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    百合菜

    遙かやアンジェで字書きをしています。
    ときどきスタマイ。
    キャラクター紹介ひとりめのキャラにはまりがち。

    こちらでは、完成した話のほか、書きかけの話、連載途中の話、供養の話、進捗なども掲載しております。
    少しでもお楽しみいただけると幸いです。

    ※カップリング・話ごとにタグをつけていますので、よろしければご利用ください

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    百合菜

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    有梓の「そうだ、カレーを作ろう!」

    2021年2月7日に開催された遙か7の天野七緒中心WEBオンリーで「エアスケブ」を書きました。
    そのとき、幸村×七緒で「炊事をするふたり」というリクエストをいただいたのですが、有梓バージョンも浮かんだので勝手に書いてしまいました^^;

    下宿に滞在中の梓。今日は管理人さんが不在ということで夕飯は自分たちで用意することに。
    そこで有馬とカレーを作るが……

    #有梓
    yauTsz
    #遙か6
    far6
    #遙かなる時空の中で6
    harukanaruTokiNoNakade6
    ##有梓
    ##遙か6

    「高塚、何か食べたいものがないか」
    探索の途中に有馬が訪ねてきたのは秋の風が吹き始めた頃。
    そういえば、梓は朝、管理人に言われたことを思い出す。
    今日は用事があるため、夕食を用意できないことを。
    「うーん」
    梓は少し考え込む。そして思い出す。久しぶりにカレーが食べたいと。
    夏の間は汗をかくため避けてきたが、そろそろあの辛さが懐かしくなってきた。
    ただし、おそらく作るのは自分になるであろうが。
    「カレーを食べたいです。有馬さん」
    そう答えると、有馬も何やら思案しているようだった。
    「カレーか……」
    すると、次の瞬間、意外ともいうべき答えが返ってきた。
    「カレーなら作ったことがある。一緒に作ろう」
    「ええ!?」
    「なんだ、その声は」
    梓の態度が不満だったらしい。
    有馬は不服そうに梓を見つめてくる。睨みつけてくるといった方が正しいのかもしれない。
    「有馬さん、カレー、作ったことがあるのですか?」
    「悪いか」
    ちょっと不貞腐れたかのようにそう答える。
    「いえ、意外過ぎて」
    「軍人たるもの、いつ戦場に出るかわからない。そのため、料理のたしなみくらいはある」
    そう言われて梓は納得する。
    梓のいた世界でも消防士は署内で自分たちのカレーを作っていると聞いたことがある。
    ましてやこの時代の軍人ともなれば、いつ戦地に向かうかわからないため、料理のひとつやふたつできていてもおかしくはないのだろう。
    「では、カレーで決まりだな」

    帰りに肉屋と八百屋へ行き、材料をそろえる。
    小麦粉やカレー粉は下宿の台所にあるのを使わせてもらうことにする。
    「お前はカレールゥを作ったことがないと話していたな」
    買い物をしていたときの何気ない、だけど重要な雑談。
    有馬はそれをしっかりと覚えていたらしい。
    「ええ、おばあちゃんはルゥから作るのですが、私がいた時代は市販のルゥがあるので、私が作る時はそれを使っていました」
    「そうか、便利な時代なんだな」
    そして、有馬は少しだけ目を細める。まるで梓の世界に想いを寄せるかのように。
    「では、俺はルゥを作る。お前は野菜を切ってろ」
    有馬の言葉に異論がない梓は野菜を調理台の上に置く。
    じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。
    元いた世界でも馴染みのある野菜が揃っている。
    『玉ねぎは水に浸すと目が染みにくくなるのよ』
    『じゃがいもは皮を剥いたあと、水に浸すと色が変わりにくいの』
    祖母が台所で話していた言葉ひとつひとつを思い出す。
    あの頃は小さかったから見るだけの自分。
    祖母にしてみれば炊事の邪魔にしかならなかっただろうに、嫌な顔ひとつせずひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
    梓が成長するに従い、梓も一緒に野菜を切るようになったり、最近では梓が作るようになった。
    カレールゥだけは祖母の味を再現できなかったため自分で作ることは諦め、市販品を利用するようになった。
    だけど、カレーを作る時によぎるのは幼い頃、祖母が教えてくれたこと。それは今でも忘れることができない。

