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    ailout2

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    アルダシアのお話

    流砂迷宮「も〜!やだぁブーツに砂が……あ、待って!……ねぇアルダシア。こんなところになんの用があるの?」

    薄い空色の長い髪をふわりと揺らしながらサリアがアルダシアへ駆け寄る。

    ここは中央ザナラーン、ブラックブッシュの北部にある洞窟のひとつ。中は上にも横にも穴が連なり至る所で流砂が渦巻いている。
    日差しとともに降り注いでくる砂が髪にまとわりつき、サリアは忙しなく手で髪を梳く。

    相変わらず騒がしい女だ。着いてこいと命じた覚えはないというのにこんな所まで着いてくる。それでいて砂がどう、蟻がどうなどとどうでもいい事で喚く。それなりに使える駒で無ければとうに斬り捨てている。

    イラついた様子でアルダシアはサリアを睨む。まさか己でもこの地へ足を踏み入れる事になるとは思わなかった。柄にもなく精神がザワつくのを感じ砂を強く踏み付けた。


    ――数日前、ウルダハの市場の隅で一人の男に声を掛けられた。ただの物売りかと思ったがその男は

    「まさかガラム……?」

    とアルダシアの姓を口にした。
    思わず足を止めたアルダシアの目を見たその男の顔色が変わる。後悔、喜び、懐かしさ、どれとも取れぬ表情で男は言葉を絞り出す。

    「……悪い、人違いみたいだ……。」
    「……そうか?間違いなく、俺はガラムだが。」
    「な、まさか、本当にガラムだっていうのか!?」
    「なんなんだお前は。」

    アルダシアは表面上、冒険者らしく誰に対しても人当たりよく接している。その為皆愛称、もしくは名で呼び、姓で呼ばれる事など無いに等しい。
    だと言うのにこの妙齢の男はガラム、と口にした。それに、一度見た顔を忘れるようなマヌケはしない。単に噂を聞いたのかもしれないが、どうにも気味が悪く無視することが出来ず足を止めてしまった。

    「そ、そうか、ガラム……もしかして……お前はあいつの……ああ、確かに、息子がいる、と言っていた……っぐあ!」

    アルダシアは反射的に男の胸ぐらを掴み市場の人波から死角になるよう柱の影で壁に男を叩き付ける。

    「その目……よく似ている……」
    「ふざけるな。」
    「私は……お前に殺されるために今日まで生きていたのかもな……はは……」
    「だからなんなんだお前は。」
    「……許して欲しい……私は……元、闇夜の灯火だ。」
    「なにを。その組織は壊滅した。」
    「ああ、私は生き残りだ……死んだフリをして私だけ生き延びたんだ……かけがえのない私の仲間たち……お前の母親をも見捨てて、な」

    アルダシアはもう一度男を叩き付ける。

    「……ッぐぅ!」
    「俺には関係の無い話だ。二度と口を開くな。」
    「ま、待ってくれ!ひとつだけ、ひとつだけ頼みがある!あそこには彼らが遺した物がある……!私にはそれを手にする資格がない……今まで衛ってきたが私もこの歳だ、誰かに託そうと、そう思っていたところにお前さんが現れた……頼む、カッターズクライに……」

    アルダシアは最後まで言葉を聞かず男の太股にナイフを突き立てた。
    悲鳴を聞いた群衆が集まってきたがそこにはもうアルダシアの姿は無く血を流した男が呻き地面に転がっているだけだった。

    「ねぇアルダシア、本当にこんなところにお宝があるの?」
    「ああ、とある女商人が求めてるものがあるんだと。」
    「女!?あ、あたしが届ける!手に入れたらあたしが責任もって届けるから!」
    「好きにしろ。」

    生き残りだなんだと宣う男の話などどうでも良かったが、なんの巡り合わせかタージからも同様の話を受けた。恐らくあの男が言っていたように託す相手とやらを探しており、耳聰い商人たちの間で噂になっていたのだろう。

    その中でもかの有名な商会の女史が求めているとなれば見過ごせない。彼女の商売の勘は鋭い。
    霊災からの復興需要で金属の需要は右肩上がりだ。金と商売が権力となるウルダハではこの商機に乗じて宝石商としてタージの立場を強めるべきだった。

    男の言葉がノイズではあるが、やる事をやるだけだ。それに価値があり、力となるのであれば。

    「……行くぞ。」

    アルダシアは躊躇うことなく渦巻く流砂へと飛び込んだ。

    「ウソォ!これ入るのマジ!?あーん!最悪!」

    意を決して飛び込んだ流砂を抜けた先は洞窟の入口部からはがらりと風景を変え、伽藍堂になった空間に湧水が溜まり青々と植物が群生していた。下層へ潜ったかに思えたがどうやら横へと砂が流れているようで深度は変わっていないのか未だ空が見えた。

    「きれーい!オアシスってやつ?ねぇねぇアルダシア!休憩していきましょうよ!あたし脱いじゃおうかな!」
    「濡れて砂がついてもいいならお好きに。」
    「うっ……それもそうかも……」

    誘惑するように水辺で腰をくねらせていたサリアを置いてアルダシアは奥へと進む。

    暫く同じ層を流れていたが、一際大きな流砂へ身を投げると落ちていく感覚があり、抜けた先は同じ中央ザナラーンとは思えぬ景色が広がっていた。

    「ここか。」
    「わ!なにここ、こわーい。」

    辺りに既に砂はなく、ごつごつと剥き出しの岩肌、陽の光もなく薄暗い。足元は滲み出した青燐水が水溜まりを作り、高密度となった青燐水が気化反応を起こし真っ青な火柱を上げている。
    青燐水といえば北ザナラーンで採掘されているが、こんな中央ザナラーンの地下にも眠っているなんてな。第二の青燐採掘場として開拓すれば……いや、通ってきたように中央ザナラーンは砂漠の地形だ。手間の方がかかる。
    もし開拓するという酔狂な馬鹿が現れればその時唾を付ければいい。

