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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    お題はメル燐ワンウィークドロライさんよりお借りしました。ロケバスの車内での話。

    ##メル燐

    視線 ガタン。何か物を踏んだのか軽い段差でもあったのか車内が揺れてゆっくりと意識が浮上した。特に車が止まる様子はないから走行に問題は無いのだろう。スマホを取り出し、出来る限り光が漏れないように注意しながら時間を確認する。到着予定まで時間はまだあるが、二度寝をするほどでもない。さて、どうしようか。とりあえずスマホを戻して座席に体をもたれさせた。
     今日は遠方での仕事のためロケバスに乗って向かっていた。仕事内容の関係で早朝から撮影を始める必要があるので、深夜に出発して車内で眠っていたというわけだ。
     今回は予めしっかり確認したため突然迷宮に放り込まれる事態にはならないだろう。まあ、そうなったらなったでどうにでもしてしまえる自信はある。そう思えるくらいにはこの四人で仕事をしてきた。
     少しだけ悩み、ほとんど自分の意識がしっかりと浮上していることを自覚して二度寝をするのは止めた。しかしこの暗さで台本を確認することは不可能で、必要以上にスマホを触って誰かを起こしてしまうことは憚られる。後ろには桜河と椎名も眠っているのだから。
     ……何となく、本当に何となく隣で眠っている天城に視線を向けた。いくら車内が暗いといっても目を開けていれば慣れるし、この距離なら天城の顔だって見える。
     普段はうるさいほど回っている口も今は薄く開かれているのみで静かに呼吸を繰り返していた。HiMERUと系統こそ違うけれど、天城も顔は整っていると思う。そういえば、こういう風に顔をじっくり眺めた機会はなかったかもしれない。起きているときに顔を見ていれば鬱陶しく絡んでくることは容易に想像出来るせいだろう。何より天城本人もじっとしていない。そして今思い返せば雑誌だったり映像だったりと天城の顔をちゃんと見るのはいつもカメラを通された物だったような気もする。
     そこに考えが至ると今みたいに天城の顔を見られるのは貴重な時間なのだと気付く。人並み以上には視線や気配に敏感な天城のことだ。気付かれずに眺められるなんて眠っている時でなければ不可能に近い。
    「………………」
     他に出来ることも無いとはいえ、一体どれくらい天城を眺めていたのだろうか。意外と飽きなかったのが自分でも不思議な程見てしまっていたように思う。姿勢を少し変えようと思い、天城から視線を外せば隣の男が身じろぐ気配を感じた。
    「メルメルにこんな長い間熱い視線を送られちまうと俺っちだって照れるっしょ」
     HiMERUにだけ聞こえるように限りなく潜められた声からは照れという感情は感じられなかった。どちらかというと、からかいの色の方が強い。天城の寝起き特有の少し掠れた声が耳をくすぐる。……というか。
    「あなた、起きていたのですか」
     こちらも極限まで潜めた声で告げる。潜めすぎて正直天城に聞こえるか不安だったが、どうやらちゃんと届いていたらしい。天城がHiMERUの方を向く。
    「さっき車が揺れたときになァ。起こされるまでは寝てようと目は開けなかったンだけど、メルメルからの視線が熱烈すぎて眠れなくなっちまった」
     跳ねるような声のトーンで天城にHiMERUを責めるような意図は無いと察する。そこは天城が気にしないなら、まあいい。ずっと見ていたのはこちらなのだから、それで眠れなかったと言われれば天城相手とはいえ謝罪の言葉は口にしていたと思う。ただ、今の天城の発言からすると全く同じタイミングで目が覚めていたということになる。つまり、眺めていた間ずっと天城は起きていたのだ。
    「俺っちが格好良すぎて目が離せなかったンだろ? いや~、こんな伊達男に見つめてもらえるとはアイドル冥利に尽き……」
    「少し黙ってください。まだ二人が寝ているのですから」
     楽しそうな声を遮るように言葉を被せた。暗がりでも天城がニヤニヤしていることは分かったが、大人しく口を閉じたのでそこは言及しないことにする。下手に今何かを言ってしまうと藪蛇になりかねない。
     天城を見ていたことは事実なのだ。天城の発言を肯定しても否定してもHiMERUにとって嬉しい流れにならないことだけは確実だった。肯定すれば天城は調子に乗って後ろの二人に自慢しそうで、否定すれば何故自分を見ていたのかとHiMERUに訊いてくるだろう。理由なんて寝起きで寝惚けていた以外に存在するのならこちらが訊きたいくらいだというのに。
     眺めていた理由を考えないようにするために強く瞳を閉じて天城の姿をシャットダウンした。早く目的地に着いて気持ちを切り替えられるよう願いながら。
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