「······僕達、別れよう」
「え」
明智の言葉に手に嫌な汗が全く間に滲み、手に持っていたゲーム機のコントローラーが手から滑り落ちて床にゴトリ、と音を立てた。
「······何で」
パタンと音を立てて本を閉じた明智がこちらを見つめる。ガーネットを宿したような瞳の中に見たことがない暗い色が見えた。
「君、本当は僕と居るの嫌なんだろ?」
「どうして」
「『知ってるんだ?』だろ。君の態度を見てると分るよ。同棲始めたのにやけによそよそしいし、僕を避けてる」
『そんなことを言うんだ』の意味で俺は言ったが、明智は違う意味で捉えた挙げ句、そうだと強く確信してしまった。何とかその拗れを解消したいのに頭の中は混乱していて言葉が出ない。
「······明日から引っ越しの準備するけど、君はここにそのまま残ればいい。僕は荷物が少ないから早く済む」
そう言いながら明智はソファーから立ち上がり自分の部屋に行こうと歩き始めた。
どうしよう。止めないと。必死に頭を動かすが頭が真っ白で言葉が出ない。
とにかく行動に移さないとと、無我夢中で手を伸ばすと明智の服の裾を強く掴んだ。力をいれすぎて皮膚に爪が食い込んでいる。
「何?」
「聞いてくれ······」
「······聞くだけだ」
「それでいいから」
「······」
「同棲をはじめてからよそよそしかったのはただ単にその、好きな人とずっと一緒に居られるのが初めてだから緊張してた。お前を避けてたのは目が合うと、どうしても······その、最初の日の夜の情事のことを思い出して顔が真っ赤なるから······です」
「─────は」
言ってしまった。これで明智に嫌われたかもしれない。自分の勝手な理由で避けてたことを暴露したのだから。
「ちょっと待って、頭が追いつかないんだけど。つまり君って、要は緊張と恥ずかしさから僕を避けてたってこと!?」
「そう······」
「つまり僕の勘違いだったと」
「違う、自分勝手な行動をした俺が悪いんだ」
「いや、落ちついて。勘違いした僕も悪いんだから」
「うぅ······」
「ほら、泣かない」
「だって······」
「僕の言った言葉は取り消す。もう引っ越しなんて考えない」
「本当に······?」
「うん。君の側から離れたりなんてしないから。だから」
───泣かないで。と呟かれた言葉と友に、唇に温かなものが触れる。数秒のキスが何時間にも感じられた。