向日葵夏の日差しがどれだけ強かろうとも周回からは逃れられない。
「絶対ショップもポイントも完走する」
と虚ろな目で宣言した人類最後のマスターは、本日も金林檎を齧りながら奮起している。
そんな主の傍らにて護衛を務めながら、アルジュナは前衛で活躍する父を見ていた。
普段はアイラーヴァタの背で酒を飲み滅多に地上へは降りて来ないというのに、どういう風の吹き回しか。今は地に降り更には自ら武器まで振るっていた。
アルジュナが合流するまでは嫌がる声が廊下にまで響き渡っていたというのに、どういった心境の変化だろうか?
マスターが此方を指差しながら、インドラ神の耳元へ何やら囁いていたことも気にかかる。
「フハハハ!!これぞ我が威光!」
(同じ編成はずいぶんと久しぶりですし、気まぐれにしろ、あの方が本気を見せている場面をこの目にできるのは光栄だ)
インドラ神は自身の第3再臨を見られることを極度に嫌がる。
しかしアルジュナからすれば軍神としての能力を遺憾無く発揮し、次々と敵を倒していく様は実に格好良く。密かに憧れの感情を抱いていた。
自身も生前幾度となく「あなたは素晴らしい」「あなたこそが最高の戦士」と言われ続けてきたが、その言葉は彼の神にこそ相応しいと感じる。
(あっ)
パチリ、と電気が走るように父神と目が合った。
見れば既に敵は一掃され、アルジュナと共にマスターの側へ控えていた小太郎とアステリオスが率先して素材回収へと向かっている。
(なんてことだ)
流れ作業同然の状況とはいえ戦場であることに変わりはない。そんな時にマスターの護衛を任されておきながら気を抜くなど言語道断。
こんなことでは1日戦い続けてもなお獅子奮迅の働きを示したインドラ神の息子として示しがつかない。
「オレから目を離すな」
「えっ」
不甲斐なさから顔を背けようとしたところで声をかけられ、思わず間の抜けた声が出た。それに気づかなかったのか、気にしていないのか。雷霆神はニッと大きく口を開け笑いかけてくる。
「この姿で戦うことなどそうはない。後世に残すことは許さんが……神の、いや。父の活躍をしかとその脳裏に焼き付けておけ」
ああ、なんて眩しい。
今の彼はどんな光よりも眩しく思え自然と目が細まる。それを肯定とでも取ったのか当人は満足そうに頷くと、何故か帰還地点とは反対方向へ歩いて行ってしまう。どんな言葉を返せば良いのか分からず、アルジュナはその背を黙って見送ることしかできない。
あの方が言う通り、ひたむきに太陽を見つめる向日葵が如く、あなただけを見つめられていたのならどんなに―――
「インドラ様逆だよー!」「前方注意(照れ隠しで歩き出さないでください)」「煩いぞおまえたち!神がせっかくキメたというのに」
「ふふ」
聞こえてきた会話が先ほどまでの雰囲気とは正反対の愛らしさでおかしくなってしまう。
つい笑いが漏れた息子を振り返り、インドラはばつが悪そうに目元を赤く染めた。