惑い溺れる「やあやあ、キリッとした目元が凛々しいお兄さん。こんなに輝かしい祭りの夜に、こぉんなに薄汚い路地裏へ一体何用で?」
胡散臭い青い[[rb:眼鏡 > グラス]]に祭り提灯の赤い光を滲ませて、厭に美しい男はうっそりと笑った。
息をのみ、視線を彷徨わせるオレがはくりと唇を震わせると、それ以上の応えは得られないと察したのだろう。男はカビと苔の生えた壁からゆったりと踵を下ろし、縫い留められていたナニカを放す。パラパラと崩れた壁石の上に、そのナニカがどしゃりと崩れ落ちた。オレの足元でうめき声を上げてガタガタと手を伸ばしてくるそれを、まるで見るなとでも言うように香炉の煙が薫らせていく。否応なく脈打つ心臓が指先のカタチを鮮明にして、頭の後ろで鳴る祭囃子もスゥッと遠ざかって、……今この瞬間、ここはオレと彼だけの世界だった。
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