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    ailout2

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    グリダニア入りしたWT!

    ざわめき生命力が形を成したような青々とした木々。生い茂る葉の隙間から落ちる陽がエーテライトを囲む池の水面をきらきらと照らしている。敷かれた石畳の半分は芝で隠れ、至る所で野花が咲き、背高く伸びる大樹で空は半分しか見えない。流石は森の都市――

    「ここがグリダニアかぁ!」

    初めて訪れる都市にテッドは思わず感嘆の声を上げ、つい大きく開いた口をハッと覆う。しまった、これじゃ余所者丸出しだ。

    グリダニアは精霊が森の調和を守り、精霊の許しを得て作られた都市だ。角尊という特別な人達が神託を受け国是すら精霊の導きで行うらしい。
    それ故に森や精霊との繋がりが薄い余所者に対して排他的な所があると移動中にウェドが教えてくれた。
    勿論、精霊を怒らせなければそんな扱いをされる事も無く慌てる必要もないのだがウェドとは違い精霊というものを全く感じた事がなかったテッドはどう捉えていいのか未だ分からず妙に意識してしまっていた。

    「リムサとはまた違う綺麗な街だろ?」
    「う、うん……すごい、草の匂いだ。」

    ラノシアだって勿論緑豊かな場所だが、潮風で海の香りが強く草木の香りを感じることはあまりない。踏みしめる靴底の感触も全く違う。それにリムサやウルダハとは違い、人工的に作られた塀というものが見あたらない。道沿いにあるのは自然から削り出した岩壁や大樹の幹だ。それらが都市を囲むように聳え立っている。

    「今すぐにでも見て回りたいって顔をしているが、疲れただろ?カフェがあるんだ。一先ずお茶にしないか。」
    「カフェ!?行きたい!」
    「おいで、こっちだ。」

    来た道を少しだけ戻り緩やかな坂を下ると鮮やかな黄色の国旗がはためく大きな木造建物が街の入口に構えていた。木造の建物というのも他二国ではあまり見かけない。あったとしても小さな小屋程度だ。
    建物に一歩足を踏み入れれば美しい細工の眩いステンドグラスが贅沢にあしらわれており、歴史ある議事堂のような雰囲気だ。

    「ここ?」
    「ああ。」
    「すごい……大きなカフェなんだね。」
    「ここがギルドなのさ。宿屋だってある。先にそっちにしようか。」

    ギルドに併設されている店と言えばやはり酒場が定番である。昼間っから呑んだくれが溜まり、良くも悪くも活気溢れる場所の印象だが、ここグリダニアのギルドは鳥のさえずりが聞こえるほどに穏やかな場所だった。
    しかしギルドボードを覗き込む人もそれなりにおり、剣や杖を背負った冒険者たちの姿が実際にここがギルドなのだと語っている。

    「本当にギルドなんだ……」
    「驚くだろ。」

    テッドが思っている事を察しウェドがにやっと笑う。
    街に来てからまだ数分しか経っていないのにグリダニアという国に驚かされてばかりだ。カフェ内で人と目が合うとみんなニコリと微笑んでくれる。人までリムサやウルダハとは違う。なんていうか、品がいい。
    リムサの酒場で知らない人と目が合おう物なら喧嘩になってもおかしくない。ウルダハだって、カモを探している商人と目が合うだけだろう。

    排他的なんて誰かの冗談だよね?ウェドにからかわれた?そう思うのが自然なくらい、人も街並みも穏やかで美しかった。

    「どうも。」
    「いらっしゃいませ。ご要件は?」
    「しばらく宿を頼みたい。二人だがベッドはひとつで構わない。」
    「……空いておりません。」
    「まさか。街一番の宿屋なのに?」
    「申し訳ございません。」
    「えっ……こんなに大きいのに、一室も空いてないんだね。」
    「……ありがとう、またの機会にさせてもらうよ。行こうテッド。」

