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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    お題はメル燐ワンウィークドロライさんよりお借りしました。簡単なゲームを持ちかけられるひめるの話。

    ##メル燐

    ゲーム・チョコレート「メルメル、ゲームしねェ?」
    「……ゲームですか」
    「そう!」
     撮影の休憩時間中、天城にそう持ちかけられた。チラと離れた場所で行われている次の撮影の準備の様子を窺えばまだもう少しは時間がかかりそうである。天城のことだからこんな状況で時間がかかるようなゲームを持ちかけるとも思えない。……それならば、まあ、この休憩の間くらいは付き合ってやってもいいか。
    「スタッフの方から声がかかったらすぐに切り上げますからね」
    「ヨシ! メルメルならそう言ってくれると思ってたっしょ!」
     天城が楽しそうにガッツポーズをする。何だかその姿がいつもより嬉しそうにも見えて、すぐに気のせいだろうと思い直した。この程度の会話は今までにもやってきているのだ。今更特別に嬉しそうにする理由が分からない。
    「それで? ゲームとは何をするのですか」
    「メルメルは俺っちの問題にYESかNOで答えるだけ! 全問正解したら俺っちからプレゼントがありまーす」
    「ふむ。プレゼントとやらに期待はしていませんが、わざと間違えたくはないので真面目にやってあげます」
    「そこは冗談でもプレゼント目指して頑張ってほしいンだけどなァ」
     呆れたように天城が言う。その呆れ顔も本気ではなく、そういうポーズだと分かっているから気を遣う必要はない。
    「内容も分からないようなプレゼントに本気を出せと?」
    「まァ、メルメルが全問正解したら分かる話だしな。じゃあ第一問!」
     天城が勢いよく人差し指を立てて目の前に見せてきた。そのノリに少しばかりゲームに乗ってあげたことを後悔した。
    「ニキの飯は美味い?」
     想定外の内容に天城が何をしたいか分からなくて勘繰ってしまう。しかし、ゲームを始めた今の天城に何を言ったところでゲームが終わるまではまともに取り合ってくれないだろう。実際、この答えは悩むまでもないことなのだ。仕方ないと小さく息を吐いてから答えを告げた。
    「はい」
    「YESかNOって言っただろ? ま、正解だから別にいいけど。そンじゃあ次な」
     天城の指が二本立つ。五問もしくは十問で終わるのか、はたまた特に考えていないだけなのか。
    「こはくちゃんはかわいい?」
    「はい」
     本人にバレたら怒られそうだなと思いながら答えを口にした。正解という声の後で三本目の天城の指が立った。椎名、桜河と来れば次が誰に関する問いなのかは予想出来る。天城ならそれをわざと外してきてもおかしくはないけれど。
    「燐音くんもかわいい?」
     わざと外してくることはなかった。流れを予想させるために椎名と桜河の名前を続けて出したが、桜河に関する問いはこれを訊く下準備でもあったのだろう。わざとらしく首を傾げながら訊いてくるのが腹立つ。
     HiMERUなら「いいえ」と答えるとでも思っているのだろう。それは間違っていない。間違っていないが、おまえが俺とどんな関係になっているか忘れたわけでもないだろうに。息を吸って、答えを乗せて吐き出した。
    「はい」
    「せいか……って、え? メルメル?」
    「おや、どうしたのですか。天城が自分でいつもかわいいと言っているでしょう。それとも普段言っていたことは嘘だったと?」
    「いや、そういうわけじゃねェけどォ……」
     視線を泳がせ始めた天城に腹が立っていた気持ちが落ち着いていくのを感じた。たまに、極たまにだけれど天城をかわいいと思う瞬間はある。でもそれを伝えれば天城はきっと意味が分からないといった顔をするだろう。だから、天城自ら正解だと言わせるためにはこの言い方でいいはずだ。
     ほら、目の前で正誤判定をどうするか悩み出している。他の誰よりも天城本人がかわいいと自認していないことは気付いていた。そういうノリとして言っていただけだということも。だからこそ悩んでいるに違いない。まあ、それ以外にもHiMERUを最終問題まで導きたいのならここで間違えさせるはずはないと睨んでいる。
    「………………正解」
    「やっぱりかわいいんじゃないですか」
    「うるせェ! 次の問題行くぞ!」
     天城が四本目の指を立てる。照れ隠しとしての話の切り替えにしては雑だが、そこを指摘するつもりはない。また言えるタイミングはあるだろうし、休憩時間だってもうあまり長くは残っていない。中途半端なところでこのゲームが終わってしまうことは避けたかった。単純にこちらが落ち着かないというだけの理由だが。
    「……明日、俺っち達は朝早くから夜遅くまで仕事なわけで二人きりで会う時間が取れねェけど、何の日か知ってる?」
     どこか気恥ずかしそうに言葉の途中で目を逸らされながら言われた。
     明日が何の日か、なんて調べなくても分かる。ここ最近は色んな店でチョコレートが売られていた。それらは全て明日という日のためのものである。二月十四日。世間はバレンタインデーで、アイドルとして忙しい日でもあった。
     なるほど。最初の三問はこれにたどり着くまでの天城なりの前振りと言ったところだったのだろうか。尚更先程の問題で間違えさせるわけにはいかなかったことは想像に難くない。
    「はい」
     きっと次の問題で最後だ。そう確信しながら答えを言えば、天城が五本目の指を立てた。正解だと暗に告げているその行動に次の言葉を待つ。
     少し視線を彷徨わせた後に天城が大きく深呼吸をした。
    「この仕事が終わって控え室に戻ったら俺っちからのチョコがあるでしょうか?」
     その問いを聞いた瞬間に時が止まったように錯覚した。だって、そんなの、用意していない状態で言える台詞なんかじゃない。
    「……天城、あなたが最初に言っていたプレゼントって」
    「YESかNOで答えるだけって言っただろ」
     こちらの言葉を遮って天城が最初に提示したルールを告げてきた。今までだって答えが分かりきっているものばかりだったけれど、恋人としてこれを間違えるわけにはいかない。はいと答えようとしたタイミングで遠くにいたスタッフから名前を呼ぶ声が聞こえた。準備が終わったということは休憩も終わりだ。
    「今行きまーす!」
     天城がそう返事をして立ち上がった。もちろんHiMERUは完璧なアイドルなので迷わず立ち上がる。個人の話で仕事を押すなどあってはいけない。それでも誰にも悟られずに天城にだけ聞こえる言葉を残す時間はある。
    「明日の当日は難しいからと明後日にHiMERUはチョコを渡すために呼び出す予定にしていたでしょうか?」
     天城が一瞬だけ目を丸くした後にニヤリと楽しそうに笑った。天城からの質問の答えは仕事が終わったら伝えてやるから、そっちも答えを用意しておいてくれ。そんな意図を込めた言葉が伝わっていたことは天城の顔を見れば分かった。
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