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    takayoshi2222

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    takayoshi2222

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    昨日書いた創作BL(前半)
    ちょっとおかしい男×日記を書かなきゃいけない強迫症の作家

    #創作BL
    creationOfBl

    酸素が、薄い気がする。
    ここはどこだ。近所を歩いていたはずなのに。
    口が無為に開閉した。肺は苦しいままだ。
    昼に家を出て、日課の散歩をしていたのに、いつのまにこんな時間に、こんな所まで来てしまったのだろう。少ない体力は既に尽きて、焦りだけが重い足を動かす。日は既に落ちて暗く、色とりどりのよく分からない光が霞んだ視界に主張してくる。
    人が多い。騒がしい場所は苦手なのに。
    本当に嫌だ。何故自分がこんな目に遭わなければいけないのか。ああ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。…
    目眩がして咄嗟に何かに掴まる。頭上から何か聞こえた気がする。分からない。
    視界がチカチカして、方向感覚も危うかった。その何かは布を纏っていて、その布を力の入らない手で握り締める。先ほどから冷や汗が止まらない。濡らしてしまったらどうしようか、と頭の片隅でそんなことを考える。
    腕に何かが触れる。
    「え。えー。何?誰?」
    「…ひゅ、ひっ」
    頬を叩かれて、顔を持ち上げる。奇抜な格好をした男が見下ろしていた。大日はその男にハッと目を奪われた。白く傷んだ髪をサングラスでかきあげ、無邪気にこちらを見る、その両眼。暗い煤竹色と透き通ったみ空色の、ヘテロクロミア。
    ああ良かった。これは今週一の珍事だぞ。
    あとは書くだけだ。やっと解放される。…
    懐から和綴じのそれを取り出そうとするが、震えて上手くいかない。再び焦りが募る。
    早く書かないと。書かなければ、私は。
    「えっなんか苦しそー…お医者さん呼ぶ?」
    「に、…っき、」
    「え?」
    「にっき、を…かかなければ……」
    「声ちっさ…。あっオイちょっと寝るなよ!」
    暗転。

