞いて来る事はなかった。恐らく〇〇自身がかなりテンパっていた為、彼女もまた巻き込まれたのだろうと全員が空気を読んでいた。

    稽古を終えいつものようにスマホの電源をつけると夏油から不在着信とメッセージが入っていた。
    [手遅れかも]
    時間的に見て先程の五条の乱入前に送られたメッセージだろう。『本当にね』と苦笑いしながら既読だけをつけて駅に向かう為に歩き出そうとすると
    「〇〇さん」
    『っ!?お疲れ様です!!』
    振り返ると声を掛けて来たのはヒロイン役の美人で完璧超人の先輩だった。先輩に声をかけられるのはこれが初めてで〇〇は緊張していた。もしかすると先程の五条の件でお叱りを受けるかもしれないと謝ろうとすると
    「今日私も電車なの。良かったら一緒に帰らない?」
    『もちろんです!嬉しいです!』
    「ふふ。」
    思ったよりも穏やかでホッとしたが隣を歩くのはやはり緊張してしまう。
    「五条くんて〇〇さんの幼馴染なんだっけ?」
    やはり五条の話題!と冷や汗をかきながら
    『先程は本当にすみません。』
    「ううん、違うの謝らないで。五条くんの話が聞きたかっただけよ。」
    『え?』
    まさかの五条に気があるとか?と思ったがこれまで出会って来た女性の中でも人として完成、洗練された人。彼女が五条を知りたい事には何か意味があるのだろうと
    『あ、えっと、はい。悟は幼馴染ですよ。』
    「付き合いが長いのね。」
    『それはもう...かなり(前世からなので)』
    「私と▲●もね小さい頃からずっと一緒なの。」
    ▲●とは脚本家の先輩の事だ。
    『以前、先輩から聞きました。』
    「私ね彼の脚本や演出が大好きなんだ。」
    私もですと言おうとしたが彼女の表情は"大好き"の意味が違うと理解した。
    「〇〇さんの反応から見て五条くんがあんな風に言うのは初めて?」
    『初めてです。それもまさかあんな場所で、』
    「そうだよね。びっくりしちゃった。でもね、何か分かるんだ。」
    『分かる?え?』
    「あぁ違うよ?あんなみんなの前で大声でって事じゃないから。」
    『で、ですよね!すみません。』
    「分かるのは五条くんの気持ちかな?」
    『気持ちですか?』
    「ずっと一緒に居過ぎて、あまりにも居心地が良くなってそれ以上を望むのが怖かったんじゃないかな?関係が崩れるのが怖くなって来るの...私はそうだった。」
    『それ以上、、えっとそれって』
    驚いた表情の〇〇に彼女は照れくさそうに笑った。いつも凛とした表情からは想像が出来ないような表情でとても可愛らしかった。
    「ふふ、大人になれば出会いも増えるからきっとはこの気持ちは長く一緒に居過ぎた呪いなんだと思って沢山の人たちに出会った。モデルの仕事してたら色んな人からアプローチされたけどダメだった。私、やっぱり...。」
    何故だか〇〇の頬が赤く染まっていく。
    「私は彼の脚本で彼の演出で演技がしたい。お互い高め合ってもっともっと大きな舞台に二人で立ちたい。だからこそどんな事でも手を抜きたく無い。絶対記念公演は成功させたいの。」
    『はい!それは私も同じ気持ちです!』
    「一緒に頑張ろうね。それと五条くんには感謝しなきゃ。彼には勇気をもらえたし背中を押してもらえたよ。舞台が成功したら私も五条くんみたいに真っ直ぐにこの気持ちを伝えたい。」
    『・・・悟みたいって、』
    〇〇は苦笑いしながら思わず立ち止まった。
    『それだとまるで私、』
    先輩は立ち止まった〇〇に首を傾げたがすぐに優しく笑って

    「私の解釈は違ったかな?でもあんなに真っ直ぐで一世一代の彼の愛の告白を告白と呼ばずになんて呼ぶの?」



    【くっそぉぉぉ!!!】

    愛の告白と言われてからずっと顔が熱い。駅に着いて改札前まで行くと先輩はクスクス笑い出して
    「私、反対のホームだから先に行くね。」
    『あ、え、』
    先輩は〇〇に振り返って指差した。その指先を辿ると二人が来た方とは反対の出入り口に五条が都合が悪そうな顔をして立っていた。
    「じゃあ、また明日ね。」
    『あ、先輩!』
    先輩は手を振り改札を通り抜けてホームに向かって行った。〇〇が一人になると咳払いをしながら五条が近づいて来て
    「あれ、一人?」
    『いま見てたでしょ?』
    嘘が下手だと思いながら定期を出して改札を抜けると先輩が向かったホームとは反対のホームへ向かった。五条は慌てて〇〇を追って
    「あ、一緒、帰ろうぜ。」
    『・・・』
    小さく頷いたのが見えたのか五条は隣に並んで歩き出した。ホームに降りるとタイミング良く電車が到着し乗り込んだ。車内は少し混雑してるがどうせすぐ降りるので座席には座らずにドア付近に立つと五条が目の前に立った。会話がなかったが自然と壁になってくれているようだ。先輩と話してから熱く感じていた頬は赤くなっているに違いない、五条に気づかれてはいないだろうかとソワソワしていた。
    最寄の駅に着くと改札を抜けてマンションまでの道を歩いた。日が暮れて少し冷たくなった空気が今の〇〇には頬の熱を冷ますには都合が良かった。

