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    blumeV0511

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    blumeV0511

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    とある曲からイメージ。薄ら暗い
    占納→両片思い、占に婚約者設定

    もうとっくに戻れない君が時折、煙草の香りを纏うことを知ったとき、その理由が知りたかった。
    誰かの移り香か、それとも君が吸っているのか。
    清廉な君に、あまりにも似合わなかったからどうしても気になった。
    でも、踏み込んで聞いていいのか。私にはわからなくて、今日まで聞けないでいた。

    月があまりにも明るくて、眠気が来なかった。だから散歩に出た。でも、出るんじゃなかった。
    君が、そんな顔をして煙草をくわえているということを、知りたいわけじゃなかった。

    「……珍しいですね、夜更かしですか?」

    あまりしゃべらない彼が、珍しく饒舌だった。昼の様子とは違い、どこか妖艶で、危うくて、私はどうしたらいいのかわからないまま曖昧に微笑んで眠れなくてとだけつぶやいた。だけど彼は気にする素振りもなく、普段隠されている薄い唇に似合わない煙草をくわえた。すぅっと吸い込む音が静かな温室庭園に響く。
    似合わない仕草なのに、目が離せなかった。


    「煙草、吸うんだね」
    「……知っていたでしょう?ずっと聞きたそうだった」

    小ばかにするような笑い方に、少しだけムッとする。そんな笑い方は彼らしくなくて居心地が悪い。私はどうしたものかと足元をみて、それから彼をゆっくりと見つめた。

    「聞いたら、話してくれるかい?」

    私の問いかけに、彼は紫煙をくゆらせていいですよ、僕も眠れないのでとそっけない声色で返事が返ってきた。

    「いつから吸ってるの?」
    「ここに来る前から、ですかね」
    「体によくないよ、なんで吸うの?日中は全然だよね」
    「……ジェイが……養父が、よく言ってたんですよ。泣きたいときに煙草を吸えって」

    目がにじんでも、煙のせいだっていいわけができる。深呼吸より、よほどいい。
    ジェイという彼の保護者を思い浮かべたのか寂しそうな顔で笑いながらそう言われ、どう答えたらいいのかわからなくなった。
    サラリと言われたが、彼は今、泣きたいから煙草を吸っているのだといったのだから。

    「……私は、その、邪魔をしたよう、だね」
    「そう、ですね」

    辛辣な返答にグッと息が詰まる。申し訳ないことをしてしまったと思う反面、こんな真夜中に寂しそうな顔で泣くためにたばこを吸う彼と出会ったのは必然だったのではないだろうかと思う。

    「……ねぇ、私では煙草の代わりにならないかい?」
    「……え?」
    「その、そんな顔をしている君を放ってはおけないよ」
    「相変わらず、お人よしですね」
    「そう、でもないよ」

    そう、お人よしなわけではない。私はどうしたって彼を一人で、いや、私の知らないところで泣かせたくはない、そう思ったのだから。
    私は両手を広げ、彼に抱きしめてもいいか許可を取る。自分の胸の中で泣けというのはおこがましいけど、時に人肌や誰かの鼓動というのは癒してくれたりするのだ。

    「申し訳ないですけど、貴方にだけは抱きしめられたくないです」

    泣き出しそうな顔できっぱりと言い放たれて、開いた両手を力なく下ろす。
    気が付かないうちに、彼に嫌われるようなことをしただろうか。ひどく胸が痛んで、どうしたらいいのかわからない。

    ふわりと煙草の香りが鼻先をかすめる。いつのまにか彼は咥えていた煙草を踏みつぶし、その吸い殻を丁寧に手持ちのケースにしまい込んで、立ち上がった。

    「……僕にかまわなくていいです」
    「イソップ君、そんなことを言わないで。私は、君に何かしたかい?」

    緊張で声が震えた。彼に嫌われたと思ったら、目の前が真っ赤に染まった。
    私の言葉に彼はまた泣き出しそうな顔で笑て、力なく落ちた私の左手を取った。


    「貴方の温度を知ったら、もう戻れないので」
    「……ぇ?」

    彼が膝をつき、童話の中の王子様のように手にした私の左手の薬指にキスをする。
    指輪に触れたせいで、彼の唇の感触はわからなかった。

    「貴方には、この先も触れられたくない。僕は、貴方との関係に白黒つけたくないんだ」

    どういうことかわからなかった。それでも、今にも涙をこぼしそうな彼にこれ以上告げる言葉がなかった。
    そうこうしているうちに彼は立ち上がり、扉の方へと向かっていく。私はただ、夢中で声をかけた。

    「まって、イソップ君。どうして、どうして君に触れたらだめなんだ」

    私の質問に彼はひどく困った顔をする。眉根をきゅっとさげ、目じりには玉になった涙があった。


    「……これ以上、貴方に恋をしたくないから」


    そう告げると彼は真夜中の空を飛び回るフクロウのように、あっという間に闇夜に消えた。一人残された温室の中で私は呆然と彼の出ていった先を見つめた。
    甘い花の香りに少しだけ苦い煙の香りがする。彼から時折香ったそれと、指輪に触れた唇を思い出し、顔を覆った。


    「私が、原因か」


    あの顔も、彼が煙草を吸う理由も。


    ひどい優越感だった。あの綺麗な彼が、私に恋焦がれ思い悩み、夜な夜な肺をタールと私への恋心で汚しているのだと思うと、どうしようもなかった。


    「これ以上、触れたなら、君はもう戻れないところまで堕ちてくれるのか」

    彼の言葉の意味を思い返してニヤついてしまう口元を、指輪へのキスでごまかした。
    楔のある私に恋をして、思い悩んで私を遠ざけようと必死なイソップ君を思い、堪らなく気分が高揚し、いつまでも自分を縛るこの薬指を初めてありがたいと思った。
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