貴方を今夜真冬の旅行で、旅館に泊まった天城兄弟。
一通り楽しんであとは寝るだけの時に、りんねは「タバコを吸うから先に寝ろ」と言ってがらら、と窓を開けた。出窓に腰掛けてたばこをふかし始める。
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一彩はその月光に照らされた顔を見て、布団から起き上がった。出窓に肘をついてかおをごろりとのせ、兄をみあげる。きらりと光った青い瞳がこちらを見下した。
「寝ろって。タバコくせぇっしょ」
「ううん、慣れたから。おいしい?」
「ぼちぼち」
「父上もよく吸うよね」
「あー、父上のはな、刻みたばこって言うんだよ。口の中で味わうの」
「口と肺では違うのかい」
「あぁ」
燐音は静かにたばこをはきだした。青く暗い空にふわりと白い煙が舞いあがる。一彩はそれをふーっと息で飛ばした。
「ははっ、お前にゃまだ早いよ」
「父上にも言われたよ」
「だろうな。・・・一彩、」
「どうぞ」
灰皿を差し出す。とんとん、と軽くタバコが揺れて、灰がおちる。ふわりと舞う苦いような独特の香りが一彩の鼻を掠めた。
そのまま、しばらく2人は静かに夜の空気に溶け込んだ。しんと静まる旅館の外からは、小さな野生動物の声が聞こえる。一彩はちらりと時計を見た。あともう少し。さぁ、針は天を目指している。
「さ、もう寝ろ。俺もこれ吸ったら寝るから」
「・・・兄さん、僕も吸いたい」
「あ?だから言ったろ、お前にはまだ、・・・あぁ、あははっ」
珍しい一彩のお強請りに、燐音は宥めようとして言葉を止めた。部屋にかけてある時計の針は天から傾いている。したり顔の一彩へ、燐音は手を伸ばしてぐしゃりと髪をくすぐった。
「誕生日おめでとう一彩」
「ウム、これで僕も晴れて二十歳になった。さぁ兄さん。そのタバコを吸わせてくれ」
「どうぞ。軽くだぞ?」
燐音は咥えていたたばこを指で挟むと、一彩へと差し出した。兄と同じように出窓に座った一彩が、顔を寄せて静かに息を吸う。ぼお、と赤くなった芯がちりちりと煙草を燃やした。
「口の中でくゆらせて、ゆっくり吐け」
「・・・、苦いような、甘いような、独特な味だね」
「甘いフレーバーだからな。どうだった?初タバコ」
「ウム、まだ習慣となるほど好きになりそうではないな」
「それでいいんだよ」
「父上のも今度吸わせてもらおう」
「あれもなかなか独特だぜ。比べるといい」
人生経験としては許してやるよ、と笑った燐音が短くなった煙草を加える。その横顔は白く美しい。白い煙が口から出るのを塞ぐように、一彩はその唇を塞いだ。
「んむ、っ、ふ、」
煙草の煙を吸って、兄へ吹きかける。至近距離のそれは、しかし意図は伝わったらしい。
「もしかして、これがしたかっただけ?」
「ウム、そうだよ兄さん。・・・どうかな」
「もちろん、答えてやんよ」
燐音はタバコを灰皿へと押付けた。その手を絡めとって、一彩は兄を部屋の中へと連れ戻した。
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「タバコ吸うとさぁ、ニキが「舌がバカになる!」って怒るわけ!俺っち腹たって、その日の調味料全部当ててやったら、次からバトルのようになっちまってさ。この間何が出たか分かるか一彩? スパイスカレーだぜ?しかも一から全部アイツのオリジナルミックス。辛いの好きじゃねぇのに、死ぬかと思った」
「でも当てたんでしょ?」
「ったりめーよ、悔しそうなニキの顔は堪んねぇな!今度シナモンの新作シーズンメニューになるらしいから、お前も試してみろよ」
「ウム、楽しみだ!しかし兄さん、僕と2人きりで、しかも夜を過ごしたばかりだと言うのにその話はいただけないな」
「あ?別に、っ、こらっ!もうしないからっ、ぅあ、」
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っていうニキとの舌バトルが書きたかったのにしっぽり夜を過ごされた。ひーりん最高