世界は 番目に色づく。 堕ちたのは驚く程に一瞬の出来事だった。
ピロピロピロピロピロドッカーンと音を鳴らして世界がぐるぐると回り視界はぐるぐる。百八十度縦に揺らしてそしてピタリ。
見えたものは色とりどりに輝く世界と黒子テツヤただ一人。あぁ、これが世にいう恋というものなのかと納得した時にはもうこれは死ぬまで諦められないヤツだ、とある意味諦めた。
息が酷くしやすい。恋は、なんて人を強くするのだろう。それは鎧よりも、鉄砲よりも、伝説の剣なんかよりもずっと強い。ただ、暖かくしてくれて、包んでくれて、そうして少し優しさすらくれるのだから。
鳴り響くクラッカーの音。会場を割るかのような歓声。仲間たちの泣き声と、相手チームの笑い声。目頭は驚くほど熱かった。ポロリと頬に熱い何かが伝わる。敗北だ。赤司征十郎は本日、恋をすると同時に生涯初めての敗北を経験した。その敗北を経験させたのは目の前で手を握り返す好きな人である。
彼は泣きながら笑っていた。赤司とて涙も笑みもうかべていたけれど、彼ほど美しく強く泣く人は多分いないと思う。緩やかに結ばれた唇が、酷くキレイに見えた。恋とは本当に世界を変えるようだ。
「また、やりましょう。何度でも──」
彼は永遠をすぐに口にして、赤司は微笑みながらこくりと頷いた。彼の真っ直ぐさと純粋さは酷く美しくて、綺麗だったから。恋とはやはり世界を変えてくれる。この日、この瞬間、赤司征十郎は世界で一番目に、黒子テツヤに恋をした。
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「多分、世界で三番目にオレはお前を見つけたんだ」
「三番目、ですか」
「うん、一番も二番でもなかった」
「は、ぁ」
マジバのバニラシェイクを口にしながら黒子は不思議そうにこちらを見る。相も変わらず彼はマジバをチラつかせればすぐに着いてくる。危なっかしいったらありゃしない。
大学生になって、都内に引っ越して、それとなく連絡を取りあって、友達と言える関係を続けて。得られたものはおそらく今一番頻繁に会う、他校の幼なじみという関係性だろうか。
緩やかに紡がれるこの時間は好きだった。けれども、この恋人にはなれない不毛な関係性を引きづって何も思わないほど欲のない人間ではなかった。
「三番目もなにも、ボクはたくさんの人と今まで出会った来ましたけど」
「そういう意味じゃないよ。バスケをするお前ってこと」
「確かに、そういう意味では三番目、なんですかねぇ」
相も変わらず彼はぼんやりとしている。少しだけ微笑みながらバニラシェイクを啜る彼は平和ボケの日本人そのものだった。それこそ、この国で戦争が起こりでもしたら彼は真っ先に敵国の兵士を何も持たずに止めに行きそうなのだけれども。
空は青かった。この天気こそ平和ボケの象徴である。そういえば彼の髪色とこの空はよく似ているような。
「まぁ、でも。赤司くんは一番目ですけどね」
「なにがだい?」
「何ってそりゃぁ、」
ボクの好きになった人、ですかねぇ。
沈黙。
そして五秒後に酸素を吸う。その三秒後に二酸化炭素を吐いて。
さて、思考開始まで。さん、にぃ、いち。あ、
「それは二位は更新してるのかい?」
「さぁ、それを聞く前に、キミは言うことあるでしょう?」
世界が色づいた瞬間。あぁ、これはもう彼と離れられない運命だと悟った。彼はどこまでもナンバーワンだったし、オンリーワンだったから。
世界で三番目に彼を見つけた。世界で一番目に彼に恋をした。世界で。世界で一番、彼を愛していた。世界で一番彼を輝かせた世界に赤司征十郎は住んでいた。
「世界で一番に、オレを好きになって欲しい」
少しだけ笑った彼は、ゼロ番ですよ、と少しだけ微笑んでまたバニラシェイクを啜った。