最近の検索
    ログインすると作者をこっそりフォローできます
    持っているアカウントではじめる

    merome_the_ym

    @merome_the_ym

    X@merome_the_ym に生息しています。
    拙い絵や文を書けるときに書いてます。

    ☆こそフォロ 絵文字で応援する 💖 👍 🎉 😍
    ポイポイ 2

    merome_the_ym

    ☆こそフォロ

    シャリエグドロライ企画二回目のお題「眠り」「ぬいぐるみ」お借りしました!

    #シャリエグ

    ぬいぐるみの温度「……っ!」
     喉の奥で切れた声と同時に、エグザベは上体を跳ね起こした。汗が首筋を伝い、胸が荒く波打つ。視界の端がまだ燃えている。ルウム戦役の夢——故郷も家族も失われたあの瞬間が、色も音も匂いも連れて押し寄せてきたのだ。
     両肩に腕をまわし、自分をきつく抱え込む。震えが止まらない。いつぶりだろう、こんな酷い夢見は。シャリアと結ばれてからは影が薄れていたから、油断していた——。

    「エグザベくん?」
     背後で柔らかな寝具が鳴り、シャリアが体を起こす気配がした。
     感応の薄い光が、彼の手つきの前に届く。恐怖の形、涙の温度、呼吸の乱れ——どれもが、はっきりと伝わってきた。
    「シャリアさん……すみません、起こしちゃいましたね」
     苦しげに笑おうとする顔。その無理を、シャリアは見抜いている。
    「悲しまないで。今は私がついています」
     言いながら、エグザベを胸へ引き寄せる。優しく、けれど存在をはっきり感じる抱きしめ方で。
    「シャリアさ……ひ、ぐっ」
     我慢していた涙が、抱擁の中で大粒になって零れた。
    「大丈夫。心はまだ癒えきらないでしょう。けれど君は強い。苦しくなったら、私を頼って」
    「は、い……」
     エグザベは向き直り、彼の背へ腕を回す。泣き顔は見せないように、肩口に額を寄せる。
     シャリアはその頭をゆっくり撫でた。額から、こめかみ、髪の流れを逆撫でしないように。指の温度は落ち着いた灯りみたいで、艦の空調の律動に呼吸が合っていく。
     くい、と顎を持ち上げ、ちゅ、ちゅ、と小さく音を立てて額、こめかみ、瞼へ短い口づけを落とす。そして、エグザベの存在を確かめるようにすぅ、とエグザベの香りを楽しむ。
    「……シャリアさんっ。その、恥ずかしい、です……」
    「二人きりなのに?」
    「その、匂い嗅がれるのが……」
    「ああ。エグザベくんは、とてもいい匂いがするんですよ」
     囁きながら、両腕の抱きしめをわずかに強める。そのまま肩に顔を埋め、すうっと深く息を吸う。
    「だ、だめです。ぼく、ぬいぐるみじゃないんですから……そろそろ離れてくださいっ」
     恥ずかしさに押され、エグザベは彼を剝がそうとする。
    「だめです。まだ、もう少しこうしていたい」
     頑として離れない腕に、エグザベは小さくため息をつき、折れる。
    「……それじゃあ、横になってしましょう?」
    「わかりました」
     二人で枕を並べ、向かい合って横になる。腕と足の位置を確かめ合い、呼吸の長さを合わせる。
     シャリアはもう一度、彼をそっと抱いた。
    「エグザベくん……。私の大事な大事な、エグザベくん——」
     ぎゅ、と抱擁する。片手は変わらず頭を撫で、もう片方は背に広く添える。今度は、さっきよりもすこしだけ力を抜いて。

     エグザベの体の芯が、ぽかぽかと温まっていく。涙のあとの空洞に、静かな安堵が流れ込む感じがした。
     (大丈夫。ここは大丈夫だ)
     そう思えた瞬間、瞼がゆっくりと重くなる。
     感応の端で、シャリアの気持ちが微かに触れた——誇らしさと、愛しさと、守りたいという意思。それだけが混ざらずに、澄んだまま伝わってくる。
     夢の入り口が近づくのを確かめるように、シャリアは額にそっと口づける。
    「おやすみなさい、エグザベくん。今度は幸せな夢が来ますように」
     すぅ、すぅ、と規則正しい呼吸が枕に滲む。眠りへ落ちていく彼の背を、シャリアはゆっくり撫で続けた。
     抱き心地は、確かにぬいぐるみのそれに似ている。だが違う——これは、彼自身の体温で、彼だけの重さだ。
    「……少しだけ、貸してくださいね」
     誰にも聞こえない声でそう囁くと、シャリアも目を閉じた。
     艦の夜間モードが静けさを深くし、二人の呼吸は同じ波の間隔で進んでいく。眠りは、やさしく、確かに。
    タップで全画面無断転載禁止
    ☺🙏💚💛👍💚💛💘
    リアクションをたくさん送って応援しよう!
    作者からのリプライ

    同じタグの作品

    おすすめ作品