    「あーー・・・怒ってる?」
    『怒ってないよ。』
    怒ってはいない。ただ・・・
    「土曜日に傑と話たんだ。」
    夏油からはそんな話は聞いていない。と言うか彼はキャンプに行っていたんじゃ?と驚くがあの日、泣きながら電話した自分のせいでもあると内心反省した。
    『どんな話したの・・・そう言えば前世って、』
    「聞いたよ。細かくは聞いてないけど、」
    『そう、なんだ、』
    細かくとはどこまでの事?聞きたい事は山ほどあるのに言葉に詰まってばかりだ。
    『どこまで聞いたか分からないけどあり得ないって思わなかったの?』
    「思ったけど・・・でも納得も行くんだよな。」
    『納得?』
    歩みを止めると五条は「そこ座らね?」と言いながらマンションの近くのベンチに向かって歩き出した。素直に従いベンチに座ると五条は再び話だした。
    「小さい頃から自分でも不思議なくらいお前らといる事が大切で必要としてたからさ。」
    『あー』
    「それだけで前世とか信じるなよって怒られそうだよな?」
    五条は笑っていたがすぐに目を逸らして
    「その・・・ついでにお前との関係も傑に聞いたんだよね。」
    『そんな気はしてたけど』
    「勘違いして欲しくないんだけどさ、前世の関係を聞いたからこの気持ちに気付いたんじゃなくて、ずっとこの気持ちがあったから前世の関係に違和感を抱かなかったし結びついたんだよ。」
    思っていた事、記憶が戻ってすぐに悩んでいた事が全て見透かされていたかのように紐解かれていき涙が溢れて来る。五条は〇〇の肩にソッと手を添えて、拒否されないと分かると優しく抱き寄せた。

    「この気持ちって意味はもう分かるだろ?」
    〇〇は五条の腕の中で泣きながら頷く事も首を振る事もしなかった。
    「えー言わせる?」
    惚けた様子の五条に弱々しく肩パンすると五条は笑って受け止めて
    「と言うかさお前はどうなんだよ?」
    そのまま腕を取られて見つめ合う形になると
    『え?』
    「だ・か・ら、お前は今の俺が好きなのかって話だよ。俺、お前が前世の記憶が戻って恋人だったから俺の事を好きって言ったらめちゃくちゃ嫌だよ。さっきも言ったけど俺は俺にも負けたくない訳。」
    五条の言葉で〇〇はハッとした。先輩の言葉を思い出した。

    “「ずっと一緒に居過ぎて、あまりにも居心地が良くなってそれ以上を望むのが怖かったんじゃないかな?関係が崩れるのが怖くなって来るの...」”

    『そっか・・・私も同じだった。』
    「なんだよ?」
    少し拗ねたみたいな表情の五条を見つめ返した。
    「あ、待って、俺が余計な事言ったから今!たった今前世の俺と今の俺を重ねて好きになったとか辞めろよ!それならまだ友達と思ってたとか言われた方がマシ!いいや、それも嫌だよ!?」
    必死な五条に〇〇は笑い出して
    「笑うな」
    『好きだよ。』
    「え?前世の話?」
    『違うよ、悟が好きだよ。今目の前にいる悟。』
    「・・・」
    五条ははぁと大きく息を吐きながら〇〇の肩にコツンと額を押し付けた。

    ようやく冷めて来た頬がまた熱くなった。

    ___________________
    家入と夏油の電話

    「全く...涙流して連絡して来たかと思えば前世でも同じ相談受けたから笑うしかなかったよ。」
    「まさか前世と同じシチュエーションになるとはね。びっくりだよ。」
    「五条に関しては記憶がないからな。」
    「しかし硝子は凄いね。」
    「なにが?」
    「私も前世で悟のフォロー係だったのにスッカリ忘れてしまっていたよ。もし覚えていたらもっと良いアドバイスが出来てたかな。硝子みたいにスマートに対応したかったな。」
    「それは違うだろ。」
    「え?違うって?」
    「夏油は夏油で今世でも二人の幸せを願っていたから前世の話は関係なく今の二人を思って心配して行動した。それだけだろ?」
    「はは、結局君がかっこいいだけじゃないか硝子。でも残念ながら悟に前世の事を話てしまったからね。信じるとは思わなかったけど」
    「信じるだろ?夏油が話すんだから」
    「だから君一々かっこいいんだって・・・悟にもそう言われたよ。でもすぐには二人が付き合っていたとは言えなくてね。私は最後の賭けに出たんだ。」
    「賭け?」
    「そう。“私はね、君にずっと聞きたかった事があるんだ。前世も今世も関係ない。君は〇〇の事をどう思っているの?”そう悟に尋ねたんだ。」
    「五条はなんて?」
    「そしたら悟は」

    "「俺らって付き合い長いしいつも一緒に居たからさ、何度も周りの奴らから〇〇の事どう思ってんだ?付き合ってんのか?って聞かれるから正直答えるのも面倒になってて自然と俺らの仲見てたらそう言うのじゃないって分かるだろと思って分からせてた。」
    「なら君にとって〇〇は大切な友達って事?」
    「いや、それはあくまで面倒ごとの対処法って言うのかな。関係ない奴にはこの気持ちは伝わらない。伝える必要もなかった。
    「この気持ち?」
    「同じ質問でもさ、傑だったら正直に答えられるよ。茶化しもしない、軽い気持ちでも、思いでもないって絶対分かってくれるからさ。・・・俺はあいつが特別過ぎて怖くなってた。大切過ぎて関係を壊したくない。この居心地の良い関係でずっとそばに居てくれるならそれで良いって思ってた。」
    「・・・そうか。思ってたって事はその気持ちは変わったの?」
    「大人になるにつれてただ一緒にいられるって事が難しくなって来ただろ?お前らがよく言うようにバイトしたりサークル活動したり、卒業したら働き出してもっと一緒には居られなくなる。そしたらもう子供の頃みたいな我儘は通じねーよなって。そんな時に七海七海って・・・昔なら〇〇の周りにいる男は自分が知ってる範囲の男ばっかりだったし知らなかったらとことん知ろうとしてた。でもなんか七海って癪だけどここがダメって指摘する隙を与えないし〇〇にもハマってる感じがしてさ。キスしたのはまじで良くなかったけど今のままじゃダメだって気づいた。ちゃんと自分の気持ちに正直になって好きって言わないとって」
    夏油は嬉しそうに笑うと
    「それが聞けて良かった。なら私も話すよ。君たちはね、前世で恋人だったんだよ。」
    それを聞いた五条は目を見開いた。そして、
    「くっそぉぉぉ!!!」
    「え?なに?え?どう言うリアクション?」
    穏やかな空気だったはずが五条の激しいリアクションに夏油は動揺した。
    「悔しい!なんだよ!前世では両片思いでようやく今世で二人は結ばれるんじゃねーのかよ!」
    「え、えぇ〜」夏油は完全に引いている。
    「なんで前世の俺のがあいつと付き合えてるんだよ〜!」"

