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    kiri_nori

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    メル燐。新しい秋ボイスに触発された麻雀をした後の話。

    ##メル燐

     天城が巻き込んで連れてきたメンバーや面白そうだと通りがかって参加していたメンバーも全員部屋に帰ってしまった。時計を見れば当然の時間で、むしろ思ったより遅くまで参加してくれた方だとさえ思う。だから今この場に残されているのはHiMERUと天城と天城が持ち込んだ雀卓だけだった。
    「あ~あ、皆帰っちまったなァ」
    「まさか本当に夜通しやるつもりだったのですか?」
    「俺っちはいつでも本気っしょ!」
     夜通しなんてただの誇張表現だと思っていたが、天城としては人さえ残っていれば本気だったらしい。呆れてしまうとはまさに今のような状況のことだろう。
     とはいえ、さすがにHiMERUと二人になった今も本気で夜通しやろうとは思っていないらしい。もしそうなら牌の片付けを始めているHiMERUを止めるか、まだやりたいと言ってくるからだ。
    「なァ、メルメル」
    「何ですか? 天城も見ているだけなら片付けを手伝ってください。これが終わったら部屋に帰ってさっさと寝ますよ。同室の二人が寝ている可能性があるので静かに……」
    「そう、それっしょ」
    「どれですか?」
     牌のことかと手元を見たが、この牌から天城の言いたいことは何一つとして伝わってこない。続きを話すように視線で促せば天城は少し考える素振りをしてから口を開いた。
    「他のヤツらが寝ている可能性がある時間までメルメルはなんで付き合ってくれたわけ?」
    「そんなの……」
     当たり前のことだと返そうとして言葉に詰まった。何が当たり前なんだ? そもそも麻雀大会なんて天城に誘われた瞬間に断ってしまえば良かったのだ。断らずとも途中で帰れるタイミングはあった。さっきだって二人きりになる前に片付けを天城に押し付けて帰れば良かっただろう。更によく考えると片付けを手伝う義理も無いというのに。
    「Crazy:Bのリーダーが非常識な時間まで他のアイドルを巻き込んでHiMERUも風評被害を受けたら困りますから」
    「ふーん」
     取って付けたような理由だ。ただの表面的な理由であることくらいは天城だって見抜いているだろう。だって、他に何と言えばいいのだ。こんな時間まで天城に付き合った理由なんてこちらが教えてほしいくらいなのに。
    「ま、いっか」
     パッと天城が笑顔になる。いや、笑顔は笑顔だが何かを企んでいる顔だ。
    「そンじゃあ来週も同じ時間に麻雀やるけどメルメルも参加する?」
     ここで断るのは簡単だった。実際今日の麻雀だって誘われたときは一度断ろうとした。でも天城がしつこく誘ってきたから仕方なく……そうだ仕方なく参加したのだ。だから今こそ断ってしまえばいい。次もこんな時間まで付き合わされるのは嫌だから参加しないと。
     でも、天城はこちらが断ってしまえばすぐに引き下がるだろう。断っても食い下がってくることはあるが今はそんな予感がしている。そうすれば天城はHiMERU抜きで麻雀を始めるに違いない。今日は捕まらなかったようだけど次は桜河や椎名を誘うかもしれない。天城のことだから通りかかった相手を巻き込むだろうし、面白そうだと寄ってくる相手だっているだろう。まさに今日がそうだった。
     だからHiMERUがいなくたって天城は普通に麻雀をやることが出来る。ルールを知らなければ教えればいいだけなのだ。
     ……天城が弟やCrazy:Bのメンバーを特別に愛しているということはさすがに自覚している。それ以外の誰かとなら悩まずにHiMERUの方を選ぶだろうという自信すらあった。
     でも、それでも、楽しく遊ぶだけなら他の誰かとだって出来ると気付いてしまった。……サークル活動はそもそも違うところに所属しているのだから何も思わない。HiMERUがいない場所で誰と何をしていたところで、むしろ巻き込まれた相手に同情するくらいだ。
     ただ、誘われていたのに他の誰かと遊んでいる姿を想像するとどうにも面白くないと感じてしまう。例え断ったのがこちらからだとしてもだ。非常に不本意ではあるけれど、天城に誘導されたような感じもしてしまうけれど、今日の答えは一択しか見つからない。
    「……参加、します。非常識な時間にならないようHiMERUが天城を見張らないといけませんから」
    「きゃははっ! メルメルの参加けって~い!」
     楽しそうに笑う天城の姿を見てようやく牌を握りしめたまま、片付けの手が止まってしまっていたことに気付いた。
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