    当てが外れ消沈しとりあえずカフェの空いている席に荷物を下ろす。

    「参ったな。」
    「満室じゃ仕方ないよ。」
    「……そうじゃないんだ、空いてるんだよ。」
    「うん?どういうこと?」

    ちらりと宿屋のカウンターを見やるウェドの視線を追いかけると何事もなく受付を通る冒険者の姿があった。

    「俺たちを泊める場所はないってことさ。」
    「……それって……」

    ウェドの言っていた言葉と店内の人達の笑顔が交互に頭を過ぎる。

    「まさか、歓迎されてないなんてことある?」
    「言っただろ?余所者は難しいのさ。俺が以前来た時は泊めてくれたんだけどね。」
    「も、もしかして俺が……精霊に嫌われた……?」
    「はは、そうじゃないさ、大丈夫。彼の虫の居所が悪かったんだろ。」

    「いらっしゃいませ。ご注文は?」

    一人のウエイターがテーブルにやってきた。どうやら食事をするのは許されたようだ。
    テッドは慌ててメニューを開く。

    「あ、えと……何か温かいもの……」
    「ラプトルシチューは如何です?このカフェの名物なんです。」
    「あ、じゃあソレで!お願いします。」

    メニューから目を離しウエイターへ精一杯の笑顔を向ける。嫌われないように笑顔で、笑顔で……そう努めたはずだったが顔を合わせたウエイターの表情は予想外なものだった。
    すらりと背の高いエレゼン族のウエイターは目を見開き驚愕し固まっている。

    (なんで!?や、やっぱり俺って精霊に嫌われてるのかも……!?)

    「……テ、テテ、テッド……!?」
    「え!?」

    突然名前を呼ばれ間抜けな声を上げる。
    グリダニアに知り合いなんて思い当たるのは赤毛の青年くらいで、他には居無いはずだ。それとも精霊というのは人の名前も言いふらして回っているのだろうか。
    視界の端でウェドが少し警戒するのがわかった。

    「ああ!!君にまた会えるなんて!!森の精霊よ!!感謝します!!」
    「な、なに!?!?」

    ウエイターは両手を大きく広げたと思ったら体の前で握りこぶしを作り二度ほど力を込めた。テッドはあまりのオーバーリアクションに反射的にガタガタと音を立てて椅子ごと体を引く。ウェドが立ち上がり遮るように手を出した。

    「君は一体な……」
    「会いたかったよテッド!僕の愛した運命の人!」

    「「はぁ!?」」

    無遠慮にウェドの問いを遮り発せられた告白に、二人の仰天がカフェに響いた。

    「ま、待って!なにそれ!知らない!っていうか誰!?」
    「テッド、僕だよ!君と熱い夜を過ごした……ああ、なんて奇跡だ!」
    「はぁあ!?な、何言って……」

    「熱い夜」の一言にウェドの眉がぴくりと動く。テッドの手をしかりと握るウエイターを引き剥がし二人の間に割り入った。

    「すまないがよしてくれないかな?テッドに心当たりは無いみたいなんでね。」

    今になってウェドの事を認識したかのようにウエイターは目を丸くする。

    「あ、すみません、あまりの事に取り乱してしまったね……あの、テッド、話を……」
    「ま、待って!よくわかんないけど、ここじゃちょっと……!」

    テッドの言葉にハッとし辺りを見渡すとカフェ内の注目の的になっていた。ひそひそと話し込むご婦人達の視線が痛い。

    「そうだね、ごめんよ。旧市街地にアプカル滝という場所がある。そこへ先に行っていてくれないだろうか。どうか……必ず来て欲しい。」

    ウエイターは切なさの滲む瞳でテッドを見つめ、ウェドのガードもものともせず再度テッドを手を取ると指先に軽く口付け店のバックヤードへと走り去って行った。嵐のような出来事に思考が追い付かない。

    「ちょ……っ」
    「テッド大丈夫か?」
    「う、うん……多分……何だったんだ……」
    「君が素敵だから新手のナンパ……かもね。」

    ウェドは冗談めかしてウインクをする。不容易に見知らぬ男に触れさせてしまった自分に苛立ちはするものの、実際ただの一目惚れだろう。テッドのような美しい砂漠の宝石はグリダニアの人間には刺激が強いかもしれない。

