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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    メル燐。距離が近いなと思ってるあまぎの話。
    サドンデスより前の時間軸

    ##メル燐

     ……なンか、近くねェ?
     控え室でHiMERUと二人きりという状況において、燐音はこの言葉を発するべきかどうか悩んでいた。

     収録のために現場に向かい、控え室に入った時点で燐音が一人だったことはまだいい。現場で一番乗りということは今までに何回もあった。むしろ他の誰かがいた方がいつもより早いとからかっていただろう。
     控え室奥のソファに腰掛け、何をして時間を潰していようかと考え始めたタイミングでHiMERUが入ってきたこともこの時点の燐音にとっては幸運だと言えた。何しろHiMERUが相手をしてくれるかはともかく、話し相手がやってきてくれたのだ。無視されようともやり方は色々とある。そう思いながら挨拶を交わした直後に燐音は戸惑うことになったのである。
     ニキやこはくがすでに居て座れる場所が限られているならともかく、燐音と二人きりの状況でHiMERUは隣には座らない。HiMERUの機嫌と燐音が座るまでにどれだけ話しかけるかによって左右されるが、距離を取れる場所に座ると言って間違いはなかった。近ければ正面の席。遠ければHiMERUが首を動かさない限り視線が交わらない席である。
     今日はどこに座るのだろうか。燐音が心の中で賭けを始めようとした段階でHiMERUは迷うことなく燐音の隣に腰を下ろした。さすがに密着するほどではないが、手を伸ばせば容易に届いてしまうほどの距離である。
     不意を突かれてどう言葉をかけるか迷っているうちにHiMERUは台本を開いて今日の進行の確認を始めてしまった。

