ロゼ・ディアマンテ【仁玖】「……おや?」
唐突に響いた声に、鐡仁武ははっと足を止めた。
ぐるりと視線を巡らせると、廊下に置かれた長椅子の上で誰かがゆるりと身を起こした。窓から零れる月光が切り抜く輪郭は、確かに見覚えのあるものだ。
微かな衣擦れと共に、ふわり、と白百合の香が匂い立つ。
「やっとお仕事から解放されたのかな、鐡司令官殿」
彼はからかうように言い、頬を緩める。
「あまりに遅いから迎えに行こうと思ったところだよ」
――舎利弗玖苑。
舎密防衛本部作戦部所属の、フッ素の志献官。純壱位の名に相応しい実力の持ち主であり、デッドマター討伐に於いては最強の一角である。華やかな容姿は民衆の耳目を集め、彼の周りには普段から人が絶えない。
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