    「さて困ったな、どうしたい?」
    「うぅ、なんか変な人だったけどここで働いてるみたいだし、誤解が解ければ力になってくれたり……しないかな?」
    「今夜は野宿かそれともベッドで寝られるか……行こうか。」

    ウェドが荷物を担ぎ上げながらいたずらっぽく笑った。

    アプカル滝を目指し市街地を歩く。至る所に水路が流れ水車が回っている。水と言えば海都リムサだが不思議とグリダニアの方が水を身近に感じる。
    傍らに露店も出ていて花が売られている景色が新鮮だ。更に石壁をくり抜いただけのトンネル通路が多く、土地を更地にして作った都市ではなく、自然と寄り添い最大限森を残さんとする想いが伝わってくる。
    精霊に許しを得て造られたと言うのはこういうことなのだろう。

    旧市街地に入ると右手に市場が見えた。正直気になる……が、目的は左方面だ。道も広く目印になるような建物も沢山あるが、なんせ木々で先が見えない。角を曲がると景色が一気に変わる為迷ってしまいそうだ。
    少し狭いトンネル通路を抜けると目的地のアプカル滝があった。自然の中にある街だ、物凄い大きな滝があってもおかしくないと想像していたが実際のアプカル滝はとても小さくただの穏やかな池と言った感じだ。しかし新市街よりも人気は少なく確かに話をするには良い場所に思えた。
    テッドはベンチに荷物をおろしながら辺りを見渡す。

    「まだ来てないみたい。ここも綺麗な場所だねウェド!」

    テッドは徐に池に近付き水に触れる。
    クルザスと隣接した土地だからだろうか。太陽の光を浴びているリムサの海よりもうんと冷たかった。

    水面が光を反射しテッドをキラキラと照らす。水と戯れる姿にほう……と見惚れるのは二人の男。

    「うわ!い、居るなら声かけなよ!」

    岩壁の影になっている所に立ち呆けているウエイターの彼を見つけテッドはギョッとした。

    「……まだ夢のようだ……来てくれたんだね、嬉しいよ!」

    スタスタと一直線にテッドへ向かう男の前にウェドが立ち塞がる。

    「話ってのは?」
    「えと、あんた本当に俺の事知ってるの……?」
    「ああ、その、テッド……その前にひとついいかな、そちらの男性はもしかして――

    アルダシアという人かい?」
    「「はぁ!?」」

    本日二度目二人揃っての大声。

    「誰が誰だって?」

    ウェドの言葉がヒリつく。それもそのはず、その名は唯一と言えるウェドの逆鱗だ。憎き男と間違われるなど、冗談じゃない。

    「アイツの名前を知っているとなると話す事は無いな。」
    「ま、待ってくれ!人違いなのは謝る、すまなかった。ただ、テッドの傍にはアルダシアという食えない男が居ると聞いていたからてっきり……もしそうなら今度こそ僕は君を……」

    テッドが息を飲む。
    アルダシアがそばに居た頃の俺を知っている。それはつまり、忘れられたオアシスで男娼としてアルダシアに使われていた頃を意味する。蓋をして思い出さないようにしていた記憶が溢れ出てくる。指先が冷たくなる感覚。呼吸が浅くなる。

    テッドの変化をすぐさま察しウェドがそっと肩を抱く。触れた所からじんわりと暖かさ広がっていく。

    「ありがと、ウェド……」
    「テッド、無理しなくていい。」
    「大丈夫、俺、聞きたい、この人の話……でも……」

    ウェドに聞かれたくない。そう思ってしまう。

    「……ううん、なんでもない、ウェドも、そばに居て。」

    テッドは一瞬の迷いを抑え込み真っ直ぐエレゼン族の青年を見つめた。

    「テッド、君は僕のこと覚えていないんだね。」
    「う、ごめん……」
    「いや、いいんだ!あれからそうか……もう五年も経つんだね。」
    「五年前……」
    「あれは忘れもしない、第七霊災が激化し始めた時……僕は君に出会ったんだ。当時僕は不滅隊に所属していて――」
    「あ……!」

