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    10ri29tabetai

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    兼歌

    #兼歌
    diphthong

    末代の造形はとても整っていて、ほう、と感嘆したくなることが多い。隣に置いて眺めていたいくらいの見目を見つめていると、和泉守の方が目を逸らす。何が面白いんだよ、と雅ではない言葉遣いとともに視界から臙脂が消えていく。
    浅葱色に染まっていく視界に歌仙は手を伸ばした。指先だけで掴んだそれが足枷となって和泉守はつんのめってその場で踏みとどまった。
    「こら、まだいくんじゃない。話は終わってないだろう」
    「いやもう十分だろうが。アンタ妙なところでしつこいな」
    「久々にこうして酒を酌み交わしているのに随分なことだな」
    「……はあ」
    仕方なさそうにため息をこぼしながら、その場に座り込んだ和泉守は拍子抜けしたように頭を掻いた。長い髪、色男然とした黒がさらりと流れて、床につく。
    徳利を傾けながら歌仙は和泉守へ笑いかける。実にどのくらいぶりなのだろう。おだやかな時間を過ごすほどに戦況は思わしくなく、第一部隊も、第二部隊も立て続けの出陣が続いていたのだ。
    「和泉守。先日の出陣はどうだった」
    「……どうと聞かれても」
    「小烏丸様からは聞いている。一騎当千の働きだったそうじゃないか」
    「いや盛ってねえか、それ」
    「はは、何。そのくらい君もこの本丸の役に立っているということだろう」
    髪の毛をひと房、歌仙は手にとって口付けた。兼定の末の作。遠い遠い末裔とこうして語り合える日が来るとは思っても見なかった。この本丸に顕現してからずっと歌仙は和泉守の見た目を評していた。美しいものだ。実用性だけではなく、さりとて美しいだけではない刀は、歌仙がうっとりするほどに人型としても麗しいものだった。
    「ふふ」
    「アンタ、オレが好きだよなあ」
    「ああ、それはもちろんだとも。見た目も実用性もきちんとしているなんて、刀として君が優秀な証だ」
    「……少しは照れるとかないのか」
    「はは、まさか」
    事実を口にすることの何にてらいがあろうか。言えばいうほどに顔を赤らめていく和泉守に歌仙は愉快になっていく。もういっぱい飲むといい、と差し出した酒を飲み込んで、これだから酔っ払いは、と溜息を吐き出した。
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