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    drasticparadigm

    @drasticparadigm

    様子(さまこ)と申します。
    作品は主にモブリン、ぐだ♂リン、ぐだ♂ポカを投稿中。
    どうぞよろしくお願いいたします!

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    drasticparadigm

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    満ボ収穫祭にて公開させていただいたお話です。
    モブの「僕」とたくさんのねこりんぼちゃんたちがわちゃわちゃするお話を書きたかったのですが、わちゃわちゃ感皆無の「僕」×1臨ちゃんになってしまいました……。
    また、1臨ちゃんも猫になったり人間の姿になったりと忙しないですが、それでもよろしければご覧ください!

    #モブリン
    moblin

    僕とふしぎな猫のはなし あるところに、一人の若者がおりました。
     若者は家族と共に幸せに過ごしておりましたが、両親も、兄弟も、皆若くしてこの世を去ってしまうと、彼は古めかしい家で一人きり、寂しく日々を送ることとなったのです。
     ところがある時、彼の前に一匹のお客様が現れます。
     これより語られるは、そんな至極奇妙で不可思議な、出逢いの物語。
     果たして若者が幸せを掴むことができたのか否か、どうか貴方の目で確かめてくださいますよう──。



     寂しくないと言えば、嘘になる。僕は家族と一緒に過ごしたこの家が大好きで、すっかり古くなってしまった今でもここを離れる気はないけれど、それでも寂しさを覚える日は多い。僕を一人残して旅立ってしまった家族たちの部屋は今も当時のままになっていて、僕もその頃の思い出を失うことのないよう、時折彼らの部屋を訪れては懐かしい気持ちに浸った後、必ずと言っていいほど僕の心は寂しさで塗り潰されるのだった。
    「どうして皆、僕を置いていってしまったんだろう」
     皆を責めるつもりはないのに、寂しくてどうしようもない夜には、ついこんな独り言を漏らしてしまう。部屋に流れ込む夜風は身体の芯まで凍えてしまいそうに思われるほど冷たくて、少しだけ開けておいた窓を閉めようと、僕が窓際の方へ近付いた時のことだ。
    「ンン〜」
     恐らくは猫のものだろうが、何処か風変わりな鳴き声が聞こえてきたではないか。それがどうしても気になって、窓の向こう側を覗き込むと、そこには猫にしては随分と大きく、白黒の長い毛足がふさふさと愛らしい姿があった。
    「もうこんな時間なのに、飼い主さんを心配させたらいけないよ」
     首輪などはしていないが、綺麗に整った毛並みを見るに、野良猫だとは決して思えない。今頃きっと飼い主はこの子を探しているのだろうが、今夜は特別寒さが厳しいらしく、このままでは弱ってしまうのではないかと考えた僕は、罪悪感を覚えつつも、じっと僕の方を見つめている猫に向かって両手を差し出す。
    「ほら、おいで」
    「ンン〜!」
    「うわっ⁉︎」
     猫の跳躍力というのは本当に優れたもので、その大きな体は一見重そうにも思われたが、見事に僕の両腕へと飛び込んできて、僕は上手いこと受け止めきれず尻餅を付いてしまった。
    「いてて……ごめん、大丈夫だった?」
     僕の腕の中でずっしりと存在感を放っているその一匹は、僕のことを心配しているというよりも、寧ろ何か面白いものを見るような目でこちらを見遣っていたが、不思議と腹立たしさよりもただただ愛らしさだけが湧き上がってきて、僕は一晩だけでもいいから、この子を自分の元に置いておきたい、そう強く願ってしまったのだった。

