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    igarashi65

    ツイッターに上げる漫画の途中経過が多いと思います。
    倉庫になる可能性も出てきました。

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    igarashi65

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    TS🐶と姫、学パロ【tklz】
    体育祭の借り物競争に出るtκちゃん

    #tklz
    #TS

    「ィゼ、いっしょ来て!」

     とこちゃんの、少し低めの声がそう言った瞬間、わたしは一瞬なんのことか理解が追い付かなかった。目の前にとこちゃんの、わたしより大きな手が差し出されている。
     いっしょ来て。だけど、どこに?
     五月の日差しは苛烈で、だけどわたしにはその日差しが当たらない。生徒が待機するテントにいるからじゃない、とこちゃんが、わたしを日差しから遮るように立っていたから。

     とこちゃんを見ていた。借り物競争に出ると言っていたから。トラックを走るとこちゃんは一緒にいた誰よりも脚が早くて、かっこよかった。あまりにとこちゃんがキラキラしてたから、柄にもなく「とこちゃんがんばって!」なんて叫んでしまったほど。
     学年は一つ上なのになぜかわたしの隣にいた笹木さんがにやにやしていて、だけど気が付かないふりをした。どうせあとから揶揄われるんだろうって思ったけど、きらきらしたとこちゃんを見ていたら、胸の内にせりあがってくる感情が抑えられなかったから。なんの感情だったんだろう、わかんない。わかんないけど、胸がきゅう、とした。

     そのきゅうって気持ちをわたしに与えたとこちゃんが、かっこいいとこちゃんが、目の前にいる。左手に持った紙には、きっと借り物競争のお題が書かれてるはずだ。
     この程度の運動じゃ息の一つも切れないし汗もかかないとこちゃんは眩しくて、太陽より眩しくて、だから黄色と赤のオッドアイを持ってるのかななんて思う。どっちも太陽の色だって言ったら、笑うかな。笑ってほしいな、とこちゃんの笑った時に見える、犬歯が好きだから。

    「どこに?」
    「借り物競争! ほら、負けてまうから!」

     言って、とこちゃんはわたしの手をとった。熱い手が、少しだけ強くわたしの手を握る。そのまま太陽の下に引っ張られる。笹木さんが騒いでたけど、もう耳には入ってこなかった。心臓がうるさい、かき消されるように何も聞こえない。五月の太陽光は苛烈で、わたしは色素がうすいから紫外線に弱くて、だから網膜が光にやられて、周りの生徒もぼんやり霞んでいる気がした。なのに、とこちゃんだけが鮮明に見える。

    「とこちゃん!」
    「なぁに!」
    「お題なんなの!」
    「ないしょ!」

     一着になったら教えるから。手を引くとこちゃんは、一着になりたそうに走る。そんなとこちゃんの大きな背中を見て考える、暑さで溶けそうな記憶のなか、思い出したことが一つある。体育祭委員になった笹木さんが、言っていた言葉。借り物競争にこっそり入れられた札。何の変哲もないお題を笹木さんは面白くないやん、と言って、バレへんから、と混ぜられた札。
     ──そんなはずないよ、だって、ねぇ、とこちゃん。



    『ほらこれ見てリゼェ、盛り上がるやろ~』
    『いや、今時そんな……』
    『好きな人、やで! 盛り上がるやろ! 誰が引くんか楽しみ~』




    「とこちゃん、」

     あるはずないよ、今時そんな。
     映画みたいな、こと。

    20210323

    「ぼくのすきなひと」
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