寝正月新年だからって、何が変わったという訳ではなく。寧ろ変わってくれてれば良かった。変わるのであれば、少しは善い方向へ向かってくれる事を祈るばかり。
この“国”の化身の様なモノである私が、こんな調子ではイケナイが。
バタバタと行事やらなんやらで時が過ぎ、時間に余裕が出来たのは1月も下旬近く。
疲れが溜まっていたのか、コタツでうっかり寝込んでしまい髪を触る感触で目が覚めた。
銀髪赤眼の男がかなり間近で睨みつけてる。
「……ぅいょぉー」
「おぅ。おはよーさん」
「いつ……来はんれふ?」
動く気もなく目線だけ、ぼんやりプロイセンに向ける。
ウチに来るとは聞いてない。しかし来たい時に来るのが常である。
「だいぶ前だ。ポチの散歩は行っといたし、餌も出してあるゼ。タマの分も」
あぁ、ありがとうございます。とブツブツ呟き目を閉じた。さっきから頭を撫でるプロイセンの手が気持ち良過ぎる。
「んだよ、また寝んのか?」
しょーがねぇな。いつになく優し気な声でヘラヘラ笑った。
きっと夢なんでしょう。と思えば素直に欲に従える。
目をしぱしぱさせもぞもぞと隣に移動し、狭いスペースに無理やり体を滑り込ませた。
「んぉ?何だぁ?イキナリ」
スペースを空けるプロイセンに抱きつき、調度体の収まりのいいポイントを探し出す。
「……や・やけに積極的じゃねぇか」
しっかり抱きしめ返す腕が心地好い。
「オヤスミなさい」
「……あぁん?」
何事か呟く声が聞こえるけど、それも子守唄のよう。前から感じていたが、奴にひっついていると気持ちが落ち着いて疲れが取れる。
これからは“安眠枕”と書いて“プロイセン”とでも読む事にしようか。
次第に静かな寝息が聞こえてくる。
「……どーっすんかねぇ?」
ふぅっと息をつくが別に困ってはいない。
イタズラしてやろうか。と、一瞬思ったがそーゆ・気分じゃねぇ。
そろそろシンドクなってる頃だろうと、毒吐きに付き合ってやるつもりで来た。気持ち良さ気に寝入っていたのを起す事はしたくなかった。
間の抜けた顔で熟睡しているのを、自分で入れた茶と出してきた饅頭をツマミに、観察し待機していたワケだがまた寝入られてしまった。睡眠はストレスを確実に減らす事が出来る。
まだ眠いつーなら、付き合ってやるまでだ。
ゆっくりと抱えるように、日本の体を移動させ座布団を折り、中で丸くなってる猫の位置確認をし横になる。
運んで布団に寝かせてもいいが、布団を引くのがメンドイしコタツから出たくない。
そして俺はコタツで寝るのが案外好きだ。
腕の中の日本が身じろぎしがみ付いてくる。足なんか絡ませて来て。
日本がジャージで良かった。
サラサラな黒髪を指で遊び、首筋に滑らせる。暖かい体温に動脈が波打つのを感じ、口元がニヤける。多分俺、今とんでもなく締まりの無い顔してるだろうな。
それも心地良く、無防備な日本を抱きしめ目を閉じる。
暖かくて大好きな匂いが心地良くて、もぞもぞとしがみ付いた。
が、妙にリアルな質感につい目を開ける。真っ暗な視界。静かな寝息がかなり間近に聞える。
何が何故どうしてこうなった?
広いがっしりした背中を、ペタペタと確かめるように叩く。
うん。間違いなく、プロイセンくん。
ほっと息をつき、隙間から辺りを窺う。自分の家……うっかり長々と寝入ってしまったらしい。
頭がだいぶ起きてきて……とりあえず起きねばなるまい。体を動かすと、尻の傍に柔らかい感触があり手を伸ばす。柔らかい毛並み。フワフワ……タマか。猫を踏まないように慎重に体を起こす。
「……っぅうっ」
室内の温度に体を震わせ時計を確かめる。あぁ、完全に夜。何もせず1日寝て過ごしてしまった。
呆然と座り込んだまま頭を振って、さっきまでの温もりが恋しくて手を伸ばす。
「うひゃぁあっ?!」
突然、手を握られ素っ頓狂な悲鳴を上げてしまい見ると、肩肘をつき寝転がるプロイセンが伸ばした手を握っていた。暗がりで光る赤い目&白髪と共に爺の心臓に悪い。
「もう起きるんか?」
まだバクバクと波打つ心臓を抑え「……ね・寝てたのでは?」なんとか口を開く。
「寝てたゼ」
少ししゃがれた低い声。体を起こしバキバキと音をたて伸ばすのを、ぼんやりと眺めた。
「……どっから湧いて出たんです?」
ぽろっと漏れた呟きは無言で睨まれる。
「はっ!忘れてましたっ、ポチくんとタマの餌っ!!」
急に大事な仕事を思い出し、立ち上がりかけた腰をプロイセンがロック引き戻した。
「はぃ!その件なら終了」
「ふぇ?」
「ポチの散歩も完了。お出迎え早々に催促してたからな。洗濯物も回収し片付けてある。お前ン家の奴から何件か電話が入ったが、具合が悪いっぽいからメールにしろと伝えた。結構、俺様は早く着いてお前は寝てた。質問は?」
これから私が聞くであろう事を一気に並べ、パチン!と指を鳴らし促す。
なんかの講義を受けてる気分。
「起してくれれば」言い訳のように呟くと「メンドイ」
「なんです、ソレ……何故、貴方まで一緒に寝ていたのです?」
「お前がひっついてきた」
「まさか!」
それは無いでしょう。と続けようとしたら
ぐぅぅぅ~っ
「あ……」
腹の音が盛大に鳴り顔を伏せる。恥ずかしい。
まさかポチくんとタマの餌の事を思い出したのは、自分の空腹の為……とは思いたくない。ついでに一度目が覚め、確かに自分がひっついた心当たりがなんとなく。重ねて恥ずかしい。
「まず俺等の“餌”だな。作ってあった肉ジャガでいいゼ?ツマんだけど旨かった」
「え、いえ。でも、それでは」
流石に作り置きはどうか。顔を上げると、予想外に優し気な眼差しに真顔があった。
「なんなら俺が作ってやろうか?ん?サボれる時にサボっといた方がいーぞぉ」
ドクン。高鳴る動悸に息切れ眩暈。顔を上げる事が出来ないのに、わざわざ覗き込もうとしてくる。何プレイだというのだ?キサマは落としゲーキャラか?
困った事だが、普段豪語する程に奴は自分の顔を理解していない。
「今日は……やけに優しいですねぇ?」
「いつも優しいだろが。ぉ?」
「ついでにもう少し……甘えさせて下さい」
とプロイセンの首に腕を回し自ら抱きついた。部屋が暗くて良かった。
バランスを取るように姿勢を替え、日本の細い腰を引き寄せる。
「おまー……こーゆ・のいちいち窺うな。照れんだろよ」
貴方は照れるポイントがいちいちズレてるんですよ。と、心の中でツッコんでおく。
背中を撫でる手が心地良くて首元に顔を埋め目を瞑る。
眠くなってきた。このまま寝てしまおうか。
ぐぅ……きゅるるるぅ~……
再度、空腹が主張してきた。肩を震わせて笑い耳元で囁く。
「やっぱ俺、作ろうか?お前抱えて」
「……断固拒否します」
ただ寝ているだけで何故腹は減るのでしょう。
あぁ……なんて格好悪い。