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    キリカ

    @bk4l_ej6

    ヒュンマっぽい散文

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    キリカ

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    一度くらい真正面からぶつかってみるのも良いのではと思っての大昔の少年漫画チックな恋敵同士の決闘的なポップとヒュンケル

    時間軸は戦後

    場所不明、設定ふわふわ散文

    #ヒュンマ
    hygmma

    決戦 夕闇の空気を裂いて、ポップの声が響いた。
    「言えよ! オメーがマァムをどう思ってるか、良い加減はっきりしやがれ!」

     怒りと悔しさで顔を真っ赤にしたまま、ポップは拳を握りしめて前に進み出る。
    「ずっと気に食わねえんだよ、お前のその澄ましたツラが!
     幸福にできねえとか、不幸にしかしねえとか……そんな言い訳で逃げんな! はっきり聞かせやがれ!」

     その言葉は、ヒュンケルの胸を深く突き刺した。
     逃げられない――誤魔化せない――。
     ここで沈黙することは、仲間としても男としても許されない。
     長い間封じ込めてきた心の奥底を、いまさら曝け出すことに逡巡しながらも、もはや背を向けることはできなかった。

     短い沈黙のあと、ヒュンケルは静かに目を伏せ、そして真っすぐポップを見据えた。
     その口から出た言葉は、あまりに重く、鋼の誓いのように響いた。

    「……愛しているさ。ずっと……」

     空気が凍りついた。
     ポップの喉がぐっと鳴り、息が詰まる。
     思っていた答え以上の重みだった。ヒュンケルの声は、魂そのものを賭けた誓言のようだった。

     ヒュンケルは淡々と続ける。
    「マァムがオレの心を拾い上げてくれた。拾い上げ、慰撫し、光をくれた。そのことを一瞬たりとも忘れたことはない。……あの日からずっと、彼女はオレの、ただ一人の女性だ」

     拳を振り上げていたポップは、その言葉の重さに数秒息を呑み、凍りついたように立ち尽くす。
     だが次の瞬間、唇の端を歪めて笑い飛ばした。

    「……へっ、やっと言いやがったなぁ。おせえんだよ!」

     吠えるように叫び、拳を振りかぶる。
    「その言葉を聞くまでな! オレだって引き下がれなかったんだよ! チキショー! マジで気に食わねえ!」

     渾身の一撃がヒュンケルの頬をかすめ――その刹那、鋭いカウンターが突き返された。
     ポップの身体が後方に揺らぎ、砂煙が舞う。

     ヒュンケルの声は冷静で、しかし確かに熱を帯びていた。
    「……気に食わないのはオレの方もだ」

     ヒュンケルは拳を握り直し、ポップに向けて言い放った。
    「恋敵を憎らしく思わない奴など、いるものか」

     その言葉に、ポップは痛みに顔を歪めながらも、にやりと笑った。
    「上等だぜ……! そうこなくっちゃな!」

     頬に受けたカウンターの痛みも構わず、ポップは血を滲ませた口元を吊り上げる。
    「へっ……へへっ、遂にその言葉を引き出してやったぜ! オメーはいつだって上から目線で、ガキを相手にしてられないみたいなツラして澄ましやがって……舐めてんじゃねえぞ!」

     怒号と同時に殴りかかる。
     拳と拳がぶつかり、鈍い音が空気を裂いた。

     ヒュンケルの瞳が鋭く光る。
    「ガキであることを散々利用して、マァムに絡んで構ってもらっていたくせに……何を言う」

    「なにぃ!? 散々あいつとイチャついてたのはオメーの方だろうが!」

     再び拳が交錯し、互いの頬に赤い痕が刻まれる。

    「……お前ほど無遠慮じゃない」

     ヒュンケルは低く吐き捨てるように言い、ポップはそんなヒュンケルに再び拳で殴りかかった。

     殴り合いは長く続かなかった。
     どちらも殴り合いをするには適した状態ではなかったからだ。

     戦場で無理を重ねすぎたヒュンケルの肉体は、戦士として全盛の頃とは比ぶべくもない。
     今の彼の身体は、もはや一般人並み程度にまで劣化していた。
     一方のポップだって魔法使いだ。拳で戦うことなど得意ではない。

     だからこそ――互いに無茶な打ち合いは、すぐに肉体を限界まで追い詰めていく。
     頬は裂け、唇は腫れ、息は荒く喉を鳴らす。拳を振り上げても、もう腕は鉛のように重かった。

     砂煙の中でよろめきながら、二人はなお睨み合う。
    「……へっ……まだやんのかよ……!」
     血に濡れた笑みを浮かべるポップ。

     ヒュンケルも片膝をつきながら、わずかに息を吐いた。
    「……お前こそ、無茶を……」
     声には疲労と、しかし確かな敬意がにじむ。

     やがて、二人は同時に大きく息を吐き、力なくその場に座り込んだ。
     互いに視線を合わせることなく――それでも、心の奥で相手の存在を認めていた。

     沈黙を破ったのは、ポップだった。
     血に濡れた唇を拭いながら、ぽつりと呟く。
    「……オレはな、もうマァムには振られてんだ」

     ヒュンケルの瞳がわずかに揺れる。
    「……何?」

    「……はっきり言われたんだよ。あいつの気持ちは、オレに向いちゃいねえってな」
     ポップの声は笑っているようで、どこか切なく滲んでいた。

     それは、ヒュンケルにとって初めて聞く真実だった。
     戦いの果てに残った静寂の中、彼の胸に重く落ちたのは、拳の痛みよりもその言葉だった。




     荒れた空気に、ふいに駆け寄る影があった。
    「ヒュンケル!? ポップ!? な、何これ……!」
     マァムが駆け寄ってきて、血と砂にまみれた二人を見て目を見開く。

     ポップは唇を切ったまま笑い、ふらつきながら立ち上がった。
    「へっ……心配すんなよ。俺は自分で回復できるからさ。……マァム、ヒュンケルを頼まぁ」


     それだけ言うとポップは背を向けて行ってしまった。

     残されたのは、地面に座り込んだヒュンケルと、呆然と立ち尽くすマァムだけ

     マァムは慌てて膝をつき、両手をかざす。
    「……何があったの?」
     淡い光がヒュンケルの傷を覆い、少しずつ血が引いていく。

    「……決闘だ」
    「決闘? ポップと?」
     マァムの顔に、戸惑いと困惑が広がる。

    「ああ……」
     ヒュンケルは痛む身体を預けるようにして、力なく息を吐いた。

    「一体なんでそんな事……」

    「……気に食わないから、だろうな」

    「え?」

    「……あいつがお前を好きなのが、オレには気に食わないんだ……オレは、お前が好きだから」

     マァムの動きが止まった。
     瞳を大きく見開き、声にならない息を呑む。

     それは、ずっと心の底に封じてきた言葉。
     口にした瞬間、ヒュンケルは自分でも驚いた。――案外、あっさりと言えてしまったな、と。

     光に包まれる彼を見つめるマァムの顔には、驚愕と、揺れる感情がそのまま刻まれている。
     ヒュンケルはただ、その瞳を静かに見返した。
     やさしくも、切なく。
     ――もう後戻りはできないと知りながら。
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