    探索を一緒にこなしていることが影響しているのだろうか。
    思っていたよりも有馬とは息が合うのか、思っていたよりもすんなりとカレーは出来上がった。
    秋兵は実家に帰っているとかで今日の夕食はふたりのみ。
    緊張しないと言えば嘘になるけど、有馬とはいつまで一緒にいられるかわからない。その時間を大切に過ごしたかった。
    「いただきます」
    そういいながら、スプーンに乗せ、口に運ぶ。
    一口、口にした瞬間、梓は懐かしい衝動に駆られる。
    「これ……」
    祖母がいつも出してくれたカレー。それと似ている。
    もちろん作り手が異なるため細部は異なるのだが、味のバランスは舌が覚えていたものと一緒である。
    「そうか? これは駒野から聞いた調理法だ。軍の味付けそのままでは素っ気ないのでな」
    「そうなんですね」
    梓の脳裏に浮かんだのは今日も一日探索をともにし、夕方別れた千代のこと。
    そして、その姿と入院中の祖母のことがなぜか重なり合う。
    おばあちゃんは元気だろうか。
    急に祖母に会いたい気持ちが沸き上がる中、もうひとつの感情も思い起こす。
    ここに残ると決めたのは私。
    帝都のために、それもできれば有馬さんの力になりたいと決めたのは私。
    ……だけど、涙が出てくるのはどうしてだろう。
    どうして、おばあちゃんのところに帰ることと有馬さんの傍にいたいということは両立できないのだろう。
    「すまない。お前がカレーでそんな気持ちになると思っていなかったのでな」
    「いいんです、有馬さん」
    普段は表情をあまり出さない有馬が心配そうに自分を見つめていることに梓は気がつく。
    ああ、そうだ。この人は感情を出さないだけで自分のことを心配してくれている。きっと心から。それは「同志」という感情からかもしれないが、それだけでも十分梓は嬉しかった。
    涙を拭い、なんとか笑顔を作りながら梓は有馬の瞳を見つめる。
    「また、作りませんか。カレー」
    「ああ」
    そう言いながら、有馬は手を伸ばし梓の涙を拭いてくる。
    彼にしては珍しい動作に梓は胸が高まるのを感じる。
    有馬も自分の行いに気がついたのであろう。
    自分の手を引っ込めるのと頬を染めるのが同時だった。
    「ほら、冷めるぞ。早く食え」
    「はい!」
    頷いたかと思うと梓はまたスプーンを口に運ぶ。
    懐かしさと切なさ、その両方が胸に染みるのを感じながら。
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    百合菜

    DOODLE地蔵の姿での任務を終えたほたるを待っていたのは、あきれ果てて自分を見つめる光秀の姿であった。
    しかし、それには意外な理由があり!?

    お糸さんや蘭丸も登場しつつ、ほたるちゃんが安土の危険から守るために奮闘するお話です。

    ※イベント直前に体調を崩したため、加筆修正の時間が取れず一部説明が欠ける箇所がございます。
    申し訳ございませんが脳内補完をお願いします🙏
    1.

    「まったく君って言う人は……」

    任務に出ていた私を待っていたのはあきれ果てた瞳で私を見つめる光秀さまの姿。
    私が手にしているのは抱えきれないほどの花に、饅頭や団子などの甘味に酒、さらにはよだれかけや頭巾の数々。

    「地蔵の姿になって山道で立つように、と命じたのは確かに私だけど、だからってここまでお供え物を持って帰るとは思わないじゃない」

    光秀さまのおっしゃることは一理ある。
    私が命じられたのは京から安土へとつながる山道を通るものの中で不審な人物がいないか見張ること。
    最近、安土では奇行に走る男女が増えてきている。
    見たものの話によれば何かを求めているようだが、言語が明瞭ではないため求めているものが何であるかわからず、また原因も特定できないとのことだった。
    6326

    百合菜

    MAIKING遙か4・風千
    「雲居の空」第3章

    風早ED後の話。
    豊葦原で平和に暮らす千尋と風早。
    姉の一ノ姫の婚姻が近づいており、自分も似たような幸せを求めるが、二ノ姫である以上、それは難しくて……

    アシュヴィンとの顔合わせも終わり、ふたりは中つ国へ帰ることに。
    道中、ふたりは寄り道をして蛍の光を鑑賞する。
    すると、風早が衝撃的な言葉を口にする……。
    「雲居の空」第3章~蛍3.

    「蛍…… 綺麗だね」

    常世の国から帰るころには夏の夜とはいえ、すっかり暗くなっていた。帰り道はずっと言葉を交わさないでいたが、宮殿が近づいたころ、あえて千尋は風早とふたりっきりになることにした。さすがにここまで来れば安全だろう、そう思って。