    「あれ……? 僕、何してたんだっけ」
     目が覚めると、外はもう明るくて、時計を見ると朝はとうに過ぎ、もはや正午に近いことがわかった。こんなに長い時間ぐっすりと眠ったのは、なんだか久しぶりの気がする。何せ昨夜ゆうべはふわふわの生き物を抱きしめて、たくさん撫でて、幸せな気持ちで眠りに就いたのだから。
    「そういえば、あの子は……」
     ベッドの中や周辺はもちろん、部屋をぐるりと見回してみても、あの特徴的な白黒猫の姿はない。僕が熟睡している合間に、自分の家へ帰ったのだろうか。それなら一安心、と言いたいところだけれど、やはり僕は寂しかった。突然現れた不思議なあの子と、本当ならこれからも一緒にいたかったからだ。
     叶わぬ願いが胸の内を過り、つい溜め息を吐く僕だったが。
    「……何か、聞こえる。あと、いい匂いも」
     それは、キッチンの方からだった。かつて僕の母がそうしてくれていたように、まるで誰かがそこで料理でもしているみたいだ。その気配に怖さを覚えることはなく、僕は一体何が起きているのか、純粋に好奇心だけでそちらの方を覗いてみた。
    「えっ」
     見上げるほど長身で、おまけに床に届きそうな長い白黒の髪をした誰かが、鼻唄混じりに料理をしているではないか。あれは一体誰だろう。僕が一人混乱していると、その人物がゆっくりと振り返り、そして口を開いた。
    「これはこれはご主人様! 昨晩はしっかりお休みになられましたかな?」
    「あ、あなたは……?」
    「ンンンン! 失礼。自己紹介がまだでしたな。拙僧、昨晩助けていただいた猫ですぞ」
     にっこりと笑ってそう言うは、確かにあの猫によく似ていた。にこにこと満面の笑みを浮かべながら、僕の方へずいと迫ってくる彼に圧倒されて一度は後退りしてしまったけれど、間近で見るその容貌はとても綺麗で、僕は思わず目を逸らしてしまう。
    「ンン、ご主人様。拙僧、道満と申しまする。こちらを少々お借りしまして……道に、満、と。このように書きますぞ」
     そんな僕にも構わずに、彼は手近にあった紙とペンを用いて自らの名を示してみせて、今すぐにでも僕にその名を呼んで欲しいと、そういう表情をしてこちらをじっと見つめてくるのだった。
    「道満、さん?」
    「道満、で構いませぬ。何せ貴方は拙僧のご主人様! どうか存分に可愛がっていただきたく……ンン〜」
     時折彼が発するその声は、昨日初めて出逢った時に耳にした鳴き声と同じで、やはり彼の正体は猫なのだと、僕は黙って納得する。
    「ああ、そういえばご主人様」
    「な、何……?」
    「朝餉、いえ。昼餉と申し上げる方がよろしいかと思われますが。お召し上がりになりますか?」
    「いいの? ありがとう!」
     どうやら彼は、僕のために料理をしていてくれたらしい。こんな風に誰かが作ってくれたご飯を食べるなんて、一体いつ以来だろう! うきうきしながら食卓に着けば、彼が美味しそうなメニューの数々を僕のところまで運んできてくれる。
    「お口に合うかわかりませぬが……ささ、どうぞ召し上がれ」
    「いただきます!」
     こうして僕と彼の、言ってみれば風変わりな同居生活が始まった。この時の僕は、将来自分の身に何が起こるのかとか、そもそも突然現れた彼のことを信頼していいのかどうかとか、そんなことはまるで思いもしなくて、何の疑いもなく、ただ幸せな気持ちで満たされていた。

    「ご主人様、朝ですぞ! 早くお目覚めにならないと遅刻してしまいまする〜‼︎」
    「……っ! お、おはよう、道満! 起こしてくれてありがとう、今準備するね……!」
     道満と過ごす毎日はとても楽しかった。
     家族を次々と喪ったショックから、何かと閉じこもりがちだった僕は、最近になってようやく仕事へも行くことができるようになったけれど、道満はそんな僕を日々懸命に支えてくれた。恩返しとでも言わんばかりに家事をこなし、僕の話を聞いてくれる彼は、まるで妻か何かのよう──なんて思ってしまうほどに。
    「今朝も美味しいご飯をありがとう。ごちそうさまでした!」
    「それはそれは! 拙僧も実に光栄ですぞ。さて、ご主人様にはお出かけの支度をしていただいて……」
    「あのね、一つだけ教えて欲しいんだけど」
    「はい?」
     僕が仕事のために着て行く服などをいそいそと準備していた道満がこちらを振り返る。
    「僕、何もしてないのにこんなにいろいろとしてもらって、本当にいいのかなって。道満は僕に助けてもらったって言ってたけど、寧ろ僕の方こそあなたに助けられているのに」
     これは、僕の正直な気持ちであり、ずっと抱いていた疑問だった。確かにあの日の夜はとても寒くて、偶然出逢った愛らしい猫が弱ってしまわないように、ただ家の中に招き入れただけだったのに、何故?
    「そろそろお出かけの時間も近付いておりますので、簡単にお答えいたしましょう。ご主人様もどうかご準備をなさりつつお聞きくださいますよう」
     道満の黒い瞳がこちらを真っ直ぐに見ていたから、思わず支度をする手を止めてしまいそうになったけれど、僕は言われた通りにしながら、彼の言葉に耳を傾けた。
    「ご主人様もご覧になった通り、拙僧は猫……とはいえ、普通の猫ではありませぬ。永き時を彷徨うあやかしの如き存在、と思っていただければよろしいかと」
    ──妖。古い物語か何かで見かけたことはあったものの、こうしてその響きを実際に耳にすると、なんだか奇妙な気持ちになるものだ。僕は心の何処かで戸惑いつつも、しっかりと頷いて話の続きを促す。
    「我ら人ならざるモノは、ご主人様のように食物を得て生き存えるわけには行きませぬ。簡単に申し上げるならば、そうですねぇ、魔力、とでも呼ぶべき力が必要になるのです。この地に辿り着いた拙僧は、ある一点に上質な魔力が充ち満ちていることを感じ取りました。それが此処──ご主人様が住まわれる、この屋敷にございます」
     そこまで話し終えてから、にっこりと笑みを浮かべると、道満は僕に言うのだった。
    「ささ、お出かけの時間になりましたぞ! 本当に遅刻なさっては、拙僧も困ってしまいまする」
    「う、うん、そうだね。お話してくれてありがとう」
    「いえいえ! ご主人様がこちらに置いてくださったお陰で、拙僧も日々精力的に活動することができているのですからねぇ」
     仕事へと出かけて行く僕を、笑顔で見送ってくれる道満に手を振り返してから、僕は少しだけしょんぼりする。それは何処までも僕一人の自惚れではあるのだけれど、彼は僕と一緒にいたいというのではなく、あくまでもこの地に満ちていた魔力が目当てだったのか、と。

