部屋には見慣れない家具が各部屋にあった。腰高の一人分ほどの小さな作り付けのベッドのようなソファのような、柔らかいビロード生地張りの椅子。壁の中に埋まるような作りで目立たないが手すりも付いており、どうやら彼専用の腰掛けのようだった。
オクタビオは小さな尻をそこへぽんと乗せ、慣れた手つきで義足を外す。よく見ればルーバーのある扉つきの天井まである造り付けの収納が多く、彼特有の必要なものが多くあるのだと想像できた。妙に空間が多く通路が広いのも、車椅子や担架が通れるような作りなのだろう。身体的にも医療的にもサポートが必要な彼ならではの間取りだと感じた。
「ん」
俺に向かって両手を広げるので、反射的に近づくと、飛びつくように首に抱きついてきた。軽くて驚嘆する。取り落とさないよう手を回すが、尻も小さい。こんな身体であのスピードを…想像もつかないが、身軽さは変わらない。
「いつもは床這ってんだけど、この方がいいだろ、お前は」
「な…どういう意味だ」
「見下ろすの気分よくねーだろって意味!」
顔を合わせる。距離が近い。俺の心臓の音が伝わっていないか気になってしまう。
「リラ〜ックス、アミーゴ。単なる介助だ」
むしろこっちが介助されているような気分で背中を撫でられる。ギシ、と固まった身体を冷えた手が大きく撫でる。思わずふう、と息をつく。
「思ってたよりでっけえな、身体」
「このくらい普通だ」
「JAJA、褒めてんだから素直に受け止めろよな」
いちいち疑り深いんだから。と唇を尖らせる顔を思わず見ると、薄い唇と白い肌全体に星のように散らばるホクロを見つけ、そのきめ細やかな肌質に見入ってしまう。普段戦闘の場であれだけ露出しているのにキャップとマスクとゴーグルで隠された下の素肌はまるで本人を思わせない繊細さで、戸惑うほどだ。目を泳がせつつもいくつもある小さなホクロへ点々と視点を飛ばしていくと、オクタビオのくりっとした瞳が、俺を見ろよと視線を絡めとる。
「それとも、シンジケートの息子だから全部ウソか?」
「……そんなことは、……俺の立場上、仕方のないことだ」
「………ふーん?」
「どこに、行けば……」
オクタビオの薄い唇から小さな前歯が覗いて、俺の鼻先をやわく噛んだ。
「お前の好きなとこ」
ドクン、と心臓が大きく鳴った。
「隠し事もねーから、どの部屋でも良いぜ?」
額が触れるほど近くで、小さく囁く唇。ごくり、喉が鳴る。
少しずつ、唇が近づいて、そっと俺の唇にふれた。
「…………」
ふ、と離れていくそれを追って、触れる。薄くて、柔らかくて、吸い付くようにしっとりしている。思わず、角度を変えて何度も触れる。柔らかい。柔らかい。気持ちが良くて、離れ難い。
オクタビオの唇が、応えるように啄んで、食み合うように何度も交わすと、小さく水音が鳴った。
ん、とオクタビオが小さく漏らす。俺も息が上がって、夢中になって貪った。
だんだんと深く、口いっぱいに頬張るように重ねると、自然と舌が触れる。薄くて柔らかな舌が俺の舌を撫でた。ビリビリと電流が脳天から突き抜けるような衝撃と、止められない衝動が湧き上がった。 これが、キスなのか。
「ん、ん、ふ」
くだらない、何の意味があるのかもわからない戯れ事だと冷笑していたのに。オクタビオとのそれは俺の価値観すらあっさり変えた。口を吸い合うということ…特別な人間とするキスが、こんなにも心掻き立てるものだとは知らなかった。
さっきまで腰掛けていた、オクタビオ専用の小さなソファへ縫い付けるように寝かせる。広い空間の壁に小さく造られた窪みに埋まるようにそこだけが密になって、覆い被さると腕の中にすっぽりと収まるオクタビオが小さく感じた。それでも小作りな腰掛けは小さくなったオクタビオの身体でもはみ出してしまうほどのサイズだった。寝椅子ではないのだろう。頭をソファへ預け、ずり落ちないよう、ソファの端で擦れないように、腰を抱き、浮かせて俺の身体に密着させた。短い腿がめいっぱい開いて俺の胴を意思を持って挟む。指先に、柔らかな丘がふれる。もっと奥へ行きたい。おずおずと、こっそりと、指先を下へずらしていく。
オクタビオの舌を吸って、絡めて何度も擦り合わせた。その度に下半身に血が集まり、心臓が破れそうなほど高鳴った。内臓を直接咥えているような、体の中に触れているような錯覚に陥った。無意識のうちに、痛いほど張り詰めた怒張をオクタビオの股に押し付けていた。オクタビオは腰をビクビクと跳ねさせながら、俺の首に腕を絡めたり、肩から背中へいやらしく手を這わせ愛撫するのでガクガクと震えてしまう。
オクタビオの存在や、行動が俺をおかしくさせる。
「ベッド……いく……?」
蕩けた声で、キスの合間に問われ、小さく頷き、「部屋…どっち……」思わず低く答えた。唇の間を唾液が垂れ落ちる姿すら淫靡だ。「シャワー、浴びなくてい?」「いい、そんなの、」「は…♡」今すぐにでも、そこへ入りたい、その一心のみだった。オクタビオの辿々しい誘導で広すぎる家の中をうろうろと彷徨う。俺の存在が、少しは彼をおかしくさせてると良い、そう小さく願った。