天鬼と八方子閃いた軍略を伝えるべく、天鬼は八方斎の居室へと向かっている。音もなく進む白い姿に、すれ違う者がみな畏怖したように道を開けた。
渡り廊下の中央に差し掛かったとき、奥の角から女がひとり出てきた。天鬼は一瞬立ち止まり、そして見間違いかと目を擦る。ぱちぱちと瞬きもしてみたが、それは見間違いではなかった。
顔がでかい。
妙に顔がでかいせいで、遠近感が狂ったように見える。
しずしずと品よく歩いてはいたが、その巨大な頭が異様だった。
天鬼が見えているのかいないのか、女は歩み続け、誰もが譲ったその中央を歩き天鬼とすれ違おうとした。
「そこな女」
なぜ声をかけたのか、天鬼自身にもよくわからなかった。気がついたら呼びかけていたのだが、女は二、三歩進んで静かに止まった。
2018