クリスマスの二人クリスマス当日の昼、何処かに出掛けていた蓮が帰って来てリビングに入ってからの第一声は「明智、クリスマスパーティーしよう!」だった。それもわざわざ大きな声で。
ソファーの上でで本を読んでいた明智は読んでいた小説から顔を上げ、眉間に皺を作りながら「うるさい!!」と言い放つ。
「だって、せっかく同棲してるのに本格的なクリスマスパーティーしないないて勿体ないだろ」
「それはいいけど、今から準備するの?···当日なのに?」
「それは問題ない。近所のスーパーにまだあるのはさっき確認してきた」
「どこに出掛けてたのかと思っていたら···」
それだけ言うと再び読みかけの小説に目を戻そうとした明智に向かって蓮は「だから、明智。夕飯の時間前まで外に行っててくれ───痛っ」
「············」
蓮の発言を聞いた明智は眉間の皺を更に深くしたあと、無言で蓮の足を思いっきり踏みつけた。目尻に涙が浮かび、反射的に明智を睨みつけると、当の本人はふん、と不機嫌なオーラを纏ったままそんな蓮を鼻で笑った。
「恋人をなんの説明もなく追い出そうとするとか、本当にいい度胸してるよね、君」
そう言っている明智の声は楽しそうだが目は全く笑っていない。
これは本当にヤバいと悟った蓮は慌てて言った
「違う···!せっかくだから準備は俺がして少しでもサプライズ感を楽しんでもらおうと···!!」
「···あぁ、そういうことね。まぁ、君が突拍子もないことを突然言うのはいつものことだし···いいよ、カフェにでも行って時間を潰すから。その代わり、ちゃんとしてなかったら容赦しない」
「わかってる」
「じゃあ、あとで」
そう言って明智は上着をを着て家から出て行った。それを見送ったあと、蓮は上着を着ると、自分もパーティーの材料の為に近所のスーパーに向かった。
チキンやオードブルらそしてサラダを手に取り、カゴに入れた後に出来合いのスポンジケーキを買った。
「さてと···必要なフルーツは···」
そして頭の中に設計図を描くとそれを頼りにフルーツをカゴに入れていく。その後は生クリームを買ってこれでよしとレジに向かおうとすると“クリスマスのお菓子作り“と書かれたコーナーが目に止まった。
そこあったもの──いくつかの砂糖菓子が目に留まる。
「クリスマスケーキといったらこれだよな」
そう呟くと蓮はサンタの砂糖菓子をカゴに入れてレジに向かう。そして家に帰って早速作業に取り掛かった。
まずはスポンジケーキを袋から取り出して2枚をまな板の上にそれぞれ載せた。
次に生クリームの準備。蓮は生クリームをホイップする為の機械を取り出すと生クリームを入れてスイッチを推した。そして生クリームが出来るまで放置している間に再びデコレーション用の果物を切ることにする。
まずは苺からだ。包丁でヘタの部分を丸みを持たせて切り落とし、縦半分に切ればハートの飾り切りが出来る。
これをいくつかの作ると次はオレンジに取り掛かった。オレンジをくし切りにした後に皮と実の間の白い部分を切り落とし、皮の先端を切り落とす。
そして皮の部分に切り落とさないように3本切れ目を入れ、皮の先端を内側に丸めるとオレンジの羽飾りの完成だ。
「最後は林檎だけど、これはせっかくだし──」
林檎の飾り切りが終わったあと、完成した生クリームを塗り、それが終わると、飾り切りをしたフルーツをケーキに飾った。
そしてこれも忘れちゃいけないとスーパーで買ったサンタクロースの形をした砂糖菓子を載せると自然と満足した表情になる。
あとは食べる時までケーキを冷やそうと冷蔵庫に入れた時だった。──玄関の方からガチャッという音が聞こえてきた。
「ただいま」