    「って前世の自分に嫉妬してた。」
    「...バカだな。そもそもあのカップルは二人揃って面倒臭い。」
    「それはここだけの話だよ。」
    「それで?前世の自分に嫉妬して今日はサークルに強行突破してるんだっけ?」
    「あぁもう私もお手上げだからとりあえず〇〇に一言だけメッセージ送ったよ。」
    「はは、あれだけ必死にフォローしてたのに投げやりかよウケる。」
    「これで大喧嘩でもしてたらもう今度こそマンション退去だよ...。」
    ピンポーーーン
    「あ、どうしよう、悟かもしれない。」
    「良いから出てやりなよ。」
    夏油は泣きそうな顔をしながらそろりそろりと玄関に近づいてドアスコープを覗き込むとすぐに口元が緩んだ。家入と繋がったままのスマホを手に
    「硝子、とりあえず今度みんなでキャンプに行こう。」
    「・・・?はは、了解。」
    ドアスコープの向こうにはソワソワしながら手を握る二人の姿があった。



    【焦ってねーし】

    「お邪魔しまーす。」
    『デジャヴ??』
    また休日がやって来た。先週までの卑屈な考えはもうスッカリなくなっていた。[昼頃行く]と連絡が来ていた五条のメッセージに了解のスタンプを返してテレビを見ているとインターホンが鳴り出迎えると先週と同じようにアルバムが入った荷物を抱えた五条がいた。
    『見たくない?』
    「ちゃんと見るべきと思って」
    『ちゃんとって?』
    いつも通りの飲み物を用意する〇〇と先週と全く同じように動画のセッティングをする五条。隣同士で座ると再生ボタンを押した。
    『内容もまた同じ?』
    「内容は同じでも俺の解説付き。」
    〇〇は首を傾げながら温かい飲み物を飲んだ。
    テレビ画面には〇〇の表情が毎度歪むお遊戯会の映像が流れ出した。
    『週一で見せられるってもはや罰ゲーム』
    「もう一度ちゃんと見ろ、この俺を」
    巻き戻す五条が再生ボタンを押すと指さして
    「ほら、この瞬間からお前の事見てんの。んで泣き出すだろ?俺がフォローに入ってそのフォローに入る硝子と傑な。傑たちにカメラ向くけどこの端に映る俺たちを、見ろ、ずっとお前の手を握って安心させてるんだよこれ。」
    『そ、そうだったっけ?』
    「んでこの球技大会の動画もまじで心配してる俺の顔見ろよ。からのここも別の方にカメラ行くけどボール蹴った先輩の方に殴り込みしようとしてて傑にめっちゃ止められてるから。」
    『そ、そう、なんだ。』
    「体育祭の借り物競走。これもまーーーじでお前だけ探してる。」
    『・・・』
    「ずっとお前しか見てなかった。わかった?」
    笑顔で顔を覗き込まれて〇〇は
    『ど、どうして急にそんな事、』
    「いや、お互いさ、こう言う関係になるまではずっと一緒だったけど幼馴染としてやって来たし、いきなりと言えばいきなりに感じるんじゃないかなって。だから俺は昔からお前の事気にかけてたって事を直接伝えようと思って」
    『あ〜』
    「反応悪!」
    『な、ならさ〜』
    塾、初デート失敗事件、進路、オープンキャンパス、文化祭、病院、同じマンション・・・と確認したい事は山ほどあるが何を言っても返される言葉が想像出来て恥ずかしくて言葉に詰まった。今までは五条の恋人や周りの目線を気にしていたのにまさか本当に意味を持ってくっ付いて来ていたとは...改めて言われると安心させられるより今さら心臓がうるさくなるものだ。
    「なんだよ?何でも聞けよ。まぁこれだけ一緒にいるしお前も言われてみればそうだとは思ってるだろうけどさ。分かりきった答え合わせみたいな感じだよ。」
    『う〜ん、あ、卒業式。』
    「ん?卒業式?」
    すぐにピンと来ると思ったが反応が薄かった為、〇〇はクローゼットから自分のアルバムを取り出して渡した。
    「え、俺このアルバム知らない。」
    『そりゃ私だって友達と撮ったやつとか友達から貰った写真とかあるからね。』
    特におかしな事を言っていないのに何故だか不服そうな五条はペラペラとアルバムを捲り出した。
    「はぁ?」
    不機嫌そうに眉間に皺が寄った。最後のページ、そこには卒業式で仲が良かった男子から突然の告白をされて五条から逃げるように二人で撮った写真があった。
    「やっぱり二人で撮ってたんだな。あいつに詰め寄ったけど撮ってないって言われてたのに。」
    『告白されたのは気付いてなかったんだ。雰囲気察して邪魔しに来たと思ってた。あ、邪魔ってあれだよ、いつもの幼馴染のノリの方ね。』
    「・・・ちょ、ちょっと待って、告白?告白って言った?告白されたの?あいつに?」
    『あ、待って盛りすぎた!可愛いって言われた!調子に乗ってすみません!』
    「どっちでも意味変わんねーわ!」
    『変わるよ!▲◼︎の名誉の為にもね!』
    「あっの野郎...まじかよ。」
    『そんなに気にする?』
    額を押さえる五条を覗き込みながら
    「する。だって今日は俺がお前をずっと大切にして来たかを知ってもらってキスのやり直しを要求するつもりだったのにさー」
    『バカじゃないの?しないよ?』
    「なんでだよ!」
    『だってこの前のやつって悟がなんか怒っててして来た事だよね?思い出とか関係なくない?』
    「あれは!...あれはお前が七海七海うるさいから、」
    『え?七海くん?傑に聞いたかもしれないけど七海くんと灰原くんは前世で後輩だったんだよ。この前は私も混乱して記憶が混ざってたから困らせてごめんね。』
    「それは関係ないんだ。前世も交友があったからとか関係ない。」
    『えー』
    「だって今も仲が良いのは本当だろ?」
    『そんなに仲良く見えた?信頼はしてるけど...と言うかなんで七海くんにだけそんなに嫌がるの?』
    「それは」
    『七海くんは悟から見ても良い男って事?ってちょっと!』
    言葉を遮るようにグッと引き寄せられて顔が近付いた瞬間に五条の唇に手の平を押し付けた。
    「んぐ、ぷはっ!なんだよ?」
    『そこまで先週の再現しなくて良いから』
    「先週と同じで煽ったのお前だろ!」
    『別にそんなに焦らなくてもこれから一緒にいるんだし』
    「焦ってねーし!ただ、」
    『ただ?』
    五条は小さい頃の四人の姿をぼんやり眺めて寂しそうな顔をしながら
    「俺ら四人、あー七海と灰原も入れたら六人?生まれ変わってもまた出会うって事はかなり前世で深い何かで繋がってたって事だろ?」
    『え?まぁそう言う事になる?』
    「生まれて来て死ぬまでって人にはよるけど長い人生だしそれだけみんな長く一緒にいたとかそう言う事なのかなって」
    『・・・』
    どちらかと言えば短命で離脱した人間の方が多い。そんな事は五条に言えるはずもなく黙って話を聞いた。
    「って事はお前と俺だって青春時代だけの淡い時間を過ごしたなんてレベルじゃないくらい一緒にいたって事だろ?いや、何も答えなくて良い。年数じゃなくて濃さも大事だし」
    『うん。』
    気を遣われたのかあるいはどれくらい一緒に居られたのか知るのが怖かったのか?それでも濃さと言われたら〇〇も少しだけ心が救われた気持ちになり表情が和らいだ。
    「前世は関係ないって啖呵は切ったけどどうしても気になってさ。」
    『なにを?』
    「つまりは俺以外はみんなすでに大人を経験してるんだなって」
    『それは、確かに前世は悟と付き合ってから大人になったけど』
    「だろ?傑と硝子は元からなんか達観してたからあれだけどお前も俺の事ガキ扱いしないかなって...今のは言い方が悪いな、呆れたりしないかなって」
    語尾が小さくなっていく五条に思わず笑ってしまった。
    「ごめん。やっぱりあんな告白しといてダサいな。」
    『そんな事ないよ。』
    「え?」
    『前世を思い出せばそんな日々もあったって思うけど悟が言ってくれたでしょ?"今"の私と悟が大事なんだって...それに、』
    「なに?」
    『自分はどうなの?今の映像見て昔からの気持ちは伝わったけど悟はしっかりモテて彼女もずっと居たくせに。あ、これはちゃーんと今世の話だからね?』
    見た事ない愛らしく唇を尖らせた〇〇の表情に五条は内心トキメキが止まらないが慌てて
    「それは、その、だから、あ!大学入って彼女作ってないだろ?お前は段々大人びてくし周りにいる奴らもすぐには把握出来なくなったし流石に本気で考えないとって思ったりしてたんだよ!」
    『大人びてって、そうだよ前世は大人でも今世は私もまだ子供だよ。余裕とかないから普通に恥ずかしいよ。』
    「恥ずかしい?」
    〇〇は目を逸らしながら頬を染めて
    『ファーストキスだったから、あれ。当然だよね?だってずっと恋人を作るチャンスを悟が邪魔して来たんだし、、い、今の邪魔は、、そう言う意味の邪魔って事で、え?今までの邪魔はそう言う事だったんだよね?』
    五条はたまらなくなって再び〇〇の手を取り引き寄せた。〇〇は相変わらず赤い顔でギュッと目を閉じて
    『そ、そもそも前世のファーストキスだって悟だっん!?」
    今度こそ口付けた。驚く〇〇を黙らせるように後頭部に回す手の力を強めた。ゆっくり唇が離れるとまだ鼻先が触れ合うくらいの距離で見つめ合いながら
    「もう一回したい。」
    『し、しないよ。』
    「なんだよ」
    『先週みたいに追い出さないだけ進展したと思いなさいよ。』
    五条はクスクス笑って「そりゃそうだ」と言いながら再びキスをした。



