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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    torinokko09

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    三月一、二週目ギャップとお返し 一燐ワンドロ
    過去とのギャップってことでひとつ。

    ##一燐ワンドロ

    紙袋を手に、燐音はうろうろと公園を歩き回っていた。夕暮れ時の日の光は赤く空を照らすが、漂う空気はつめたい。羽織っていたコートの前を閉めて、燐音は腕時計を見つめた。待ち合わせの時間までまだ少しある。弟はいつも早く来るからと急いでしまったが、大丈夫だったなと切り上げた予定を後悔した。HiMERUともう少しライブについて話を煮詰めたかった。

    年明けから準備している他県でのライブは、Crazy:Bにとって初めての規模だった。アンダーグラウンドに変わりはないが、それでも初めて四人で外へ出るのだ。燐音はなんとしてでもこのライブを成功させたかった。そのためには、この問題を片付けなくてはならなかった。いまだこない弟を待ちながら、燐音は寒さを紛らわすようにわざとらしく歩いた。そのたびにかさかさと紙袋が音を立てる。その中身を思い浮かべながら、燐音はため息をついた。

    どうしてこのタイミングであれは動いたのだろう。年明けからひそかに、しかし弟にとっては明確に行われていた行為は燐音にとって予想外の意図を含んでいた。だってそうだろう。誰が、弟から『アタック』を受けていると思うのだ。懐いた犬や猫のようにごろごろとくっついているようにしか思っていなかった燐音は、バレンタインにもらったマロングラッセでその意図を初めて知った。
    一月に唐突なキスを貰って以来、シナモンで出会ったり待ち合わせをして出かけたりなど、そのすべてが一彩にとっては『好きな相手へのアタック』であり、そしてほぼすべてに答えた燐音の行為はまさしく『好感触』だっただろう。わざわざバレンタインに待ち合わせをしてまでマロングラッセを渡したのがそれを裏付ける。

    マロングラッセ。マケドニアの英雄が最愛の妻に送ったことから、ヨーロッパでは永遠の愛を誓う証として送るものらしい。旧館のベッドで意味を調べたときの衝撃は人生で一、二を争うほどだった。燐音はその時を思い出して、体温が上がるのを感じた。

    どうして弟は自分にマロングラッセを送ったのだろう。その習慣通り意味を受け取るならば、一彩は自分のことを愛していることになる。それも、永遠を誓うほど。
    否定しなくては、と思った。それはあってはならぬものだ。だって燐音は一彩の兄で、一彩は自分の弟である。そこに存在していいものは家族愛や兄弟愛で、間違っても恋愛は芽生えないものなのだ。そこまで考えて、近づいてきた足音に燐音は顔を上げた。

    「ごめん兄さん」
    「いいよ、まだ時間あるだろ」
    「でも、兄さんを待たせたくないよ」
    「俺が呼び出したんだから、気にすんなよ」

    グレーのダッフルコートを着込んだ一彩が、ぱたぱたと燐音へ近づいてきた。視線はあからさまに紙袋に向いていて、それに気づいた燐音は耐え切れず吹き出した。

    「そんなせかすなって」
    「うぅ、ごめんよ兄さん。…その、あの時は緊張していたから」
    「そう」

    顔を赤くする一彩に、燐音は弟なりに頑張っていたのだなと考えを改めた。そしてきっぱりと言った。

    「わりぃ、全然わかんなかった」
    「えっ⁉」

    けろりと言い放った言葉に、一彩は目を丸くして燐音を見やった。燐音はその表情に、悪いことしたかな、と思いつつ正直に告げる。

    「なんか、一月からよく絡むなとは思ってたけど、お前だし、で終わってたわ」
    「ぼ、僕なりに頑張っていたんだけどな…? 少女漫画も参考にしたのに?」
    「漫画を参考にしたのかよ」
    「いやしかし、けっこう評判のいいものだったんだよ? 全部は実行できなかったけど」
    「全部実行したらお前の兄ちゃん辞めるわ」
    機会さえあれば本当に実行しそうな弟の言葉に、燐音はふざけていった。一彩はその言葉にかみつくように、
    「それは困るよ兄さん! 兄さんがいなきゃ嫌だよ!」
    といった。あまりの慌てように、燐音はおかしくなって笑いながらその頭を撫でた。いつもの柔らかな髪質は燐音の心を落ち着かせる。おとなしく受け入れる一彩は自分の知る弟だった。

    「あははっ、お前俺のこと好きすぎっしょ」
    「当たり前だよ兄さん」
    「だから、これは今のお前に」

    そう言って燐音は一彩に紙袋を渡した。一彩は興味深げに中を覗き込んでいる。不安と期待の入り混じったそれを見ながら、燐音は「あけてみろよ」と促した。
    「うん。……」
    一彩が紙袋からラッピングされた箱を取り出す。リボンを丁寧にほどいて、包み紙をはがしていく。白い箱からでてきたのは、瓶詰の金平糖だった。

    「金平糖?」
    「まず最初に言っとくけど、深い意味はねぇぞ」
    燐音は一彩の頭が回転する前にくぎを刺した。
    「小さいころ、お前に金平糖あげたの、覚えてるか」
    「もちろん。兄さんはいつもいろんなものをくれたけど、これは色とりどりであまくて大好きだったよ」
    「その顔が見たかったから、それにしただけ。いいか、深い意味はないからな」
    「金平糖は溶けないし長期保存できるから『永遠の愛』を示すなんて最近は言うらしいね」
    「深い意味はないって言ったろ!」

     嬉しそうに頬を染める一彩に、燐音は声を大きくした。それでも一彩の口角は上がったままで、燐音はその笑顔にあまり強く出られずに口をつぐんだ。きらきらと光る瞳は幼いころそっくりで、やっぱり弟は弟だと思った。
    一彩は瓶のテープをはがすと、赤い金平糖を一つ手に取った。瓶を紙袋の中に入れて、日が落ちかけた藍と紅の空にかかげてみせる。赤く独特の形をした金平糖がきらりと光った気がした。

    「一つ食べても?」
    「もうお前のものだよ」
    「いただきます」
    大切そうに口に含んだ一彩は、またにっこりとほほ笑んだ。燐音はその笑みに微笑んで返す。弟が嬉しいと感情を示してくれるのは好きだ。自分への好意に満ちているから。その時は自分を否定しないから。燐音は幼いころから繰り返した『ものをあげる』安心感にほっと感じた時だった。
    不意に一彩が燐音の腕をとった。ぐいと強く引っ張られて、燐音はたたらをふむ。一彩の顔が近づいて、燐音の唇にキスを落とした。驚いて開いた口に、角がとれた金平糖が転がり込む。とげのないあまいそれが、今までの一彩とは違うのだと燐音に告げていた。
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