Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kiri_nori

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉
    POIPOI 47

    kiri_nori

    ☆quiet follow

    メル燐。隣に座ってくる話。

    ##メル燐

    「隣、失礼しますよ」
    「ン? おう」
     HiMERUが隣に座ってきたことに燐音は顔に出さず少しだけ驚いた。ロケバスの車内にはまだ空席があって今日は全てが埋まるほどの人数は乗ってこない。
     まだニキもこはくも乗ってきていないが、この光景を見たら目を丸くすることは想像に難くない。多分二人とも突いたら藪蛇になると言わんばかりに何も言わずに後ろの方に座るだろうけれど。
     さて、この男は何か燐音に用事があるのだろうか。出会った頃と違って最近は燐音がわざと隣に座っても嫌な顔をするだけで普通に会話に乗ってきてくれるようになっていた。しかしそれも燐音から隣に座った場合の話だ。HiMERUからやって来るなんて燐音が怪しんでしまうのも無理はない。
     少しした後、ロケバスが出発したのを見計らって声にからかうような色を混ぜながら燐音は口を開いた。ちなみに燐音の想像通りニキもこはくも珍しい物を見たような目で隣を通り過ぎて行った。ニキにいたっては二度見していたように思う。
    「メルメル~? わざわざ隣に来てくれるなんてそんなに俺っちと一緒にいたかったンだなァ? 気付かなくて悪かったっしょ」
    「……そう言う天城の方こそいつもHiMERUの隣にやって来ていたのは一緒にいたかったという意味だったのですね。こちらこそ気付かなくてすみません」
    「いつもって言われるほどは行ってねェだろ?」
    「ふむ。ではそういうことにしておきましょうか」
     別にいつもと言われるような頻度では行っていないはずだ。少なくとも燐音の自覚としてはそうである。ただ、まあ、隣に行くと嫌な顔はするくせに話し始めるとなんだかんだテンポ良く言葉が返ってくるのを気持ちいいとは思っていた。調子に乗って口数が増えていた自覚も一応ある。
     それでも頻度は高くない。仮に燐音がそう反論したところで隣に座った男はきっと笑って流すのだろう。この問いの答えはなく、万が一にもニキやこはくを味方につけられたら面倒だ。燐音は仕方なく自分もそういうことにしておくと言わんばかりに肩をすくめた。
    「そンじゃあメルメルの本来の用は? さっき言った通り、俺っちと一緒にいたい~ならいつでも受け付けてるけどォ?」
     HiMERUがこれみよがしにため息を吐くのを見ながら燐音は言葉の続きを待った。今までみたいに他愛のない話をしたっていいけれど、せっかくHiMERUからここに来てくれたのに会話を流すようなことなんてしたくない。
     多分、仕事かレッスンの話だろうと予測はしている。ユニットで集まっているときに話が逸れていくことはあっても、HiMERUから燐音に話しかける時点で内容はその二つのどちらかであることが多い。急ぎで声をかけられるようなことは思い付かなかったが、軽く確認しておきたいとかそういうことだろう。
     だから燐音には何故かHiMERUが口を開くことを躊躇っているみたいに見える理由に心当たりが全くなかった。普段は言いたいことをすぐに言ってくるのに。
    「……あなたの昨日のSNSの投稿を見ました」
    「昨日?」
     想定外の話題だなと思いながら昨日の投稿を思い出す。別にHiMERUにわざわざ何かを言われるほど不適切な投稿はしていないはずだ。何よりそういった注意をしたいならこんな時間まで待たずにすぐメッセージを送ってきていたと思う。
     とはいえ振り返ってみても燐音がしたのは普通の投稿だ。こはくちゃんが持ってきてくれた和菓子が美味しかった。表紙を飾った雑誌の発売日だから読んでみてほしい。日和ちゃんが出る映画の原作だからって押し付けられた本が面白かった。はて、HiMERUが言っているのはどれのことだろうか。
    「俺っち、そんなメルメルに注意されるようなこと言った覚えねェけど」
    「誰も注意とは言っていませんよ」
    「じゃあなに?」
     HiMERUの視線が一瞬だけ逸れてすぐに戻ってきた。ちょっと恥ずかしいときにこれをやることを燐音は密かに気付いている。
    「……昨日読んだと言っていた本はHiMERUも先日読みました」
    「おっ! 面白かったっしょ!」
    「はい」
     首が縦に動いたことを確認して燐音はHiMERUが珍しく隣にやってきた理由に思い至った。ただ燐音と本の話がしたかったのだけなのだろう。
     燐音はたまにHiMERUと読んだ本や観た映画の話をしたりする。示し合わせて読んだり一緒に映画に行ったりすることはない。お互いの触れた物が偶然重なったときだけそういった話をするのだ。違う視点の話をすることは楽しい。相手がHiMERUであればなおさらである。
     ……実は話が盛り上がりすぎて相手の言っていることを確認するために同じ映画を一緒に観に行ったことが一度だけある。見終わってからも話が盛り上がってしまったことはニキにもこはくにも誰にも言っていない。客観的に見て仲良しだと思われてしまいそうなことがお互いに照れくさかったからだ。HiMERUがどうだかは分からないが、燐音がその事実に気付いたのは解散して寮の部屋に戻ってからだったけれど。
     そして今回日和から押し付けられた本は本当に面白かった。だからHiMERUとその話が出来るのなら燐音としたって嬉しい。もし燐音がHiMERUも読んでいたと知っていたら翌日絡みに行ってしまう自信もあった。
    「天城はいつ事件の真相に気付きましたか」
    「序盤!……って言いてェところだけど、主人公の視点を完全に信用できねェのはやられたよなァ」
     出発したばかりの車内で一度開いてしまった口は中々閉じることはなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺☺☺💞☺😭👏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works