     何事もなく仕事を終え、家へと帰り着く。本来であれば僕の他には誰もおらず、寂しいだけの古びた一軒家。こうして夜に改めて外観を眺めると、思っていたよりも古めかしく、おどろおどろしささえ感じられた。
    「ただいま」
    「ご主人様、おかえりなさいませ! ンン、本日も大変お疲れ様でございました」
     それでも今は、と僕は思う。こんな風に僕を待っていてくれる人がいる。食卓に向かえばあたたかな夕食が並んでいて、大好きな人と一緒にそれを味わうことだってできるんだ。
    (そうだ、僕はあの人のこと……)
     台所で食器の片付けなどをしている道満の大きな背中に、僕はそれとなく言葉を投げかける。
    「ねえ、道満」
    「ご主人様? どうかなさいましたか」
     くるりとこちらを振り返った彼はとても綺麗で、やっぱり僕は彼のことが好きなのだと、改めて実感する。
    「急におかしなことを言うみたいだけど……僕、あなたのことが好きなんだ。道満が魔力を必要としてここへやってきたのはわかってる。でも、僕はこれからもずっとあなたと一緒にいたい……って」
     ああ、言ってしまった。道満は僕のこの言葉を、一体どんな風に受け止めるのだろうか。たとえあなたが僕と同じ人間ではないとしても、いや、人間ではないからこそ、鬱陶しく思うかもしれない。全て黙っておくべきだったかと、今更後悔してももう遅い。対する道満はと言えば、普段と少しも変わらない穏やかな微笑を口元に浮かべたまま、静かに切り出した。
    「この地に満ちる魔力が何故枯渇しないのか、おわかりですか。そう……全てはご主人様。貴方の存在があってのこと。故に、拙僧といたしましても、ご主人様には深く感謝しておりますし……何より、拙僧もまた、貴方様と末永くお付き合いさせていただきたいと、そのように思っておりまする」
     そこまで言い終えて、道満はにこりと笑ってみせた。彼の返答を本当に喜んでいいのか否か、まだ戸惑っている僕を前にしても、道満は依然として笑顔のままだ。
    「この道満、ご主人様のお望みとあらば、何であれ叶えてみせましょうぞ。ですので拙僧、ご主人様と添い遂げるつもりでおりましたが……」
    「本当?」
    「ええ、ええ! 勿論でございますとも!」
     彼の言葉と、一際明るく破顔するその様に、僕の心は一気に満ち足りたようになって、僕もまた笑顔で答えていた。
    「ありがとう、道満。これからもずっと、一緒だからね」
     それから僕たち二人の距離は自然と狭まっていき──ほんの一瞬、確かに互いの唇が触れ合ったように感じられた。
    「ンン……ご主人様。今宵は具沢山のお味噌汁がおすすめの一品ゆえ、どうか冷めてしまう前にお召し上がりを」
    「ご、ごめん……! 早速いただくね、ありがとう」
     彼がまたにこりと笑うので、僕も笑ってみせてから、おすすめだと言う味噌汁がまだ湯気を立てている汁椀に口をつける。
    「うん、美味しい」
    「ンンンン、拙僧も腕を振るった甲斐がありましたぞ。では、ごゆっくりお楽しみくださいませ」
     さっきのあれは、もしかしたら幻だったのかもしれない、なんて思いつつも、道満に見守られながら味わう夕食は、いつも以上に美味しかった。