    【それは必須だろう】

    「灰原、肉だ。とにかく肉を焼け。」
    「了解です!」
    「何で記憶がない五条が一番五条してるんだ。」
    「硝子!なんだその言い方は!五条してるってそれなんとなく悪口だって分かるからな!」
    今日は夏油の誘いで五条、〇〇、家入、七海、灰原でバーベキューに来ていた。生まれ変わってもまた6人で会えるなんて夢のようだと〇〇は嬉しそうにその光景を眺めていた。記憶がない五条を気遣わない所、それに対して怒っている五条も含めて何も変わらないと感動さえ覚えていた。
    「肉焼けましたよ。」
    『ありがとう七海くん。』
    お礼を言いながら焼きたての肉が盛り付けられた紙皿を受け取ると〇〇は『どうぞ』と隣の椅子に手招きした。
    「あ!七海そこ俺の場所!」
    七海は後ろからギャーギャー言う五条にため息をつきながら振り返った。
    「家入さんの言う通りですね。記憶がなくてもあなたが正真正銘五条悟です。」
    「だから!それ絶対悪口だろ?お前前世では後輩だったんだろ?敬え。」
    「前世より今が大事と啖呵を切られたとお伺いしたんですが?」
    「それとこれとは別なんです〜」
    そのやり取りに〇〇が苦笑いしていると灰原が
    「でも僕は嬉しいです!また〇〇さんと五条さんが結ばれるなんて素敵じゃないですか!」
    と夏油と家入は灰原に「「ピュアだな〜」」と和んでいた。しかし
    「それもまさかきっかけがまた七海だなんて面白いよね〜」
    灰原の発言に夏油と家入は「「あ」」と溢し、七海は頭を抱えた。五条は
    「また?また七海って?言った?」
    「はい!言いました!五条さんは前世でも七海と〇〇さんの事勘違いしてましたよ!」
    灰原〜!と全員が突っ込もうとしたがもう遅かった。七海はうるさくなりそうな五条を察して
    「だから嫌だったんですよ、〇〇さん。」
    『え?私?』
    「再会した時に言いましたよね。」
    五条の方を指差して「この人は記憶があろうがなかろうが面倒な人ですよって」
    「どう言う意味だよ!」
    七海にツッコむ五条と「私もそれ〇〇に言ったね。」と呑気に笑う夏油。
    「今世もこの人に絡まれるのは勘弁ですって伝えておいたのに」
    『す、すみません。でもあの時は悟も前世とかそう言うのは知らないしまさかこんな風に付き合えるなんて思ってなかったからさ・・・助けて欲しかったんだよ。』
    「それを思ってるのはあなただけですよ。」
    『え?』
    「大学で初めて会った時覚えてますか?〇〇さんとの間に入って来た五条さんから物凄い牽制をされました。」
    『けんせい?』
    「僕も普段から五条さんて完全に〇〇さんしか見てないなって思ってましたよ!」
    『え?え?なに?』
    「マンションに招いて頂いて皆さんで鍋を食べた時もですね。あと突然一眼を買われて写真科にもいらっしゃってましたね。あれも私のカメラに興味を示していたのを見ていたからでしょうか?」
    「へ〜やっぱり二人も思ってたんだ。それは私も硝子も思ってたよね?だから何で悟が付き合おうとしないのか不思議だったよ。」
    五条本人からもずっと大切に思って来たと聞いていたがまさかみんなからもそんな風に思われいたとは知らず〇〇は恥ずかしくて顔が熱くなった。極め付けに
    「話を聞けば前世の自分にも負けたくない、むしろ付き合っていた事に悔しがって・・・私が思うに前世の五条さんも嫉妬深くて今世の五条さんに近づくなって呪いをかけたんだと思うんですよ。前世と来世で同じ男が嫉妬し合って前代未聞じゃないですか?どんだけ好きなんですか?」
    よほど前世から五条への鬱憤が溜まっていたのかいつもより口数が多い七海に〇〇は驚いたが五条を見ると
    「お、お前らうるさ!俺トイレ行ってくる!」と耳まで真っ赤にして歩いて行ってしまった。その様子に夏油と家入は大笑い、スッキリした表情の七海、五条に負けないくらいに頬を染める〇〇。そして灰原だけは「凄いよね〜愛の力だよね〜」と感心していた。