    短い命を輝かせるかのように光を放つ蛍が自分たちの周りを飛び交っている。明かりが灯ったり消えたりするのを見ながら、千尋はアシュヴィンとの会話を風早に話した。

    「そんなことを言ったのですか、アシュヴィンは」

    半分は穏やかな瞳で受け止めているが、半分は苦笑しているようだ。
    苦笑いの理由がわからず、千尋は風早の顔を見つめる。

    「『昔』、あなたが嫁いだとき、全然相手にしてもらえず、あなたはアシュヴィンに文句を言ったのですけどね」
    1381

    related works

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「今日も帝都の空は澄んで」

    有馬と出会って二度目の夏。
    結婚を控えた梓。休憩中に空を見上げて、つい気負ってしまう。そんな梓に対し、有馬は……

    Twitterに投稿した2020年有馬さん誕生日創作です。
    「今日も天気がいいですね」
    「ああ」

    一さんと出会ってから訪れる二度目の夏。
    そして迎える二度目の一さんの誕生日。
    右手の薬指にはめられた指輪が窓から差し込む光を反射し、壁に小さな虹を描く。少し前に一さんに渡された指輪。秘かに、こっそりと、でも周りにはバレバレな様子で待っていたプロポーズの言葉とともに。
    来週、一さんと私は富山に行く。一さんのご実家に、結婚式を挙げるために。式の準備はほとんど終えており、あとは身一つで行くだけ。
    去年の今頃には想像すらしていなかった今の状況がくすぐったくなることもある。
    でも、これはきっと私たちがひとつずつ着実に絆を積み重ねてきた証なのだろう。そして、そこに至るまでたくさんの人たちの助力があったからこその関係。

    「去年よりも空が澄んでいる気がしますね」

    一さんは暑さなどものともせずコーヒーカップに口をつけ、飲み干す。それもホットのブラックコーヒーなところがなんだか一さんらしい。

    「ああ、そうだな。龍神に見守られているような安心感があるな」

    恵みの光をたたえる空。
    いつまでも眺めたくなるような蒼。
    穢されたくないと思わせるような透明感。
    去年の今 1095

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「今日も帝都の空は澄んで」

    有馬と出会って二度目の夏。
    結婚を控えた梓。休憩中に空を見上げて、つい気負ってしまう。そんな梓に対し、有馬は……

    Twitterに投稿した2020年有馬さん誕生日創作です。
    「今日も天気がいいですね」
    「ああ」

    一さんと出会ってから訪れる二度目の夏。
    そして迎える二度目の一さんの誕生日。
    右手の薬指にはめられた指輪が窓から差し込む光を反射し、壁に小さな虹を描く。少し前に一さんに渡された指輪。秘かに、こっそりと、でも周りにはバレバレな様子で待っていたプロポーズの言葉とともに。
    来週、一さんと私は富山に行く。一さんのご実家に、結婚式を挙げるために。式の準備はほとんど終えており、あとは身一つで行くだけ。
    去年の今頃には想像すらしていなかった今の状況がくすぐったくなることもある。
    でも、これはきっと私たちがひとつずつ着実に絆を積み重ねてきた証なのだろう。そして、そこに至るまでたくさんの人たちの助力があったからこその関係。

    「去年よりも空が澄んでいる気がしますね」

    一さんは暑さなどものともせずコーヒーカップに口をつけ、飲み干す。それもホットのブラックコーヒーなところがなんだか一さんらしい。

    「ああ、そうだな。龍神に見守られているような安心感があるな」

    恵みの光をたたえる空。
    いつまでも眺めたくなるような蒼。
    穢されたくないと思わせるような透明感。
    去年の今 1095

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。
    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947

    百合菜

    DONE有梓の「そうだ、カレーを作ろう!」

    2021年2月7日に開催された遙か7の天野七緒中心WEBオンリーで「エアスケブ」を書きました。
    そのとき、幸村×七緒で「炊事をするふたり」というリクエストをいただいたのですが、有梓バージョンも浮かんだので勝手に書いてしまいました^^;

    下宿に滞在中の梓。今日は管理人さんが不在ということで夕飯は自分たちで用意することに。
    そこで有馬とカレーを作るが……
    「高塚、何か食べたいものがないか」
    探索の途中に有馬が訪ねてきたのは秋の風が吹き始めた頃。
    そういえば、梓は朝、管理人に言われたことを思い出す。
    今日は用事があるため、夕食を用意できないことを。
    「うーん」
    梓は少し考え込む。そして思い出す。久しぶりにカレーが食べたいと。
    夏の間は汗をかくため避けてきたが、そろそろあの辛さが懐かしくなってきた。
    ただし、おそらく作るのは自分になるであろうが。
    「カレーを食べたいです。有馬さん」
    そう答えると、有馬も何やら思案しているようだった。
    「カレーか……」
    すると、次の瞬間、意外ともいうべき答えが返ってきた。
    「カレーなら作ったことがある。一緒に作ろう」
    「ええ!?」
    「なんだ、その声は」
    梓の態度が不満だったらしい。
    有馬は不服そうに梓を見つめてくる。睨みつけてくるといった方が正しいのかもしれない。
    「有馬さん、カレー、作ったことがあるのですか?」
    「悪いか」
    ちょっと不貞腐れたかのようにそう答える。
    「いえ、意外過ぎて」
    「軍人たるもの、いつ戦場に出るかわからない。そのため、料理のたしなみくらいはある」
    そう言われて梓は納得する。
    梓のいた世 2212