    かくんと自分の頭が横に倒れたことで意識が浮上した。全身が重だるく、特に足はつりそうなほど疲れている。
    また、やってしまったのか。
    目を閉じたまま、深くため息をついた。そして吸い込んだ空気に混じる酒と煙草の匂いに、ここが我が家でないことに気づく。
    「こ、こは」
    「!ママぁ起きたー!」
    目を開けると薄暗く、すぐに目が慣れた。
    自分はボックス席のソファに寝かせられていたようだ。男の声の後に「あらホントお?はいお水」と女の声がした。何となくその声の方向を見る。50代らしい女と若い男がカウンターを挟んで立っていて、一言二言交わすと男がコップを持ってきて向かいに座った。
    「飲める?」
    「…どうも、ありがとうございます」
    寝起きで掠れた声を正しつつ礼を言えば、男は首を傾げて「どういたしましてえ」とのんびり言った。
    「あんたさあ、なんかやってるの?」
    「なんか、とは?」
    「おくすりとか」
    薬?なぜそんなことを聞くのだろう。
    …もしかして、いやもしかしなくても、この子が自分を助けてくれたのだろうか。なるほど、そうであればこの質問は何か持病があるのか、ということか。
    大日は身体を起こして襟を正した。
    男はおっ?という顔をしつつ答えを待っている。
    「失礼しました。助けていただいたのですね。ありがとうございました」
    深深と頭を下げる大日に、男はただ黙って、カウンターの女性を見て、「やっぱりやっちゃってるのかな?」と投げかけた。
    「あんた、やめなさいよ。なんか事情があるのよ。ねえ」
    「あ、はい。私、強迫症を患っておりまして…その、お見苦しいところを。非常に申し訳なく……」
    もう一度頭を下げる大日に、男はアハハと丸っこく笑った。
    「めっちゃ謝るね」
    「それは、助けていただいたのですから」
    大日はそう言いつつ、少しまずいなと思い始めていた。つい会話してしまったが、男の身なりや口調からして恐らく「怖い人」の手合いだ。ここはお礼なぞ一言で済ませてさっさと店を出るべきだった。今からでも遅くない、お礼にお金でも渡して早く去ろう。
    「あの、ありがとうございました。失礼ですがお暇させていただきます」
    「あら、もうちょっと休んでいった方がいいんじゃ」
    「いえ、ご迷惑になりますから。気持ちですがお礼は置いていきます」
    「お礼?」
    男がニコッとかわいらしく笑う。日常あまり触れることのない種類の圧を感じる。
    …また冷や汗が滲んできた気がする。
    「…即物的ですが」
    そう言って懐の財布を探る。
    「?……」
    「探してるのって、これ?」
    男は見慣れた三つ折財布をひらつかせた。
    「!か、返してください」
    「えーどうしよっかな」
    「返して下さらねば、窃盗です。警察を呼びます」
    「ちょっとまゆかちゃん」
    女性が咎めるような声を上げた。自分の店で警察沙汰は困るのだろう。
    まゆか、とは。この男の名だろうか。
    「チッ…うるさいなー。分かった、一緒に来てよ」
    「ど、どこへ」
    「来てくれたらサイフ返したげる」
    「答えになっていない…!」
    「来いってば」
    男がテーブル越しに大日の手を掴んだ。遠慮のない強さだ。そのまま引っ張られ、店の外へ連れ出された。男の足は止まらない。あちらは洋装で歩幅が違う上、こちらは多少休んだとは言え疲労困憊で足が上手く動かない。何度も足をもつれさせながら男の後ろを歩く。
    夜の繁華街を男はどんどん歩いて行く。道行く人が少なくなかったが、男が踏み出せば皆避けていく。モーセのようだ。彼は随分若いし、預言者とは到底思えないが。…
    すぐに息は上がり、腕を引っ張り返しながら声をかける。
    「あの、もう、財布は構いません。差し上げますから。身分証さえ渡して頂ければ、」
    「何だよ、声ちっちゃくて聞こえない」
    「で、ですから!」
    「なあに」
    「ふぎゃ」
    男がピタリと立ち止まった。突然のことに男の肩に鼻をぶつける。
    男が振り返ると、幼くぶすくれた顔をしていた。
    「俺は恩人なんでしょ」
    「う」
    「恩人にそんなクチきいていいの」
    「うぐ」
    「…サイフいらないなら返したげる」
    「、へ」
    「かわりに一緒に来てよ。俺のことキライ?」
    「きら、…」
    嫌いも何も、会って(体感)一時間も経っていない。
    「す、好きか嫌いか、判断できるほど君のことを知らない」
    「俺のこと知らないの?」
    「…恥ずかしながら、世間に疎くて。帰らせてくれないか」
    「梁まゆかだよ」
    繋いでいた手を組み替えられる。節ばった体温の高い指が絡められる。
    「ひえ」
    「ひえ、じゃないよ。梁まゆか!」
    「り、りん…」
    「りゃん!」
    「りぁ……」
    「…りゃって言えないの?」
    「……やの音が苦手なんです」
    カーッと頬が染まるのを袖で隠す。
    「離してください…」
    「やだあ」
    梁はイジメっ子の爽やかな笑顔で即答した。
    大日はぎゅっと薄い唇を噛んだ。
    どうすればいいんだ。
    財布は要らないと言う。
    でも着いてこいと言う。
    財布に入っている額じゃ足りなかったのだろうか。確かにあくまで散歩だから一万円程度しか入れなかったし、クレジットカードも入れていない。散歩のときは少しの現金と保険証だけのものしか持たない。
    これからヤクザの事務所にでも連れて行かれて、大変な額を請求されたりするのだろうか。確かに人様より多少裕福な生活をさせてもらっているとは思うが、だからと言っていくらでも渡せるなんて身では……ああどうしよう。それもこれも全てこのおかしい脳のせいだ……。
    大日はぐるぐる考えて、いつものように「病のせい」に着地して遣る瀬なく俯いた。
    「あ、泣かないで。ごめんね。意地悪しちゃったよね」
    梁は憐れんだ声を出しながら大日の頭を撫でた。突然急所を触られてびくりとしたが、害をなすつもりは無いらしい。ただ雑に掌を往復している。
    「…泣いていません」
    「えっそうなの。何だよ、慰め損」
    手はすぐに退かされた。
    「それで、おにいさんは?」
    「え?」
    何が「それで」なのだ。どこから接続しているのか、大日は混乱する頭を動かす。
    「名前!」
    「なまえ」
    「そう。お名前はっ?」
    梁が覗き込むように腰を屈める。自然、顔と顔の距離が縮まる。大日は場違いに「ア、この子は随分綺麗だこと」と思った。
    染色されたプラチナブロンドは、日本人離れした色にも関わらず彼に似合っている。くっきりとした目鼻立ちは彼の無邪気な雰囲気通りである。左右対称で、比率も綺麗だ。いわゆる二枚目だろう。口許の黒子もそれを引き立てている。
    そして何より特筆すべきは、男のわりに長い睫毛に覆われた両眼だった。
    ヘテロクロミア。
    虹彩異色症。
    左眼は暗い煤竹色、右眼は透き通ったみ空色。
    何となく、それをどこかで見た気がした。
    大日はフッと顔を逸らして息を吐き、そのオッドアイを見つめた。
    「……大日定助です」
    「だいにち?」
    「はい。大日定助と申します」
    「んふ」
    両目が細められる。
    梁まゆかは、笑うと目じりに皺が寄るらしい。
    出来れば、知りたくないことだった。