    「なぁ傑?俺ってもしかして前世で後輩から慕われてなかった?」
    「気にしない方がいいよ。」
    家入と〇〇はお腹がいっぱいになると散歩に向かった。まだ食べれると気合いが入っている灰原は七海と一緒に肉を焼いていた。夏油は少し休憩とゆったり出来るアウトドア用の椅子に座っていると五条がやって来て隣に座った。
    「前世なんか知るかよって言った手前、やっぱり気になるもんだよな?かっこ悪いよな〜」
    「そんな事ないよ。私も同じ状況だったら自分だけ知らない事があるって思うと不安だ。でも私から見ても君は良い意味であの頃のままと言うかだから七海も気を遣わずにあんな事が言えたんだと思うよ。」と言いながら夏油は先程の七海を思い出して笑って「まぁ確かに前代未聞だよ。」
    「笑ってんじゃねーか。七海は笑い話で言ったんだろうけどさ俺が前世で本当にすげー面倒な男だった場合の話。」
    「うん?」
    「前世の俺が拗らせてて今世の俺に〇〇と付き合うな!ってなんかそう言う呪いみたいな事してたんじゃねーかって。だから俺だけ記憶がない。」
    「あぁ〜ふふ、どうなんだろうね。でも詳しく話すと長くなるから詳細は省くけど君ってそう言う事が出来てしまうくらいには凄い力を持った男だったんだよ。」
    「え?まじ?」
    「まじ。」
    「まぁ記憶なんか関係ないって自力で告白した俺なんだしあり得るのか?」
    「どうしたの?こうやってみんなで仲良く出来て、大切な〇〇とも恋仲になれたのに不満?」
    「不満はない。すげー楽しい。」
    「これだけは言えるけど例え悟に記憶が戻っても二人の関係が崩れる事はないよ。だから安心して良い。」
    「おう。お前にだけは言えるけど・・・ここまで来たらもう記憶は戻らなくても良いって思った。それくらい今は充実しててこうやって記憶があるお前らと居ても嫌な気にはならないし、でももし前世で何か大切な約束事をしてるならそれは思い出してやりたいなとか、」
    夏油は少し驚いた様子で
    「〇〇がそう言ったの?思い出して欲しいとか」
    「いや、何も言われてねーよ。むしろ何も言わねー。でも生まれ変わってまた出会って恋人になるなんて神様に感謝されるくらいのとんでもない功績を残したとか、魔法かなんかを使って二人だけの誓いを立てたとかそんなレベルじゃないのかって思うんだよ。」
    「ふふ、魔法ねぇ。」
    「やっぱり魔法?俺たち魔法学校に通ってたのか?」
    夏油は目を輝かせる五条を笑って
    「少なくとも君は私との約束みたいなもの?は果たしているから感謝してる。」
    「え?」
    「またこうして親友でいてくれてる事だよ。七海がエンドレス肉に限界来てるからコーヒー用意してくるよ。」
    夏油の背中を眺めながら五条は「それは必須だろう。」と呟いて後を追った。



    【前世の契りは今世で執行される】

    それからまたしばらくしてついに記念の公演の日がやって来た。公演は大成功で終わり〇〇の憧れの脚本家・演出家のOBにも会う事が出来た。取材に入っていた新聞記者や地元のテレビ局も集まり主人公、ヒロイン役の先輩や脚本を担当した先輩がインタビューを受けた。最後は舞台上で現役の学生、劇場の建設・記念公演に携わった人たちが集まって記念撮影が行われた。最後まで客席からの拍手は鳴り止まなかった。今夜のサークルの打ち上げは今後のサークルの繁栄も願って盛大に祝おうとOBの方たちが宴会場を設けてくれた。〇〇ももちろん参加をする事になった。宴会までに時間がある為、各々で時間を過ごしていたがほとんどの団員が楽屋に集まって現役で活躍している先輩たちの話に夢中になっていた。