    テッドの記憶がフラッシュバックする。惨めで仕方ない記憶だが、死地に赴くエレゼン族の若者が自分を買いに来たことがある。ウルダハでエレゼン族は珍しく、客の中でも記憶に残っている方だ。確かにあの時は例外的にアルダシアはいなかった。
    そしてその彼はあろう事か、自分と逃げようと、一緒に生きてくれと言ってきたのだった。

    「思い出してくれた?」

    ウエイターの彼は眩しそうに顔を綻ばせる。

    「生きてたんだ……」
    「お陰様さ。あの日君と一夜を過ごして、君と逃げたいと思った。でもそれは間違ってた。僕は生きてもう一度君の手を握って、逃げるんじゃなく次こそ一緒に歩みたいと思ったんだ。それを希望に今日まで生きてきた……そして君を見つけた!」

    真っ直ぐな想いに胸が締め付けられる。あんな汚泥のようだった自分の何がそんなに良かったのか、誰からも見向きされぬ使い捨てられる存在だった自分を想ってくれる人がいたなんて。

    だけど――

    「ごめん、ごめんなさい……俺、あんたの気持ちには応えられない。」
    「どうして……」
    「紹介が遅れてごめん、この人は俺の大切な人、俺がこれからずっと、何があっても一緒に生きていく人、ウェドだよ。」

    テッドはウェドの手をぎゅっと握る。

    「グリダニアに来たのも、ノフィカの祝福を貰いに来たんだ。」
    「十二神巡礼……」
    「うん。ウェドと二人で旅してる。」
    「……そう、か……君は僕より先に歩き出していたんだね。」
    「……あのさ、名前……聞かせてよ。実は俺あんたの名前聞いてないんだ。」
    「はは、そうか、あの日僕は名前すら伝えてなかったんだね……僕はレモー・アラメイン。宜しくねテッド。」

    記憶の中の彼は長い髪を後ろで編み鈍い金色の瞳をしていたが今の彼は顔に大きな傷があり、片目は白く濁っている。その目は恐らく視力を失っているか、ほとんど見えていないのだろう。髪は肩上で無造作に切られ、その片目を隠すように前髪を下ろしていた。
    カルテノーの戦いで負傷してもなおそれでも諦めずテッドと再会する為に生きたのだ。

    名前を聞いた途端、涙が溢れそうになる。
    名前すら知らない、蓋をされた記憶にいた彼。そんな彼は自分なんかを生きる希望にしてくれていた。

    「もし貴方がアルダシアって人なら今度こそテッドを助けなきゃって思っていたから、良かったよ。」
    「テッドはもう大丈夫だ。俺の事も助けてくれているさ。俺が彼のそばに居る。」

    テッドに寄り添い静かに話を聞いていたウェドが口を開く。ウェドの誓いにも似た真っ直ぐで力強い言葉にレモーは目を丸くし瞬きする。

    「いや、俺もテッドのそばに居るよ。」

    「「はぁ?」」

    本日三度目。

    「諦めるとは一言も言っていないだろう?」
    「ちょ、え、あんた話聞いてた!?」
    「僕はもうテッドでしか抜けない。五年間ずっとね。僕の全てなんだ。そう簡単に諦めるわけないだろう?」
    「はぁあ!?ほんとに何言ってっ!?」
    「……ほお……宣戦布告と受け取っても?」
    「構わないね。テッドは僕の事何も知らない、僕もテッドの事何も知らない。だからこそこれからだと思うんだ!」
    「なんでそうなるんだよぉ!?」

    先程の切なさはなんだったのか。
    胸の苦しみの代わりに今度は頭が痛い。二人の男の間にバチバチと散る火花の幻覚が見えテッドは天を仰いだ。
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