     晩御飯を食べ終えて、入浴を済ませた後、やはり道満が準備してくれていた布団に潜り込み、体を休ませていると、不意に襖の開く音がした。
    「……道満?」
     彼は何も言わずにこちらへやってきて、僕の方をじっと見つめているようだった。ようだった、なんて言い方をしたのは、僕もそろそろ眠ろうかと思って照明を落としていたからで、彼の表情までははっきりと見て取ることができなかったせいだ。
    「今宵はお隣でご一緒に……と思いましたが、ご主人様がお嫌でしたら拙僧はいつもの寝床へ戻りまする」
    「そんなこと、思わないよ。少し狭いけど……どうぞ」
     もっと何か言うべきことがあったはずなのに、ふわふわとした眠気には抗えず、その程度の言葉を紡ぐのに精一杯で、僕は道満が同じ布団に潜り込んできてから、急にドキドキし始めてしまう。
    「本当に、よろしいので?」
    「うん。こうやってくっついていれば、布団もちゃんと足りる……あれ?」
     毎日目にしていたにもかかわらず、というよりも家にいる時はほぼ一緒に過ごしていた彼のことなのに、どういうわけか僕はその身長がとても大きいのを失念していたらしい。しかし、敷き布団も掛け布団もサイズが足りないので、ンン……と決まり悪そうに縮こまっている様は何とも愛らしく、初めて出会った時の姿が思い出された。
    「……ここはやはり猫に戻っておくべきでしたな」
    「猫の姿もかわいいけど、今はそのままでいて欲しいんだ」
     道満が何か答えてくれたような気もしたけれど、二人で窮屈なくらいぎゅっとくっついているうちに、再び優しい睡魔が訪れて、それきり僕の耳に彼の声が届くことはなかった。

    「ンン〜!」
     すぐ近くで、何かが鳴いている。聞き覚えのあるその鳴き声は、恐らく猫に戻った道満の──。
    「ン〜」
     直後、僅かにトーンの異なる鳴き声までもが聞こえてきて、僕は慌てて飛び起きた。
    「道満⁉︎」
    「おはようございます、ご主人様。ぐっすりと眠っていらっしゃいましたので声を掛けずにおりましたが……」
     僕より先に起きていたのか、布団の傍らで正座をする道満は紛れもなく人間で、よく見るとその膝の上に二匹の猫がいるではないか!
    「猫、増えてる……?」
    「ええ、子猫が産まれましてございます」
    「えっ⁉︎」
     子猫、と言うにはあまりに大きく、あの寒かった夜にこの家を訪れた道満と同じくらいに見えるのだけれど、昨晩の記憶がいまいちはっきりとしない僕は、まさか道満に何かそういうことでもしてしまったのではなかろうかと、動揺せずにはいられなかった。
    「……というのは冗談ですが」
    「なんだ……良かった」
     まさか本気にするとは思っていなかったらしい道満が、僕の方を見て不思議そうな顔で首を傾げていたのはさておき。その二匹の猫たちは猫モードの道満ととてもよく似ているものの、毛足の長さや白と黒の部分の配色、そして毛先のカールした具合が全く異なり、それぞれ品種も異なるのでは? と思わせるほどだ。
    「ンン〜」
     先程から機嫌良さそうに鳴いて、僕の方に視線を向けている一匹はふわふわの毛玉みたいで、人懐っこい性格のようだが、もう一匹はちょうど道満とは白黒が逆になっており、澄まし顔で時折小さく鳴くのみなので、大人しいのかと思いきや、ふわふわの方と突然喧嘩をし始める。
    「こら、お前たち! そもそも此処は拙僧とご主人様の住まう屋敷、魔力の横取りは許さぬぞ!」
     あんなに可愛らしいのに、喧嘩をすると随分激しいのがなんだか可笑しくて、やはり猫には違いないのだと半ば感心するような気持ちで眺めつつ、二匹を必死で追いかけ、叱る道満もまた愛らしく感じられた。
    「道満、大丈夫……?」
    「ンン……誠に申し訳ありませぬ、ご主人様。あれらはいわば我が同胞はらからなれば、そう無下にもできぬのですが……」
    「二匹とも元気いっぱいだね」
    「ええ、まあ……」
     喧嘩の仲裁は諦めたのか、珍しく深い溜め息を吐く道満の頭を、僕はそっと撫でてあげた。
    「……ご主人様?」
    「なんだか大変そうだったから、つい……嫌だったら、ごめんね」
     道満はしばらくの間目を丸くしていたけれど、僕に撫でられたのだとようやく理解すると、それが余程嬉しかったのか、ぱっと表情も明るくなって、僕に本音を聞かせてくれた。
    「この空間に満ちる魔力は、先日もお話した通り、ご主人様の存在があって初めて保たれるもの。それをあの二匹に喰らい尽くされるような事態だけは避けたいところですが、寧ろ拙僧といたしましては、ええ……拙僧だけのご主人様でなくなってしまうのが不本意、と申しますか……」
     そう言いながら道満が困ったような顔をするものだから、僕もどうしていいかわからず、初めは迷ったものの、もう一度だけ道満の頭を優しく撫でた後、彼により一層安心してもらえるように、しっかりと抱きしめてみせた。僕がそうすると、抱きついて甘えているみたいになってしまうのだが──。
    「ンン、ご主人様……」
     けれども、本当に甘えたかったのは道満の方だったのかもしれない。彼は忽ち猫の姿へと変化へんげすると、もっともっと撫でて欲しいと言わんばかりに、僕の膝の上に擦り寄ってきて、まさしく猫撫で声を漏らすのだった。