    住み着いているモンスターを軽く払いながら二人は更に奥へと進む。
    洞窟の空気は徐々に熱を帯び、赤く光る偏属性クリスタルが辺りを照らす。
    どうやら最深部についたらしい。円形に開かれた空間は大型の動物と、そして人間の骨が散らばり剣や槍が地面に突き刺さっており正に死地といった様子だ。
    かつて英雄扱いされた傭兵団「闇夜の灯火」。その精鋭たちがここで全滅したと言われている。

    ――そう、アルダシアの母、その人も闇夜の灯火としてここで命を落とした。

    アルダシアからすれば血の繋がりなど無意味だった。結局その人間を形成するのは生き方だ。ただ産み落とされただけで血だ親だ家族だなどと下らない縁に価値を見い出せと言う方が狂っている。
    生き残りと言ったあの男にそのくだらないモノを押し付けられた事が脳裏にチラつき心底気分が悪い。目的を済ませさっさとここを出よう。

    アルダシアが一歩踏み出し、地面に散らばる朽ちた骨がパキと音を立てた瞬間、暗がりに六つの光が鋭く光った。間髪入れずに耳を劈く咆哮が響きビリビリと肌を叩く。

    「グオォォオオオオ!」
    「キャッ……!なに、あれ……!」

    影の中からのしり、のしりと巨大な獣が現れる。一見大きな獅子のようだが後頭部からは山羊と竜の首が生え六つ眼が二人を捉えていた。

    「……キマイラ。」
    「キマイラ!?そんなの伝説の魔獣じゃない!アルダシア、帰ろう!」
    「ハッ!お宝を前にしてか?」
    「お宝って……まさか、コイツ!?」
    「いや、何も倒す必要は無い。」
    「どういうこと?」
    「足元を見ろ。鎧が転がっているだろ?アレさ。古の英雄、闇夜の灯火が使用していたダセェ鎧。」
    「ダセェのにお宝なの?」
    「リバイバルってやつらしい。」
    「ふぅん。あたしは趣味じゃないかも。」
    「だな。足止めする。拾ってこい。さっさと帰るぞ。」
    「はぁい!」

    アルダシアがサリアに目配せをすると一斉に走り出す。

    「俺の武器を使うまでもないな。」

    アルダシアは地面に突き刺さる槍を抜き山羊の首へと投擲する。抜いた時の反動をそのままに振りかざしたそれは重量を感じさせない速度で飛び見事に命中した。

    「ギュアア!」

    もろくなった槍は柄はすぐに折れたものの、刃はしっかりと食い込み傷を負わせる事が出来た。

    「的がデカくて助かるね!」

    更に地面に落ちている剣を拾い獅子の顔面へと斬り込む。甲高い音が鳴り響き、獅子の牙で剣が砕け散る。

    「チッ、英雄様にしては安物じゃねぇか。」

    飛び退いた足元に転がる頭蓋骨をキマイラ目掛けて蹴りあげる。反射的に前脚を振り上げ頭蓋骨を叩き落とすキマイラの大振りな動作の隙を突き、もう一度拾い上げた槍で脇腹に一撃。
    悲痛な叫びと土煙を上げながらキマイラは地面へと倒れ込む。

    「キャー!アルダシアかっこいい!!」
    「サリア、終わったのか?」
    「うん!回収したよ!重いから手伝って!」

    アルダシアがサリアの元へ向かおうと爪先を向けたその時、目の前の朽ちた剣に青白い閃光が瞬くのを見た。

    「サリア!来い!」

    アルダシアの声が耳に届くと同時にサリアは地面を蹴る。先程までの緩い態度からは想像付かない反応速度でアルダシアの胸へと飛び込んだ。

    その瞬間、辺りを劈く雷鳴と稲妻が全てを吹き飛ばす。キマイラの周りを除いて。
    アルダシアの経験上、属性の偏ったドラゴンならまだしも野生の魔獣が雷を発する場合、自身の肉体を巻き込まないために一定周囲への攻撃になる事が多い。例に漏れずキマイラもそうだった訳だ。

    「サリア、鎧は。」
    「あっ!吹き飛んじゃった。でも無事みたい。あそこ!」
    「次の一撃が来る前に拾って帰るぞ。」

    二人は駆け出し壁際へ飛ばされていた鎧を担いで出口へ向かった。キマイラの怒りの咆哮が背後の空気を揺らす。
    倒しはしなかったが、その気になれば一人で充分倒せる魔獣だった。

    英雄傭兵団を全滅させた魔獣キマイラ。こんなものか。

    アルダシアは込み上げるくだらなさに口元を歪める。

    「アルダシア、楽しそう」
    「まぁな。暇潰しにはなったな。」
    「あは!あたしもデート楽しかったよ!」

    英雄扱いされた傭兵団の母。
    アラミゴの暴君テオドリックの傍に使えた父。

    どちらも大したことは無かった。この体に流れるのはその弱くくだらない血かもしれないが、やはりそんな物は関係なかった。
    己を己たらしめるのは生きてきた経験のみ。
    そんな当たり前を再確認した事が最高にくだらなく愉快だった。

    この面白さを、家族だなんだと大切にしている奴等に教えてやろう。
    きっと笑える。

    カッターズクライの出入口の、誰かが備えたであろう白く可憐なニメーヤリリーを踏み潰しアルダシアはウルダハへと向かった。
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