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    newbohyo

    @newbohyo
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    newbohyo

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    フェルヒューオメガバ 幼児時代

     フェルディナント=フォン=エーギルは、齢6つにして、自分がいつかこのアドラステア帝国の要職を担うという大望を得ていた。
     それは常に父母に聞かされてきた先祖、戦う宰相の物語に感化されたことに発している。彼もまた、憧れの姫君マヌエラが歌い踊るように、艶やかに戦場を舞うことを夢見ていた。無論、その未来を得た暁には己の傍らには皇帝が居わすはずである。
     当代のアドラステア帝国は皇子も皇女も数多く、果たして誰がフェルディナントと並び立つ皇帝となるのかは判然としない。戦う宰相の物語に憧れるフェルディナントは、可能であれば可憐かつ、フェルディナントと競い合えるような強かな皇帝にこそ立って貰いたいものだ……と、まだ見ぬ伴侶を夢想している。ゆえに、彼らを見極めたいと思ってもいた。

    「――よっ」
     
     あらゆる面で幼いフェルディナント少年は、念願叶って今日初めて父親に連れられ宮城に参じた訳だが、にも関わらず彼は現在、ひたすら宮城の庭園を直進している。
     生け垣から小さな体を潜らせ、新たな道に出たと思えばまた生け垣に頭を突っ込む庭師泣かせの事を仕出かしたと思えば、小枝によって擦り傷を受けた鼻をひくつかせる。父親とはぐれたことなど露ほども気にしていない。今の彼にとって、父親も、皇帝すらも些事に落ちていた。
     彼の鼻が右に向く。フェルディナントは直進していた方向を変え、体の方向も右へ転じた。

    「こっちだな」
     
     くんくんと匂いを嗅ぎ回りながら走る様はさながら子犬のようである。
     フェルディナントが探しているのは、宮城の門をくぐったところから香り始めたこの世のものとも思えぬ芳香である。その香りを嗅いだ瞬間、フェルディナントの頭の中から皇族との顔合わせを楽しみにしていたことはすっかり忘れ去られ、その匂いを追うためだけに駆け出してしまったのだ。
     フェルディナントは、その匂いを紅茶の香りだと思った。これほどいい香りの紅茶をフェルディナントは今まで嗅いだことが無い。どこにこの紅茶のもとがあるのだろう。
     急がねば。はやく、私のものにしなくては。
     まだ6年しか生きていない人生なのだから知らない紅茶などいくらでも存在するが、そういう話ではない。理屈ではない。フェルディナントはこの香りを嗅いだら止まれないのだ。止まる気もない。
     匂いを辿って、辿って、辿って、行き着いた先の芝。
     そこでは茶髪の少女と自分より年嵩の黒髪の少年が地べたに座り、花壇の花で花冠を編んでいた。
     フェルディナントは走る速度を緩めることなく、黒髪の少年――紅茶の香りの出元に突進した。 
     少年は華奢であった。遥かに背の低いフェルディナントの勢いに負け、容易くのしかかられる。少年が手にしていた花輪が散って、少年とフェルディナント、二人の体に降りかかった。
     少女の声が聴こえるが、フェルディナントにはどうでもいいことだ。それより少年の首にかかる、ふわふわとした黒髪が邪魔である。少年はフェルディナントの近づく顔を避けるように首を反らした。髪が傾き、うなじが見えればより強く、クラクラするくらいに香る。紅茶の香りのもとが少年のうなじであることは明白である。
     無我夢中でジタバタ暴れる少年の肌に鼻を押し込んで香りを吸った。肺いっぱいに息を吸い満足すると、熱い息を吐いた。
     こんないい香りを放つ人間はどのような人間なのだろう。衝動が落ち着けは今度は香りのみならず少年自体にも興味を持ち始めたフェルディナントは、彼の横顔を覗き込み、息を呑む。
     ひどく色が白く鼻が高い、まるで陶器で出来たかのような面立ち。本当に生きているのか不安にさせられるが、月のような若葉のような不思議な色合いの瞳が瞬きをすることで、生き物であることを証明している。その特異な瞳は宝石のようで、紅茶と同じくフェルディナントの物欲を揺さぶる。
     フェルディナントの紅茶色の瞳がまじまじと見つめてくるのに対し、少年の瞳は警戒の色を強めて見つめ返すが、息を詰めていた少年が口を開こうとするなり、鋭い瞳は途端に蕩けた。
     小さな作りの口が、陶酔した息を吐く。フェルディナントの熱い息と同じくらいに。
     フェルディナントは支配者の本能で確信した。彼もまた、フェルディナントの香りに魅了されたに違いない。
     安心させるようにフェルディナントは少年に向けて何度も頷いた。

     急がねば。はやく、私のものにしてやらねば。

     フェルディナントはクワ、と大きな口を更に大きく開いて、乳犬歯を彼の首に突き立てようとしたのだが――
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