    百合菜

    DONE有梓の「そうだ、カレーを作ろう!」

    2021年2月7日に開催された遙か7の天野七緒中心WEBオンリーで「エアスケブ」を書きました。
    そのとき、幸村×七緒で「炊事をするふたり」というリクエストをいただいたのですが、有梓バージョンも浮かんだので勝手に書いてしまいました^^;

    下宿に滞在中の梓。今日は管理人さんが不在ということで夕飯は自分たちで用意することに。
    そこで有馬とカレーを作るが……
    「高塚、何か食べたいものがないか」
    探索の途中に有馬が訪ねてきたのは秋の風が吹き始めた頃。
    そういえば、梓は朝、管理人に言われたことを思い出す。
    今日は用事があるため、夕食を用意できないことを。
    「うーん」
    梓は少し考え込む。そして思い出す。久しぶりにカレーが食べたいと。
    夏の間は汗をかくため避けてきたが、そろそろあの辛さが懐かしくなってきた。
    ただし、おそらく作るのは自分になるであろうが。
    「カレーを食べたいです。有馬さん」
    そう答えると、有馬も何やら思案しているようだった。
    「カレーか……」
    すると、次の瞬間、意外ともいうべき答えが返ってきた。
    「カレーなら作ったことがある。一緒に作ろう」
    「ええ!?」
    「なんだ、その声は」
    梓の態度が不満だったらしい。
    有馬は不服そうに梓を見つめてくる。睨みつけてくるといった方が正しいのかもしれない。
    「有馬さん、カレー、作ったことがあるのですか?」
    「悪いか」
    ちょっと不貞腐れたかのようにそう答える。
    「いえ、意外過ぎて」
    「軍人たるもの、いつ戦場に出るかわからない。そのため、料理のたしなみくらいはある」
    そう言われて梓は納得する。
    梓のいた世 2212

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「私は幸せだから」

    こちらの世界にやってきた有馬と銀座を歩く梓。
    そこでふとしたひと言とは……
    「寒くなってきましたね」
    そう言いながら梓は隣を歩く有馬に話しかける。
    銀座の街は銀杏の葉が金色に輝き、もうじき寒い冬がやってくることを伝えてくる。
    ふたりでこうして一緒に歩いていると思い出す。
    風景は違えど、帝都の銀座でこうして歩き、街を守っていた日々を。
    しかし、あのときは自分たちだけではなく、千代や秋兵たちもいた。

    「みんな、元気かな……」

    思わずそんな言葉が口から出てしまう。
    しまったと思ったときには遅かった。
    隣にいる有馬が何か言いたげに梓のことを見つめてきた。

    「ごめんなさい、そういうつもりでは……」

    他意はない。
    ただ、隣にいる人にこの言葉を向けると必要以上に責任を感じることは、少し考えればわかりそうなものなのに。

    「すまない」

    その言葉が指しているのが何であるか。はっきりとは伝えていないが、何であるか梓は理解した。

    自分を守るために神子の力を使った。
    そのために仲間たちとは別れの挨拶すらできなかった。
    仕方がないとわかっているが、名残惜しい気持ちはどこかにある。

    「一さんが謝る必要はないです」

    こちらの世界とあちらの世界。どっちみち、どちらかを選ばない 820

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。
    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「私は幸せだから」

    こちらの世界にやってきた有馬と銀座を歩く梓。
    そこでふとしたひと言とは……
    「寒くなってきましたね」
    そう言いながら梓は隣を歩く有馬に話しかける。
    銀座の街は銀杏の葉が金色に輝き、もうじき寒い冬がやってくることを伝えてくる。
    ふたりでこうして一緒に歩いていると思い出す。
    風景は違えど、帝都の銀座でこうして歩き、街を守っていた日々を。
    しかし、あのときは自分たちだけではなく、千代や秋兵たちもいた。

    「みんな、元気かな……」

    思わずそんな言葉が口から出てしまう。
    しまったと思ったときには遅かった。
    隣にいる有馬が何か言いたげに梓のことを見つめてきた。

    「ごめんなさい、そういうつもりでは……」

    他意はない。
    ただ、隣にいる人にこの言葉を向けると必要以上に責任を感じることは、少し考えればわかりそうなものなのに。

    「すまない」

    その言葉が指しているのが何であるか。はっきりとは伝えていないが、何であるか梓は理解した。

    自分を守るために神子の力を使った。
    そのために仲間たちとは別れの挨拶すらできなかった。
    仕方がないとわかっているが、名残惜しい気持ちはどこかにある。

    「一さんが謝る必要はないです」

    こちらの世界とあちらの世界。どっちみち、どちらかを選ばない 820

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    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947