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    ruicaonedrow

    エタるかもしれないアレとかコレとか/ユスグラ/パシラン/フィ晶♂/銀博/実兄弟BL(兄×弟)/NovelsOnly……のはず

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    「結ぶ和の多世界解釈」に寄稿させていただいたものです!お招きいただき有り難うございました!

    #仁玖

    ロゼ・ディアマンテ【仁玖】「……おや?」
     唐突に響いた声に、鐡仁武ははっと足を止めた。
     ぐるりと視線を巡らせると、廊下に置かれた長椅子の上で誰かがゆるりと身を起こした。窓から零れる月光が切り抜く輪郭は、確かに見覚えのあるものだ。
     微かな衣擦れと共に、ふわり、と白百合の香が匂い立つ。
    「やっとお仕事から解放されたのかな、鐡司令官殿」
     彼はからかうように言い、頬を緩める。
    「あまりに遅いから迎えに行こうと思ったところだよ」
     ――舎利弗玖苑。
     舎密防衛本部作戦部所属の、フッ素の志献官。純壱位の名に相応しい実力の持ち主であり、デッドマター討伐に於いては最強の一角である。華やかな容姿は民衆の耳目を集め、彼の周りには普段から人が絶えない。
     しかし、その彼が何故、防衛本部にいるのだろうか。
     確か、三番鉄塔付近で待機していろ、と命じたはずだが。
    「そう怖い顔をしなくてもいいだろうに。眉間の皺が取れなくなってしまうよ」
     口を開きかけた仁武を手で遮り、玖苑は、けれど、からりと笑って立ち上がる。
    「元素結界に影響がないという報告は、キミの元にも届いていただろう? どうせこの分じゃ長期戦だ、だったら休めるうちに休んでおく方がいい」
     喉元まで出掛かった非難の言葉をぐっと飲み込む。代わりに大きく溜息を吐くと、すぐ近くにまで寄ってきた親友が、ぐいとその顔を上げてこちらを見た。綺麗な蛍石の色をした瞳が弧を描き、常夜灯の明かりに淡く煌めいている。
    「さて、……それじゃあ、花見の続きと洒落込もう!」
    「は、……?」
     応える間もあらばこそ。
     ぱし、と手首を取られ、引っ張られる。仁武がたたらを踏む頃には、肩に纏った制服を翻し、彼は意気揚々と歩き出している。その背中で、亜麻色の三つ編みが弾んだ。
    「おい、……玖苑!」
     制止に意味が無いことくらい分かっている。しかし仁武は、ご機嫌な鼻歌と共に先を往く玖苑に、声を掛けずにはいられない。
    「遊んでいる場合じゃ、……――」
     ざあっと風が吹いた。仁武が続けようとした言の葉を攫い、木々の梢をざわざわと揺らす。
     いつの間に外に出ていたのか、ふたりの足は防衛本部の中庭を歩いていた。仲春の候とはいえ夜半の空気は未だ冷たく、申し訳程度の月明かりが周囲を薄青く照らす。やがて繋いでいた手がするりと解けるので、少しばかりそのまま進んだ後、仁武の足は勢いを失い立ち止まった。数歩先で同じように足を止めた玖苑は、一拍置き、勿体ぶった動きでこちらに向き直る。舞台に颯爽と登場した、花形役者のように。
    「ね、どうだい、仁武。夜更けの桜も、なかなか乙だろう」
    「何を、……」
     言い掛け、気付いた。その先の言葉は、感嘆の吐息に代わった。
     そこは慰霊碑へと向かう隧道の脇。街灯の光も届かぬような暗がりに、一本の老木が身を潜めている。枝を四方に広げ、そのあちこちを満開の花々で着飾っている。そよ吹く風に、桃色の剥片をはらはらと舞わせながら。
    「みんなでわいわい楽しくやる花見も、勿論いいけれどね」
     気配に目を遣れば、玖苑の姿はすぐ傍に在る。彼は目元を微笑ませつつ、桜を眺めている。
    「キミとふたりで見る桜も、悪くない」
     ――燈京の基盤元素力が低下している模様……ッ!
     そんな衝撃の一報がもたらされたのは夕刻過ぎ、ちょうど、廻遊庭園での花見の最中であった。業務を片付け、ようやく会場に辿り着いた仁武が腰を下ろした直後、観測班の職員が数人、慌てふためきながら駆け込んできたのだ。
     花見は当然、即お開きとなった。
     純の志献官たちはそれぞれ散開し、デッドマターの襲撃に備える。仁武は一旦本部へと戻り、各所からの報告をまとめ、各班の班長たちと対策を検討する。混の志献官たちを連れ、鉄塔周囲の視察と配置を終えた頃には、既に夜の帳が下りきっていた。
     元素力が枯渇した理由は、今もはっきりしない。なので、不安げな表情の住民に、仁武が出来ることといえば経緯の説明だけだった。ご安心下さい、元素結界に影響はないとの報告を受けております、……壊れたラジオのようにそればかりを繰り返し、それなら、と引き下がる住民たちを見送り、ひとつ息を吐く。疲れている、と思った。肉体的な疲労より、精神的な疲弊を自覚した。
    「見事なものだ。ここにも咲いていたとは、知らなかった」
     桜を見上げ、仁武は素直に感想を述べた。ピンと張り詰めていた気持ちが、一時、ふっと緩んだような感覚だった。
    「まぁ、キミは忙しいからね。こんな端々のことまで把握するのは難しいだろうさ」
     皮肉交じりの言葉ではあるが、語調は柔らかい。仁武がちらりと横目に見れば、玖苑は、けれど、桜を静かに眺めているばかり。淡い月光ばかりが照らす横顔は、微かに頬笑んでいるようだ……――
     不意に、その瞳がこちらを向いた。
     勢い、どきりと息を呑んだ仁武の耳にパシャリ、と軽い音が飛び込んできた。シャッターを切る音だと気付いたのは、玖苑が小さなカメラを構えていたからだ。差し込む月光に、レンズの端が煌めいた。
    「ふふ、眉間に皺が寄っていたよ、仁武。折角の格好いい顔が台無しだ」茶目っ気たっぷりに、片目を瞑ってみせる。「もっと楽しそうにしたまえよ。このボクを独り占めしているんだからね」
    「お前な……」
     だが、苦言を呈する前に、玖苑は仁武の手を引いて傍に立ち、桜を背に自撮りなぞ始める。その様子があまりにも楽しげだったので、仁武は文句を飲み込み、その先を振り落とすように頭を振った。
     ――全く、どこまでも勝手な奴だ。
     ――どこまでも自由に、こちらを振り回してくれる。
     だが、その自由気ままさが、今は有り難かった。頭を悩ます何もかもが些末なことのように思えてくるのは、目の前で子どものようにはしゃいでいる玖苑のおかげなのかもしれない。確かな実力に裏付けられ、いかなるときも自信に満ち溢れた彼の態度に、救われることも往々にしてあるのだ。彼に憧れ、彼を崇める市井の民と同じように。
    「……有り難う、玖苑」
     ぼそりと零れた呟きが、届いてしまったのだろう。
     桜を見上げていた彼はふと、こちらに目を遣る。その表情は薄暗闇の中にあってよく分からなかったが、零れた金糸を耳に掛けたその顔が、僅かにはにかんだように、仁武には見えた。

