終わるむそばんくんと始まるベレス 1
『北壁』の様子が思わしくない。聞いた足は自然と北へと向いた。
数十年ぶりの北部であった。長く南方に親しんだ肉体はまだ麦も刈られぬ晩秋の風にふるえ上がった。旅の相棒を務める軍馬でさえも旧ガラテア領に入る頃には音を上げて、領境の宿に銀を置いて預けざるを得ないほどだった。
ゴーティエ領に入ったところで、気温はさほど変わらなかった。しかしじきに重い雲が行く手を阻み始めた。夕暮れに藍色を見せる山脈を覆う氷の扉。荷を抱えて踏み出すたびに肌を撫でていく粉の雪。その優しげな儚さは、その実、知らぬうちに体温を奪っていく凍み雪であり、半日もその中を進んでいれば、身体は芯まで冷え切っていた。
ああ、寒いな。頬の産毛は吐く息を瞬く間に結晶化させるが、当の睫毛には頑なに生を主張する体温で溶けた雪が宿った。しかしじきにそれも凍った。どこまでも白い世界に、高く天馬が飛んでいく。
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