     あれから更に時が経ち──この家には魔力の匂いを嗅ぎ付けて、たくさんの猫たちがやってきた。今でも時折新たなお客様が訪れては、僕に甘えてみたり、やきもちを焼いた道満に叱られたり、毎日とても賑やかだ。
     一つ変わったことと言えば、道満たちが必要とする魔力が枯渇してしまわないよう、僕は家から片時も離れなくなった。道満曰く、猫の姿でいる方が魔力の消耗は少ないので、他の仲間たちが極力人間には変化しないよう、特別な術を掛けておいたのだとか。そして、自分だけが人間の姿になって主人である僕と過ごせるのは、最初にこの場所を見つけ出した特権なのだとも付け加えて。
     部屋の中でじゃれ合ったかと思えばすぐさま喧嘩を始める白黒の猫たちを見守りながら、膝の上の特等席ですやすやと眠る道満を撫でていると、なんだか僕まで眠くなってきてしまう。
     外の世界は今頃どうなっているのか、もはや僕には決して知り得ないことだけれど、ただ一つ言えるのは、僕はとても幸せだということだ。



    (以下、読まなくても大丈夫なあとがき)
    最後までお読みいただき、ありがとうございました!
    なんとかイベント開催時刻に間に合わせるべく仕上げたところ、ねこりんぼちゃんたちのわちゃわちゃ成分がかなり少なくなってしまったので、いつか機会があれば完全版など書いてみたいなと思っております。
    そして、なんとなく不穏な空気も漂っておりますが、このお話の「僕」は1臨ちゃんたちと幸せに暮らしていますのでご安心ください。
    最後になりますが、この度は満ボ収穫祭の開催、おめでとうございます!主催者様には改めて心より感謝を……!
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    DONE満ボ収穫祭にて公開させていただいたお話です。
    モブの「僕」とたくさんのねこりんぼちゃんたちがわちゃわちゃするお話を書きたかったのですが、わちゃわちゃ感皆無の「僕」×1臨ちゃんになってしまいました……。
    また、1臨ちゃんも猫になったり人間の姿になったりと忙しないですが、それでもよろしければご覧ください!
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     若者は家族と共に幸せに過ごしておりましたが、両親も、兄弟も、皆若くしてこの世を去ってしまうと、彼は古めかしい家で一人きり、寂しく日々を送ることとなったのです。
     ところがある時、彼の前に一匹のお客様が現れます。
     これより語られるは、そんな至極奇妙で不可思議な、出逢いの物語。
     果たして若者が幸せを掴むことができたのか否か、どうか貴方の目で確かめてくださいますよう──。



     寂しくないと言えば、嘘になる。僕は家族と一緒に過ごしたこの家が大好きで、すっかり古くなってしまった今でもここを離れる気はないけれど、それでも寂しさを覚える日は多い。僕を一人残して旅立ってしまった家族たちの部屋は今も当時のままになっていて、僕もその頃の思い出を失うことのないよう、時折彼らの部屋を訪れては懐かしい気持ちに浸った後、必ずと言っていいほど僕の心は寂しさで塗り潰されるのだった。
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