    一日でとんでもない経験をしてしまったと公演が終わっても興奮覚めやらぬ〇〇はもう一度劇場へ足を運んでいた。まだ役職がない〇〇だったが居ても立っても居られず手伝える事はないかと先輩たちに声を掛けまくりいつしか毎日やる事がいっぱいになっていたが心は充実していた。おかげでみんなと同じ達成感を味わい、団員たちに送られる客席からの拍手と笑顔を自身も見る事が出来た。先輩たちも「ありがとう」と言ってくれて〇〇は本当に素晴らしい経験が出来たと嬉しくて堪らなかった。この後清掃が入る為、ステージの照明はまだ消えていなかった。2階席まで向かって適当に座席に着くとステージの方をぼんやり眺めた。
    「夢見心地ってやつか?」
    『悟?え、まさかまた!』
    突然現れ隣の座席に座る五条。この時間は関係者しかいないはずでは?と目を見開いたが
    「今回は違う。この前俺を全力で止めた人が「もう五条くんなら良いよ」って」
    『そんな緩いの?まぁ良いけど』
    「ちなみに「〇〇ちゃんに会いに来たんでしょ?なら止めるのは野暮だ」って言ってた。」
    ニヤニヤしている五条に〇〇は少し恥ずかしそうにして「余計な事を」と溢した。
    『今朝伝えたけど今日はこの後打ち上げだからね?』
    「分かってるって。早く感想言いたかったんだよ。すげー良かった。お前がサークルに入りたかった理由も今日まで頑張って来た意味もなんか分かった気がした。」
    ニヤニヤしていた顔から穏やかな表情になった五条に〇〇も嬉しそうに笑って
    『懐かしいね。サークルに入りたいって高校の時に話してから一緒にオープンキャンパスに行って・・・色んな事があったし色んな感情に悩んだりもしたけど今は満足してる。』
    「ちなみに将来芸人になった俺と傑の漫才ツワーの演出を手がける天才作家〇〇の夢もまだ諦めてないから。」
    『ここまで何だかんだ色々実現させてる悟が言うと怖いよ。でも作家さんの仕事はまた違う世界だからね?と言うかそろそろ傑から本気で怒られるよ?』
    ダメかな〜と笑う五条に〇〇は『あ、でもね』と見つめて
    『この記念公演は毎年やって行こうって、そうなると今後先輩たちが卒業したら君がみんなを引っ張って行くんだよって言われててプレッシャーがやばいんだよね。』
    「それだけ期待されてるって事じゃん。」
    『そうなんだけどね。でも脚本とか演出に関しての憧れはあるけど実績もないし。』
    苦笑いする〇〇に
    「実績ならあるだろ?前世の記憶があるなんて誰にも書けないぞ?」
    五条の言葉の意味が良く分からずポカンとしていたがすぐに呆れた表情をして
    『前世での事も今世でこうしてまた奇跡が起こった事も書かないよ。』
    「どうして?別に自伝だって書かなきゃ変に見られる事もないし・・・あ、いや、ごめん。」
    『なに謝ってんの?』
    「嫌な記憶とかもあるだろうしデリカシーなかった。」
    五条のらしくない気遣いに〇〇は笑いながら
    『違うよ。そうじゃない。・・・私の大切な思い出を作り話だなんて思われたくないの。』
    ステージの方を見つめながら話す〇〇の横顔を見つめながら五条は
    「妬けるね〜」
    『なんで?』
    「前世の男との思い出は誰にも穢させないって聞こえた。」
    『捻くれ者〜〜』
    「誰が捻くれ者だ〜」
    と〇〇の頬に手を伸ばそうとすると〇〇は突然頭を下げて椅子から降りると隠れるように屈んで五条の手を引いた。同じく屈んだ五条は〇〇を睨んで
    「な、なんだよ?」
    『シー』
    静かにしろとジェスチャーするとステージの方向に向かって指を刺した。2階席から覗き込むようにステージを見ると五条はキョトンとして小声で
    「あれって脚本家の先輩とヒロイン役の?」
    〇〇はソワソワしたように二人を見つめながら同じく小声で
    『そう。あの二人も幼馴染なんだって』
    「へ〜。んで何で隠れたんだ?」
    『告白するんだって』
    「まじかよ〜」
    〇〇は以前ヒロイン役の先輩から聞いた話を五条に簡単に説明し再び二人を見守るようにステージに目をやると五条も話を聞いた途端にソワソワとし始めて空気を読んで喋らなくなった。

    『あ、』と〇〇の声が漏れた。ヒロイン役の先輩が涙を流すと〇〇は思わずその美しさに見惚れた。五条は安心したように笑って
    「あの人さ演技で泣く時すげー上手いなって思ったんだけど今のあの涙は」
    『うん、本物の涙だね。それも・・・』
    幸せそうに笑って脚本家の先輩に抱きついていた。しばらくすると二人はステージから降りて座席をゆっくり歩きながらそのまま外へ出て行った。
    『は〜〜〜良かった〜〜〜』
    息を殺して眺めていた為、緊張の糸が切れたかのようにゆっくり深呼吸をして立ち上がった。〇〇は五条に振り返って
    『ステージの所に行ってもいい?』

    五条の承諾を得てステージに向かうと〇〇は
    『さっき先輩たちの馴れ初めを話したけどね、告白するきっかけは悟だったんだって』
    「え?おれ?」
    驚く五条に〇〇はステージ上から指差して
    『あそこからステージに向かって叫んだでしょ?』
    「あぁ。」
    『あの時の五条に勇気を貰ったって』
    「え?人前で気にせず大声出した事?」
    『違うよ!・・・私、悟からの告白を無意識に気付かぬふりしてたの。でも先輩に「あんなに真っ直ぐで一世一代の彼の愛の告白を告白と呼ばずになんて呼ぶの?」って言われて』
    頬赤らめた〇〇は笑って
    『悟と長い間一緒にいすぎて気にする事ばかり増えて、気にしないで良いような事まで気にして、、周りの目まで勝手に気にして、このまま関係が崩れるならそれ以上も以下も望まないって生きて来たのは私だったんだ。先輩の言葉を聞いて自覚して、勇気を貰ったのは先輩だけじゃなかった。あの時はびっくりしたけどちゃんと伝わってるからね。だからもう前世の事で妬かなくて良いから。』
    照れくさそうに笑う〇〇に
    「ん」
    両手を広げる五条
    『なに?え?ここ神聖な舞台上だからその・・・ハグとかしないよ。』
    ムッとする五条
    「先輩二人はしてたのに?」
    『あれはダメって言う方が野暮でしょ!』
    「じゃあさっきの舞台で主人公とヒロイン役の二人がやってたやつ」
    『え?それって・・・嫌だ、怖いよ。あれは二人と演出家の信頼が成り立ってる上での演出で!慣れるまではマットも敷いてたくらい危険なんだから。』
    五条はそれでも両手を下げずに
    「お前が今後演出や演技指導する時に役者に出来ない事を伝えるのか?危険な事なら尚更だ。実践して教えてなんぼだろ?」
    『口だけ達者なんだから〜』
    とこの調子の五条は何を言っても聞かないので仕方なく〇〇は五条に背中を向けた。
    『これで私の身に何かあったら今日の大切な打ち上げはどうなるの?』
    「さっきのお前からの熱烈なラブコールに早く答えたいけど普通のハグはダメって言うからだぞ。大丈夫だ。絶対受け止める。信用しろ。」
    妙に良い声で言われるとこれなら恥ずかしくても素直に正面から抱きしめて貰えばよかったと後悔した。決心した〇〇は掛け声もせずに気持ちを一気にヒロインの役に切り替えた。何度も何度も見て来た場面だ。あの瞬間の先輩の動きも表情も全て頭に叩き込んでいる。息絶えたように倒れ込む先輩の動きはあまりにもリアルで観客も息をのんで見守る名シーンの一つだ。