その声を聞いた瞬間、蓮は慌ててリビングに向かう。するとそこには明智の姿があった。
「おかえり、明智。早かったな」
「まぁ、近くのカフェにいたからね。それで、出来たの?」
「ああ、あとで見て驚いてくれ」
「期待しないで待ってるよ」
素っ気ない返事ではあるが、表情はどこか楽しそうなので言葉とは裏腹に期待してくれているのだろうと思った。
蓮がそんなことを考えながら明智を見つめていた時だった。よく見ると明智は手に何かを買ってきたと思しき袋を持っていることに気づいた。それが気になった蓮は明智に訊ねる。
「ところで、明智。それは?」
「ん?ああ、これか。これは···そうだな、ケーキを食べる時になったら見せるよ。だから冷やしておいてくれる?」
袋から取り出したものを蓮に渡しながら言った。ラッピングされているので中身は分からないが、ワインだろうか。
「分かった、冷蔵庫に入れておく」
そう言って蓮は明智に渡されたものを冷蔵庫に入れた。
そのあと、昼にに買っておいたチキンやサラダ、オードブルの盛り合わせを食べてささやかな二人だけのクリスマスパーティーを楽しんだ。
明智が食べ終わったのを確認すると蓮は立ち上がり、冷蔵庫からケーキを取り出すと、テーブルに置いた。サンタの砂糖菓子、苺で作ったハートにオレンジの羽飾り、──そして真ん中には林檎で作られた大きな白鳥が載っていた。
「どうだ、凄いだろ!」
自信満々な顔でそう言う蓮を明智は呆れたような目で見ていたが、やがて諦めたかのように溜息をつくと、「確かにこれは驚いたよ」と言った。
「それにしても···ここまで綺麗に作れたね」
「なんせ器用さは超魔術だからな」
「はいはい」
軽く流された。本当のことなのに。
「じゃあ僕も、あれを取ってくるかな」
そう言ってキッチンの冷蔵庫に向かうとあのラッピングされたボトルを持ってくるとラッピングを外した。そして中から出てきたモノは
「───シャンパン?」
「まあ、クリスマスと言えばケーキにシャンパンかなって思ってね。ほら、乾杯しよう」
そう言ってグラスに注いでくれる。蓮も同じように明智の分のグラスに注ぐ。グラスに注がれたシャンパンは、美しい黄色をしていて細やかな泡が絶え間なく立ち上っていた。
暫くシャンパンが注がれたグラスを見ていた蓮に明智が「ほら、乾杯するよ」と声をかけできたのでグラスを持ち上げると互いに顔を見合わせた。
「メリークリスマス、明智」
「メリークリスマス、蓮」
チンっと音を立てて互いのグラスを合わせるとそのまま口元に運ぶ。シュワッとした感触と共に葡萄のような香りが鼻腔をくすぐる。
「美味しいね」
「そうだな」
そう言い合って二人は笑い合う。
ケーキも蓮が持ち前の器用さを発揮させて綺麗に切り分けた。明智は「既製品だけど、悪くはないかな。でも来年はまた料理とケーキ、両方とも君が作ってくれよ。僕だって手伝うからさ」
「それってどういう······」
「······君なら言わなくても分かるだろ」
そう言ってそっぽを向いたが、その顔は耳まで赤い。それを微笑ましく見ていると次の瞬間、明智の左手が伸びてきて彼の方に引き寄せられ、触れ合うだけのキスをした。
それだけでも蓮は顔中に熱が集まるのを自覚したが、明智はもう熱が収まったらしく、もう赤くはなかった。そして蓮に近づくと彼の耳元で囁やいた
───続きは僕の部屋で。
「············!?」
突然のことに顔を真っ赤にしたままの蓮を見てクスリ、と笑うと何事も無かったかように明智は食器を片付け始めた。一方、残された蓮は彼の言葉を思い出しながら悶えるになった。
──二人のクリスマスの夜はまだ始まったばかりだ。