消えない音 2戦いが終わり、世界は静けさを取り戻していった。
けれど、一人そこにいるはずの人がいなかった。
私たちの小さな勇者。
本当ならば、彼こそがこの平和を味わうべきなのに。
それは皆が抱く同じ想いだった。
私はポップとメルルと共に、三人で旅立つことになった。
ダイを探すために。
彼が帰ってくるまで、私たちの冒険はきっと終わらない。
大魔王の脅威に怯えることのない冒険は、戦いに追われていた頃よりずっとゆるやかだった。
その旅路の中で、私は戦時中とはまた違う角度から、新鮮な気持ちでポップを、そしてメルルを知ることになった。
そして気づいた。
ポップはメルルに優しい。
私には平気で余計な一言や憎まれ口を投げてきたのに、メルルには向けない。
好きだと言った私よりも、メルルに向ける態度の方が丁寧なのはどういうことだろう?
軽く釈然としなさを覚えながらも、不思議と嫌な気分にはならなかった。
全くもう、と軽くこづいてやりたい気持ちにはなっても、最後はやれやれと笑ってしまう。
そこに苦しさはなかった。
道すがら、ポップは不器用にメルルを気遣い、メルルは頬を染めて微笑む。
そんな旅の日々が続いていたある日。
古代の伝承が残る土地を三人で歩いていたとき――
ふいに耳に蘇ったのは、鋭い音。
それは紙が破れる音。
あの日の。
戦いを前にして、一度は脳裏から追い出したあの音。
音と共に蘇ったのは、あの光景。
これが私の想いであるとでも告げるかのように武器を捧げ持つ美しい女性と、それを受け取る銀の髪の男性。
胸の奥が鋭い爪で内側から掻きむしられる。
心臓が裂けるのではないかと思うほどの痛み。
肺の中の空気がすべて押し出され、世界から色が消えていく。
――刹那の幻視。
ほんの一瞬の出来事。
意識はすぐに現実へと引き戻される。
目に映るのは陽射しに揺れる草の匂い。
耳に聞こえるのは鳥のさえずり。
笑いながら並んで会話するポップとメルル。
胸の奥をただ温かくするだけの現実。
――ああ、そうか。
そうだったんだ。
「ーーあのね、ポップ。話したいことがあるの」
私は告げるべきことを、改めて告げるために彼に声をかけた。
私の、かけがえのない素晴らしい仲間に。
これこそが、私の答えなのだと。