    天井に取り付けられた照明に目を向けた。もう恐怖心はなく目を閉じて力を抜いて後ろへ倒れ込んで行くと五条の腕の中にいた。五条が〇〇の上半身を抱き止めながらその場に膝をついてようやく目を開けた。・・・目の前にあるはずの五条の顔が見えない。視界はボヤけていた。

    倒れる瞬間の浮遊感、抱き止められる安心感、その全てに身に覚えがあった。決して先輩の演技からではない。自分自身にあった。それがなにか分かると瞳に涙が溜まって来た。早く弁明しなくてはきっと五条は戸惑っている。倒れる瞬間に前世の“最期の記憶”が溢れて来たなど言える訳がない。演技に集中し過ぎたと言おうとすると

    「隣に居てくれて嬉しかった。と言うかさ来世では絶対幸せになろうよ。その時も僕はお前がいい。」
    『・・・え』
    今のセリフは記念の公演のものではない。“僕”と言う一人称に鼓動が速くなる。そんなはずはないと頭の中で何度も言い聞かせる。それでもその言葉はこの世でも前世でも自分しか知らない言葉なのだ。(言える...)と〇〇は唇を噛み締めながら
    『あはは...悟が言うと洒落にならない呪いの言葉だけど...来世まで...効果ある...か...な。』
    「・・・あるよ。誰だと思ってたんだよ。意地でもまたお前を探して嫌と言うほど愛してやるからね。」
    寸分狂わぬ前世での最期のやり取りに〇〇は再び泣き出した。五条は戸惑っている様子はないが少し目元が赤い気がした。一時的なバグのようなものなのか或いは五条は前世を思い出したのだろうか?体調に問題はないのかと確認したい事は山程あるのに今はあの日、五条の腕の中で死んでしまった事、そしてあの時の感情がフラッシュバックして上手く喋れない。自分が前世を思い出したのは確かに自分の“死”に関連する事だった。しかし夏油に話した時に夏油の悲しそうな表情を見てからは“最期の日”の思い出だけは考えないようにしていた。若くして死んでいった仲間たちの記憶も同じように蓋をしていた。もちろん記憶がない五条に自分は若い内に死んだなどとも言えるはずもなかった。強引に蓋をして来た反動からか記憶が滝のように溢れて来てあの時の五条との会話を全て覚えていた。
    戸惑っている〇〇の頬に五条の手が添えられた。
    「あぁ・・そっか、そう言う事か、お前最後まで俺の言葉を聞いてなかったんだ。」
    五条は涙を流す〇〇に穏やかな表情を向けた。
    『え?さいご、まで?』
    「今度はちゃんと返事をして」
    五条は〇〇の背中に手を回して上体を起こしてやるとゆっくり両手を包み込んだ。
    「僕は、、俺は、、例え生まれ変わって記憶がなくても来世もお前を好きになるから・・・だから・・・待っててよ。それから、絶対俺を好きになってくれ。」
    目の前の五条は本当に前世の記憶を取り戻していた。負けたくない、前世なんて関係ないと言っていた五条にはもう不安や戸惑いはなかった。その真っ直ぐな言葉をしっかりと受け止めた〇〇は

    『私きっと怖かったの...生まれ変わってまた悟と一緒になってもまたこんな風にあなたを置いて死んでしまったら、悲しませてしまったらって、だから最期までその言葉を聞けなかった...ごめんね。でも、また、こうして、出会って、愛してくれてありがとう。今ならちゃんと返事が出来る。前世で恋人だったからとか今世でずっと一緒に居たからとかそんなの関係ないよ。あなた“だから”好き。私は・・・あなたが好き。』

    幸せな表情で微笑むと五条は嬉しそうに笑ってそのままキスをした。聞こえるはずの拍手が客席から聞こえた。前世からの祝福かもしれないと〇〇はゆっくり目を閉じた。

    前世では五条の契りに答える事なく命が尽きてしまった〇〇だったがこの瞬間、五条の言葉に返事をし二人はようやく前世の契りを結んだ。

    ___________
     
    優しい口付けを終えるとゆっくりと唇が離れた。五条はもう一度〇〇の手を取って
    「僕もね、〇〇みたいに怖かった訳じゃないんだ。ただ一度懐に入れてしまった大切な存在は呪いたくなかったし縛りたくなかった。だからあの時無理矢理にでもお前の意識を繋いで頷かせる事は出来たかもしれない。そしたらこんなに時間がかかる事もお前が不安になる事もなかったかもしれない。でも出来なかったよ。ただ安らかにお前を眠らせたかった。」
    『悟...』
    しかしすぐにいつもの調子が出たように笑って
    「でも僕ってさすがだよね?前世の契り、その言葉が今世にまで影響しちゃうなんてさ。まぁ残穢で呪霊が憑りつかないレベルだし。つまりさ、お互いが上手く契りを交わせなかったけど僕のお前への気持ちには敵わなかったって事だよ。」
    〇〇も気が抜けたように笑って
    『最期の瞬間なんて傑たちに言えなかったけど今の話が本当だったとしても説明出来ないね。』
    「なんで?灰原の言葉を借りるなら愛の力って説明すればOKじゃない?」
    『七海くんの気苦労がもう見えて来た。』
    「あ!あいつ!記憶が戻った今だから分かる!俺はあいつに嫉妬してたのかよー!」
    『大丈夫?口調が、』
    「あれ?今、俺?僕?いざ、落ち着いたらすげーゴチャゴチャになるね?これ。」
    五条はキメ顔をして
    「僕と俺、どっちがカッコいい?」
    〇〇は鼻で笑って
    『どっちでも良いよ。』
    「そこはどんな悟でも好きでしょ!今そう言ってくれたのに!?」
    『はいはい、そろそろ清掃の方たちが来るから退出しようね〜。』
    先に立ち上がり歩き出した〇〇を追う五条は手を握り締めて
    「この契りを結んだからには今世もそのまた来世もずっとずっと一緒だよ。大丈夫、僕最強だから。」
    『もうロマンティックと言うより執念だね。』
    「執念か〜」
     
