(顔がそっくりだ)
と思ったのは、王宮に“鏡”という品物があったから。大王様との対面で、次に鏡を渡され「瓜二つなのだ」と伝えられた。確かにそうですね、と答えたが、自分の顔すら今初めてしっかりと見たばかりなので、そこまで衝撃があったわけではなかった。
比べて、すぐさま幔幕の向こうに姿を消した大王様は「驚いた」と言った。こんなに早く国の頂点の御顔を拝見できるなど心臓が飛び出しそうだったが、一目見てすぐにその姿は閉じられたため、感動なのかお顔を覚えるエネルギーなのか、どちらに時間を割いたか体感が伴わない。お顔を記憶できたかと問われれば、難しかったですというのが精一杯のような気持ちだ。全身が湧き立ち、一瞬意識が飛びそうにもなった。
それから幾日か経ち、初日より長く幕のない形で対面できることがあったが、切れ長なのに縦幅の広い目や、スッと通った鼻筋や、声の割に骨ばった輪郭が、なんとなく自分の右腕を動かした。頬と首の境目あたりの骨をなぞる。
「どうした」
と隣にいた昌文君に問われ「いいえ、すみません」と急いで腕を下ろした。
青銅鏡だと教えられたそれは、日常的に使用するものではないのだろう。初日に手に持たされてからは、特にそれと対面する機会もなく、俺は清潔で布の厚い生地に身を包み、驚くほど空気が澄んだ部屋で夜は眠りについたりした。
自分が育った地域は峠の下にあり、この場所はまるで峠の上にあるように感じた。異世界だ。視界に映る狭小の壁でさえ、艶で光っている。香が鼻をつき、なんて臭いだと思った。それに慣れないように神経を研ぎ澄ます。俺はいずれ、殺されるのかもしれない。
夢の中で、大王が俺の頬を撫でる。
眠っている身体は起こせないまま、薄目で眼前の存在を見遣る。
「嬉しいのですか」
と尋ねた。
「何がだ」
と返ってきた。
「私が大王様の前に現れて、です」
親指が頬骨のあたりを掠る。夢の中で、自分の声が細く、砂利を踏むような音に聞こえる。
「俺は、自分と瓜二つの顔を生まれて初めて見た」
「そんなに、ですか」
「ああ」
最後の自分の声が砂利を踏んだ時、大王様は消えた。ぼんやりと、目も醒めた。目尻が少し濡れている。
「怖いのか?」
指先を少しずつ動かして、天井を向く自分の前に手のひらを掲げた。
恐ろしいほどに静止した、タコの多い泥臭い手だった。汚れはついていない。
「あいつは失敗した。それだけだ」
夢の中で触れた漂の顔面を、静かに思い出す。