    「り…まゆかさん」
    「なにい?」
    「もう少しゆっくり歩いてもらえますか。着物だから、そんなに早く歩けないんです」
    「そうなの?」
    「はい。ごめんなさい」
    「いちいち謝んなくていいよ」
    「ご……はい。わかりました」
    謝りかけて言葉を変える。梁は特に苛ついた様子もなく歩幅を狭めた。
    「このくらいでいい?」
    「はい。ありがとう」
    「うん。あのね、今から行く場所知りたい?」
    「ええ、…そうですね」
    やっと一息つけたと同時に欠伸が込み上げる。噛み殺して答えたが、目の前の男は気づいたのか振り返った。
    「眠い?」
    「あ、…はい、そうですね」
    「まだ11時とかだよ」
    「それは…いつもならもう寝ている時間ですね」
    「ウソお!子どもみたい」
    「そう見えますか?もう28なんですが」
    「ウソだあ!」
    梁は大袈裟に飛びしさいた。大日が口許を隠しつつ笑いを零せば、もう一度「ウソでしょ?」と叫ぶ。
    「本当です」
    「えーッ。俺同い年かちょっと上だと思ってた!」
    「まゆかさんはおいくつなんですか?」
    「じゅう〜…違う20!ハタチ!」
    「おやお若い」
    「定助サン8個も上なんだあ〜」
    しみじみと呟く梁に、またふふと笑う。人懐こい男だ。よく動く表情や大袈裟な反応も愛嬌があって和まされる。名前で呼ばれたことに一瞬戸惑ったが、それも気にならないくらい彼は距離の詰め方が上手い、と感じた。
    そこまで考えて、ハッと思い出す。
    何を談笑しているんだ。
    僕は、まだ書いていないじゃないか。
    今日分の日記を、書いていない。
    ゾゾッと足元から恐怖と焦燥が込み上げてくる。あっと思う間に、全身が強迫観念に飲み込まれた。血の気が引き、冷や汗が滲み出す。
    胸から底のない不安がせり上がってきて、吐きそうになる。
    ふらりと右足を前に出し、震える声で梁に問い掛ける。
    「に、日記は?」
    「ん?」
    「僕の日記はどこです?」
    「日記…?ノート?あーなんかあったな」
    「ですからどこですッ?」
    「うおっ。何。落ち着きなよ」
    「ぼ、僕はッ、言ったでしょう!強迫症で、ノート、日記を書かないと、どうしようもないんですッ。は、早く、日記、」
    胸倉を掴み捲し立てる大日に、梁は一瞬右上を見て爽やかに微笑んだ。
    「捨てちゃった♡」
    「……はッ?」
    「だからあ、よく分かんないから捨てちゃった。ページもほぼ使い切ってたし、何か大事なことが書いてある風でもなかったし?」
    「捨て、た?」
    「うん!」
    彼は元気よく頷いた。何の迷いもなく。
    うん。捨てた。捨てちゃった。
    言い放たれた言葉を噛み砕く。
    捨てた。ない。日記はもうない。
    「あ、…ど、どうしよう……」
    手足から力が抜け、その場にへたり込む。
    梁は眉を下げ、ニコニコしながらしゃがんで目線を合わせる。
    「定助サンはー、日記がないと、どうなっちゃうの?」
    「ぼ…僕は、日記がないと、ふ、不安で不安で仕様がないんだ」
    「うんうん」
    「理由は分からない。とにかく、書かなければいけないんだ、一日一頁、日付、天気、今日あったこと…日記に書けるような、『いつもとは違う』こと……」
    「そっかあ。じゃあ今日は書くこと、できたね?」
    「そう…そうだ、なのに君がッ」
    勢いよく面を上げる。いつの間にか頬を伝っていた涙がパッと地面や、いつの間にか近くにあった梁の頬に散った。
    「君が日記を捨てたから書けなくなった!」
    「それはごめんねってゆったじゃん…」
    梁は首を傾げて頬の水滴を払った。さらに言い募ろうとすると、彼は突然掌を目の前に突き出した。思わず黙る。掌の向こうで、彼がウーンとわざとらしく唸る。
    「日記ってさあ…あのノートじゃなきゃダメなの?」
    「え…、…わ、分からない。試したことがないから…」
    「見直せたりしないとダメ?」
    呆気にとられつつ思い返す。これまでに書いた日記は膨大な量になるが、それらを読み返したことはない。大日はゆるゆると首を横に振った。
    「そ。じゃあ大丈夫かもね」
    「え?」
    「定助サン、めんどっちくてかわいいから」
    梁は片目を瞑ると、立ち上がって上衣を脱いだ。
    「わっ、ちょ、ちょっと!?」
    「まゆかくん出血大サービス」
    梁は大日に背を向けドスンとその場に胡座をかいた。親指でその意外に広い背を示す。
    「書けば?」
    「へ?」
    「日記!書いていーよ!ペン、ほら」
    背中越しにサインペンを渡される。
    「な、なんでペンなんか持ってるんですか」
    なんて見当違いの質問だろう。
    「今日のバイトで持ち物に自分の名前書かなきゃいけなくて……ねー、書かないなら俺服着ちゃうよ。さみー」
    「あ。あ、はい、すみません」
    慌ててペンのキャップを取る。確かに春先とは言え、夜はまだ肌寒い。少し鳥肌の立っている背中にそっと手を添える。恐る恐るペン先を乗せれば「くすぐってー」と向こうから笑い声がする。
    「ご、ごめんなさい」
    「早くして〜」
    「はい。はい」
    躊躇っていると逆に良くないのかもしれない。大日は混乱のままペンを走らせた。
    日付。
    天気。
    今日あったこと。
    今日……奇妙な男に会ったこと。
    その男の背中に、今、日記を書きつけていること。…
    (もったいない)
    大日は唐突にそう思った。
    もったいない。こんなことを、今日一日に体験してしまって。
    これ以上の出来事に、今後一生巡り会える気がしなかった。
    (人生最大の、珍事だ…)
    最後の句点を、ゆっくりと記して、そう思った。
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    takayoshi2222