    "「またこうして親友でいてくれてる事だよ。」"

    「はは、本当に自分の執念には引くよ。」
    前世、夏油との最期の言葉とキャンプでの言葉を思い出しながら
    「あんな事、きっと記憶があったら絶対言わないだろうに...泣かせるよね。よーし、絶対傑とお笑いコンビ組んでやろ!」
    『え?』
    「あーー本当に僕は幸せ者だよ。」
    呆れた顔をしながらも五条にバレないように〇〇も今世の幸せを噛み締めていた。早く親友の家入に伝えたくて堪らなくなっていた。



    ___________________

    【これからの事】


    『ちゃんと今世で幸せだよ。』と家入に自信を持って電話で伝えるまであと15分。
    「久しいね〜悟」と夏油に言われるまであと30分。
    後に祓ったれ本舗のマネージャーとなる伊地知が大学に入学して来るまではあと1年。
    家入の結婚式で気まずそうな顔で酒を飲んでいる歌姫が五条と夏油に見つかるまであと5年。
    「どうも〜祓ったれ本舗です」と天才演出家兼脚本家と漫才ツアーを開催するまであと10年。
    _____________________

    Xでのお礼とお知らせと補足と勝手なイメージソング

    ここまで読んで頂きありがとうございました。ついに完結しました。書き始めた時はまさかここまで長くなるとは思いませんでした。あまりに長くなったので分かりにくい文章になっていないか不安で仕方なかったですが今はとにかく完結出来て良かったです。
    更新はここまでとなりますが改めて誤字のチェックや加筆修正しながらお話を全てまとめたらpixivとポイピクに投稿する予定です。話の流れが大きく変わる事はありませんがセリフの追加はあると思います。

    ※補足
    「生まれ変わったら今度こそ幸せになろうね。嫌でも愛してやるからね。」と言う約束は本当に生まれ変わって今世は平和でみんな幸せ。五条から夢主への一方的で強引な執着心などは果たされていましたが「例え記憶がなくても来世でも愛すよ」と言う言葉には夢主はもう息絶えて返事が出来なかったので契りに支障が出ていたと言うイメージでした。あと夢主が話した通りでまた五条を悲しませたくないって気持ちも大きく影響してたと思いますが五条の呪い(思い)の言葉の方が強かったんだと思います。表現が分かりづらかったらすみません。また追記で補足はするかもしれないです!

    ●勝手なイメージソング
    骨/黒木渚(第一話のイメージ)
    隣人に光が差すとき(五条の元カノから見た夢主のイメージ)
    DESTINY/My Little Lover(前世の記憶を思い出した後の夢主のイメージ)
    さいごのひ/スキマスイッチ(最終話のイメージ)
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    Replies from the creator

    大魔王くん

    DONE祓ったれ本舗の五と実力派女優の夢主
    以前上げたもしもシリーズの第二弾!
    ※テ○東のバラエティ番組、ゴッ○タンの企画【キス我慢選手権】に出演したら?もしもシリーズです。
    ※↑の番組内容を知ってる方ならなんとなーく雰囲気分かって頂けるかなと思いますが箇条書きなので分かり辛かったらすみません。
    ※番組の雰囲気もご都合展開で制作してます。夢感はあんまりないです。オチは特にありません。
    何でも許せる方のみど
    もしも祓五が「キス我○選○権」に出たらキャプションの注意事項を必ずご確認頂きご了承頂きましたら本編にお進み下さい。



    キス我慢選手権とは芸人がセクシー女優さんからありとあらゆるシチュエーションでキスを迫られても我慢出来るかと言うかなり責めた企画。我慢しようが出来まいが芸人力を試されるコーナーである。自分の好みの女優さんから誘惑されて顔を真っ赤にしながら必死にあらがう姿が責めた企画ながらも視聴者の笑いを誘った。中でも話題になったのが実力派芸人G・H氏(調べたらすぐ出ます)。彼は巧みな演技力を発揮しセクシー女優さんは演技で涙まで流しアドリブとは思えないドラマ仕立ての神企画に一瞬にして塗り替え、ついには映画化までに発展し伝説の企画となっていた。
    4449

    大魔王くん

    DONE五夢/微ホラー
    「君があまりにも無邪気に僕を・・て笑うから」

    『まじ神~』と軽いノリで五を崇めていたら五が満更じゃなくなって来た話
    ※現パロ?
    ※タイトル詐欺です...
    ※没作供養中の為、いつにも増して駄文です
    ※念の為、背後注意の表現があります
    ※原作要素無/オリジナル要素しかありません
    ※とにかく何でも許せる方のみどうぞ
    君が無邪気に笑うから『悟まじねもうすだわ。』
    「ちょっと待て、今なんつった?」
    『いや、だからねもうす!知らないのー?』
    「お前のその知らないの〜?いじりにはもう騙されねーからな。大体知ってるって返したら本当に誰も知らねーような内容で俺に恥をかかすやつだろ!」
    『騙してないってば。なら傑とか硝子に聞いてみてよ。』
    「はいはい良いから正解教えろ。」
    夢主は仕方ないなぁと言いながらノートにカタカナのネと申し込みの申と書いた。
    「神?」
    『神の漢字をバラしたらネと申だからねもうす。』
    「うわ...頭悪そ〜」
    『知らなかったくせに。』
    「知らなくて良いような事だったわ。あと崇めるなら普通に神って言えや。それも語彙力ねーけど」
    そんな軽いやりとり。気付けば文句を言っていた悟は夢主からねもうす(神)と言う造語で崇められる事に慣れてしまっていた。しまいには自ら夢主に貸しを作っていつもドヤ顔で夢主から『悟まじねもうす』と言われるの待っていた。
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