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    karakusa28883

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    スカラマンガとボンド

    ゲーム スカラマンガの指先が額に触れる。長く手入れされた爪先が、わずかに皮膚を掻き、鼻筋へと下りていくのを、ボンドは成す術なく受け入れた。抵抗は簡単だったが、ルールに縛られ拘束された今、彼はただ脇に落としたままの両手を握りしめ、間近に感じられる殺し屋の気配に耐える他なかった。
     いつもならば、ほんの一瞬たりとも耐えられない責め苦に、耐える男の姿が心地よかったのか、スカラマンガは、満足そうにため息をつく。
    「気分はどうかな?」
    「最悪だ」
     嫌悪感を隠そうとせずに答える唇に、いっそ噛みつきたい衝動を抑え、スカラマンガは指先でもって、ボンドの頬をなぞる。その威圧的な青い目は、凌辱者の様子を捉えたまま、決してそらされず、屈服もせず、殺気を宿して相手を見上げていた。今すぐにでも殺してやりたいと思いながら、定められたルールに縛られている。暗黙のそれを破り捨てれば、この絶海の孤島に秩序はなくなり、身を守る術もなくなるだろう。
     それでも。この男ならば、ルールなどかなぐり捨てて抵抗することも容易いだろうと、スカラマンガはひっそりと思っていた。すぐにでも破られるルールを、それでも実直に縛り続ける仕草がいじらしい。これは戦いなのだ。命を賭けた決闘と同じ。故に、このルールは絶対なのだ。
    「いい眺めだよ。ボンド君」
     今夜のゲームは単純明快。手持ち札の数字が大きければ勝ち。ただそれだけの勝負。駆け引きなどなにもない、ただ幸運の女神の気分次第で勝敗は決まる。負けたのはボンドの方だった。勝ち目の数字さえ覚えてはいない。ただ、勝負の結果だけが物を言う。
     スカラマンガの指先は頬を過ぎて耳元をくすぐった。ぞくりと身を震わせたのは、一撃必殺のトリガーを引くその指が、わずかに毛先を梳いて、首元へと落とされたからだ。思わず首筋を逸らせば、殺し屋はくすりと笑って、ボンドを弄ぶ手を銃口の形へと結ばせる。その銃口は喉元へ。鎖骨の間の窪みで止まり、たしかに命を狙って撃鉄を落としたようだった。
    「嫌なら嫌といえば言い。今すぐにでも、やめてやろう」
    「誰が」
    「ではこのまま続けても?」
     ボンドは何も言わずに視線をそらした。
     勝負には代償がある。それは些細なお遊びで、まるで子供が思いつくようなゲームだった。敗者は、勝者の言うことを一つ聞き入れる。今宵の命令は、何をされても動くな、だった。
     スカラマンガの銃口がゆっくりと下へと滑る。頑ななボタンを弾き、一つ、二つ器用に解いた。露わになる肌が夜半の空気にさらされて、わずかに赤らむのは、苦し紛れに煽った酒のせいだけではないだろう。
     一度、ボンドが勝った夜のこと。宝探しのように、手の中に隠した弾丸を見つけたボンドは、一晩口を利くなとスカラマンガに言い渡した。その夜は恐ろしいほど静寂で、打ち寄せる波の音以外、何もない夜だったが、代わりに、口先より饒舌な殺し屋の欲深い視線にさらされて、耐えられずに部屋に引きこもった。いっそ、一晩目を閉じていろと言いつければよかったと、ボンドは後悔した。いいや、そもそもこの馬鹿げた遊びをやめて、さっさトリガーを引くべきなのだろう。恐ろしく落ち着かない夜を過ごした後、ワルサーの装填を確かめて部屋を出ると、いつもと変わらない様子のスカラマンガはこう言うのだ。さぁ、ゲームをしよう、ボンド君。
    「何か、考え事でも?」
    「おまえを殺す方法を考えてる」
     首元で蟠っていた指先が襟にそってぐるりと後ろへ回り込む。動かずに立ち尽くすボンドの脇を回り込み、ゆっくりと背後に回り込んだ男は、栗毛の毛先を弄んだ。
    「キスしても?」
    「却下だ」
    「残念だ。次のゲームの商品はそれにしよう」
    「この茶番を、いつまで続ける気だ」
    「さぁて。今すぐに殺し合うか?」
    「それもいい」
    「酔いの回った指先が狂うことは?」
    「自分の心配をしたらどうだ?」
     解かれた胸元から無遠慮に差し込まれる指に、ボンドはぞくりと身を震わせ、思わず吐息を漏らした。スカラマンガが満足そうに笑う気配がした。その指先はひどく熱くて、その存在感をくっきりと皮膚の上へ伝えてくる。
    「これ以上は、やりすぎだ」
    「音を上げるか?」
    「まさか。紳士たる者、限度はわきまえるべきだろう」
     抱き込むように伸ばされたもう片方の手が、薄いリネンのシャツの腹を撫でる。明白な欲望を乗せられた仕草は、それでいてゲームを装って、それ以上の意味を与えられず、腹と腰の辺りで右往左往するもどかしさに、ボンドはただ耐える他なかった。これ以上の屈辱があるだろうか。先にも後にも引けず、気まぐれな凌辱にさらされて、痛みとも快感とも取れない痛みが皮膚の上を掻く。
    「スカラマンガ」
     彼に好きにされるには気に食わなかった。されるがままに触れられ、刺激され、意図せぬ反応を返してしまうのではないかと。これ以上は無理だと、そう一言告げる代わりに、ボンドはゆっくりと敵意がないと言うように両手を上げた。指一本さえ動かすなという条件に反したが、スカラマンガに意図は伝わっただろう。
    「これ以上のお楽しみは、またにしよう」
    「ふむ」
     その時、スカラマンガの指は、ベルトのないスラックスのウェストに差し込まれ、臍の近くを探っているところだった。それを振り払うように、向き合えば、それすら織り込み済みだったのか、あっさりと不埒な手を引き、勝ち誇ったように笑う。
    「“また”とは、魅力的な誘いだ」
     ようやく解放された体を、自らのものとして取り戻すために、身を守るように腕を組む。これ以上好きにさせるつもりはないと、相手を威嚇するように睨みつければ、スカラマンガはまるでダンスを誘うかのように、優雅に手を伸ばした。手入れされた指先が、顎をなぞっていく。
    「続きを、楽しみにしているよ。ボンド君」
     まるで何もなかったかのように、涼しい顔で身を引き背を向ける殺し屋の背に、今すぐに銃口を向けたい衝動にかられながら、ボンドは乾いた唇を舐めた。
     ゲームをしよう、ボンド君。明日の朝、彼はまた素知らぬ顔でそう言うのだろう。
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