     ……やっぱりどう考えても近すぎるだろ。
     普段のHiMERUならばこの距離に座ることは有り得ない。ロケバスで移動するとなってHiMERUが最後に乗り込んだときに燐音の隣しか空いていなかったときぐらいしか有り得ない距離だ。
     それとは逆に燐音の方から距離を詰めることは多々あった。ライブ中でのパフォーマンスや、事務所や寮で見かけて絡みに行くときが多い。ライブ中であればHiMERUもパフォーマンスとなるようにその場の流れで拒否をしたり受け入れたりする。仕事中でないときは鬱陶しいと言わんばかりに肩に回した手を払われることが日常茶飯事だ。思い返してみてもHiMERUの方から距離を詰めてくることはまず無い。
     俺っち、メルメルに何かやらかしたか?
     心当たりがあるかと問われれば、全てを思い出せないほどにある。しかしそのどれもが細かいことでHiMERUならば顔を合わした瞬間にやめろと言ってくるようなものばかりだ。台本を確認している表情をうかがってみても怒っている気配は感じられない。つまり、これは違う。
     燐音にはHiMERUの行動の意図が全く分からなかった。いっそのことニキかこはくが来てこの状況にツッコミを入れてくれと願ってしまうほどに。……自然な流れすぎて最初に発するタイミングを見失ってしまっていたが、何故今更と言われても本人に訊いた方が早いだろう。一度飲み込んでしまった言葉を再び舌に乗せた。
    「……メルメルさァ」
    「なんですか」
    「今日ちっと近くねェ?」
     HiMERUは台本を閉じると燐音の方に視線を向けた。こうして顔を向けられるとやはり距離が近い。仕事でもないのにこの距離はどうにも落ち着かなかった。これなら何かをやらかして詰められる方がマシというものだ。
     返事を待っているとHiMERUが目を細めて小さく笑みを浮かべた。
    「天城にしては触れるのが遅かったですね」
    「はァ?」
    「早々に訊かれると思っていましたから少しばかり想定外でした。このまま桜河か椎名が来るまでこの状況が続くのかと」
     言葉を受けて燐音は数回瞬きを繰り返してしまった。この返しから想像するにつまりHiMERUは。
    「俺っちに訊かれるのを待ってたってことかよ!?」
    「結果的に一応待っていたということになりますね。天城なら座った瞬間に話題にすると思っていたのですが」
     脱力してソファにもたれながら燐音はHiMERUの方を見る。もたれたことで少しだけ距離が開いた。それでもすぐそこにHiMERUがいることに不思議と落ち着かない気分になってしまう。そのまま何も言わずに視線を逸らさないでいると、焦れたようにHiMERUが口を開いた。
    「……続きは訊かないのですか」
    「何をだよ」
    「何の理由があってHiMERUがこのようなことをしたか、ですよ」
     確かに出会って日が浅いころならば何を間違ってもHiMERUはこんなことをしなかっただろう。当時の燐音なら何を考えているのか、裏があるのかを読み解こうとしたかもしれない。けれど今は長いとは言えないが、それなりに付き合いがあった。HiMERUは自分の行動に何かしらの理由を求めることがあるけれど、燐音から見れば割と深く考えずに楽しそうにしている面も知っている。
     だから今回のことは深い理由もなく、HiMERUがやりたいからやってみたのだと感じていた。それが燐音が続きをわざわざ訊かなかった答えとも言える。とはいえ、それをそのまま言ったらむしろ理由を意地でも探しそうだ。いや、もしかしたらHiMERU自身理由を探しているのかもしれない。名探偵でも自分の感情を推理することは難しいのだろう。しょうがない。適当に理由を付けて話を切り上げてやるか。
    「メルメルが俺っちのことを好きで好きでしょうがねェから少しでも近くにいたかったンだろ?」
     普段よりもからかっている口調を強めに燐音は言葉に乗せた。無視するか、呆れてこれ見よがしにため息を吐くか、はたまた怒るか。どれになっても大丈夫なように燐音はHiMERUの様子をうかがっていたが、HiMERUは瞬きを繰り返すばかりでどの反応も返してこない。まるで何かに納得したような……。
     そこまで考えて燐音は自分の考えを頭から追い出した。本当にそんな理由のわけがないだろう。そうだとしたらHiMERUに好かれているという結論になってしまう。……まあ、出会った頃と比べれば距離は近付いているとは思っているが。物理的ではなく精神的な距離だ。
     少しばかり何か悪だくみをするときはHiMERUに声をかけることを選択肢に加えてもいい。巻き込んでもいいと考えてしまうくらいには見ない振りができないほど近い場所にいる相手だと燐音は感じていた。
    「……天城」
     HiMERUが名前を呼んだことで燐音の思考が中断される。その表情から考えは読み取れない。けれど何かを決めかねているように見えた。
    「HiMERUは、天城のことが嫌いではありません」
    「そりゃどうも?」
     主題が分からず首を傾げながらも身構えてしまう。とはいえHiMERUから直接嫌いじゃないと言われること自体は嬉しくはある。
    「椎名のことも嫌いじゃありませんし、桜河のことは好きです」
    「おいおい、こはくちゃんだけ贔屓かよ」
     こはくのことをHiMERUがかわいがっているのは知っている。ニキだってかわいがって……たまにどっちがどっちを餌付けしているのか分からなくなるときはあるが、かわいがっている。それは燐音もそうだった。だから燐音からすれば当たり前のことを言葉にされても頭の中から疑問符が消えない。
     けれど疑問符が消えないのはHiMERUもそうなのだろう。HiMERUにしては珍しく会話のゴールを決めずに話し始めている。燐音はそう感じていた。おそらく、当然の事実を確認することが大事に違いない。
    「でも、他に席が空いているのに椎名と桜河相手にこの距離で座ることはありません」
    「俺っち相手でも今日が初めてじゃねェ?」
    「ええ」
     HiMERUは頷いた後、少しだけ迷う素振りを見せる。言うかどうか悩んでいるようだった。悩んで、それでも言う方に天秤が傾いたのだろう。
    「……今日は、普段椎名と桜河がやってくるであろう時間までは余裕がありました。だから以前から試そうと思っていたことを実行しました」
    「それってこの近い距離で座ること?」
    「そういうことになりますね」
     燐音が二人の間の空間を指しながら言えば再びHiMERUが頷いた。
    「そうすれば最近悩んでいることの正体が分かるかと思いまして。まあ、実際は座った時点では何も分からなかったのですが」
    「へ、へェ~」
     ここに至ってようやく自分の発言を思い出し、燐音は口を滑らせてしまったかもしれないと思い返した。今HiMERUは座った時点ではと言った。つまりその後に何かあったということになる。悩みの正体は気にならないと言ったら嘘になるが、そこを突くと藪蛇になってしまいそうで相槌だけに留めた。
    「もう一度言いますが、HiMERUは天城のことが嫌いではありません。こちらに何の相談もなく行動するところはどうかと思っていますが」
     そこは放っておいてほしいと燐音は口に出さずに思った。君主になるべく育てられたのだ。体に染み付いていつの間にか自分の一部となってしまった部分なのだから今更切り離すこともすぐ変えることも出来やしない。
     ……でも、次はHiMERUに声をかけてもいいかもしれないと考えているのは本当だった。本人には伝えていないけれど。それを選んでもいいと思うくらいには燐音はあの夏から一緒に過ごしたHiMERUを運命共同体と見始めていた。
    「とはいえ、それは別にいいのです。天城が何かをやるというのなら勝手に協力すればいいだけですので」
    「んん?」
     上手く聞き取れなかった後半を聞き返そうとして燐音が何かを言おうとしたが、その前にHiMERUが言葉を続けた。
    「だから、そうですね。HiMERUの方からこのくらいは距離を詰めてもいいと思ってしまう程度には天城のことが好きかもしれないということですよ」
     HiMERUが燐音に指を向けた後に自分の方にも指を向けた。まるで二人の間の距離を測るように。
     そこには手を伸ばせば容易に届き、意図しなくても身体を動かせば当たってしまいそうなほどの距離が存在していた。
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