「ふう……」
いくつもの星が誕生し、守護聖も全員が揃い、聖獣の宇宙の成長は順調に進んでいる。
だけど、時々空虚な気持ちに襲われる。発展に伴い私自身も身を、そして心を削っているような気持ちになるから。それなのに私はこの宇宙が癒されることはない。
夜の帳が降り静寂が包み込む聖地。
自分の部屋から夜空をそっと見上げる。そこにあるのは満天の星。私が誕生をずっと見守り、ときには終焉も見つめる輝きたち。
……だけど、そこには私の故郷はない。私の生まれ育った星があるのは遙か彼方の別の宇宙。
「皮肉なもんだな」
誰もいないと思っていた部屋に響くのは低く深い声。
「アリオス!」
「自分が育てた宇宙にも関わらず癒しにならない、とはね」
考えていたことをズバリと言い当てられて私は黙り込む。
「役目だから仕方がないわよ。それに新しい宇宙で女王になると決めたのは私だから……」
「17歳で普通に楽しく人生を満喫しているヤツに押しつける役目でもないと思うけどな」
考えないように、見ないようにしていた事実をズバッと指摘される。
騙された、というのはさすがに言いすぎだろう。
だけど、普通に女子高生として過ごしてきた私に女王試験の話が舞い込んできた。そして「面白そう」という好奇心もあり快諾してしまった。その役割も責任の重さも、そして家族や友人と永遠の別れになることも考えもせずに。
そう。もう少し年齢を重ねていれば熟考の末に断ったのかもしれないのに。
「わりー、言い過ぎた」
アリオスは私との距離を詰める。そして、続ける。
「お前が女王だから俺はお前と出会えたんだよな。それが例えどんな形であっても」
そう。別の宇宙で生まれたアリオスが私と出会えたのは、私がこの宇宙の女王だったから。
そして、彼が生まれ変わりの地としてこの聖獣の宇宙を選んでくれたから再び会うことができた。それは紛れもない事実。
「つらいときは無理するな」
先ほどまでの冗談めかした言い方ではなく、かすれ声でそう話す。そして、気がつけば私はその筋肉質な胸に抱き締められていた。
「お前の存在はこの宇宙では確実に癒しになっている。そして、聖地にいるヤツらの間でもな」
アリオスの大きな手が私の髪の毛を優しくすいてくる。その感触が気持ちよく私は彼に体重を預ける。
「あなたもそのうちのひとりなの?」
だけど、雰囲気に呑まれるのもシャクだからついそんな憎まれ口を叩いてしまう。
答えは聞こえてこない。代わりにもらったのは彼からの優しいキス。触れるか触れないかの優しいもの。だけど、力を分け与えてくれるような感覚になる。
抱き締められているうちに、口づけられているうちに過ぎ去った昔のことを思い出す。無我夢中で女王試験に取り組んでいた日々のことを。そして、普通の人として生きる道も選ぶことは可能だったのに、ここで女王として生きていくと決めた瞬間のことも。
失ったものに想いを馳せることもあるけど、悪いことばかりでもない。あなたに、アリオスに出会うことができたから。
「何かあれば呼んでくれ。いつでも駆けつける」
そう言い残し部屋から去っていく。
抱きしめられたときの温もり、それが失われないようにしながらもう一度部屋から夜空を見上げる。
星たちが直接何かを語りかけることはない。
ただ、その瞬きが私を慰め、そして励ましてくれる。そんな気がした。