【12/04展示】昼下がり、暖かい風が二人を包む。
本日、ルークは空いた時間を眠そうな獅子の元で過ごしているようだ。二人でいるとき会話の主導権は常にルークが握っているが、元々寡黙なレオナには些細なことだった。
眠くなったら寝る、そうでなければ適当に相槌を打っていれば暇が潰れる。そうしてそれぞれの時間を過ごすのが常だ。
「…獅子の君は、後継にムシュー・タフガイをご指名なのかな」
「なんだ急に…」
「最近、いつになく目を掛けている様子だから」
「…考えすぎだ」
ルークの話はいつも突拍子がないが、それにしても意外な話題だとレオナはウトウトしていた意識をルークに向けた。
「季節が幾度と流れ、君もそろそろ進学を考え始めたのかなと思ったのさ」
授業も部活もサボりがちだがその実、根の責任感は強いレオナが後輩の指導に力を入れている近頃を鑑みての問いだった。
「面倒くせぇがいつまでもこのままな訳にもいかないからな…」
寮長として寮生を指導するのは当然。ただそれは一生ではない。
「ウィ、素敵な心懸けだね。君と共に四年生に上がれるなんて光栄だよ」
「まぁ学園にはほぼいないがな」
「そうだね、君とこうして語らう時間が減ってしまうのはとても寂しいよ。無情な運命に引き裂かれたとしても、私を想っていてくれるかい？」
「大袈裟な…」
「オーララ、つれないね」
ルークは笑顔だった。つれない素振りを見せられてもこうして言葉を交わしている時間にレオナの想いを感じとれるからだ。気分がのってきたルークは嬉々としてレオナの未来を語り始めた。
「進学するとなると、インターン先を決めないといけないね」
「どこへ行っても同じだと思うがな」
「ノン、そんなことはない。例えば君が愛するマジカルシフトのプロチームなんて魅力的じゃないか」
「そんな選択肢が俺にあるとでも？」
「勿論」
ルークの即答にレオナは耳をピクリと動かす。
選択肢があることがさも当然、と思えるルークの心情がレオナにはイマイチ理解できない。
「だって、君の自由は君が選ぶものだからね」
「…考えたこともないな」
「オーララ、寮生や民のことを想う気持ちは素晴らしいけど、レオナくんはもう少し自分を優先するべきだよ」
そう言ったルークの顔は真剣だった。放っておくといつまでも自責に駆られるレオナの性格を想ってこその言葉なのだろう。
珍しく未来に目を向けたレオナを叱咤するような仕草は珍しかった。それでもすぐに笑みを携えて続ける。
「きっと獅子の君よりも強い選手が、たくさんいるんだろうね」
「そうだろうな」
「レオナくんが贔屓にしているチームはどうかな？」
「そんな上手くいくかよ」
「ノンノン、これはもしもの話なのだから。自由に話して誰も否定も怒りもしないさ」
─もしもの話。レオナは今まで散々してきた気がした。
思い通りにいかない人生に辟易し、もしもこうだったならばと空想に逃げて、そして決まって虚しくなるだけだった。
それでも
「レオナくんがチームの選手と切磋琢磨する姿は学園では見られない姿かもしれないね」

「マレウスくん以上に強い選手がいたら、プロの君はどう切り抜けるだろう」

「サバナクローよりも開けたフィールドを采配するレオナくん、想像するだけでトレヴィアン！きっと最高に美しいね…」

レオナの代わりにレオナの未来を空想するルークを見ていると、新しい未来を信じてもいい気がしてくる。
ほぅと頬を赤らめて悦に入るルークをみて胸が騒つくなんて、不確定な未来の自分に嫉妬する日がくるなんて誰が想像しただろう。
全てが掌を溢れていくレオナの人生。今更期待も希望も薄いが今この瞬間だけは、ありもしない自分を目指してもいいと思えた。
「その時は一番の特等席で君の試合を観戦しても？」
「そうだな…最前列を用意してやるよ」
「メルシー！」