     後日。

    「仁武、いるかい?」
     ノックもなしに司令室へ入ってきた玖苑は、そう言ってぐるりと室内を見回る。
     夕刻を回った防衛本部に職員の姿はほとんどなく、残っているのは会議資料をまとめていた仁武と、残務を処理している数人である。昼間であればそれなりの賑わいに溢れた場所だが、今はぼそぼそとした話し声とモニターの低い作動音が響くばかり。
     仁武は執務机の向こうでおもむろに顔を上げた。ただ、何かを言おうと口を開く前に、玖苑はつかつかとその傍へ近寄っている。机に手を突き、形の良い唇の端を上げニッと笑う。
    「ほら、これ」
     差し出されたのは真っ白な封筒で、わずかに厚みがある。怪訝そうな顔で受け取った仁武に、玖苑は満足げに頷いて応える。
    「先月の花見のやつだよ。現像できたから、お裾分けさ」
    「ああ、有り難う」
     封を切り、傾けたなら、零れ出たのは数枚の写真である。満開の桜の下で、皆、楽しそうにしている。良い表情だ。仁武の口元も思わず綻んだ。この日は久しぶりに晴れていたし、さぞ良い気分転換になったのだろう――
    「……うん?」
     何枚かはぐった後に、不自然に真っ黒な写真が二枚ほど紛れているのに気付いた。これは一体どうしたことか。なにがしかの暗号、あるいは悪戯なのか。訝りながらちらりと玖苑を見上げれば、玖苑は、彼にしては珍しくばつが悪そうな顔をしている。
    「どうやら、フラッシュを焚くのを忘れていてね」頬を掻き、苦笑している。「綺麗な夜桜だったし、何よりキミと一緒だったから、皆と共有できたら良かったんだけど」
     完璧を自称する彼が珍しい。仁武は驚いたが、胸の内に留めてただ頷く。
    「……そうか」
    「一応、キミにも渡しておくけど、取っておくかどうかは任せるよ」
     でも、……それも大切な思い出のひとつだ。邪険にする必要などどこにもない。
     仁武は、けれどその感情までは言葉にせず、溜息に全てを混ぜて吐き出した。去りゆく玖苑を見送り、そうして手元の写真をさらりと撫で、机の中に、大事に仕舞い込んだ。
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    ruicaonedrow

    PASTグラブルくんで「媚薬入りチョコレート」なるものが公式になったと聞いて
    メイズオブルージュ はっと目を開けたら、そこは、いつもの場所だった。
     いつもの――あぁそれは、例えば、くるくる回るシーリングファンであったり、染みの一つ一つが模様に見えるような木目であったりする見慣れた天井の景色。そうして少しばかり目を横へ遣ったのなら、ベッドの横、ちょうど僕の目線の位置に当たる大きな窓の向こうは、紺色のグラデーションが橙色の世界を連れて、今まさに、世界の果てに沈もうとしているところであった。
     ――あれ……?
     起き上がり、目を擦る……けれど、ぱちぱちと瞬いたところで世界は変わらない。その風景は、やはり、僕の中のそれとは全く噛み合わない。
     確か。それは、朝だったはずだ。柔らかな光が差し込む朝。いつも通りに起き上がった僕は、ぐーっと伸びをして……窓の外を、蒼の世界を流れていく雲と、島々の向こうに見える大きな太陽と、その合間を飛んでいく雁の群れにしばし見とれていたはずだ。遙か向こうにはごま粒のような騎空艇の影が幾つも見えて、……あぁ今日もいつも通りの日が始まるなと、欠伸をかみ殺しながらそう思ったんだ。
    20159

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