    DONE昨日書いた創作BL(後半)
    読み直してません
    「終わり?」
    「…はい、終わりです。ありがとうございました」
    細く長いため息をついて、キャップを被せる。梁はケラケラと「くすぐったかったあ」と笑い、背中を摩る。最後の数行のインクが掠れたが、別に動揺はしなかった。
    書き終わって、ただ安心していた。
    彼の仮説は当たっていたようだ。
    また一つ、恩が増えてしまった。
    「どうなってる?撮って撮って」
    「え、えっと」
    「撮り方分かんない?ここ押すだけ。こう!はい!」
    「あ、はい。はい、チーズ…」
    「いえーい」
    はしゃぐ梁に携帯を手渡され、写真を撮る。随分ご機嫌だ。そんなに喜ぶことだろうか。むしろ迷惑に感じるものでは…。
    「あ、アハハ。すげ〜何これ!ぎっちり!読めね〜」
    「今日は、書くことが多くて…」
    「そっかあ。まあそうだよね。あはは」
    彼はしばらく写真を眺めていたが、満足したのか携帯をしまい、服を着た。
    そして大日の左手を掴む。
    「じゃ、終わったことだし行こっかあ」
    「えっ」
    「一緒に行くって言ったじゃん。忘れたの?」
    「あ、いや」
    咄嗟に否定するが、丸っきり頭から抜け落ちていた。先程の行為の衝撃が大きすぎて。
    というか、自分達は一体何をやって 6635

    takayoshi2222

    DONE昨日書いた創作BL(前半)
    ちょっとおかしい男×日記を書かなきゃいけない強迫症の作家
    酸素が、薄い気がする。
    ここはどこだ。近所を歩いていたはずなのに。
    口が無為に開閉した。肺は苦しいままだ。
    昼に家を出て、日課の散歩をしていたのに、いつのまにこんな時間に、こんな所まで来てしまったのだろう。少ない体力は既に尽きて、焦りだけが重い足を動かす。日は既に落ちて暗く、色とりどりのよく分からない光が霞んだ視界に主張してくる。
    人が多い。騒がしい場所は苦手なのに。
    本当に嫌だ。何故自分がこんな目に遭わなければいけないのか。ああ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。…
    目眩がして咄嗟に何かに掴まる。頭上から何か聞こえた気がする。分からない。
    視界がチカチカして、方向感覚も危うかった。その何かは布を纏っていて、その布を力の入らない手で握り締める。先ほどから冷や汗が止まらない。濡らしてしまったらどうしようか、と頭の片隅でそんなことを考える。
    腕に何かが触れる。
    「え。えー。何?誰?」
    「…ひゅ、ひっ」
    頬を叩かれて、顔を持ち上げる。奇抜な格好をした男が見下ろしていた。大日はその男にハッと目を奪われた。白く傷んだ髪をサングラスでかきあげ、無邪気にこちらを見る、その両眼。暗い煤竹色と透き通ったみ空色の、ヘテロ 5787

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