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    kiri_nori

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    メル燐。冬の帽子の話。あまぎの冬夜4ボイスネタです。

    ##メル燐

    「……今日、寒くねェ?」
     冬の夜空の下を燐音は腕を擦りながらHiMERUと歩いていた。寮までの帰路で偶然出会ったからである。ちなみに燐音がHiMERUに出会った瞬間の感想は「暖かそうな格好をしているな」だった。口に出せば自分の薄着に何かを言われそうだから黙っていた。HiMERUも燐音の服装については何も言わなかったが、視線が頭から足の先まで見ていたので薄着だなとは思ったのだろうと推測している。
    「今日から寒くなるとニュースで言っていましたよ。見ていないんですか?」
    「見てねェ~」
     知っていたら寮を出る前に上着の一つでも持ってきたというのに。昼間は特に寒くなかったから油断していた。後悔するようについ吐いてしまったため息も白い。息までもが寒さを物語っている。燐音は腕を擦っていた手を止めて次はポケットに突っ込んだ。少しでも風の当たる面積を狭くするためである。とはいえ、せいぜいが気休め程度ではあるが。
     そんな燐音の姿に呆れたのか隣から大きなため息が聞こえた。冬なんだからせめて上着は持ち歩けだとか、体調管理のためにも予報は確認しろだとか言われるのだろうか。今寒さに震えている時点で反論しても説得力なんかこれっぽっちもない。だから燐音にしては珍しいことに大人しくHiMERUからの言葉を受け入れようとしていたが、かけられたのは予想もしていない言葉だった。
    「天城、片方の手を出してください」
    「なに? 手でも繋いでくれンの?」
    「ふざけないでください」
    「はいはい。これでいいっしょ」
     正直この寒さの中、ポケットに入れた手を出すのは多少の抵抗はあった。それでもHiMERUが要求をしてきて何もないということはないだろう。そう信じて燐音はHiMERUに近い方の手をポケットから出した。
    「これでも被っていてください」
    「…………は?」
    「寒いのでしょう? 今の状態よりは幾分かマシになると思いますが」
    「いや、おい、待てって」
    「HiMERUの心配なら不要ですよ。帽子一つ減っても今の天城よりは充分防寒対策は出来ていますから」
    「いやいやいや……」
     燐音が自分の手元を見ればHiMERUが今の今まで被っていた帽子が置かれていた。初めて見たときから触り心地が良さそうだなとは思っていたが、実際に触ってみると想像していたよりもフワフワで気持ちがいい。いや、考えるべきところはそこじゃなくて。
    「俺っちには似合わねェだろ……」
     ……言ったはいいもののこれも別に一番の問題ではない気はする。燐音が自分に似合わないと思っているのは事実だが。それよりも、どちらかといえばHiMERUがわざわざ帽子を渡してきた理由の方が気になる。そこまで隣で寒がっているのが見苦しかったのだろうか。
     燐音が悩んでいるとHiMERUが再び大きくため息を吐いた。先程は見ていなかったが、やっぱりHiMERUも吐き出された息が白い。
    「いいから、早く被ってください。寮に着くまで返却は受け付けませんから」
    「え~……」
     燐音が被るまで折れないと言った目でHiMERUが見てくる。このまま手に持った状態で寮まで帰るという選択肢もあるけれど、それを選べばHiMERUがずっと「さっさと被れ」と言いたげな目を向けてくるのは想像に難くなかった。
     …………マジで似合わねェと思うンだけどなァ。
     ため息をぐっと飲み込んで燐音が帽子を被ればそれはまだ少しだけ暖かかった。
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