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    レオルク

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    24/05/26 無配のレオルク
    両片想い

    ##レオルク

    24/05/26「おはよう獅子の君。おや?前髪が一か月前より一センチ伸びているようだね…それでは視界が妨げられてしまうよ」
     教室に入るや否やどこからともなく現れたルークにそう言われ、レオナはわかりやすく眉を顰めた。
    「…うるせぇな、ほっとけ」
    「ノン、そうはいかないよ。そのままで困るのは君なのだから…」
     いろいろとね、と含み笑いをされるとカッと頭に血が昇った。
     ルークが三年に上がり、レオナと同じクラスになってから、レオナはなにをしていてもルークの気配を感じるようになっていた。じわりと溜まったフラストレーションを隠すことなくグルルと威嚇するも、ルークはハッハッハと楽しそうに笑い、興を削がれたレオナは行き場がなくなった苛立ちを舌打ちにして吐き出す。最近はその繰り返しだ。そしてそれは今回も同じだった。
     しかし不思議なことにレオナが怒髪天を突くことはなかった。むしろルークを相手にしていると、レオナが飼っている苛立ち・焦燥・妬みたちが行く宛を失い、ぽとりと地面に落ちる感覚さえあるのだ。鬱陶しいことこの上ないがカラリと笑ってレオナくん、と呼びかけられるとレオナは大きく一つ息を吐いて、はいはいと返事をするしかなくなる。
     一言で言えば扱いに困る、それがレオナにとってのルークだ。
     
     髪なんて気になれば適当に魔法をかけるし、実家にいれば召使いに任せている。一旦無視決め、レオナはルークの隣をすり抜けようと身体を傾けると、彼はすかさず回り込んでレオナの進路を塞いだ。「おい…」と鋭くルークを睨め付けるが、ルークは意にも介さず良い考えを思いついたと手を打った。
    「そうだ!私が整えてあげよう!」
    「遠慮する」
     碌でもない…。ルークは芸術・鑑賞を得意とする一方で、思うがまま本能に従う傾向がある。この数年で否が応にも特性を理解したレオナが素直に身を預けられる人物ではない。
     ルークと同じく視界の確保のみを重視され、スパっといかれようものなら…考えただけで背筋が冷えた。
     想像し得る最悪の状況に不信感を露わすレオナなど気にも留めず、ルークは意気揚々と続ける。
    「任せておいて!髪を整えるのには自信があるんだ」
    「任せられるか」
     サバナクローにいた頃、鏡も見ずにナイフでざっくりいっていたことも知っている。
    「遠慮しないでレオナくん!あぁ…ッこうしてはいられない!放課後、植物園で待っているよ」
     アデューと言い残して風のように去っていくルークをレオナは見送るしかなかった。本能で生きているルークはたまにこうして授業を忘れる。
     一方的な約束を守る義理はないが、たとえ鏡舎裏に場所を移したところで「オーララ、獅子の君。植物園と言っただろう?」と顔を出すのは明らかだった。結局なんだかんだルークから逃げられたことはない事実に重く息を吐いてレオナは久しぶりに自席についた。

     ◆◇◆
     ─放課後
     寝床を求めたレオナは結局植物園にいた。
     決してルークに従ってここにいるわけではないと自分に言い聞かせながら転がっていると、程なくしてしっかりルークが現れた。
    「ボンジュール、レオナくん。来てくれたんだね」
    「…寝てただけだ」
     無愛想な返答にもルークは怯むことなく、さぁ起きておくれ、とレオナの腕を引っ張って座らせた。レオナからしてみれば不本意この上ない状況だが、無駄に抵抗してルークの相手をし続けることも御免だった。
     むすっとしたレオナと満面の笑みを浮かべるルーク。対象的な二人が向かい合っている様子は道ゆく生徒が足早に逃げ出すほど異様な光景だった。
     
    「レオナくん、目を閉じてくれるかい?」
     小さなポシェットからハサミを取り出して、前髪に視線を向けながらルークは言った。無邪気な笑みが少しだけ真剣味を帯びたのを感じ、レオナは何も言わずにそっと目を閉じた。
    (あ…)
     一つ睨み凄むだけでその場を掌握できるレオナの眼光。それが今ルークの一声で伏せられている。目の前の事実をルークはどこか他人事のように感じていた。自分がこんなに許されているなんて想像もしていなかったからだ。レオナのほんのり伸びた前髪が気になったこと、手ずから整えたいと申し出たこと、自分がただそうしたいと思っただけなのに、ルークの心臓は一等強く胸を叩いた。
     堀の深い目元に長いまつ毛、スッと伸びた鼻筋と薄い唇。まるで彫刻のようなレオナの顔立ちが眼前に惜しげもなく晒されていることに、ルークはじわじわ顔に熱が集まってくるのを感じた。曲がりなりにも自国の王子にハサミを入れるのだ。緊張感を持っていざ、ルークがレオナに向き合うと、焦れたレオナが目を開けた。
    「…おい、まだか」
     ゆっくりと伏せられた瞼が開いていく。時が遅れてついてくるようだった。ぱちっと目があった瞬間に時間が流れ出し、ルークの顔にわッと血が昇る。熱くなった頬に手を当てた拍子にハサミがぽとっと地面に落ちた。
    「あぁッ、どうしようレオナくん!このまま続けたら手元が狂ってしまいそうだよ!」
    「ふざけんな!」
     朝方想像した最悪の状況を恐れたレオナが少し焦りながら、マジカルペンを一振り。さっきより少しだけ短くなった前髪を見てルークはボーテ!と手を叩いた。その顔はいつものように毒気のない笑顔だった。

     レオナにとっては安眠を邪魔された挙句、ルークが勝手に慌てているだけで終わった奇妙な会合だったが、さっきの顔を隠す仕草と、ほんのり赤らんだ頬が新鮮で、瞬きをしても瞳に張り付いていた。いつもルークに振り回されている腹いせに、しばらく覚えたままでいようとレオナは意地悪く笑う。
     
     ─それから、しばらくどころか事ある毎に思い出し、鬱陶しいと苛立ちを募らせるようになることをレオナはまだ知らなかった。



     
     直前まで付き合ってたけど付き合ってない方が可愛いと思ったので変えました。両片想いは最高。
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