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    isekida_

    レオルク

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    isekida_

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    付き合ってないけどお互いに大切ななにかを感じている二人の話。ノベライズの内容を含んでおります。読んでない人はノベライズ読んでください。

     ◆◇◆

    「獅子のロア・ドゥ・レオン
     剽軽な物言いをする寮生は俺をそう呼んだ。ほとんどが獣人族の中で一人、人間のそいつは始めからてんで馴染めていなかったが、最近はより拍車を掛けて浮いている。誰かに唆されたか。変わったのは態度と、俺を呼ぶ名。
     呼ばれ方なんて今まで気にしたことはなかったが、身に余るその呼び名だけは胸につっかえて仕方がない。だから一度だけ聞いたことがある。
    「お前はなぜ俺をそう呼ぶ」
    「貴方がこの世界の王だからさ」
    「…ハッ、大層なモンだ」
    「でも、事実に変わりない」
     そう言ってスッと目を細めた。
     こいつの品定めするような視線は不快極まりないし、他の寮生と同じく、夢に希望に満ちた瞳は苦手だった。けれど明確に他と違うこともあった。
     全ての期待や希望を俺に委ねようとしないところだ。
     頂きに踏ん反り返る王サマ。
     存在するだけでいいと言われるのは、存外心地の良いものだ。
     同時に王と言われていい気になっている自分に嫌気がさす。捨てた希望を拾いに行くのがどれほど惨めなものか、この人生で何度も思い知ったはずだ。
     それでもいっときの甘美に酔いしれたかった。
     こいつは近いうちにここからいなくなる。
     
     ─また一人、俺から離れていくのか…寂しいじゃねぇか。なぁ…ルーク

     ◆◇◆
     
     広大な草原、青々と茂る森林、そのどれもが私の舞台フィールド。狩人としてこの世の生き物と切磋琢磨し命の営みを知る。この上ない幸せだった。私の軌跡は生物彼等と共にある。
     だから彼が日陰を行くのなら、彼を追う自分もまた日陰を行くことになるだろう。
     心に影を落とすなら、私もまた万全でない彼を追うことができず心に影を落とすだろう。
     私たちはなにもかもが違うのに、まるで鏡のようだ。
     夢や希望に満ちた学園が私は大好きだった。けれど彼はそれを恐れている。
     寮生は皆、君を慕う。けれど君はその伸ばされた手を避けている。
     初めて出会ったときから狩人ではないナニかから逃げる様に日陰に篭っている。
     私が手を伸ばすのは、君の背中を追うのは、君に夢を託すためではない。
     狩人としての矜持、私自身のためだ。
     だから君も、どうか自分自身のために前を向いてくれないだろうか。
     私がもっと計算高く、もっと脅威だったなら日向へ戻ってきてくれただろうか。
     
     ─ねぇ獅子のロア・ドゥ・レオン、誰もいない舞台は物悲しくて、寂しいよ。

     ◆◇◆
     なにかがあったのは間違いなかった。ルークも事件は耳にしているし、自寮の生徒も怪我を負っている。
     解決に至ったかはわからない、けれどどうしてか傷だらけで入場してきたサバナクロー生の姿が、一連の事件の収束を物語っているようだった。
     今日はマジフト大会当日。しかも今回は本戦の前に、エキシビジョンマッチが行われるとアナウンスが入っている。珍しい催しに客席も落ち着きなく選手に注目していた。
     コート上のレオナはいつでもルークの胸を躍らせる貫禄があった。今日もそれは変わらない。けれど初めてみるような、凪いだ瞳が気になった。
     どうか何事もなく終わりますように。傍観者でしかないルークはただ祈るしかなかった。
     
     エキシビジョンマッチは一年生の即席チームとサバナクローで行われた。慣れない魔法で危なげにディスクを操作する一年生に観客は興味津々だったが、ディスクがラギーに渡ると期待にワッと歓声が上がる。
     ラギーの託すようなパスがレオナに渡った。
     マジカルペンに集約されていくレオナの魔力、その濃度と透徹さが今までの彼との訣別を彷彿とさせるようだった。
     目を見開いたルークの前を矢がはしった。
     力強く握られた拳から放たれたシュートがコート勢いよく切り裂いたのだ。
     ディスクは空気を割り、勢いを殺さないままゴールへ叩き込まれた。
     今のシュートは、レオナの闇を祓うかのようだった。切り裂いた闇の隙間からレオナを照らす光はまるでスポットライト。
     威風堂々と君臨する姿をみてルークは、レオナが舞台フィールドに帰ってきたのだと歓喜した。
     日向を闊歩する獅子と同じ光を浴びられる至福がルークの胸を満たしてゆく。

     シュートを決めたレオナの元に寮生が集まっていく様をルークは霞んだ視界に捉えていた。寮生の期待に満ちた表情とそれを一心に受けて尚、胸を張るレオナはやはり彼が王だと感じさせる。規模なんてどうでもいい、国だろうが教室だろうがコートであろうが、彼はいつだって玉座に相応しい。レオナは憑き物が落ちたような表情で「三」と書かれた得点ボードを見ていた。
    (あぁ、君は今どんな顔をしているんだい?)
    「その表情、私も見てみたかったな」
     これは悔しさではなく、喜びだ。
     彼はやっと日向を歩く決意をしたのだ。
     ルークの頭の中は暖かい日差しの中、百獣の王と同じ草原を共に駆け回る想像でいっぱいだった。
     相手は王様だ、きっと一筋縄ではいかないだろう。必死に追い掛けて無我夢中で手を伸ばすかもしれない。
     
     そうしたら君は、ここまでおいでと憎たらしく笑って私を振り返ってくれるだろうか。
     ─だとしたら私はすごく幸せだ。
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